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「研究と生活を両立するヒントになることば」(リケラボまとめ)
研究者として成果を上げたい。けれど、家庭や生活、子育てとのバランスに悩む──そんな声は少なくありません。限られた時間、整っているとは限らない環境、そして重くのしかかる責任。それらすべてと向き合いながら、研究を続けていくにはどうすればいいのか…。そんな迷いの中にあるとき、第一線で活躍する研究者たちの言葉が視界をひらいてくれるかもしれません。
今回は、リケラボでのインタビュー記事から「研究と生活を両立するヒントになることば」を厳選して紹介します。
子どもとの時間を大切にしながら、研究の時間も確保する。その両方を諦めないことが、自分らしい働き方につながると思います ―北野 優子
“どちらかを選ぶ”のではなく、“どちらも選ぶ”。
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(CiRA Foundation、略称:iPS財団)で活躍する北野氏は、チームで研究を進めることや、支え合う姿勢が、家庭と職場のどちらにも好影響をもたらすという実例をまさに日々の仕事の中で体現しています。この言葉は、家庭と研究の二者択一ではなく、両立の中にこそ“自分らしさ”があると教えてくれます。
出典:細胞培養の技術革新が切り拓く、iPS細胞の未来 ~チームと家庭とともに歩む、「面白そう」から始まった研究の道~
『仕事か生活か』を選択する『ワーク・ライフ・バランス』ではなく、『仕事 × 生活』で相乗効果を生みだす『ワークライフ・インテグレーション』が望ましい。 ―中嶋 貴子
仕事と生活を“切り分けて両立させる”のではなく、“重ね合わせて支え合う”という考え方。
中嶋氏は、生活と仕事を対立構造で捉えず、両者が互いを豊かにするように設計する「ワークライフ・インテグレーション」(※)を提唱します。
研究においても家庭においても、自分らしいペースとリズムを持つことが持続可能なキャリアの鍵になることを教えてくれる言葉です。
※ワークライフ・インテグレーション:「仕事」と「生活」どちらかではなく、それらを統合して両方が相乗効果をもたらし、より充実した幸福感のある生き方を目指す考え方。(参考文献:平澤克彦・中村艶子(編著)『ワークライフ・インテグレーションー未来を拓く働き方―』ミネルヴァ書房、2021年)
出典: 研究者の育児と仕事について研究する中嶋先生に、ワークライフ・インテグレーションとは何か、聞きました。
「多くの女性研究者が経験してきたであろう妊娠・出産・子育てによる業績やキャリアの空白は、努力が足りなかったからではありません。子どもを育て、自分も子どもから育てられるというたいへんな状況でありながら、研究をあきらめなかったことの証だと思っています。 ―安部 芳絵
キャリアの「空白」を、“欠落”ではなく“再開と継続の証”と捉える視点。
この言葉は、27人の研究者の経験が綴られた書籍『研究者、生活を語る』(岩波書店)に収録された一編で語られた工学院大学・安部教授の言葉です。家庭や育児の時間も、自分の成長につながるキャリアの一部である──そんな力強い捉え方が、両立の勇気を与えてくれます。
同書には、環境も境遇も異なる研究者たちによる、研究と生活をどう両立させてきたかの工夫と実感とが他にもたくさん収められています。両立に悩むすべての人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
出典:話題作『研究者、生活を語る』—担当編集者に聞く「『両立』の舞台裏」に込められた想い
遠回りしても、マイペースでも、色んなライフイベントがあっても、また、趣味を楽しみながらでも研究者になれる道がある。 ―高井 千加
「こうあらねばならない」という固定観念を脱ぎ捨て、自分のペースで歩むことを肯定する言葉です。名古屋工業大学の高井教授は、“完璧な研究者”という幻想に縛られることなく、家庭や趣味も含めて「自分らしいリズム」で研究と向き合う大切さを語ります。
研究の継続は、ストイックさだけではなく、“自分のペースを信じること”に支えられているのかもしれません。この言葉に続く「無意識にとらわれている『あるべき姿』の殻を破って、柔軟に研究スタイルを選んでほしいと願います」「息子にも『研究者は楽しいんだよ』という姿を見せ続けたい」といった言葉からも、そのまなざしの深さが伝わってきます。
出典:有機も無機も、母としても研究者としても──❝粉体工学❞で境界を越える名古屋工業大学・高井教授が実践するマイペースな研究キャリア
もっとも伝えたいのは「変化を楽しんでほしい」のひと言ですね。 ―鳴瀧 彩絵
研究者のキャリアも人生も、思いがけない変化の連続です。
名古屋大学大学院工学研究科(当時)の鳴瀧教授は、単身赴任で二人の子どもを育てながら研究を続け、ナノファイバーを形成する人工エラスチンの開発に成功しました。
インタビューでは、自分に自信を持てなかった学生時代から、周囲の勧めや縁をきっかけに新しい環境へ踏み出してきた経験が語られています。その過程で、新しい発見や研究のアイデアに出会う機会も広がったといいます。
慣れた環境を離れることに不安を感じる人は少なくありません。しかし、変化を前向きに受け止めることで、自分では想像していなかった可能性がひらける──そんなメッセージが、この言葉には込められています。
出典:研究も人生も、自分らしくどこへ向かってもいい。世界初のナノ素材を開発し、単身で子育ても両立する鳴瀧教授の“サイエンス&ライフ”スタイル
アイデンティティは自分一人だけでは生まれません。そのままの自分を認めてくれる他者や環境があって、初めて自分らしさという概念が生まれてくるのです。 ―畑野 快
研究も生活もけっして“孤独な戦い”ではない。
大阪公立大学でアイデンティティ発達と心理的健康の関係を研究する畑野准教授は、他者との関わりの中でこそ「自分らしさ」が育まれると語ります。
家庭や職場、そして仲間とのつながりを大切にすることが、結果的に研究への情熱や持続力を支えてくれる。両立の原点は、人との関係をどう築き、どう頼っていくかにあるのかもしれません。
出典:理系研究者が「自分らしくはたらく」ための視点を発達心理学の専門家に聞きました
“思考時間”は、どこにいても確保できます。 ―伊藤 恵利
研究と生活の両立が難しいと感じる背景のひとつに、「研究にはまとまった時間やラボにいられる環境が欠かせない工程がある」という現実があります。
一方で伊藤氏は、子育て中、「実験や現場対応を物理的・時間的に担えない時期」があったなかでも、「思考を深める工程は、いつでもどこでもできる」ということに気づいたといいます。
放射光など外部施設での実験は機会が限られるため、「一発勝負」で最大の成果を出すには、事前にどれだけシミュレーションを重ね、失敗のない実験系を組めるかが重要になります。伊藤氏は、「この準備のための“思考時間”は、どこにいても確保できます」と語ります。
実際に、子供を育てている間でも、家事やお風呂に入っている間に「考える」工程を進めたそうです。
生活の中に思考の時間を置くというこの姿勢は、環境が整うのを待たずに研究を続けるための、現実的なヒントを与えてくれます。
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リケラボ編集部より
ここで紹介したのはほんの一例。リケラボにはまだまだ多くの名言、金言、心に刺さるメッセージが満載です。気になったら、ぜひ元のインタビュー記事も読んでみてくださいね!