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MBA取得を検討中の理系の方へ 得られるスキルと費用対効果について考える
~理系+αで広げる・広がるキャリアvol.8〜
「理系+αで広げる・広がるキャリア」では1回目は英語、2回目はコミュニケーション、3回目は理系リーダーのコミュニケーション、4回目は問題解決力、5回目はマーケティングスキル、6回目は交渉力、7回目はマネジメントスキルまで、汎用性の高いものからチームをまとめるスキルまで幅広くご紹介してきました。
8回目の今回は、キャリア拡張に活かせる可能性があるMBAについてお話します。MBAとは、Master of Business Administrationを略したものであり、経営学修士号を指します。長く研究・開発職を経験すると、「このまま技術を深めていけばいいのか」「マネジメントや事業側に行くべきなのか」など悩むこともあるかもしれません。その際に検討されやすいのがMBAで、今回は、MBA取得を皆さんのキャリアにどう活かせるかについて、自身の経験も振り返りながら、まとめていきたいと思います。
MBAでの学びと授業の進め方
MBAは日本では1970年代に初めて創設され、2000年代以降に広く浸透した学位で、MBAを取得するためには専門のカリキュラムを持つ大学院(ビジネススクール)に通う必要があります。日本でのビジネススクールの場合、働きながら学ぶ社会人が主な対象となっており、仕事のなかで感じている課題を解決するための力や、今後のキャリアアップのために自分自身が必要だと感じた力を養うために通う人が中心となっています。そのため、社会人が働きながら通えるよう、平日夜間と週末に授業を実施している大学院が多く、さらに、オンライン対応のある国内大学院のほか、海外大学の通信制MBAプログラムもいくつか登場しており、なかには日本語で受講できるプログラムもあります。
具体的な学びとしては、経営に必須の主要科目として以下のものがありますが、これ以外にも論理的思考力やリーダーシップなど、ビジネスに必須のヒューマンスキルを養うことができるのも共通の特色といえるでしょう。また、各ビジネススクールによって、IT、グローバルビジネス、起業家養成などに力を入れ、強みや個性を打ち出しているケースもあります。
~ビジネススクールの主要科目~
- 経営戦略:企業が競争優位を確立し持続的な成長を達成するための長期的な計画を策定する科目です。市場分析、競合分析、自社の強み・弱み分析などを通じて企業の方向性を決定する思考力と実践力を養います。
- ファイナンス・会計:企業の財務状況を分析し、資金調達、投資判断、予算管理など、経営における「カネ」の流れを最適化するための知識を習得します。
- マーケティング:消費者行動の理解に基づいた市場戦略の策定、ブランドマネジメント、製品・サービスの開発とプロモーションなど、顧客価値を創造し、市場で成功するための知識とスキルを学びます。
- 人材・組織マネジメント:組織行動論、人的資源管理、リーダーシップ論など、組織内の「ヒト」を効果的に動かし、チームの生産性を高めるためのマネジメントスキルを習得する科目です。
授業の進め方は、経営研究の成果(論文や学会での発表など)を重視する経営大学院もあるようですが、多くは実在の企業を扱うケースメソッド(実際に起きた事例を教材にして「自分ならどう意思決定するか」を討議しながら最善策を導き出す参加型の教育・研修手法)を取り入れています。正解を探すのではなく、限られた情報の中で意思決定を行う「情報分析力」や「問題解決力」といった思考力を鍛えるプロセスや、多様なバックグラウンドを持つクラスメートや教員と活発な議論を通じて、様々な視点から自らの考えを検証するプロセスを重視します。
私自身は理系の大学に4年間在籍していましたが、講義中は先生が説明する理論を学び、「正しい答え」がある問題が多く、試験やレポートで評価が決まりました。一方、MBAの場合、「正解が一つじゃない」問題が中心であり、発言・参加が評価の大きな割合を占め、またクラスメートとの議論を通じて論理的に主張する力を鍛えられ、学び・授業の進め方も全く異なるものでした。
理系目線でのMBAで得られるスキル
上記に主要科目を記載しましたが、特に理系出身者の方には、以下の5つが本質的に重要な学びになると思います。
1. 問題解決の「ビジネス版」
理系的な業務で培われる問題解決力は、「仕様・性能・コスト」などの技術的な課題解決において特に強い力を発揮します。一方、MBAでは「売上が伸びない理由は何か」「市場で勝てるポジションはどこか」など、顧客の心理や市場の変動といったより不確実性が高くコントロールしにくい問題を扱う力が問われます。MBAでは、ファイナンス・会計を学ぶことで企業の業績・財務状況を読み解くことができるようになり、マーケティングを学ぶことで事業戦略の基礎を理解します。実際、経営戦略の授業では、実在する多くの企業のケーススタディを通じて、自分なりの経営課題の解決を提案し、このような問題解決力を鍛えます。
2. “翻訳コミュニケーション”/交渉力
既に過去のコミュニケーションスキルの稿で述べてきた通り、研究職の方が営業や経営層の方と、もし話がかみ合わないと感じているのであれば、それは能力不足ではなく、言語が違うだけの可能性があります。MBAは財務・マーケティング・戦略等のビジネス共通言語を学ぶため、営業・経営層の方との意思疎通が図りやすくなります。
また、技術現場でのコミュニケーションは、事実やデータを「正確に伝える」ことが重視されやすいですが、一方、プロジェクト全体を牽引したり事業化を進めたりするよりビジネス的な場面では、利害の違う相手と合意する・納期やコストを調整するといった交渉ごとも重要になります。もちろん交渉スキルは技術現場でも必要ですが、体系的に学ぶ機会は少ない領域です。私も大学院在籍中に「Effective Negotiation(効果的な交渉術)」という授業を受けて、そのエッセンスを6回目の交渉力の稿にまとめましたが、非常に興味深い内容で、現在の業務でも社内・社外問わず、非常に役立っていると思います。
3. マーケティング思考(顧客・市場視点)
技術者は「良いものを作れば売れる」と考えがちですが、実際には顧客が何を求めているか、競合に対して何が強みかで意思決定が行われます。技術だけを見るのではなく、それが具体的にどのような市場でどんな価値を生み、どんな競合がいるのか、自社の技術の強みは何かを理解することで、研究・開発テーマの時間軸や方向性等を明確にすることができます。
4. リーダーシップ/マネジメント
30代以降、多くの理系人材が直面するのが「人を動かす仕事」であり、メンバーに業務を依頼する・プロジェクト全体を管理するなど、これは技術力とは別のスキルです。MBAでは、こうしたマネジメントを体系的に学ぶことができます。また、既に述べた通り、ほとんどの授業にグループワークがあり、その中で多様な業界・職種のメンバーとレポートをまとめる作業や議論を行い、リーダーシップ・時間管理等も学ぶことができます。
5. 意思決定力(不確実性への対応)
技術はデータで判断できますが、ビジネスの場面では、情報が不完全な状態で決める必要があります。市場が伸びるか分からない・投資回収できるかが不確実であるなどの状況下で意思決定する力は、実務でいきなり求められることが多く、MBAで体系的に触れる価値があります。
研究職・開発職 × MBAでのキャリア拡張の可能性と費用対効果
ここでは研究・開発職に携わる皆さんがMBA取得によって広げられるキャリアの選択肢について、代表的な方向性をお伝えします。また、それらの変化がどのように起こるのか、さらに意思決定の参考として、MBA取得は、いわゆる“もとが取れるのか”という費用対効果の観点についても整理します。
パターン1. マネジメントへのステップアップ
研究職の方がMBAを取得することで、マネジメント職へ近づく可能性は高いと考えられます。MBAプログラムを通じて学ぶ経営学やリーダーシップ理論は、チームの目標設定やパフォーマンス向上を実現する方法を体系的に習得するための大きな助けとなります。また、マネジメント職であれば、経営層・ビジネス系の方とのコミュニケーションも多くなり、MBAでの学びが非常に役立つでしょう。もちろん、MBAを取得したからすぐに昇進というわけではなく、MBAでの学びを日々の業務で実践することが前提となります。
パターン2:技術営業・マーケティングなどビジネス側への横展開
既に述べてきた通り、開発職の方がMBAでビジネス共通言語を学び、“翻訳コミュニケーション”の力をつければ、キャリアを技術営業・マーケティング領域に横展開できる可能性はあります。自社の技術を深く理解していることで、顧客ニーズを的確にとらえ、新製品の提案等も可能となるでしょう。また職種を変えなくても、研究・開発職として顧客訪問する機会があれば、相手は技術系の方が多く、専門的な話を説明できる人材は、顧客から重宝される存在となります。
パターン3:新規事業/経営企画などより上流工程への展開
技術営業・マーケティングといったビジネス側の経験を踏まえた上で、さらに上流レイヤーとして、新規事業や経営企画に進む可能性も広がります。技術理解を活かしながら、自社の製品ロードマップ作成や投資判断など、より重要な意思決定を行うポジションとなります。
パターン4:スタートアップ/起業など外の世界への展開
MBAは既に述べてきた通り、経営学の修士号ですから、スタートアップ・起業する方向性も大いにあると思います。実際、自分が大学院で学んでいた時も、既に起業されている方や目指されている方もいて、すごいエネルギーを感じました。もしもベンチャー・スタートアップ・起業等に興味があるのであれば、MBAではそのような環境で働いている方から直接話を聞けますし、また大学院では教授自身が実務家(起業家)の方も多く、様々な情報を得られると思います。
▪️キャリア変化の起点としての「転職」
キャリアの変化は、転職という結果に現れるケースも少なくありません(私自身も大学院在学中に転職したひとりです)。MBAでは多様な業界・職種の受講生と議論や協働を行う中で、自身のキャリアを相対化して捉える機会が増えます。さらに、具体的なキャリア事例や転職経験に触れることで、選択肢が現実的なものとして認識されやすくなります。こうした環境が、キャリアの見直しや意思決定の後押しとなることがあります。
▪️MBA取得の費用対効果とは?
MBA取得は国内MBAであっても100〜400万円程度かかると言われており、時間的な負担も含めて決して小さくない投資です。一方で、以下のデータを見ると、MBA修了後の賃金上昇額の平均は、国内MBAで88.80万円とされています。つまり、仮に取得までに400万円の費用がかかると考えた場合、単純計算では回収に4〜5年程度を要することになります。
あわせて、MBA取得者にとって最も高い年収が期待できる業界は、金融、コンサルティング、商社とのデータもあり、特にグローバルなビジネスを展開する企業は、MBA取得者を重要視する傾向があるようです。MBA取得の費用対効果は、短期的な給与上昇だけで考えるものではなく、キャリアの広がりもリターンと捉え、自身の目指すキャリアとの適合性から見極めることが大切だと思います。
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MBA取得があまり向いていないケース
逆にMBA取得がおススメできないケースも触れておきます。
1. まだ技術の「軸」が弱い場合
理系でのMBA取得はキャリアの「掛け算」であり、技術×ビジネスの組み合わせです。そのため、そもそも技術側が弱いと掛け算も価値が低いものとなってしまいます。研究・開発職としての技術の軸を十分育ててからのほうが、MBAはより効果的かと思われます。
2. 事業や顧客に関わる機会がほとんどない場合
いくら大学院でMBAを学んだとしても、実務でそれを使う場面がなければ定着しにくい側面があります。研究職であっても、社内で事業部門側の方と会話する必要性がある方のほうが学びをすぐに実践に活かすことができます。もちろん、副業等で既にビジネスをやっている方は、そちらで実践に活かせれば、良いかと思います。
3. 「転職のための資格」としてだけ考えている場合
実際のところ、MBA取得単体だけで転職が有利になるケースは決して多くありません。また、MBAは経営学修士であり、弁護士のような資格ではないため、独占業務はありません。例えば会社経営は、幅広い経営の知識が必要になるものの、MBAを取った=会社経営ができると単純に言えるわけではありません。
今日からできるアクション
既に述べてきた通り、MBA取得は多額の費用と時間を必要とし、非常にハードルの高い選択ですので、もし検討するのであれば、以下から始めて頂ければ良いかと思います。
1. 社内で小さく役割を広げる
ご自身の研究テーマを「ビジネス視点」で誰に価値があるのかを考え、できれば、他部署の方とそれを会話し、さらに自社を取り巻く市場や競合を調べるなど、これらは全てMBAのエッセンスです。社内で小さく役割を広げ(顧客同行や研究テーマ企画に参加など)、その中で必要な学びを選択すれば、まずは書籍やYouTubeなどでも多くの知識が得られるでしょう。
2. 単科科目からの受講
いくつかのビジネススクールでは単科科目の授業だけを受講し(例えば、マーケティングやファイナンスのみ)、その後、MBA受講を決定した場合には単位として認められるとのことです。いきなりMBA受講するのではなく、実際の授業を通して、ご自身の業務に意義があるかや、現在の業務と両立できそうかなど、判断することが可能ですので、おススメです。
人生100年時代の学び
私自身、MBAの受講きっかけとなったのは、半導体開発職を20年続けた後、初めての転職で化学業界のマーケティング・ポジションに就いたあとです。もともと電気電子系の人間にとって化学はほぼ未知の世界、さらにマーケティングも全く分からず、かなり悶々としていました。たまたま、前職の先輩からマーケティングの基礎から学んでみたらと言われたのが、MBAでした。しかし、当時保育園に通っている2人の子供もいるので、大学に通うことは時間的に厳しく、100%オンラインのBond-BBT(MBAならBOND-BBT|働きながらオンラインで海外MBA取得)を選ぶことにしました。
Bond-BBTは大前研一さんがスタートした大学院で、オーストラリアのBond大学と株式会社Aoba-BBTの国際提携で実現しており、クオリティの高いビジネス教育プログラムだけが認められるAACSB認証と、優れたマネジメント教育機関の証であるEQUIS認証を取得しています。授業は半分日本語、半分英語なので、外資系で働く自分にとっては英語の勉強にもなるし、オーストラリアでの2回のスタディツアーもある非常に刺激的なプログラムでした。卒業したのは2016年と既に10年前となりますが、40代の自分が大学院で新たな学びに挑戦し、20~50代の様々な業界・職種の方と切磋琢磨し、オーストラリア・ゴールドコーストで過ごした1週間のスタディツアーでの学びは、今もキラキラした思い出として心に残っています。
あれから10年経って、技術・マーケティング業務を日々行う上では、この時の学びがじわじわと効いてきているなぁと実感しています。40代で学んだMBAが、まさか10年以上経ってこんなに活用できるとは思っていませんでした。MBAの費用対効果については4.5年程度と述べましたが、人生100年時代、皆さんのキャリアは非常に長くなってきており、長期的な視点も重要だと考えます。また、長いキャリアの中では、いつ何時、自分の意志に関わらない配置転換や転職などの環境変化が起きないとも限りません。皆さんにも、今後のキャリアは数十年続くのだととらえて頂き、その中で何をご自身の軸として学んでいくのか検討するうえで、今回のお話がきっかけになれば幸いです。
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