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『Yakult(ヤクルト)1000』を生んだヤクルト本社開発部担当課長が語る、“迷い”と向き合いそれを正解にするキャリアのつくり方
理系の決断vol.2 株式会社ヤクルト本社 中田 雅也さん
人生に選択はつきもの。特に将来を左右する選択においては、自信をもってこれだと決断できる人は多くはありません。連載「理系の決断」シリーズは、研究開発職として活躍中の方々に、これまでの人生の岐路においてどのような判断軸で決断・選択をして現在の仕事に至ったのかに迫ります。
研究開発職を希望される皆さんの夢をかなえるヒント、研究開発職として活躍するためのエッセンスが詰まっています!
リケラボ運営元のパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部(通称Chall-edge/チャレッジ)は、一人でも多くの理系の方々が、自ら選択した仕事やはたらき方で、喜びや楽しみ、さらには人や社会の役に立っていることを実感できる、多様で豊かな社会を創造することで、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実現していきます。
研究職か開発職か?判断のポイント。そして管理職へ
株式会社ヤクルト本社の研究員、中田雅也さんのキャリアは、一見すると王道ひと筋のように見えて、その実、要所要所で大きな選択を積み重ねてきた歩みです。
幼い頃、算数への興味を原点に理系へ進み、大学院で乳酸菌の研究に没頭。卒業後はヤクルト本社に入社し、研究知を社会に届ける「開発」の仕事を選びました。現在は、発酵乳や飲料の開発に加え、プラスチックゴミ問題などの社会課題にも技術的アプローチで挑む開発部門の担当課長として、チームを導く立場にあります。
本記事では、「理系の決断」というテーマのもと、中田さんがキャリアの岐路で何を感じ、どのように考え、どのように選択してきたのか。その思考の軌跡と、選んだ道を楽しむという哲学について伺います。
Q. 理系に進むきっかけと、ここまでのキャリアで大きな決断は?
理系に進む原点は、幼い頃に感じた“数と科学”のおもしろさ
理系だった父親の影響もあってか、小学校の頃に算数が好きだったのが理系に興味を抱く原点ですね。「1+1=2」のように、誰が解いても答えが必ず出る、解釈の揺らぎがない世界が私にとって非常に魅力的でした。そこから広がって、普遍的な法則がある理科や科学にもおもしろさを感じるようになりました。
高校2年で文理選択をする際も、迷わず理系を選択しました。部活動は野球を続けながら、祖父が小学校の教師だったこともあり、将来は自分も理系の教師になれたらいいなと、その頃には漠然と考えていました。
1つ目の決断:
興味は「教育」から「研究」へ。生理学の深淵に触れ、探求の道を決意
大学進学にあたっては、教師になりたいという思いがあったので、教員免許を取得でき、また、食べることも好きだったので食品系の勉強もできる農学部を受験し、一年間の浪人生活を経て大学に入学しました。
しかし、大学で動物生理学や微生物学の講義を受ける中で、私の関心は「教えること」以上に、生命現象のメカニズムそのものへの興味へとシフトしていきました。未知の領域が多い微生物や生理機能の奥深さに触れることに、より強い知的好奇心とワクワクを感じたのです。そこで大学3年生の研究室選びでは、「食品」への興味と、もともと関心のあった「健康」という分野を結びつけ、微生物を使った食品系の研究をしている研究室を選びました。
その後は乳酸菌をテーマに研究を続けますが、学部の卒業が近づき就職活動をするかどうか検討する時期を迎えた頃になっても、そこから自分の研究テーマが半年や1年で成果として形になるとはとても思えませんでした。「まだまだ道半ば」という感覚と、成果を形にできるまでは大学でやり遂げたいという強い気持ちが芽生え、修士課程に進むことを決めました。
2つ目の決断:
研究職ではなく開発職を選択。
就職活動でヤクルト本社を入社先に選んだ最大の理由は、修士で取り組んでいたテーマである乳酸菌の研究をそのまま活かせる職種だったことです。また、海外旅行の経験を通じて得た気づきから、「人も地球も健康に」というグローバルなコーポレートスローガンに共感したことも大きな理由のひとつです。
入社後の配属では、研究職か開発職かのいずれかに進むことになります。研究職が基礎研究を通じて新しい企画のシーズ(種)を見つける役割だとすれば、開発職はそのシーズを具体的な「商品」という形にし、お客さまの手元に届ける役割です。
私はこのうち、基礎研究の成果を活かし、より多くのお客さまが実感できる価値(商品)を届けることができる開発職のプロセスに強く惹かれ、開発職を志望しました。「Yakult 1000」の開発でもそうでしたが、高密度の菌数とおいしさの両立といった困難な課題に対し、工場や研究所など多くの関係者と連携して全体最適を図る。そのプロジェクトマネジメントを通じて、企画から上市までを一気通貫で見届けられることに、とりわけやりがいを感じました。
3つ目の決断:
プレーヤーからマネージャーへ、「個」の成果から「チーム」の成長の追求へ。
入社以来、私は現場でものづくりに携わる「プレーヤー」であることにこだわりを持っていました。自分の手がけた商品が生産ラインを流れ、形となって世の中に送り出される瞬間は、何度経験しても特別で、その喜びが仕事の原動力になっていました。
一方で、近年は海外案件を含むさまざまなプロジェクトを担当するなかで、若手社員と一緒に仕事をする機会が増えました。彼らが知識を吸収し、試行錯誤しながらアウトプットを生み出し、成長していく姿を間近で見るうちに、「人の成長を支えること」もものづくりをするための重要な要素の一部なのだと実感するようになりました。自分ひとりで完結させるのではなく、若手社員の協力を仰ぎながらチームとしてより多くの成果を生み出していくこと。その価値を強く感じるようになったのです。
2025年4月の担当課長就任は、プレーヤーからマネージャーへ役割が変わった大きな転機でした。同時に、私のものづくりへの情熱が、商品そのものだけでなく、それを生み出す「人」や「組織」へと自然に広がっていった結果だと捉えています。会社が自分にその素質があると評価し推薦してくれたという事実も励みになり、人の成長を促すという仕事のおもしろさを今は強く感じているところです。
Q. もし、あの時違う道を選んでいたら?
就職せずアカデミアに残っていたら?
私は基本的に、「あの時こうしていれば」と過去の分岐点を振り返るより、選んだ道を前向きに楽しむことを大切にしています。それでも、もし仮にアカデミアに残り、博士号取得を目指していたとしたらどうだったか、と想像することはあります。
博士号を取得できるまでは、きっと全力で取り組んでいたと思います。ただ、最終的にはアカデミアでの研究はそこで区切りをつけ、就職する決断をしていたと思います。アカデミアで真理を突き詰めることの尊さも理解していますが、私はそれ以上に「何かを作り上げ、その価値が誰かに届く」という瞬間にやりがいを感じるタイプです。この根本の価値観は、おそらく生まれ変わっても変わらないでしょう。
開発職ではなく、研究職に進んでいたら?
同じように、入社後に研究職を選択していた場合を想像しても、おそらくどこかの段階で開発職を志望していたのではないかと思います。自分の性格から考えると、研究で得られた成果を「商品」という形に仕上げ、世界中の人々に届けるプロセスに魅力を感じるタイプなので、いずれは現在のようなプロジェクトマネジメントの仕事に向かっていたと思います。
どのようなルートを通ったとしても、最終的には“ものづくりを通じて世界中の人々の健康に貢献する”という、今の開発職に近い場所へ辿り着いていたように思います。それほど、いまの仕事・役割は自分に合っていると感じています。
Q. いちばん最近の決断はなんですか?
仕事では日々大小の判断を繰り返していますが、昨年、プライベートでは家族のために車を買い替えました。妻や2人の子供たちが快適に過ごせるよう、広い車を選びました。かつては自分の好みで、運転して楽しいかどうかを基準に車選びをしていましたが、今は家族の喜びが私の判断基準のひとつになっています。子どもたちがドライブに行くことを楽しみにしてくれている姿を見ると、車を買い替えてよかったと感じています。これもまた、自分一人ではなく「チーム(家族)」の幸せを考えるようになった、私の成長のひとつの形かもしれません。
これからキャリアを歩む理系の皆さんへのメッセージをお願いします
キャリアに迷いを抱えている若い方には、まず、「自分は何に迷っているのか」を整理し、「本当は何がしたいのか」を自分自身に問いかけてみてほしいです。
それでも判断がつかないときは、視野を広げるチャンスが訪れたと捉えるといいと思います。自分一人の視点ではメリット・デメリットの片方しか見えていないことがあります。家族、友人、同僚など、多様な視点を持つ人たちに意見を聞き、多角的な判断軸を取り入れてみてください。
ただ、最後に決めるのは他ならぬ自分自身です。大人である以上、誰かのアドバイスに従ったとしても、その結果の責任は自分が負うことになります。だからこそ、自分が許容できるリスクの範囲内で、心が躍る「やりたいこと」を選択してください。
そして何より大切なこととして、どの道を選ぶか以上に、「選んだ道を正解にする」という姿勢があれば、どんな決断も間違いではなくなり、納得のいく人生が拓けていくはずです。
▼あわせてご覧ください。
中田さんへの過去のリケラボ取材記事はこちら
エビデンスに基づいた価値ある商品をお客さまに届ける!進化を続けるヤクルトの商品開発の仕事
理系のキャリア図鑑vol.29 株式会社ヤクルト本社 中田雅也さん
https://www.rikelab.jp/post/4763.html
プロフィール
中田 雅也(なかだ まさや)
株式会社ヤクルト本社 開発部 開発2課 担当課長。大学院にて乳酸菌の生理機能研究に携わり、入社後は一貫して開発部門に所属。基礎研究の知見を商品へと具現化するプロジェクトマネジメントを主要な役割とし、『Yakult 1000』などの開発に貢献。2025年4月に担当課長に就任し、プレーヤーから若手の成長を促すマネージャーへと役割が変化。現在は発酵乳や清涼飲料、環境問題(プラスチックゴミ問題)への技術的アプローチも担当。選んだ道を楽しみ、後悔のない選択をすることを哲学とする未来志向の持ち主。
※所属や肩書などはすべて掲載当時の情報です。
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