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理系+マネジメントスキルでキャリアアップ!
~理系+αで広げる・広がるキャリアvol.7〜
「理系+αで広げる・広がるキャリア」では1回目は英語、2回目はコミュニケーション、3回目は理系リーダーのコミュニケーション、4回目は問題解決力、5回目はマーケティングスキル、6回目は交渉力と、いろいろなスキルをご紹介してきました。7回目の今回はマネジメントスキルを取り上げたいと思います。
マネジメントスキルとは、下図のとおり、これまでご説明してきた各スキルの上位に位置づけられるものです。「個人で成果を出す」段階から一歩進み、「チームとしての成果を最大化する」ことを目標に、チームへ働きかけていく総合的なスキルであるといえます。
エンジニア・技術職にマネジメントスキルが求められる背景
かつては、自分の専門分野を掘り下げて個人の技術力で成果を出すことが評価につながりやすい時代でした。しかし現在の開発現場では、製品システムの大規模化・ハード×ソフト複合領域化・開発スピードの高速化が進み、一人のエンジニアだけで完結する仕事はほとんどありません。結果として、異なる専門分野のメンバーを組み合わせ、全体の最適化を考える役割が不可欠になっています。また、年齢とともに「期待される価値」も変化し、30代後半〜40代になると、組織からの期待は、若手を育てられるか、チームとして結果を出せるか、他部署や顧客との調整役を担えるかといった点へとシフトしていきます。
このような背景から、研究・開発の現場においても、組織として継続的に成果を創出していくために、チームとして安定的に成果を出せるマネジメントが求められています。
マネジメントは「人を動かす仕事」というイメージが強いかもしれません。しかし理系視点で捉えると、マネジメントは「制約条件の中で成果を最大化する設計」です。期限、コスト、人員、品質という複数の変数を扱い、最適に近い解を探し、チームとして実行していく。これは研究や実験のプロセスに似ています。 だからこそ、理系出身のエンジニアはマネジメントと相性が悪いわけではありません。むしろ、仕組み化や再現性のある改善が得意な人は、安定して成果を出しやすいでしょう。
私自身、現在はプレイヤーという立場ではありますが、過去に部下を持ちチームで仕事をした経験を振り返ると、理系人材がマネジメントを担うメリットは「一人では到達できないスケールの課題に、チームとして取り組める点」にあると感じます。マネジメント職への挑戦は、単なる昇進ではなく、自身のアウトプットの影響範囲を広げていくための主体的な選択ともいえます。自分の技術やノウハウをチームに還元し、メンバーが自律的に動く状態をつくることにやりがいを見出せれば、マネジメントは非常に面白く、挑戦しがいのある役割となるはずです。
理系人材のマネジメント適性
ここで、マネジメント職に進むうえでの向き・不向きや、その捉え方について、少し触れておきます。
大学の頃から理系人材に囲まれてきた私の視点からざっくりとお伝えすると、理系人材は「ヒト」よりも「モノ」に興味がある人が多い傾向にあるように思います。自動車、電子機器、PCといったハードウェアから、ソフトウェア、ゲームに至るまで、「モノ」に対する関心の高さが、モノづくりやシステムづくりへの飽くなきチャレンジの源泉になっています。
一方で、マネジメント職は、どうしても「ヒト」と向き合う場面が多くなります。そのため、「ヒト」への関心をまったく持てないという場合には、マネジメント職でやりがいを感じにくい場面もあるかもしれません。とはいえ、現在マネジメント能力を発揮して活躍している理系の方々も、最初から「ヒト」に強い関心を持っていた人ばかりではありません。マネジメントの役割を担い、実際にチームを動かしていく中で、メンバーの成長やチームのダイナミクスに触れ、後から少しずつ「ヒト」への興味が湧いてくることも大いにあります。
先述の通り、マネジメントを「制約条件の中で成果を最大化する設計」と捉え、まずはチームの最適化に関心を持つ。そこから少しずつ「ヒト」への理解や興味を深めていけば、十分にマネジメント職で活躍できるはずです。
マネジメント職に必要とされる要素
ここでは、エンジニアがマネジメント職に進むために重要な要素を挙げるとともに、それらを現実的にどう身につけていくかについても説明していきます。「意識する」段階にとどまらず、具体的に「行動に落とす」ところまで進めていきましょう。
1. 任せる覚悟と人を育てる意識
優秀なエンジニアがマネジメント職に昇進した場合、難しい課題ほど「自分でやったほうが早い・正確だ」と感じ、なかなか部下に仕事を任せられないことがあるでしょう。実際に仕事を任せたとしても、部下の成果物を細かくチェックし、ついダメ出しをしてしまう――そうした上司の話もよく耳にします。しかし、あなたの目標は「チームとしての成果を最大化する」ことです。部下のやる気を削いでしまっては、チームの成長は望めません。
まずはタスクを整理し、その中から「任せるタスク」と「自分が行うタスク」を部下の技術レベルも考慮しつつ、決定しましょう。最初は不安を感じ、口を出したくなるかと思いますが、あらかじめレビューのタイミングを設定して、そこまでは任せることが重要です。いきなり難しい仕事を任せるのではなく、少し背伸びすれば届く課題を任せ、フィードバックの機会を増やします。うまくいかなかった場合には、部下の進め方だけでなく「自分の任せ方」も振り返り、次に活かしましょう。
人の成長というのは、数年単位で進むものです。短期的にはうまくいかなくても、中長期的な投資と捉えることも必要です。
これは私自身の経験ですが、長女を出産後、時短勤務になり、以前と同じ働き方では業務が全く終わらせられない事態となりました。かなり悩んだ末、思いきって部下に技術タスクを全て任せ、自分はスケジュール調整や問題が発生した時の対処、他部門との交渉のみに専念することにしました。結果的に、部下は以前よりも自信や責任感を持って業務を進めるようになり、チーム全体も大きく成長しました。この時に身につけた「何を自分でやり、何を人に任せるか」という視点は、現在も仕事・プライベートを問わず生かされています。当時は苦しかったですが、今では良い経験を積むことができたと思っています。
2. 言語化する力・伝える力
言語化する力、そして分かりやすく伝える力は、マネージャーにとって重要なスキルです。
例えば、自分の専門分野以外の方に技術的な内容を説明するケースがあります。これはエンジニアとして日常的に行っていることかもしれませんが、マネージャー職になると、経営層へ説明する機会というのも増えます。現場で起きた問題を経営層に説明する際、マネージャーには、経営と現場を円滑につなぐ潤滑油として、内容を経営層が理解できる言語へと変換する役割が求められます。
また、自社の経営課題を部下に伝える場面もあるでしょう。売り上げや利益やコストといったテーマを、エンジニアが理解できる形で説明することで、経営課題をチームの課題まで落とし込むことができます。そうすることで、部下は全体像を理解しながら、自分のタスクに取り組むことができます。
理系出身の皆さんであれば論理的に話を組み立てる力はすでに備えているはずです。そこに加えて、具体的な行動として、自分とは異なる部署の人と積極的に対話し、「相手に合わせた翻訳力」を高めていきましょう。異業種の友人に、自分の仕事をプライベートの場で説明してみるのも良い練習になります。フィードバックをもらい、分かりやすさを確認することも重要です。
さらに、「短く話す練習」も有効です。特に相手が経営層の場合は、事前に話すポイントを整理し、重要でない情報を削ぎ落とし、できるだけスリムに簡潔にまとめてから伝えるようにしましょう。
3. チームの成果を最大化する環境を作る
チームの成果を最大化するためには、個人の頑張りに依存するのではなく、成果が自然と生まれやすい環境を作ることこそが、マネジメントの仕事だと捉えましょう。
具体的なポイントを以下に記載します。
チーム目標の明確化:
何を達成すれば成功かが明確であり、各メンバーの役割・期待値が言語化されている状態をつくります。
コミュニケーションルール:
安心して意見を出せる関係性を築き、分からないことを気軽に質問できる雰囲気をつくります。また、失敗を個人のミスとして責めるのではなく、仕組みの改善課題として捉える姿勢を共有します。
情報の共有化:
適切な会議体を設定し、アジェンダを明確にすることで、必要な情報が適切なタイミングで共有される仕組みを整えます。
仕事時間・学習時間の確保:
メンバーが集中して業務に取り組めるよう、不要な会議は減らし、他部署との調整を引き受けることでノイズを減らします。同時に、学習やスキル向上の時間も確保できる環境を意識します。
研究・開発の現場に特化した「人を動かす」具体的な方法
それでは実際の研究・開発現場で、理系出身のメンバーが「自ら課題を見つけ、能動的に動く」ための方法を見ていきましょう。共通するポイントは、たとえ正しいことを伝えたとしても、人は「理解したから動く」わけではなく、最終的には感情によって動かされるという点です。
1. 「背景・目的・制約」を先に共有する
以前、「理系リーダーのコミュニケーション編」でも触れましたが、理系出身の方は効率性を重視するあまり「このくらいは言わなくてもわかるだろう」と仮定して、前提を省略しがちです。例えば、スケジュールに遅延が発生している場合に、「この評価を必ず来週までにお願いします」と言うよりも、「この評価結果がないと、次工程で設計判断ができずプロジェクト全体が1週間止まる可能性があります。早めにお願いできますか」と言ったほうが、相手にとってインパクトが大きく、行動を促しやすいです。
メンバーに業務を依頼する際には、なぜ今それが必要なのか(背景)、何を判断するためのデータなのか(目的)、期限・品質・コストなどの制約は何か(前提)をあらかじめ共有しましょう。
2. 「やり方」ではなく「ゴール」を渡す
既に述べてきた通り、研究者・開発者にとって最大のモチベーション低下要因のひとつはマイクロマネジメントです。担当者にはゴールを明確に示しつつ、やり方はできるだけ本人に任せましょう。「任せてもらった」という感覚が、自律的な行動と高い成果につながります。
もちろん、入社したばかりの新人の方には、ゴールだけではなく、進め方まで具体的に指導する必要はありますし、経験者であっても「途中で懸念が出たら、早めに共有してください」といったフォローは必要です。重要なのは、「過干渉」「放置」「放任」といった極端な姿勢ではなく、必要かつ適切な距離感を保った「見守り」の姿勢です。
3. 「技術的な正しさ」より「判断への貢献」を示す
開発の現場では、どうしても「正しい解析が出来ているか」「完璧なデータが取れているか」といった技術的な正しさの追求が目的化しがちです。しかし本来重要なのは、そのデータが意思決定に十分かどうかという視点です。
例えば、データが80%程度そろっており、設計変更の判断が可能な状態であれば、それは業務として完了していると言えます。「判断への貢献」を果たしているからです。
会話の軸が「技術として正しいか」から、「今の意思決定に十分か」に切り替わるようにメンバーに示唆することで、メンバーの行動を前に進めることができます。
4. 「懸念」を歓迎する空気をつくる
研究・開発の現場では、想定外の事態が起こることも珍しくありません。その際、担当者はどの段階でマネージャーに報告すべきか迷うことがあります。
もしもチームに「懸念を出しにくい」空気があれば、その担当者はできるだけ自身で解決を図ろうと抱え込んでしまい、かえって問題が長期化する可能性があります。一方、心理的安全性が高いチームでは、担当者が懸念を気軽に上司・メンバーに伝えられ、問題はより早く解決するでしょう。
マネージャーはメンバーが問題・懸念を伝えた場合、まずは伝えてくれたことに感謝を示し、その上で事実の詳細を丁寧に聞くようにしましょう。
マネジメントの意思決定
ここまでマネージャー職の役割として「人を育てる」「伝える」「動かす」ことについて述べてきました。最後に、マネージャーとしてもうひとつ非常に重要な役割である「意思決定」について整理します。
一般的に研究・開発の現場で慣れ親しんできた「意思決定」というと、データを集め、仮説を立て、検証しながら「正解」に近づけていくという再現性の高いプロセスがイメージされるのではないでしょうか。
一方で、マネジメントにおける意思決定は、データが常に不完全であり、利害関係者も多く、正解は後からしか分からないという前提のもとで行うものです。求められる考え方が大きく異なります。以下に、そのプロセスを説明します。
1. 評価軸を先に決める
プロジェクトには、マーケティング、営業、設計、製造、品質など多くの部門が関わり、それぞれに異なる優先順位があります。そのような状況では、まず評価軸(性能・コスト・納期・リスクなど)を先に定め、全員が同じトレードオフ表を見ながら議論できる状態をつくりましょう。
判断基準を共有したうえで評価を行うことで、合意形成が進みやすくなります。理系職種のマネージャーとしては、事実(実験・検証結果)と仮説(推測)を意識的に分け、「今決めること」「後で決めること」「やらないこと」を整理して説明すると効果的です。
2. 「70点」で決める
理系職種のマネージャーにとっては苦手意識や抵抗感が持たれやすい点かもしれませんが、時間をかけて「100点」の結果を待つよりも、「70点」でよいので前に進め、必要に応じて修正するほうが、ビジネス機会の逸失を避ける上で必要かつ現実的な選択となる場合が多くあります。
「まだ検証が足りない気がする…」と検討を重ねすぎて決められない状態は、特に理系出身のマネージャーにありがちな傾向ですが、意思決定こそはまさにマネジメントの仕事であり、マネージャーに求められている役割です。日々の小さな判断から、「70点」で決めて後から改善する習慣を身につけていきましょう。
3. 意思決定の理由を言語化する
「なぜこの選択をしたのか」を言語化することも重要です。リーダーとして信頼されるためには、判断の理由を説明できることが不可欠です。
理系エンジニア出身者であれば、前提と条件を揃えて結論を導く訓練を日頃から積んできているはずです。これを意思決定の場で活かすことで、周囲も納得して動きやすくなります。マネージャーが、気分や勢いではなく、一定の基準に基づいて判断し、発信し続ける姿勢は、チームの安定につながり、結果として成果を押し上げます。
生成AIによるマネージャーの役割の変化
これからマネジメントを考える上で避けて通れないのが、生成AIの影響です。
私自身、先ごろ「生成AIキャンプ講座」というオンラインセミナーに3ヶ月参加したのですが、参加者のほとんどが50代以上だったことに驚きました。おそらく、20〜30代の世代は、すでに日常的にAIを使いこなしている人が多く、それを目の当たりにした私を含め上の世代が「このままではまずい」と危機感を持って参加したのだと思います。
今後、マネージャーの役割の一部がAIに置き換えられる可能性は十分にあります。今後の動向を考えるうえでは、生成AIの活用が進む北米企業の動きは特に参考になります。アメリカで起きているソフトウェアエンジニアのリストラや若年層の就職率の低さといった現象は、いずれ日本でも起きてくる可能性があると考えています。だからこそ、AIには代替できない「意思決定」や「人(チーム)を動かす力」といったマネジメントスキルの価値が、今後より一層高まっていくでしょう。
「技術力」を資産に、マネジメントスキルを身につけて飛躍する
エンジニアがマネジメント職に進む際、ともすると「技術を捨ててマネジメントに移る」というイメージが抱かれがちです。しかし、皆さんの技術力は「資産」であり、職種が変わってからといって手放す必要があるものでも、ましてや失われるものでもありません。マネジメントスキルはあくまでもキャリアの選択肢をさらに広げるための道具と捉えてください。
理系キャリアならではの強みを活かしつつ、マネジメントスキルという、どの分野でも通用する力を身につけることができれば、あなたの大きな強みになります。まずは日々の行動・小さな一歩から始めてみてください!
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