科学者・研究者・研究開発者の職種紹介や転職情報など、理系キャリアに関する情報をお届け。
はじめまして、キャリアコンサルタントの浜中です。理系出身で、化学メーカーで働きながらキャリア支援を行っています。私は半導体業界で設計開発業務に長く携わっていましたが、40歳を過ぎてから会社都合で転職しなければならなくなりました。今までの業務を続けるか、全く新しい仕事にチャレンジするか悩みましたが、技術経験+外資系で培った英語力をベースに様々な業界の技術営業等のポジションに応募することに決め、縁あって化学業界のマーケティング職に採用されました。転職後は毎日が新しい事の連続で、化学製品の理解・お客様への対応・業界のサプライチェーンの理解など、以前の仕事に比べ、大きく視野が広がりました。
自身の転職経験、そしてキャリア支援をしている中で感じることは、理系の職種は各分野の専門が細かく分かれているのが一般的で、特に研究開発職ではお客様含め他社との交流の機会が少ないため、どうしてもキャリアに関する視野が狭くなりがちだということです。また、自身のスキルアップを考える上でも、「次はどの技術分野の勉強をするか」など、あくまで技術を広げていく発想になることが多いように思います。
しかし、年齢が高くなるほど、自社で働くにしても転職するにしても、専門性以外のスキル、例えばリーダー経験やマネジメント経験などが問われますので、専門性以外にどのようなスキルを持つかという視点は、20代・30代のうちから意識し、かつ能動的に身につけておく必要があります。
このシリーズでは、理系のバックグラウンドを持つ読者の皆さんにとって、理系のキャリアに+α(汎用性のあるスキル)を組み合わせ、キャリア選択の幅を広げる事例をご紹介します。
英語スキルを掛け合わせて付加価値の高い人材に
「理系+αで広げる・広がるキャリア」の第1回目は、苦手な方も多いと思われる英語を取り上げます。文系であれば留学含め英語教育に力を入れる学校は多いですが、理系は数学・物理・化学など専門科目に強ければ、英語はそこまでできなくても大丈夫だ、という意識が大学や企業でもまだまだあるように感じます。そのため、学生時代から英語を勉強するモチベーションが低かったり、将来英語が必要になるという意識が希薄になったりしがちです。
ところが、理系で英語のコミュニケーションがとれると、キャリアの可能性は大きく広がります。日系の会社では取引先が海外というケースも多いので、直接顧客と英語で会話できる機会や、海外出張・駐在などのチャンスも増えるでしょう。海外に自社工場があれば、現地のメンバーとのやり取りが英語であるケースもあるかと思います。英語を使わなくとも、通訳を介して会話すればいいのではないかと思うかもしれませんが、高度な技術を理系ではない方が通訳することは実はかなり大変です。
私自身の経験ですが、アジアに工場を持つ日系メーカーの駐在員のお客様と弊社現地メンバーとの電話会議に参加した時の話です。英語・日本語通訳の方が技術背景を理解していなかったため、駐在員の方の日本語の質問と翻訳された英語にかなり乖離があり、問題が全く解決に向かっていなかったことがありました。結局、私が英語で通訳に入ることで、解決に至りましたが、このように、技術的な背景・用語を理解せずに翻訳を行うと、ニュアンスの違いや専門用語の間違いによって問題が解決しない事態が技術現場では多く発生します。技術を知っている担当者が直接英語で話すまたは通訳することで、技術課題を迅速に解決できる、付加価値の高い人材になれます。
理系×英語で転職にも有利に
英語ができることで、社外にもチャンスが広がります。英語ができれば、40代以降であっても自身の技術経験がポジションに合っていれば転職しやすい傾向があります。また外資系で働くことも選択肢に入ってきます。日系の会社と比べると裁量権が大きく、上司の指示を仰ぐよりも自分で仕事のやり方を決めたい方には向いているでしょう。
私が前回転職したのは47歳でした。40歳過ぎの転職はかなり厳しいと言われていたにもかかわらず45歳を過ぎても転職できた事に正直驚いていて、採用後、人事の方に年齢の高い人を採用する理由をお聞きしました。その方いわく、技術・エンジニア経験があり、かつ英語力がある人を選ぶと、候補者はほとんど40代になるとのことでした。つまり、理系エンジニアとしては平均的なレベルであっても(実際、私はエンジニアの評価としては平均レベルでした)、英語でのコミュニケーションがある程度できれば、日本においては、希少な人材になれるということです。
まずはTOEIC 600点を目指しましょう
英語力と言っても、目的に応じて必要なスキルは異なります。社会人の場合は、大きく分けてTOEICスコア(読む・聞く)か、英語でのビジネスコミュニケーション(+書く・話す)のどちらかかと思います。
TOEICスコアについては、企業の応募要件になっている会社が数多くありますし、昇格・昇進の条件になっている会社もあります。いくら技術力が秀でていても、TOEICスコアが低いために、会社で昇格できないことが起こり得るのです。
一つの基準として、TOEIC600点を取得しておくのが安心だと思います。業界・職種にもよりますが、TOEIC600点は大手企業の一般的な昇格条件である事と、そのくらいの英語力があれば、ビジネスコミュニケーションにおいても問題はないと言えるのがその理由です。
元リクルートの藤原和博さんの書籍(「藤原和博の必ず食える1%の人になる方法」)にもありますが、スキルを掛け合わせることで競争相手が一気に減り、年齢を重ねても仕事を見つけやすくなります。理系の方にこそ、ぜひ英語スキル=TOEIC600点+英語でのビジネスコミュニケーションスキルをお勧めしたいです。
外資系で理系人材が使う英語の実態
ここからは、英語でのビジネスコミュニケーションに関して、大卒後ずっと外資系メーカーで働いていた経験から、外資系での理系人材の働き方や英語を使う場面について少しお話しします。
まず、公式な文書・マニュアルや海外とのメールのやり取りは全て英語なので、英語の「読み・書き」のスキルが必要です。読み・書きについては、日本人は中学で文法をきちんと習っていますし、最近は自動翻訳もかなり使えるレベルですので、それほど困ることはないかと思います。最初は時間がかかっても、毎日英語のメールを読む・書くことで自然と慣れていき、スピードも上がります。
続いて、オンライン会議含めた電話会議の場面で、「聞く・話す」スキルが必要です。多くの日本人が苦手なのは、こちらのスキルでしょう。
皆さんが思っている一般的な外資系のイメージは、社員が全員綺麗な発音で流暢に英語を話す場面かもしれません。しかし、ネイティブの方は別として、実際に仕事する外国人の方々は、それぞれの国の訛りで、さまざまなスピードで英語を話します。例えば、私が働いている製造業はアジアが中心ですので、中国・韓国・シンガポール・マレーシア・インド・フィリピンなど、さまざまな訛りがあります。日本人含め、エンジニア系で海外留学経験がある人はそれほど多くないので、流暢に英語が話せる人はそれほど多くありません。実際、電話会議でも、「もう一度言ってもらえますか?」等、一度で会話が通じないこともしょっちゅうあります。以下、私の経験をベースにしたものではありますが、技術系の方向けに、英語を聞く・話すポイントおよびその身につけ方について、まとめます。
技術職向け 英語を聞きとるポイント+身につけ方
英語で「聞く」ことについて、理系・技術系の場合は比較的話すトピックが技術話題に限られますので、使う単語も限られます。例えば、半導体(Semiconductor)の製品開発(Product Development)であれば、その製品(Product)が使われる最終アプリケーションが自動車向け(Automotive Application)で、そこに求められる仕様(Specification)にどのような機能(Function)を盛り込むのか、どのような信頼性試験を行うのか(Qualification)など、普段の会話もメールも、基本的な用語を押さえておけば、かなり意味は分かります。
あとは相手がよく使う単語について、分からない単語が出てきたらまめに調べておきましょう。最近は、Web Meetingのシステムに録音機能がついていますから、参加者に許可を得た上で録音する事もよくあります。私も重要な社内会議などは、録音して後から聞きなおします。分からない部分も3回聞きなおすとほぼ理解できますし、もし同じ人と話す機会があれば、自分の理解を確認することもできます。地道に努力を続ければ、話されている内容は必ず理解できるようになります。
会議の本筋に直接関係のない、詳しくない話題が出てきたら(例えば私の場合、野球選手の名前はチンプンカンプンです)、会話自体をスルーします。話題についていこうと、例えば一生懸命海外映画を見たところで技術の話題についていけるわけではないので、自分が本当に必要な話題・表現・単語を理解することに徹するべきです。外国人との夕食会で多少意味が分からない話題があっても、理系人材にとって大きな問題はありません(階層が上がるとまた変わってきますが)。あくまでも技術トピックをきちんと理解し、問題点をクリアにできれば、話す英語が多少たどたどしかったり、質問をたくさんしたりしても、問題はありません。
技術職向け 英語を話すポイント+身につけ方
英語で「話す」ことについて、重要なポイントは2つあります。
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分かりやすい単語・表現(Plain English)を使う
特にこれはアジア人同士での会話の場合にあてはまりますが、誰でも分かる平易な単語を短い文章で表現します。英文メールも同様で、大抵の人はできるだけ短く自分の用件を記載し、効率性を重視します。文学・芸術ではないですから、長くダラダラと英語を書いたり話したりするのは、ビジネスの現場では好まれません。できるだけ短く、簡潔に問題点・解決策・相手への依頼など分かりやすく、話すことがポイントになります。電話会議等では、事前に話したいトピック・質問事項などをメモでまとめておくこともお勧めです。
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議論の基本をおさえる
話されているトピックについて、自分はどう思うか、なぜそう思うのか、ファクトをベースにしているか、といった議論の基本を身につけておくことが重要です。いくら発音・イントネーションが完璧であっても、自分の意見を持たない人は尊敬されません。話す内容がしっかりしていれば、たどたどしい英語であっても相手はちゃんと話を聞いてくれます。特に技術系の話題ですから、ファクトをベースに論理的に話を進められるよう、事前に自分の主張をまとめておきましょう。
技術系・エンジニア系の場合には、日本人同様、たどたどしく英語を話すケースが海外でも多いです。コミュニケーションの勉強よりも技術の勉強に力を入れてしまう、というのは世界共通かもしれません。それでも、きちんと技術を理解し、問題に対して自分なりの解決案を提案できれば、相手はじっくり時間をとって、こちらの話に耳を傾けます。
もちろん、職種・階層によって必要な英語レベルは異なります。海外でも営業・マーケティング職のほうが英語を流暢に話しますし、マネージャーレベルであればそれ相応の英語レベルは必要です。
「来たら返す」の練習を繰り返す
話すことは「習うより慣れろ」です。できるだけ自分が必要とするビジネス現場に近い環境で、日々話すことをお勧めします。話すことは(聞くこともそうですが)、かなり反射神経的な部分が多いので、考えて話そうとすると、次の話題に移ったりしています。ですので、スポーツのようにボールを打ち返す感覚で、来たら返す練習を毎日繰り返すこと、もし考える時間が必要であれば、相手に今自分は考えていますと表現すること、例えば、OK, so… regarding this topic… など、なんでもよいので「自分はいま考えているから待ってほしい」というアピールをします。特に電話会議ですと、考えている様子も相手から見えないので、そのような気配りも必要です。
話す練習は、利便性の点からオンライン英会話が良いと思いますが、できたら、相手もビジネス経験のある人で、話題もビジネスの話をしたほうが仕事により活かせるでしょう。相手にビジネス経験があれば、ビジネスの場ではこういう言い方のほうが良いなど、適切な表現を学べます。せっかく貴重な時間を使うのですから、オンライン英会話の質にもこだわりましょう。
まとめ
以上、あくまでも私の経験からお話しましたが、ポイントは英語でのコミュニケーションは慣れが大きいので、あまり敷居を高くせず気軽に始めてほしいということです。一般的には、数学・物理・化学等の方がよっぽど敷居は高いです。英語はコミュニケーションのための道具にすぎませんので、スマホやパソコンを使うことと同じように、毎日やっていれば、誰でも慣れます。頑張ってください!
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