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迷いを越え、修士卒で産総研へ。働きながら博士号を取得した“自分らしい”キャリアの描き方

迷いを越え、修士卒で産総研へ。はたらきながら博士号を取得した“自分らしい”キャリアの描き方

理系の決断vol.3 産業技術総合研究所 木津 良祐さん

人生に選択はつきもの。特に将来を左右する選択においては、自信をもってこれだと決断できる人は多くはありません。連載「理系の決断」シリーズは、研究開発職として活躍中の方々に、これまでの人生の岐路においてどのような判断軸で決断・選択をして現在の仕事に至ったのかに迫ります。

研究開発職を希望される皆さんの夢をかなえるヒント、研究開発職として活躍するためのエッセンスが詰まっています!

リケラボ運営元パーソルテンプスタッフの研究開発職向けブランドChall-edge(チャレッジ)は、一人でも多くの理系の方々が、自ら選択した仕事やはたらき方で、喜びや楽しみ、さらには人や社会の役に立っていることを実感できる、多様で豊かな社会を創造することで、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実現していきます。

博士進学か就職か? 研究を続けるための選択の先に見えたビジョン

日本最大級の公的研究機関である産業技術総合研究所(産総研)の研究員、木津良祐さんのキャリアは、研究を続けたいという思いを軸に、その時々で現実的に進路を考えながら形づくられてきました。

幼い頃、壊れた家電を分解していた経験を原点に理系へ進み、大学院では半導体の研究に没頭。修士課程修了時には、アカデミアの厳しい現実を前に「博士課程に進むか、就職するか」という迷いに直面しました。そして、研究を続けられる環境を求めて産総研に入所します。その後、働きながら博士号を取得し、現在は、学生時代の専門とは異なる「計量標準」の分野である計量標準総合センター(NMIJ)に所属。原子間力顕微鏡(AFM)を用いた半導体のナノ構造計測技術の研究開発に取り組んでいます。

本記事では、「理系の決断」というテーマのもと、木津さんがキャリアの岐路で何を感じ、どう考え、どのように進路を選んできたのかを伺いました。未知の分野で学ぶことを前向きに楽しみながら、自分らしい道を切り開いてきた、その歩みをたどります。

Q. 理系に進むきっかけと、ここまでのキャリアでの大きな決断は?

理系に進む原点は、壊れた家電の分解と「シリコン」への感動

理系の道に進んだきっかけは、多くの理系の人と同じように、子どもの頃から理科や算数が好きだったことです。教科書の端に載っているような塩の結晶づくりを家で試してみたりしていましたが、特に好きだったのは壊れた家電を分解することでした。

家電などで壊れて処分するものがあれば、親に「捨てるなら教えて」と声をかけておいて、ペンチやニッパーを使って分解していました。ICチップの黒いプラスチックのモールドを一生懸命割ると、中に光っているガラスのような「シリコン」が見えるんです。中学生の頃でしたが、「これがシリコンか!」と強く印象に残ったのを覚えています。そうした体験が、半導体に興味を持つ原体験になりました。

大学受験時には物理にも興味がありましたが、やはりいちばん面白そうだと感じた半導体を学ぶため、電気電子工学の道を選びました。

1つ目の決断:
博士課程か就職か。研究を続ける道を探して。

大学1年のときに「研究者になるには」という基礎セミナーを受けたことが、研究者という進路を具体的に意識するきっかけになりました。その講義では、大学教員が自身の経験をもとに、ポスドクを経て業績を積み、准教授、教授へと進んでいく道のりを話してくれました。研究者といえば大学の先生、というイメージが強くなった一方で、正直「自分には難しそうだな」とも感じました。

学部4年で学会に参加するようになると、他大学の優秀な学生たちを目の当たりにして、研究の難しさや、この道を極めていくことへのプレッシャーをよりリアルに感じるようになりました。修士課程1年の終わり頃に、博士課程に進むか就職するか決断する局面でも、自分がアカデミア特有の競争環境のなかでやっていけるのかという不安は拭えませんでした。

そこで、博士課程に進むか就職するかという二択で考えるのではなく、「研究を続けられる就職先」という方向で道を探ることにしたのです。

2つ目の決断:
専門を広げて、計量標準の分野へ挑戦。

メーカーの研究職も受けるなかで、大学の合同企業説明会で産総研(産業技術総合研究所)のブースを見つけました。そこで初めて、公的研究機関でも修士卒を採用していることを知ったのです。

当時、産総研のなかで修士卒を研究職として採用していたのは、計量標準総合センターだけでした。計量標準は私にとって未知の分野でしたが、説明を聞くうちに純粋に面白そうだと感じ、これまでの経験を活かせる部分もあるとわかったため、受けてみることにしました。

面接が進むなかで、「入所した場合は、原子間力顕微鏡(AFM)を使って半導体のナノ構造を正確に測る研究を担当してもらいます」と、具体的な説明を受けました。選考を経て、採用が決まり、無事に産総研に入所することになりました。

配属後の研究テーマは半導体から完全に離れるわけではなく、基盤技術側に軸足を移すイメージだったため、自分のやりたいことから外れてしまったという感覚はありませんでした。

未知のテーマであること自体への不安は当然ありましたが、産総研の計量標準総合センターでは入所1年目の新規職員に「調査研究」という業務が設定されています。じっくり文献を読み込み、これから取り組んでいく研究分野を俯瞰的に学び知見を整理する時間があったことで、「こういうふうに進めていけばいいんだ」という感覚が持てるようになり、不安も少しずつ和らいでいきました。

3つ目の決断:
働きながらの博士号取得。

産総研に入所して5年ほどが経ち、自分で研究テーマを設定し、予算を取り、学会発表も自走できるようになってきた頃、上司から面談のたびに博士号取得を勧められるようになりました。産総研では、修士卒で入所した研究者がある程度経験を積んだ段階で博士号の取得を目指すことも多く、進学先の大学の先生を上司から紹介していただいたことも大きな後押しになりました。

進学したのは2020年9月で、ちょうどコロナ禍のさなかでした。そのため、指導教員との月1回の面談や、週1回の研究室の研究会などはすべてオンラインで行われました。本来なら片道1〜2時間かかる通学の負担がなかったことは、社会人学生としては結果的に非常に助かりました。

研究テーマ自体も、通常業務の延長線上で新しく立ち上げたテーマと重なっていたため、業務と並行して進めるうえで無理が生じるほどではありませんでした。大変だったというより、むしろ社会人経験を経てから大学に戻ったことで、これまでとは異なる研究手法や考え方に触れることができ、「学び直し」として純粋に楽しかったです。

何より大きかったのは、博士論文をまとめる過程で、自分の研究を俯瞰して意味づける力が鍛えられたことです。肩書き以上に、研究者としての見方が深まったこのプロセス自体に、大きな価値があったと感じています。

Q. もし、あの時違う道を選んでいたら?

修士修了後、そのまま博士課程に進学していたら?

もし修士修了後すぐに博士課程へ進学していたら、きっとかなり苦労していただろうなと思います。

産総研に入所してからの数年間、上司や先輩から丁寧な指導を受けながら、研究者としての基礎体力をじっくり身につけることができました。その蓄積なくアカデミアだけの3年間で学位取得までたどり着けたかどうかは、正直、自信がありません。結果的には、一度就職して実力をつけてから博士課程に進むというルートが、自分には合っていたと思います。

産総研ではなく、メーカーの研究開発職に進んでいたら?

メーカーなど民間企業の研究開発職に進む道も、もちろんありえたと思いますし、それはそれで面白かっただろうなと想像することはあります。

メーカーの研究開発では、より特定の分野に大きなリソースを注ぎ込み、高いレベルで技術を磨いていきます。未知のものをゼロから探索する研究スタイルとは少し違いますが、既存技術を突き詰めて、業界のなかで他社に負けない強みを築いていくプロセスには、独自の面白さややりがいがあると感じます。

Q. 未来に向けての展望や、今後の目標はなんですか?

ScienceとTechnologyの両立を意識して、産業応用につながる研究へ

現在も、手を動かして現場で研究を続けるプレーヤーとしての役割を担っていますが、少しずつ、研究者として自分の軸で動けるようになってきたと感じています。

研究を続けて一定の成果が出るたびに、「次にこの技術をどう活かしていくのか」と応用を考えるようになりました。工学の研究である以上、アカデミックな成果だけで終わらせるのではなく、産業や社会で実際に使われる技術へとつなげていくことが重要だと考えています。

科学的な新規性や原理の検証もしっかり行いながら、実用的な技術として産業界に貢献していく。産総研が掲げるこうした両立を強く意識しながら、今後は「半導体のナノ形状計測の第一人者」を目指して、専門性をさらに深めていきたいと思っています。

これからキャリアを歩む理系の皆さんへのメッセージをお願いします

進路に悩んでいる若手の方には、「早めに、真面目に、自分で考えること」をおすすめします。

キャリアの選択には期限があるので、なんとなく先延ばしにしてしまうとその分、不利になりやすくなってしまいます。将来がどうなるかわからないなかで考えること自体がしんどくなったり、後回しにしたくなったりする気持ちもよくわかります。それでも、不安に向き合いながら考え続けることで、少しずつ自分に合った方向性が見えてくるはずです。

そして、一人で悩まずに周囲の人に話を聞いてみてください。同級生だけでなく、直近でその道を経験した少し上の先輩から生の声を聞くのは、特に有効だと思います。ただし、特定のひとりの意見を鵜呑みにするのではなく、あくまでひとつの意見として受け止めることも大切です。意見をそのままあてにするというより、見方の異なる意見を聞くことで、自分の考えを整理したり、気づきのきっかけを得たりできる点にこそ、人の話を聞く価値があると思います。

もし「研究は好きだけれど、博士課程でうまくやれるか不安だ」と思うなら、私のように、自分に合ったかたちで研究を続けられる就職先を選ぶのも、十分に有力な選択肢だと思います。一方で、修士の段階で「この研究テーマを突き詰めれば形になる」という確信と推進力を持っている人は、迷わず博士進学を選んでよいはずです。自分の性格や状況をしっかり見極めて、納得のいく選択をしてほしいなと思います。

▼あわせてご覧ください。木津さんへの過去のリケラボ取材記事はこちら

「研究者になりたい」を修士卒で叶え、研究に打ち込む日々。
理系のキャリア図鑑Vol.6 産業技術総合研究所 木津良祐さん(ナノスケール標準の研究)

▼関連リンク

国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)
https://unit.aist.go.jp/nmij/

産総研:採用情報 修士卒研究職
https://www.aist.go.jp/aist_j/humanres/02kenkyu/master.html

プロフィール
木津 良祐(きづ りょうすけ)
大学院で電気電子工学を専攻し修士課程を修了後、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)に入所。計量標準総合センターに配属され、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた半導体ナノ構造の高精度な寸法・形状計測技術(ナノスケール標準)の研究開発に一貫して従事する。入所後に社会人学生として大学院へ進学し、働きながら博士号(工学)を取得。科学的原理の検証と実用的な計測技術の社会実装の両立を目指し、研究に取り組んでいる。現在は、計量標準総合センター 物質計測標準研究部門に所属し、主任研究員を務める。

※所属などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

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