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理系の職種紹介vol.17 科学技術と社会をつなぐ「研究広報」の仕事
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
知っているようで意外と知らない“理系の仕事”にフォーカスし、その仕事で活躍している方に詳しい内容を教えてもらう「理系の職種紹介」シリーズ。
第17回目は、科学研究の成果、特にアカデミア研究の成果を広く世の中に分かりやすく発信し、科学技術の振興を後押しする『研究広報』の仕事を紹介します。
優れた研究成果を世の中に伝え、科学技術と社会をつなぐ魅力的な仕事で、理系の学びやスキルを存分に活かすことができます。今回は、日本の科学技術の発展を支える国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)で広報を担当する中嶋彩乃さんに、理系のバックグラウンドを活かして「伝える」仕事の面白さを伺いました。
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
科学技術・イノベーション基本計画の中核的な役割を担う機関であり、科学技術の振興を図ることを目的とする文部科学省所管の国立研究開発法人。科学技術の振興と社会的課題解決のために、国内外の大学・研究機関、産業界等と連携した多様な事業を総合的に実施し、社会の持続的な発展と科学技術・イノベーションの創出に貢献している。
科学の最前線に取り組む研究者とその研究内容を紹介する広報誌『JSTnews』。その取材のため、全国を飛び回る中嶋さん。本インタビューも出張先の京都にてお話を伺いました。「実際に足を運び、直接お話しすることで現場感が伝わる記事になるんです」
リケラボ編集部撮影
理系のスキルを活かして、科学を公平に伝える仕事へ
── 中嶋さんは学生時代に環境工学を専攻されていたそうですね。そこからJSTの広報の道に進まれた経緯を教えてください。
廃棄物や資源循環に関する研究テーマを選び、修士1年生のときに学会発表を経験したのが大きな転機でした。学会には多くの研究者が集まります。廃棄物の分野だけでもこんなにたくさんの素晴らしい研究があるのに、一般の方には全く知られていないことに大きな衝撃を受けたのです。そこから、「自分が科学技術と社会の架け橋になれれば」と強く思うようになりました。
── 民間企業ではなく、公的機関を選んだ理由は?
環境工学で公害の歴史を学んだのがきっかけのひとつです。企業にはそれぞれの設立理念に基づいた研究や開発が展開していきます。もし就職した企業の方向性が自分の理想とするものから離れたとき、自分が納得する行動をとることができるだろうか。そう考えると、社会のため公正に働く官公庁系の機関のほうが向いているのではないかと思えたのです。
その中でも、JSTは研究者支援だけでなく、次世代人材の育成など科学技術の基盤作りにも関わっている点に惹かれました。
── 就職活動は順調でしたか?
とても順調とはいえませんでした。民間企業と比べて官公庁系は選考時期が遅いため、周りの同期が次々と内定をもらう中、私はなかなか決まらなくて。毎朝泣いてしまうほど辛い時期もありました。最終的にJSTの選考に残り、背水の陣で臨んだんです。面接で、熱意や広報への姿勢をまっすぐに伝えられたことが結果につながったのかなと思います。
JSTでは、国内外の大学や研究機関、産業界などと連携しながら、さまざまな事業を展開している。(JST公式サイト https://www.jst.go.jp/all/jigyou/)
画像提供:JST
科学を社会に広く伝える広報誌『JSTnews』の制作
── JSTにおける広報部の役割と、中嶋さんの具体的な業務内容を教えてください。
JSTの広報課は、法人全体の広報を担っています。業務は大きく5つの柱があり、①プレスリリースなどのメディア対応、②月刊広報誌『JSTnews』などの印刷媒体の制作、③WebサイトやSNSの運営、④職員向け広報、⑤中高生向けの科学動画制作などです。
動画コンテンツが掲載されているWEBサイト「研コレ」。これからの未来をつくる中学生・高校生に科学技術の魅力を伝え、研究のワクワク感を知ってほしいとの思いで運営する。https://www.jst.go.jp/program/kencolle/
タップして拡大
JSTの支援による研究成果を発表するプレスリリースなどは、非常に専門性が高いため、各事業部にいる広報担当者と連携を取り合いながら進めます。
私は入職以来、主に『JSTnews』の制作担当やプレスリリースなどに携わっています。
── 広報誌『JSTnews』では、主に研究プロジェクトを毎月2本特集しています。非常に分野が幅広く、内容も高度ですが、大変ではありませんか?
たしかに、ライフサイエンスからICT、ロボット、AI、宇宙など、毎月違う分野を深く取材するため、自分だけの知識では手に余ることも多くあります。このため、テーマや取材先といった企画を考える際は、事業の最前線で働く各研究プロジェクトの担当者にも「この分野ならどの先生がおすすめですか?」とヒアリングして理解を深めています。
取材する先生が決まったら、プレスリリースや論文を読み込んで取材の準備を始めます。J-STAGE(JSTが運営する電子ジャーナルプラットフォーム)も駆使しています。
── 取材や記事制作において、心がけていることは?
取材の場では、先生が話しやすい環境を作ることを第一に、お話を伺っています。そして、取材後の記事作成で重要なのは、嘘がないこと。意図していなくても結果的に誇張表現や過小評価になっていると、研究内容を正しく伝えることができません。例えば「世界で初めて」といった表現を使う場合は、本当に世界初かを厳密に確認するなど、公的機関としての客観性を強く意識しています。
研究が花咲く現場に立ち会える仕事
─仕事のやりがい─
── これまでで一番印象に残っているお仕事は何ですか?
2025年のノーベル賞ダブル受賞(生理学・医学賞に大阪大学 坂口志文氏、化学賞に京都大学 北川進氏)に関連した仕事です。受賞がわかってから急きょ企画し、わずか2週間で『JSTnews』の記事を書かなければならなかったため、段取りは普段の倍以上の濃密度でしたが、歴史に残る仕事に携われたことは大きなやりがいでした。
受賞者のお一人である坂口先生は、30年以上続く、JSTの若手研究者支援プログラム「さきがけ」の1期生です。もうお一人の北川先生にも戦略的創造研究推進事業ERATOなどを通して研究を支援するなど、現在に至るまでお2人の研究を応援し続けてきました。JSTの支援もあって花開いた研究が、世界有数の素晴らしい成果として国際的にも認められたのです。継続して研究を支援し続けることの意義と喜びを実感します。この点も、JSTという組織ならではの良さだと思います。
ノーベル賞受賞を扱った『JSTnews 2025年11月号』を手に。『JSTnews』はWEB上でPDFが公開されており、誰でも読むことができる。(この号の記載ページ:https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2025/202511/index.html)
JST提供
── とても充実したお仕事ぶりが伝わってきます。多忙な毎日の中、熱量を保つ秘訣はなんでしょう。
『JSTnews』は毎月発行されるため、うっかりすると毎月の流れ作業のようにこなしてしまうこともありますが、入職したばかりのころに先輩からかけられた言葉が、私の拠り所になっています。
「あまたいる研究者の中で、JSTから研究費を獲得できる研究者は非常に限られている。さらに『JSTnews』に掲載されることを、大きな名誉や研究者として成功のマイルストーンと受け止められている方もいらっしゃる」
この言葉を聞いて震えるほどの大きな責任を感じ、制作を単なる流れ作業にしてはいけないと強く心に刻みました。締め切りが近づいて時間的に厳しくなっても、「これでいいや」と妥協したくなる気持ちをぐっと抑え、もうひと粘り、あとひと踏ん張り。取材した研究者のために最善の記事を目指しています。
仕事を円滑にしてくれる、自己管理と同期のつながり
─どんなスキルが必要か─
── 広報の仕事をこなすうえで、どのようなスキルが大切でしょうか?
スケジュール調整能力とタイムマネジメントです。『JSTnews』の制作には、企画テーマに沿った取材先を検討するところから始まり、オファーや取材に向けた調整、取材後の執筆、原稿の確認、原稿にふさわしい写真素材の依頼、校正紙での確認依頼や修正内容の調整、印刷・製本など、さまざまな工程があります。取材先の研究者はもちろん、作業を依頼する業者も複数いる中で、発刊日に間に合わせる進行管理が重要となるのです。
── とても多くの方々とのコミュニケーションが必要なのですね。
発刊日が決まっている中、みなさんに納得いただきながら紙面のクオリティを高めていくには、関わるみなさんとのコミュニケーションは不可欠ですね。関連部門の担当者や取材先の研究機関や研究者、さらには制作関連会社など、組織内外でご縁ができた方々と、ずっと良い関係になれるように毎日試行錯誤です。
そのほか、学生時代に身に付けた、基本的な科学の知識や論理的思考力も大いに役立っています。文献調査などのリサーチ力、卒論や修論執筆で得たスキルつまり、論理的文章をきっちり期限内に仕上げていく能力は、現在の仕事においても不可欠です。あと、出張が多いため、体調管理も重要ですね。
中嶋さんは、紙の手帳を使ってスケジュール管理をしているそう。「前の週の金曜日には翌週やるべきことを全て書き出してから退勤します。月曜に出勤したらそれをチェックし、業務が動くたびにタスクを書き出して、終わったら消す、という習慣を学生の頃から続けています。(中嶋さん)」
JST提供
── JSTは非常に幅広く事業を展開しています。どうやって把握しているのでしょう。
入職前は、本当に手がける事業が多すぎて全貌が分かりませんでした。ただ、私には同期が16人いて、全員が違う部署に配属されているのです。半年ごとに集まる同期会では、「そんな仕事してるの!?」と毎回驚かされます。同期にはプロジェクトの内容や経理の処理まで気軽に質問でき、本当に助けられています。
── 今後のキャリア展望を教えてください。
実は2026年4月から、研究推進に関する部門へ異動することになりました。広報とは違う業務になりますが、新しい視点を養えるのではないかとワクワクしています。スペシャリストよりもゼネラリストとして、科学技術への知見を養っていきたいです。
理系のバックグラウンドが活かせる研究広報
─この仕事に興味を持ってくださった方へのメッセージ─
── 広報というお立場から、研究PRをがんばってみたい研究者の方々へアドバイスはありますか?
研究室のホームページや、researchmap(JSTが運営している、業績を管理・発信できる研究者データベース)を活用されることをおすすめします。高頻度の発信でなくても、「今こういう研究をしています」「こういう論文を出しました」という基本情報や、先生のお人柄が垣間見える情報があるだけで、私たち広報は格段にアプローチしやすくなります。
researchmapは共同研究者を探す際にも使われているようです。ぜひ、研究の発展のためにご活用ください。
── 多様な理系キャリアの選択肢として、広報の魅力を教えてください。
先生方の素晴らしい研究成果も、そのままの形では一般の方に全てを伝えきることができません。理系のバックグラウンドを持つ人間がその間に入り、知見をかみ砕いて分かりやすい表現にし、適切なメディアで形にすることにより、しっかりと届けることができます。科学技術と社会をつなぐ橋となっていけるのです。
研究者を支える仕事がしたいという気持ちに気づき、JSTを見つけました。科学技術を社会に伝える広報という職種は、理系のバックグラウンドを存分に活かせる非常にやりがいのある仕事です。ぜひ、キャリアの選択肢のひとつとして考えてみてください。
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チームのリーダーとして、常に複数のプロジェクトを動かすマルチタスクな毎日を送っている中嶋さん。取材時に同席してくださった広報課長の小林さんも「その抜群の調整力にいつも助けられています。特に『JSTnews』の制作では、<何を一番に伝えたいか>という芯のあるポリシーを持って誌面に向き合っており、その姿勢は周囲からも厚く信頼されています。」と、活動ぶりに太鼓判を押しておられました。
研究のすばらしさを、いかにして読者に響く形にし、届けるか。専門的な知識・技術をわかりやすくかみ砕くだけでなく、組織内外のさまざまな人たちと良質な関係を築こうとする中嶋さんの真摯な姿に、背筋が伸びる思いでした。
多様な人のあいだで柔軟に調整しつつ最高のタイミングで成果を発信し、研究と社会をつなぐ広報は、プロフェッショナルな理系の仕事として重要な位置にあることを改めて実感します。貴重なお話をありがとうございました。
※所属や肩書などはすべて取材当時の情報です。