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理系の職種紹介vol.16 腸内環境×科学で

理系の職種紹介vol.16 腸内環境×科学で"コンディション"を追求するライフサイエンス系スタートアップでのスポーツ管理栄養士の仕事

AuB株式会社

知っているようで意外と知らない"理系の仕事"にフォーカスし、その仕事で活躍している方に詳しい内容を教えてもらう「理系の職種紹介」シリーズ。

第16回目は、ヘルスケアスタートアップで活躍する『スポーツ管理栄養士』の仕事です。

ご登場いただくのは、AuB(オーブ)株式会社の清水瑠美さん。

AuB株式会社は、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏が「腸内環境」がアスリートのコンディショニングやパフォーマンスに大きな影響を与えることに着目し、腸内細菌研究から始まった2015年に創業したライフサイエンス系スタートアップです。1200名以上ものアスリートの「便」を集めた研究をベースとして、腸をケアすることでコンディションを維持するサービスや商品を開発、提供しているベンチャー企業です。

清水さんは大学で栄養学を学び管理栄養士としてはたらきながら、公認スポーツ栄養士(スポーツ栄養の専門知識を持つ管理栄養士=スポーツ管理栄養士)の資格を取得しました。現在はAuBでカスタマーサポートを中心に、現役アスリートや運動をされているユーザーへ幅広いサポートを行っています。スポーツ管理栄養士と一般的な管理栄養士との違いをお聞きしつつ、腸内環境の大切さやベンチャー企業ならではの働き方についても伺いました。

AuB株式会社

2015年設立。アスリートの腸内細菌の研究成果に基づき、アスリートや一般の人々に向けてのコンディショニングサポート事業やフードテック事業を展開。アスリートの便(検体)保有数は世界トップクラスを誇り、大学や企業との共同研究も積極的に行っている。「すべての人を、ベストコンディションに。」をミッションに掲げる。

公認スポーツ栄養士とは

スポーツ栄養の専門家であり、公益社団法人日本栄養士会および公益財団法人日本スポーツ協会の共同認定による資格。競技団体などにおいて監督、コーチ、スポーツドクター、トレーナーなどと連携し、運動生理学、バイオメカニクス、スポーツ心理学なども生かしつつ栄養面から競技者に専門的なサポートを行う。

腸内環境という"土台"を作りパフォーマンス向上に貢献

──清水さんは「公認スポーツ栄養士(スポーツ管理栄養士)」の資格をお持ちとのことですが、どういった資格なのでしょうか?

公認スポーツ栄養士は管理栄養士の資格を持っている者がさらにその知識を土台として、主にスポーツをする方を対象に、パフォーマンスを上げていくにはどうしたらよいか、その方の競技特性やポジションあるいはその時々の目的に合わせて食事を提案するうえで必要な知識や技能を持ったものに与えられる資格です。

── 管理栄養士の仕事は、健康になるため、病気の予防・改善のために主に栄養学の観点から食事内容の提案を行ったり指導したりすることですが、スポーツ管理栄養士はさらに、スポーツに特化した栄養の専門家という位置づけなのですね。

筋力を上げたいのか、持久力を上げたいのか、個々人によって上げたいパフォーマンスは異なり、それにより食事内容も変わってきます。また、スポーツ栄養というとアスリート専門というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、一般の方で運動量の多い方、いわゆるスポーツ愛好家もサポートの範疇に入ります。

AuB株式会社の清水瑠美さん(管理栄養士・公認スポーツ栄養士)
リケラボ編集部撮影

── AuB(オーブ)はアスリートの「腸内環境」のサポートが事業の始まりとのことですが、現在のお仕事内容を教えていただけますか。

アスリートのコンディショニングサポートのほか、お客様窓口として、お問い合わせ対応のほか、SNSを通じた認知活動、当社製品のアンバサダーさんと一緒に腸内環境を整える大切さを伝えるコミュニティ活動など広報的な仕事をしています。

当社は元プロサッカー選手である社長の鈴木啓太が、アスリートの腸内細菌の研究を開始し、その科学的エビデンスを元に、腸活を一般の方にも広めることで皆さんのコンディションを整えて幸せにしたいとのミッションを掲げる会社です。「腸内環境をケアする」ことをお伝えしていく中で、それをサポートするためのサプリメントや食品も開発してきました。お客様はアスリートやスポーツ愛好家の方はもちろん、健康に関心のある一般の方にもご愛用いただいています。

腸内環境研究から生まれたAuBの商品ラインナップの一部。飲料や発酵調味料なども展開している。
リケラボ編集部撮影

── 腸内環境が健康に重要だというのは何となく知っていますが、具体的にはどういうことなのでしょうか。

私たちが食べたものは、胃や小腸で消化・吸収されますが、食物繊維やオリゴ糖などはそこでは吸収されずに大腸まで到達します。ここで働くのが腸内細菌です。腸内細菌はこれらをエサにして、「短鎖脂肪酸」という栄養素を生み出します。短鎖脂肪酸には、免疫力の向上、花粉症やアレルギーの緩和、さらには脂肪の蓄積抑制(太りにくさ)など、全身のコンディションに関わる多くの働きがあることがわかっています。腸を細菌の活動しやすい環境に整える、それが「腸活」です。

── 腸内細菌が少ない、あるいは元気がないと、短鎖脂肪酸が効率的に生成されないんですね。

はい。いくら良いサプリメントや食事をとっても、「腸」という土台が整っていなければ、有効な栄養素が十分作られません。

ちなみに、腸内細菌はどれくらいおなかの中にいるかご存じですか?

── すみません、あまり想像つかないですね。

健康な方の腸内には大体100兆個くらい、重量でいうと1㎏ほどの腸内細菌が存在しています。腸内環境は季節や体調によって揺らぎます。そこで私たちは、腸活を1)菌を摂る、2)育てる、3)守る、の3ステップで考えています。ステップ1はよく知られているので、当社では特に2や3の大切さを継続的に発信しています。

腸活の3ステップ

1)菌を摂る:ヨーグルトやキムチなど、善玉菌を摂取する。
2)育てる:腸内細菌のエサとなる 食物繊維やオリゴ糖を摂取する。
3)守る:腸内を菌が育ちやすい環境に維持する。

「データ」と「選手の感覚」の間で行動変容を促すコミュニケーション

── アスリートの腸内環境の研究から事業が始まったというのがとてもユニークです。

AuBでは、トップアスリートの腸内環境が非常に良好なのではという仮説を検証することから研究を開始しました。結果、アスリート特有の腸内環境が、ヒトの腸内環境の理想的な姿であることを4年間かけて発見しました。当社が保有するアスリート腸内細菌のデータ数は45競技2600検体以上と、世界トップクラスです。その検体を大学や研究機関と解析し、菌の種類や数、その構成比などをデータベース化することで肉不足の課題を抱える選手は腸内細菌の多様性が低いことや、選手や競技によって腸内細菌の種類や数、構成の特徴が異なることを突き止めてきました。

── AuBではどのようにアスリートへの指導・サポートを行っているのですか?

あるJリーグの新人選手の例が印象に残っています。高卒でプロとなり、寮で食事は用意されるものの、補食の摂り方や自分に必要な栄養素の選び方が全くわからない状態でした。もちろん、腸内環境への意識もありませんでした。そこで、定期的に検査を行いながら、「今のあなたの腸にはこの菌が足りないから、寮の食事にプラスして〇〇を食べてみましょう」「補食にはこれを選んでみましょう」と具体的にアドバイスをしました。最初は受け身でしたが、次第に自分でスーパーに行ってヨーグルトや海藻を買うようになり、おやつの選び方も変わっていきました。結果として、入団当初に比べて筋肉量が増え、体つきが明らかに変わりました。ご本人も「パフォーマンスにどう直結したかは自分ではわからないけれど、体作りに関しては確実に手応えがあった」と言ってくれました。真っさらな状態から、正しい知識を身につけて行動が変わっていく姿を見られたのは嬉しかったです。

独自の検査キット、「GUT PARTNER(ガットパートナー)」。ユーザーの便を解析し、腸内フローラ(細菌叢)の状態を可視化。「酪酸菌が少ない」「菌の多様性が低い」など個々人の分析結果に基づいた食事のアドバイスなどを受けることができる。https://aubstore.com/products/gutpartner

── 他にもいろいろなスポーツを担当されるのですか?

常にこうした指導を行っているわけではないのですが、アスリートと関わる場面は多く、セミナーなども含めるとこれまでに25種ほどの競技の選手に関わってきました。珍しいところではeスポーツも対象になります。また、女性だと低体重や貧血が課題になる競技もあります。私もかつてスポーツをしていて不調に悩まされたことがあるので、そうしたこともお伝えさせていただいています。競技が違えば必要な知識やアドバイスも違うので、常に学ぶことを大切にしています。

── このキットは、一般の人も使えますか?

もちろんです。ご利用者様には、市民ランナーのように日常的に運動をされている方が多いですね。いろんな食事法を試してきたり、ご自身でも腸内細菌について学ばれてたくさんの知識をお持ちの方も多く、分析結果をお戻しすると、実に具体的に多種多様なご質問をいただきます。

小学校から高校までいろいろなスポーツを経験し、自身も体づくりや栄養に気を付けてきた経験から、進学はスポーツ栄養に強い大学を選んだ。
リケラボ編集部撮影

── 検査データの数値と本人の「体感」や「こだわり」が食い違うことはありますか?そうした場合はどう対応されていますか?

そこは非常に難しいポイントですが、ご本人様の「感覚」を否定しないことを大切にしています。

トップアスリートほど、ご自身の経験に基づいた「これを食べると調子がいい」という感覚やルーティンを持っています。ですからたとえデータ上は最適でなくても、本人がそれを信じて結果が出ているなら、無理に変えようとしない姿勢も必要です。ただ、「将来的なリスクがあるかもしれない」「ここを少し変えると、もっと良くなるかもしれない」ということはデータを示しながらお伝えします。

常に論文や関連書籍を読んだり、公認スポーツ栄養士の勉強会に参加して現場での話や、やってみて良かったことの体験談などを聞いたりして、最新のインプットを心がけていますが、個々人の属性や体質など一人ひとり違うので、論文がそのままその人に適用できるわけではありません。ですので、継続的な観察と伴走が大切と考えています。

ベンチャー企業だからこそ役割は一つに絞らない

── AuBでの仕事は一般的な公認スポーツ栄養士のイメージとは少し違う部分もありそうです。

私の仕事はかなり幅広く、管理栄養士として食事指導をするだけではなく、CS(カスタマーサポート)やCRM(顧客関係管理)の責任者として、お客様対応やSNSの運用、コミュニティの運営なども担当しています。ビジネスのアイデアを出したり、ポップアップストアの店頭に立って販売したりと、職種の枠を超えて動く機会があります。ものすごい勢いで成長している会社なので、スピード感も求められていると感じます。でも、自分の専門知識を生かして、広く世の中に「腸ケア」の重要性を伝え、商品を届ける仕組み作りまで関われるのは、やりがいですし、スタートアップならではだと感じています。

── 今後の目標は何でしょうか。

インソールや口腔ケア、そして飲料や調味料へと、腸ケアのアイテムの幅が広がっています。これらを通してAuBを知っていただき、ご自身のコンディションを整えていただくための環境をいろんな形で作れたらなと考えています。特に高校生や大学生など、プロを目指す選手たちが早い段階で腸内環境の大切さについて知ってもらえるような機会を作っていきたいです。

CS・CRM業務や商品開発にも関わる清水さん。ベンチャーならではの幅広い役割を担う。
リケラボ編集部撮影

「公認スポーツ栄養士」への挑戦と、学生時代にやっておくべきこと

── 「公認スポーツ栄養士」の資格はかなり難関だそうですが、清水さんは仕事をされながら取得されたとか。

公認スポーツ栄養士は管理栄養士の資格を持っていることが前提で、さらに講習会の受講や試験、そして実際に現場でチーム指導を行うインターンなどをクリアしなければなりません。私は野球部で3年間インターンをしたのですが、業務後や週末に行うので時間のやりくりには苦労しました。会社が資格取得を応援してくれて、平日でも講習会への参加を認めてくれたのはありがたかったです。栄養学を体系的に学び直せたこと、そして同じ志を持つ仲間と出会えたことは、今のキャリアにとって大きな財産になっています。

── 「公認スポーツ栄養士」の資格を取得して憧れのアスリートのサポートができたらやりがいも大きそうです。

お伝えしておきたいのは、公認スポーツ栄養士の資格を取得しても、それだけでプロアスリートと仕事ができるわけではないということです。限られたポストは通常は埋まっているので、実際に仕事を得るには人脈や紹介のための実績づくりやコネクション構築といった資格以外の要素も大きいです。目的を見誤ると、取得に費やした時間と労力は「割に合わない」と感じる人もいるでしょう。

── 清水さんご自身は、どのように感じていらっしゃいますか。

私自身は、この資格を取って「無駄だったな」と思ったことは一度もありません。

おすすめする理由は大きく2つあります。

一つ目は、「指導の引き出し」が圧倒的に増えることです。一般的な管理栄養士の学びでは「健康維持」が目的となりますが、公認スポーツ栄養士取得カリキュラムでは、パフォーマンスを上げるための実践的なマネジメントを体系的に学ぶことができます。このスキルは、アスリートだけでなく、一般の方への指導にも応用できるので、栄養士としての仕事の幅がぐっと広がります。

二つ目は、企業で働く上でも「強力な武器」になることです。「スポーツ栄養士=アスリートに対する栄養指導」と思われがちですが、実は企業からの需要も高いと感じています。まだ取得者が少ない資格だからこそ、「公認スポーツ栄養士を持っています」と伝えるだけで、栄養士としての専門性の高さや、そこに至るまでの過程(現場経験や学習意欲)を評価していただけることが多いです。

もし「将来スポーツの現場に関わりたい」「指導できる相手や内容をもっと広げたい」という目標を持っているなら、必ずキャリアの助けになると思います。

── 最後に、これから公認スポーツ栄養士を目指す方に向けて、アドバイスをお願いします。

「競技そのものに深く興味を持つこと」を大事にしてください。栄養学、生化学といった基礎知識がすべての基本ですが、理論だけでは現場で通用しません。例えばラグビーの練習を4時間しますと聞いたとき、実際にどれくらいの運動強度で、どれくらい体がぶつかり合い、どれくらい消耗するのか。それを肌感覚として知らなければ、本当に必要な食事量は計算できません。

現場に出向き試合を見る、練習をひたすら観察して、だからこういう体づくりが必要なんだ、ということを理解することが本当に大切です。コーチやトレーナー、そして時には選手の保護者とも連携しながら、選手の最高のパフォーマンスに貢献するという気持ちを忘れずにいれば、きっと信頼される栄養士になれると思います。

リケラボ編集部より

食を通じて人々の健康に貢献する栄養士は、人気の職種の一つですが、専門性が高い証である管理栄養士のさらに上の専門性として、スポーツ管理栄養士が位置付けられていることを今回初めて知りました。膨大なアスリートの検体解析を基にしたエビデンスのある商品を通じて、一人ひとりのニーズに向き合う姿勢は、まさにプロフェッショナルそのものです。

マーケティング活動やコミュニティ活動など、様々な手法を通じて知識を社会に還元していくことも栄養士の一つの在り方なのだとよくわかりました。

AuB株式会社さま、清水さん、貴重なお話をありがとうございました。

※所属や肩書などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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