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絶対零度を求めてみた!│ヘルドクターくられの1万円実験室
科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第54回目のお題は「絶対零度」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
☆
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は絶対零度について実験をしてみたいと思います。普段あまり意識することのない絶対零度ですが、高校化学で習う、ある原理を応用することで簡単にその値を見積もることができるのです。今回は、絶対零度の測定について実験をしながら考えてみましょう。
絶対零度とは
絶対零度とは、これ以上温度を下げられない限界の温度と説明されることが多いですが、なぜ温度に限界があるのかについて理解するためは、温度という概念について知る必要があります。温度の定義は非常に複雑であるため、全てを解説するのは難しいのですが、ざっくり捉えると「温度とは物質の振動の度合い」です。温度が高いほど振動が激しくなるようなモデルを考えて頂くと良いかと思います。この振動は、温度を低下させることで徐々に小さくなり、いずれ完全に停止します。この、熱による物質の振動が停止する温度を絶対零度と呼んでいます。
私たちが普段用いている温度である摂氏(℃)や華氏(°F)は、水の状態変化を基準とした温度です。たとえば摂氏0℃は、水が氷になる温度を基準にしたものです。一方、絶対零度は水の状態変化ではなく、物質の熱運動がこれ以上小さくならない限界を基準にした温度です。この温度を表す単位を「ケルビン」といい、記号はKで表されます。同じ「0」でも、摂氏0℃は日常的な水の状態変化をもとにした基準であり、絶対零度の0Kは温度そのものの下限に基づく基準です。
絶対零度を求める手段
絶対零度まで物質を冷却することができれば、その温度を測定して絶対零度を求めることができそうです。しかし、まだ完全な絶対零度は達成されていません。身近にある最も低温の物質は、病院のMRIに使われている液体ヘリウムです。ヘリウムの沸点は全物質の中で最も低く、-268.9℃、約4.2Kです。これ以上の低温を実現するには相当特殊な設備が必要で、ドイツの研究室では、約-273.149999999962℃(38ピコケルビン。ピコとは一兆分の一を表す接頭辞)まで温度を下げることに成功しました。これが現在の人類の最低到達温度の記録となっています。絶対零度は現在は理論計算によって求められた値を採用していますが、かつては色々な測定法が試みられてきました。今回は中でも有名なシャルルの法則を用いた方法で測定してみたいと思います。
シャルルの法則
シャルルの法則とは、気体に関する法則でボイルの法則やボイル・シャルルの法則とともに高校化学でも習う有名な法則です。シャルルの法則とは、気体の圧力・温度・体積の関係を表したもので、一般的には一定圧力のもとでは、気体の体積は温度に比例するというものです。つまり、圧力を一定に保つことができれば、気体の体積は温度に比例するという法則です。従って、一定圧力における各温度の気体の体積を測定することでグラフの傾きを得て、この傾きを延長し、体積が0となる温度が絶対零度であると言えるわけです。(実際には色々な誤差を含みますがその点については後述します)
気体の体積の測定
圧力を一定に保ちつつ、温度ごとの気体の体積変化を測定するのはなかなか難しい作業です。しかし、完璧な値を得ることは難しくても、近似値を得ることなら比較的簡単です。今回は、瓶とガラス製注射器を接続して体積の測定を行ってみたいと思います。
実験
1 穴あきゴム栓にガラスL字管と温度計を差し込む。この実験は密閉が肝なので、ゴム栓は径が瓶の口と完全に一致するものを使用することが重要。どうしても緩い場合には、水道管用の防水シールテープなどをゴム栓に巻いて隙間ができないようにし、完全密閉する。これを500mLのフラスコまたは市販細口瓶に取り付ける
2 ガラス瓶をお湯に漬け込み20分放置する
3 L字管に注射器を最大目盛りまで空気を入れた状態で接続する
4 容器をお湯から引き上げ、温度が1℃下がるごとに注射器のメモリを記録する(記録は注射器内の空気がなくなるまでか、10℃下がるまで続ける)
5 装置全体の重さを測定し、その後装置を水で満たし重さを測定する
この実験では、内部温度がおおよそ50℃程度からスタートするのが良いです。実際には温度計が55℃程度を示したらお湯から上げて、表面を拭き取ります。常温に放置して温度が50℃まで下がったら注射器を接続するとより誤差を少なくすることができます。この方法で実験を行ってみると、結果は…
▼実験1
このグラフは、縦軸に注射器の目盛(空気量)、横軸に温度計の示した温度をとって記録をプロットしたものです。なんとなく温度と空気量は関係しているようですが、残念ながら綺麗な比例とはなりませんでした。その最も大きな原因は、注射器の抵抗にあります。注射器は大気圧とフラスコ内の圧力の差によって押し込まれることで移動します。しかし、摩擦による抵抗があるので、ある程度の圧力差が無ければ動きません。そこで、注射器とフラスコの間にT字の管を取り付け、その先端を水に浸す方法を考えてみました。
フラスコ内の圧力と大気圧が完全に釣り合っていれば、チューブ内の水位はフラスコ内の水面と同じ高さになるはずです。
水の移動抵抗は注射器の抵抗に比べてずっと小さいので、より精度の高い実験が行えるはずです。実験の方法は基本的に同じですが、注射器は手で押し込みます。
押し込みの度合いはチューブの水面の高さをみながら調節します。この改良法による測定の結果は…
▼実験2(改良後)
グラフの軸は先ほどと同じです。かなりキレイな比例関係が見て取れます。しかし、若干のばらつきがあります。これは人力で調整している以上避けられない誤差だと思われます。通常、こうしたばらつきのあるデータからグラフの傾きを見る場合には最小二乗法などの計算による平均化を行う必要があります。しかし、計算が複雑になってしまうので、今回は平均値を見ることにしましょう。例えば、今回の測定結果を数字で表すと…
| 温度 | 注射器の目盛 |
|---|---|
| 50 | 20 |
| 49 | 18.5 |
| 48 | 16 |
| 47 | 13.8 |
| 46 | 12.1 |
| 45 | 9.6 |
| 44 | 7.9 |
| 43 | 6.3 |
| 42 | 4.1 |
| 41 | 1.9 |
| 40 | 0 |
となりました。ここで、50℃→49℃の1℃の温度変化で20mL→18.5mLになっているので、その差は1.5mLということになります。49℃→48℃の場合の変化は18.5-16=2.5mLです。このように温度ごとの差を求め、その平均を求めてみると、今回の場合2.0となりました。つまり、今回の実験での平均的な体積変化は、1℃あたり2mLであることが分かったのです。では、2mL/℃の傾きで比例グラフ(赤)を作り重ねると…
▼理論値との比較(赤線:理論値、青線:実験値)
見事にほぼ一致していることが分かります。この結果から、この実験においては、グラフの傾きは2mL/℃であるとして問題なさそうです。
いよいよ絶対零度の計算
それでは、いよいよ絶対零度の計算を行いたいと思います。そのためには、装置全体の体積を知らなくてはなりません。実験の最後で、装置の重さと満水にした時の重さを測定しました。今回の場合、装置が216.0g、これに注水し満水にした時の重さが834.5gでした。この差(618.5g)が水の重さです。今回は水の比重を1として、装置の体積はそのまま618.5mLとして問題ないでしょう。ここに注射器(今回20mL)を接続したので、618.5+20.0=638.5mLが装置全体の体積です(実際には連結管やT字管の体積は含まれていませんが、全体の体積に比べて十分に小さいので今回は考慮しないことにしましょう)。
シャルルの法則では、気体の温度と体積が比例関係にあるので、今回求めた傾き(2mL/℃)で638.5mLの気体の体積が0となる温度を求めれば良いわけです。グラフを延長しても良いですが、これは単純な割り算で計算できます。
638.5÷2=319.25
この結果から、1℃あたり2mL体積が縮む場合、装置全体の空気の体積が0になるには、319.25℃の温度低下が必要だと分かりました。今回は50℃から測定を始めたので、50℃からこの値を差し引き
50-319.25=-269.25
-269.25℃が絶対零度であると予測できるのです。実際の絶対零度は−273.15℃なので、その差は僅か3.9℃です。これは、かなりの精度で絶対零度を求められたと言って良いのではないでしょうか。
誤差の原因について
この3.9℃の誤差の原因は色々なものの合計です。例えば、温度が全体で均一ではなかったり、体積の測定精度が低いなども大きな誤差原因でしょう。しかし、もしこれらの誤差を限りなく減らせても残念ながら精密な絶対零度の測定はできません。それは、シャルルの法則は、理想気体を基準にしているからです。理想気体とは、計算を簡略化するために理想的に振る舞うと仮定した想像上の気体で、空気や酸素、窒素などの実在気体のもつ性質を無視しています。実際の気体は冷却すると液体や固体になり体積は0にはなりません。また、完全に比例するわけではなく、温度ごとにグラフの傾きは僅かに異なります。また、今回は通常の空気を使用しましたが、これは色々な気体の混合物であり、また水蒸気などを含んでいることから、より誤差が大きくなってしまったのです。(これらの誤差は測定誤差に比べれば小さいです)
実験を行う際には、できる限り慎重かつ精密な測定を行い、器具は完全に乾燥したものを用います。水滴などがある瓶を用いるとかなり大きな誤差を生じてしまいます。
実験にかかった費用
・フラスコ 2,000円程度
・ゴム栓 500円程度
・温度計 500円程度
・L字管 200円程度
・ガラス製注射器 2,000円程度
・シールテープ 100円程度
・キッチンスケール 2,000円程度
・チューブ(魚用) 100円程度
・T字管 200円程度
L字管は、ガラス管を加工して自作することも可能です。詳しくはアンモニア噴水の記事を参考にしてください。
画像はすべてレイユール氏提供
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レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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