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光で物質を分析する -吸光光度計を自作してみよう│ヘルドクターくられの1万円実験室
科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第48回目のお題は「吸光分析」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は光と化学を組み合わせた分析について色々と実験していこうと思います。
ちょっとした工夫でハイレベルな分析ができてしまったりするのです。まずは吸光分析について仕組みからご説明します。
分析化学
物質を分析する化学分野は特に「分析化学」と呼ばれていて、各種物性の測定や定性、定量分析などを行います。これまでも、中和滴定など分析化学の範囲に属する実験を紹介してきました。
物質の分析には大きく2種類があります。一つは「定性分析」です。この分析は、含まれる成分などを明らかにする分析です。もう一つは「定量分析」です。こちらは、何がどのくらい含まれているかという数値を得るための分析です。現代化学では、定性分析を行った後に、定量的な分析をすることはあまり多くなく、最初から定量分析のみを行うのが一般的になっています。これは、優れた分析機器が発達したことにより、機械にかけることで比較的容易に定量分析が行えるようになったためです。しかし、これら定量分析の多くは機械に頼っているため、家で定量的な分析を行うのは極めて困難なのです。そこで、一つの方法として、中和滴定を紹介しました。滴定は比較的精度の高い定量分析が比較的容易に行える非常に便利なツールです。しかし一方で、定量できる物質の種類は限られています。
吸光分析と分光分析
滴定と並んで重要な定量分析法に、分光分析や吸光分析があります。これらは試料の溶液に光を通過させ、どのくらい光を吸収したかを調べる方法です。例えば、ある赤い物質があったとして、その溶液に青い光(赤色物質が吸収する光)を透過させると、赤い物質が青い光を吸収し、透過光は光源の光よりも弱くなります。どのくらい弱くなったかをセンサーで数値化すれば濃度を逆算することができるのです。
このように、ある一定の波長の光を当ててその吸光度(どのくらいの光を吸収したか)を測定する方法を「吸光分析」と呼びます。しかし、どの波長の光を吸収するかは物質によって異なるので、光源からの光を分光して色々な波長の光で吸光度を測定するのが「分光分析」です。多くの実験室では吸光光度計より汎用性の高い測定器である分光光度計と呼ばれる装置を使っています。分光光度計は非常に高価な分析装置であり、安いものでも数十万円、ハイエンドモデルになればそれこそ高級車が買えるほどの金額になる場合もあります。今回は、これら専用装置の精度には及ばないものの、1万円以内という安価に同じ原理で定量的な分析を行うことを目標にしたいと思います。
分光器と光電子増倍管の代用
分光光度計が高価な理由として、光源から精度の高い単波長光を取り出すための分光装置、そして、光の強さを精度よく測定するための光電子増倍管という特殊な真空管を使っていることが挙げられます。これらをもう少し精度が落ちても安価なものに代用する手段を考えたいと思います。分光装置については、自作はほとんど困難に近いので、これは諦めてLEDを使います。LEDは半導体の成分によって特定の波長の光を出します。どの波長の光を出すかはLEDのデータシートに記載があるはずです。
つまり、測定したい物質の吸収極大波長(最も吸収する光)に近い波長のLEDを使えば似たようなことができるはずです(これは分光ではないので、今回は吸光光度計を作ることになります)。
次に、光電子増倍管の代用を考えます。光を検出するセンサーは各種存在していて、現代ではフォトダイオードやフォトトランジスタと呼ばれる部品がよく利用されています。精度は光電子増倍管には及ばないものの、値段は比べ物にならないほど安く済みます。ただ、これらの素子を使うためには、素子から出る信号を数値に変換するための何らかの回路と測定器が必要になります。これを考えると1万円以内で収めるのは難しいかもしれません。そこで、最も古典的な測光素子である「CdSセンサー」を使いましょう。
これは、光の強さに応じて抵抗値が変化する素子です。抵抗値であればマルチメーター(テスター)と繋げるだけで抵抗値という数値として光の強さを定量化することができるのです。
実際の工作
それでは、実際に簡易的な吸光光度計を作ってみましょう。行なうことは非常に単純です。厚紙で箱を作り、その両端にLEDとCdS素子を取り付け、その間にガラス瓶を設置するような装置を組みます。すると、LEDから出た光はガラス瓶の中の液体を透過し、CdS素子へと届きます。こうすることで、簡易的に吸光度を測定することができるのです。それでは、詳しい作り方について見ていきましょう。
1. 展開図を書く
工作用の厚紙(マス目があると良い)に箱の展開図を書きます。箱の大きさは使用する瓶などに合わせて自由に決めて良いのですが、今回は高さ2cm、奥行き3cm、幅4cmの長方形にしました。
2. 切り抜き
作図した展開図に合わせて紙を切り抜きます。ハサミでも良いですが、カッターなどで精密に切ると最終的な仕上がりが美しくなります。
3. 穴あけ
ガラス瓶を入れる穴を開けます。LEDの長さは1cmほどあるので、中心より少しずらして、円が箱の側面から1cm以上離れるようにして穴を開けます。今回は外径24mmの瓶を使うので、24.5mmの穴を開けることにします。コンパスなどで円を書いてカッターでくり抜いても良いですが、もし準備できるならサークルカッターを使うと良いでしょう。この円がゆるすぎると後で測定値が不安定になります。
4. 部品の取り付け
側面に針などで穴を開けてLEDとCdSを通します。側面の中心部分に部品が来るように配置しましょう。
5. 組み立て
全体をガムテープなどの強い粘着テープで包んで丈夫な箱を組み立てます。隙間から光が入らないようにできるだけ密着させて丁寧に組み立てましょう。
6. 配線
CdS素子は極性はないので、そのままテスターへ繋ぎます。LEDは極性があり、抵抗が必要です。LEDは足が長い方が+側です。またLEDは電流が大きすぎると壊れてしまうため、流れる電流を制限する抵抗を儲ける必要があります。今回使用したLEDは電圧2.8−3.6V、電流は最大で80mAまでなので、3V、75mAに設定したいです。オームの法則から必要な抵抗は40Ωと分かります。実際に試してみたところ、今回の条件では直接3Vの電池に繋いでも壊れなかったので、抵抗は省略しても大丈夫そうでした。電源を入れると緑色のLEDが点灯します。
測定してみる
装置が完成したので、測定を行ってみます。まずは基準値を求めるために、ガラス瓶に水を10ml入れて装置にセットします。LEDを点灯して抵抗を読みます。すると1016Ωでした。この値を基準として測定をしていきます。
では次に、色素液を準備します。ガラス瓶に20ml程度の水を入れ、ここに耳かき1杯ほどの赤色食紅を溶かして色素液(原液)を作ります。この液体をスポイトで0.5,1,1.5,2mlずつ容器に取り、それぞれ20mlになるように水を加えます。すると、濃度の異なる4種類の色素液が完成します。
ガラス瓶に入っているそれぞれの液をとって抵抗値を読み取ります。すると、以下のようになりました。
0.5ml=1097Ω
1.0ml=1185Ω
1.5ml=1274Ω
2.0ml=1354Ω
それぞれの値から基準である1016Ωを引きます。すると、瓶や水の吸収する分が差し引かれるので、残った数値は色素による吸収分ということになります。 この数値をグラフにしてみると、ほとんど比例の関係にあることがわかります。このように濃度既知の液体を数種類測定して作る基準となるグラフを検量線といいます。
このグラフに比例のグラフを重ねてみるとほとんど一致しています。
つまり、かなり精度が高く、信頼性の高い結果であることが分かります。おおよそ85Ωずつ値が大きくなるようです。これは、20mlあたり0.5mlの色素液が85Ω分光を吸収しているということなので、1mlあたり170Ωということが分かります。
では、次に、ある濃度の色素液を測定してみたところ、そのままでは検量線の上限(Max 1354Ω)を超える値となったため、検量線の範囲内に収まるよう適切に希釈してから測定しました。
その結果、(希釈後の)測定値は1441Ωで、基準を差し引くと425Ωです。これを170Ωで割ると2.5となります。
つまり、この色素液は、20 ml あたり色素液(原液)2.5 ml が含まれていることが分かります。
このように、通常、検量線は濃度と比例関係にあるため、検量線の範囲内で測定した値を用いれば、濃度未知の液体でも濃度を正確に求めることができます。
日常での活用法
原理的に、この装置で色素の濃さを比較的正確に定量することができることが分かりました。では、この装置はどのような用途で使うことができるでしょうか?
一例として、水質検査があります。水道水に含まれる塩素の量を定量できたら面白いと思いませんか。DPD試薬という残留塩素試薬が売られているのですが、これは塩素濃度によって発色の濃さが決まります。漂白剤を精製水で希釈して基準液を作り、これにDPD試薬を加えて発色させ検量線を作ります。次に、水道水を発色させ測定すると、検量線の傾きから濃度を推定することができます。
市販されている試薬は定性的な分析しかできませんが、この装置と組み合わせることで精度の高い定量的な分析が行えるので、興味があったらぜひ試してみてください。
実験にかかった費用
・厚紙 100円程度
・CdS素子 100円程度
・LED素子 500円程度
・テープ 100円程度
・サンプル瓶 500円程度
・カッターナイフ 500円程度
・カッターマット 100円程度
・サークルカッター 2,000円程度
・定規 500円程度
・まち針 10円以下
・テスター 1,000円程度から各種あり
・電池 200円程度
・電池ボックス 200円程度
・配線・ワニグチクリップ 500円程度
・抵抗 10円以下
掲載写真は全てレイユール氏提供
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レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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