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食物連鎖の実験をしてみた│ヘルドクターくられの1万円実験室
科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第52回目のお題は「食物連鎖」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
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皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は食物連鎖について実験をしてみようと思います。食物連鎖は実は化学や元素と非常に深い関わりを持っているのです。今回は、そんな食物連鎖の化学の部分に着目した実験を紹介しましょう。
食物連鎖とは
食物連鎖とは生態系において、生物の食べる・食べられるという摂理の連鎖のことを指します。あらゆる生物は何かを食べ(吸収し)て生きています。ある生き物が他の生き物を食べ、その生き物をまた別の生き物が食べるという連鎖によってこの豊かな生態系は維持されています。食物連鎖には出発点があり、他の生物を食べない生物であるバクテリアや植物から始まり、最終的に頂点捕食者(トッププレデター)と呼ばれる生物にまでその栄養が伝達されます。頂点捕食者は、それ以上の捕食者のいない食物連鎖の頂点に位置する生物です。陸上生物であれば我々人間もトッププレデターと言えるでしょう。海洋生物であればシャチやホホジロザメなどがトッププレデターに当たります。
物質循環で見る食物連鎖
化学の世界には質量保存の法則と呼ばれる絶対的な法則があります。これは核反応を除く通常の化学反応では、質量は不変的存在であるというものです。これを解釈すると、元素は化学反応により消滅または他の元素へ変化することはないという意味になります。ここで一つの疑問が生まれます。例えば、毎年私たち人間は海から大量の海産物を水揚げして食べています。その重さは年間で一人当たり20kgを超えると推定されています。全人口を80億人と考えれば1.6億トンを超える計算です。これだけの海産物を海から獲っていて海の中の生物は減らないのでしょうか。実際には絶滅してしまった種類などもいますが、毎年1.6億トンもの生物が海から減っているというわけではありません。これはどういうことなのでしょうか。
この不思議な現象を化学的に考察すると、私たちが水揚げした海産物は私たちに食べられた後、人体の組織や排泄物などに姿を変えます。排泄物は浄化処理を行った後に海へと放流されています。つまり、姿は変わりましたが、そこに含まれる元素は再び大気中にガスとして放出されたり、川の流れによって海へと帰っているのです。私たちの体も同じく、人が亡くなり火葬や土葬されることで元素はバラバラとなり再び自然の物質循環の中へと組み込まれていくのです。この説明は、わかりやすくするために細かな要素は省いていますが、元素は姿形を変えて地球全体を循環するということには変わりありません。
食物連鎖を再現する
それでは、ここからは実験的に食物連鎖を再現する方法について考えてみたいと思います。食物連鎖はバクテリアからスタートしますが、ここを再現するのは非常に難しいため、バクテリアの生産する無機イオンを薬品として添加することでこの問題を解決したいと思います。具体的には、化学肥料など極めて少量の無機物を加えた水でクロレラの仲間(微細な藻)を培養します。次に、この藻を小型の甲殻類に食べさせます。最後にこの甲殻類を魚などに与えて食物連鎖を再現するという流れです。魚を飼うのは設備が必要なので、再現される際には、甲殻類の段階で止めて、これを飼育するのも良いでしょう。大きく成長させると勝手に繁殖することもあり、一風変わったペットとしても楽しめます。
クロレラの培養
今回は海水(塩水)を使って実験を行います。まずは、海に生息しているクロレラの仲間であるナンノクロロプシスと呼ばれる生物を培養します。
培養に使う海水には、塩分、窒素、リン、鉄、微量元素が必要です。海の塩分には非常に多くの成分を含みますが、ナンノクロロプシスはそのほとんどの成分を利用していないため、同じくらいの濃度の塩水でも問題なく成長します。ナンノクロロプシスは、熱帯魚用の餌を育てるための餌として通販サイトなどで入手可能です。海産クロレラなどの名称で販売されています。
今回は、水産養殖の現場で広く採用されている屋島培地を身近な材料で再現したレシピを用いることにします。培地約1リットル当たりの配合は以下のとおりです。
硫安(硫酸アンモニウム) 80mg
過リン酸石灰(過石) 15mg
微量要素エイト 5mg
食塩 20g
水 1リットル
本来は微量元素としては、水産用微量元素添加剤が使われますが、一般に流通していないので農業用の微量元素添加剤で代用しました。水としては浄水器を通した水か、ミネラルウォーターを使ってください。水道水では塩素の影響で死滅する可能性があります。
「微量要素エイト」(ナンノクロロプシスが必要とする微量元素を含む肥料) 微量元素の添加剤として用いた農業用肥料。水産用微量元素添加剤に近い成分が配合されている。農業用資材であるため取り扱っている店舗は多くないが、通販であれば容易に入手できる。
培地に含まれる肥料や微量元素は非常に少ないので、硫安は8g、過石は1.5g、微量要素エイト は0.5gを水100mLに溶解しておきます。微量要素や過石は完全には溶解しないので、一晩置いてからよく振って濁った状態で使います。
これらの溶液1mL中には培地1リットル相当の成分を含んでいるので、各1mLと食塩20gを1リットルの水に溶解すれば培地が完成します。培地を作ったら薄く緑色になる程度(種となるナンノクロロプシスの濃度による)ナンノクロロプシスを加えます。1日数回振り混ぜるか、金魚ポンプで空気をわずかに送って明るい場所に置いておきます。すると数日〜10日ほどでかなり濃い緑色になってくるはずです。これはナンノクロロプシスが分裂によって増殖したためです。
甲殻類を育てる
このナンノクロロプシスを飼料に甲殻類の一種であるアルテミアを育てます。アルテミアはブラインシュリンプとも呼ばれ、稚魚に与える生き餌として非常に有名です。これも海水(実際には汽水域に生息)に暮らす生物です。この生物の卵は耐久卵と呼ばれ、乾燥に強い性質があります。これを孵化させてナンノクロロプシスを食べさせます。
アルテミアの孵化には、水流と酸素、温度が必要です。適当なガラス容器に20g/Lの食塩水(水は塩素を含まないもの)を150mL程度注ぎ、ここに耐久卵を耳かき3杯ほど加えてよく混ぜます。
金魚ポンプで卵が均一に混ざる程度の水流を与えて、25℃程度の室内で24時間培養します。真っ暗な場所では孵化しにくいので、日常生活が行える程度の明るい室内で管理しましょう。水温は20〜30℃程度まで耐えますが、理想的には25〜28℃程度のやや暖かい場所に置くと早く孵化します。
孵化すると、卵殻(茶色い粒で水に浮く)と幼生(オレンジ色で水中を泳ぐ)、未孵化卵(茶色い粒で水に沈む)に分離するので、できるだけ卵殻や未孵化卵が入らないようにスポイトなどで幼生を別の新鮮な食塩水の入った瓶に移します。通気を続けながら1日培養後に、ナンノクロロプシス培養液を1日数滴与えます。約50日ほどで成体へと成長します。観賞魚用の餌とする場合にはナンノクロロプシスを1日食べさせてすぐに与えることができます。
餌として与える
淡水魚・海水魚を飼育している場合にはこのアルテミアの幼生を餌として与えることができます。(本来アルテミアは餌として与える用途で販売されているものです)淡水魚に与える場合には塩分を除くために洗う必要がありますが、海水魚であれば直接与えて問題ありません。
実験を考察する
この実験では、アルテミアを魚に食べさせれば3段階の食物連鎖を見ることができます。第一は、ナンノクロロプシスが無機栄養を取り込んで様々な有機化合物(栄養素)を合成することから始まります。窒素、リン、微量元素などの肥料と二酸化炭素、光を吸収して非常に多くの栄養を合成します。単純な無機化合物から非常に多くの栄養を合成できるのは植物の優れた光合成システムによるものです。人間の技術(化学的技術)で同様の作業を行うことはまだできません。次に、この栄養を豊富に含むナンノクロロプシスをアルテミアが食べます。幼生のアルテミアは排泄をしないため、ナンノクロロプシスの栄養素を100%保持している状態です。一部はアルテミアの体内でタンパク質のようなより複雑で重要な栄養素へと変化します。これを魚に与えることで魚は元気に暮らすことができます。今回実験に用いた魚は観賞魚ですが、水産養殖現場では食用魚をこの方法で育て(アルテミアは高価なので与えるのは稚魚のうちだけ)私たちはそれをまた食べるのです。この一連の流れを見てみると、窒素、リン、微量元素、二酸化炭素というとても人間が食べられないような物質から出発して食卓に並ぶ魚まで変化するのです。実際の生態系では、魚の排泄物や死骸はバクテリアにより分解されて窒素やリンとして海水中に溶け込み再び生物に取り込まれて循環します。
実験にかかった費用
・ナンノクロロプシス 1,500円程度
・アルテミア卵 500円程度
・食塩 100円程度
・硫安 500円程度
・過石 500円程度
・微量元素 1,000円程度
・ミネラルウォーター 200円程度
・スポイト 100円程度
・エアポンプ 1,500円程度
画像はすべてレイユール氏提供
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レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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