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刑事ドラマで見た「硝煙反応」を花火で再現してみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

刑事ドラマで見た「硝煙反応」を花火で再現してみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第50回目のお題は「硝煙反応」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!

皆さんこんにちは。レイユールです。
今回はよく刑事ドラマなどで見る「硝煙反応」について紹介したいと思います。硝煙反応の原理や、その簡易的な再現実験について見ていきましょう。

硝煙反応とは

硝煙反応とは、銃などの火薬を用いた武器などを使用した犯罪の捜査で鑑識が行う火薬の痕跡を検出する反応です。銃などを発砲すると薬莢内部の火薬が燃焼し、その際に発生する燃焼ガスの圧力により弾頭(弾丸)を加速し射出します。

弾薬(模型)実際の弾薬と同じスケールで作られた模型。金色部分が薬莢、銅色部分が弾頭

その際に、火薬の燃えカスである火薬残渣が周囲に飛散し、武器を使用した人物の衣服や手に付着します。これを検出することで、銃器を使用した場所や使用した人物を特定しようとするものです。現在は精度などの問題から簡易的なテスト程度の位置づけだと思われますが、その仕組みは化学的に面白いため、今回は火薬として花火を用いて、似た反応を実験的に確かめてみたいと思います。

銃の火薬

さて、銃に使用されている火薬はどのようなものでしょうか。かつては黒色火薬と呼ばれる硝酸塩、炭素、硫黄などを主成分とした古典的火薬が使用されていました(火縄銃など)。

現在は、より高性能かつ、残渣発生量の少ない無煙火薬が用いられています。無煙火薬はニトロセルロース(綿火薬)などを主成分とするもので、黒色火薬よりも残渣、白煙の発生量が少ないとされています。これら火薬には、いずれも硝酸やニトロ化合物が含まれています。理想的に燃焼した場合、黒色火薬の硝酸塩は、窒素に分解されますが一部はそこまで反応が進行せず、亜硝酸、硝酸(イオン)の形で残渣に含まれます。ニトロセルロースを主成分とする無煙火薬についても、ニトロ基部分が亜硝酸、硝酸イオンの状態で残る可能性があります。火薬の燃焼にかかわる物質や燃焼条件が極めて複雑なため、単純な化学式で表すことはできませんが、完全に理想的に反応するわけではないので、残渣に亜硝酸、硝酸イオンを含むことになるのです。

火薬の参考イメージ(本実験で使用したものではありません)
出典:Shutterstock

亜硝酸・硝酸の検出

亜硝酸イオンや硝酸イオンを検出することができれば、火薬使用の痕跡を判断できることが分かりました。(実際には、環境中にもこれらのイオンは存在するため硝煙反応陽性がすぐに銃器使用を確定するものではありません)実際の硝煙反応にはジフェニルアミンと呼ばれる成分が利用されています。ジフェニルアミンの濃硫酸溶液は亜硝酸イオンや硝酸イオンと反応して青色を呈する性質があるため、視覚的にこれらのイオンの存在を知らせてくれるのです。しかし、ジフェニルアミンや濃硫酸を準備することは難しいと思われるので、今回は海水魚飼育用に販売されている亜硝酸・硝酸イオン検出試薬を用いることにします。

アクアリウム用硝酸塩試薬 数種類の試薬を手順通りに混合することで硝酸塩や亜硝酸塩を含む溶液を発色させることができる

アクアリウム用試薬

水槽で海水魚や熱帯魚を飼育する場合には、餌などのタンパク質が分解されアンモニアが発生します。このアンモニアは魚には猛毒なので、生物濾過(濾過フィルター)によって亜硝酸、硝酸へと酸化させます。その詳細は本筋とはズレるので、ここでは割愛しますが、アクアリウムでは水換えの指標として、亜硝酸や硝酸イオンの濃度を定量する必要があります。そこで、アクアリウム用品を販売している会社では、これらを簡易的に測定するキットを販売している場合があるのです。これらは全てグリース・ロミインと呼ばれる試薬が用いられています。これらの試薬には、ナフチルアミンとスルファニル酸が含まれていて、これを亜硝酸イオンを含む水に加えると、スルファニル酸と亜硝酸が反応し、ジアゾ化と呼ばれる反応が発生します。ジアゾ化されたスルファニル酸はナフチルアミンとカップリング反応を起こし、赤紫色の色素を生成します。この反応では、亜硝酸の量に応じた色素が生成されるため、溶液中の亜硝酸濃度を色の濃さとして知ることができます。また、これらの試薬に亜鉛粉末を加えると、硝酸イオンも亜硝酸イオンに還元されるため、いずれも検出することができるようになるのです。これは、手順は異なりますが、結果として硝酸・亜硝酸を検出できるので、ジフェニルアミンを用いた反応と同じ目的に使用することができるのです。

硝煙(火薬残渣)の準備

実験に用いるため、硝煙を用意する必要があります。しかし、当然銃を撃つというわけにはいかないので、今回は同じ火薬製品である手持ち花火を使います。
マッチの頭薬も一種の火薬ではありますが、こちらには塩素酸塩系酸化剤が用いられているので今回の実験には使用できないことには注意してください。

花火 今回は扱いやすい手持ち花火を使用する

マッチ。マッチの頭薬には硝酸塩系酸化剤は含まれていない

花火には様々な種類の火薬が用いられていますが、硝酸塩を含む製品もあります。これを燃焼させて硝煙(のようなもの)を得るのです。なお、花火の分解は法令により禁止されているので、花火本体に改造を施すことは絶対に控えてください。

注意:花火を使用するときは、説明書の注意事項を守り、安全と周囲への配慮をお願いします。

今回は2種類の方法で硝煙を集めようと思います。

方法1

1 花火を燃やす
特段特殊な方法を用いる必要はなく、花火を通常通り燃焼させる

燃焼する花火 安全に注意して着火します

2 水に入れる
燃焼が終わり鎮火したら少量の水(水道水でよいが可能であれば精製水)に浸して完全に消火する。この水が硝煙を含む試験水となる

水に浸す 燃焼後に水に浸すことで火薬に含まれていた成分が水に溶け込む。右は後述する方法で採取された硝煙(のようなもの)

3 濾過
消火に用いた水には灰や燃えカスが含まれているので、コーヒーフィルターなどで濾過する

濾過の様子 今回は実験用濾紙を用いたが、キッチンペーパーやコーヒーフィルターで十分

濾液 濾過を終えた溶液はほとんど透明となった

この濾過した溶液には、微量の硝酸塩などを含んでいるはずです。花火の種類ごとに使われている酸化剤が異なるので、数種類用意しておくと良いでしょう。

方法2

1 花火を燃やす
通常通り花火に点火する

燃焼する花火 同様の花火を用いた。炎の色が異なるのはタイミングにより色が変化するため

2 水に吸収させる
花火の炎を水に当てて硝煙を水に吸収させる

水面に炎を当てて硝煙(のようなもの)を吸収させる

3 濾過
方法1同様に濾過する

硝煙反応の実験

試験水が得られたら、あとは海水魚用硝酸塩キットの手順に従って発色させます。ブランク(空試験)として、水道水(可能であれば精製水。本試験で用いた水と同じ水を用いること)でも同じように発色を行います。
今回使用した試薬には、亜硝酸試験用試薬、硝酸試験用試薬の2種類があったので、両方検出できる硝酸試験用試薬のほうで発色を行いました。

結果、水道水は無色、花火を浸した水は薄いながらも発色が確認でき、水面に炎を当てた試験水のほうは明確な発色は見られませんでした。

結果1。発色の結果、花火を浸した水(左)は発色したが、水面に炎を当てた水(右)は発色しなかった

結果2。花火を浸した水(左)と水道水(ブランク)(右)の見比べ。水道水側は発色していないので、本試験の発色は花火由来であることが確認できた。

グリース・ロミイン試薬は残念ながらジフェニルアミンほどの感度はないようです。しかし、視覚的に検出できなくても、以前に紹介した簡易吸光光度計などを用いることで検出は可能です。

光で物質を分析する -吸光光度計を自作してみよう│ヘルドクターくられの1万円実験室

実験にかかった費用

・花火セット 2,000円前後
・ロウソクなどの着火用火種 100円程度
・精製水 100円程度
・硝酸塩検出キット 5,000円程度
・濾紙 500円程度
・ポリロート 500円前後

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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