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漂白剤から取り出した酸素で金属を燃やしてみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

漂白剤から取り出した酸素で金属を燃やしてみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第49回目のお題は「酸素」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!

皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は漂白剤と酸素について色々と実験してみようと思います。漂白剤というと塩素というイメージがあるかもしれませんが、実は酸素が非常に密接に関わってきます。また、気体として酸素を分離してそれを使って酸素の反応性についても実験をしてみたいと思います。

漂白剤とは

漂白剤は非常に馴染み深い薬剤の一種なので、いまさらその働きについて説明するまでもないと思います。最もポピュラーな漂白剤は次亜塩素酸ナトリウムを主成分としたいわゆる塩素系と呼ばれるものです。次亜塩素酸ナトリウムは食塩水に電気を流すことで容易に合成できる物質なので工業的に生産しやすく、漂白力や殺菌力が非常に高いという便利な物質です。しかし、有機物と反応するとTHM(トリハロメタン類)などの人体に対して毒性のある成分を生成するなどの問題も指摘されていたり、非常に強力な漂白剤であるが故、柄のある布製品に対しては適用できないという問題があります。そこで、そうした問題を解決すべく酸素系漂白剤というものが市販されるようになりました。酸素系漂白剤は過酸化水素のもつ酸化力を漂白に用いるもので、液状の過酸化水素は分解しやすく取り扱いが難しいので、炭酸ナトリウムなどと反応させた過炭酸ナトリウムの形態でよく使用されます。

過炭酸ナトリウム

過という言葉は、化学の世界では酸素が通常より多いことを意味しています。例えば過酸化水素(H2O2)とは、酸化水素(つまり水)に一つ過剰な酸素を持っているため過酸化水素となるわけです。しかし、過炭酸ナトリウムについては少しだけ違い、炭酸(H2CO3)に対して、過炭酸(H2CO4)が存在するわけではなく、炭酸ナトリウム(Na2CO3)と過酸化水素が結合している物質です。つまり化学式は2Na2CO3・3H2O2となります。過炭酸ナトリウムという名称は化学的には正しくなく、化学的には炭酸ナトリウム過酸化水素化物や炭酸ナトリウム過酸化水素付加物などと呼ぶべき物質です。本来、炭酸ナトリウムは水和という現象により水和水(結晶水)と呼ばれる形で水を付加することができます。この水を過酸化水素に置き換えることでこの過炭酸ナトリウムが得られるのです。

過炭酸ナトリウムは水中では炭酸ナトリウムと過酸化水素に分離するため、過酸化水素等価体と考えることができます。漂白はこの過酸化水素の作用により色素を酸化分解して無色の物質や水溶性物質に変換します。また炭酸ナトリウムの水溶液はアルカリ性であり、アルカリは油脂などを水溶性物質に変化させる性質があるため、食器や衣類の漂白には非常に都合がよいわけです。

過炭酸ナトリウムの粉末 漂白剤として純粋なものが販売されている

酸素を取り出す

それでは、次にこの過炭酸ナトリウムから酸素を取り出す方法について考えてみましょう。過酸化水素等価体なので、二酸化マンガンなどの分解触媒を作用させることで酸素を得ることができそうです。しかし、二酸化マンガンは入手が面倒で、且つ、これを下水にそのまま流すわけにはいかないため後始末も面倒です。そこでまた違ったアプローチを考えてみました。過酸化水素は基本的に強力な酸化剤ですが、酸素を遊離しやすい(酸化力が強い)ということは、逆に酸素を酸素の形で手放すことで還元剤としての働きをすることもできるという非常に興味深い性質を持っています。例えば、亜硫酸(硫酸よりも酸素が一つ少ない還元剤)に過酸化水素を反応させると、以下のように過酸化水素は酸化剤として振る舞います。

H2SO3 + H2O2 → H2SO4 + H2O

これは亜硫酸を硫酸に酸化しているので、過酸化水素は酸化剤であると言えるでしょう。一方、過酸化水素よりも強力な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素を反応させるとどうなるでしょうか。

NaClO + H2O2 → NaCl + H2O + O2

自身よりも強力な酸化剤と出会うと、過酸化水素は水素を奪われ酸素となってしまうのです。これは過酸化水素が還元剤として働いていると解釈することができます。

さて、この反応を見てお気づきかと思いますが、過酸化水素を含む酸素系漂白剤に対して、次亜塩素酸ナトリウムなどを含む塩素系漂白剤を作用させることで酸素を得ることができるのです。

「まぜるな危険」について

塩素系漂白剤は取り扱いを間違えると致死性の毒ガスである塩素ガスを放出します。そのため原則として他の種類の漂白剤や洗剤と混合することは禁止されています。これは、主にトイレ用の塩酸などを含む酸性タイプの洗剤と混合してしまうと、塩素ガスが発生するためです。

NaOCl + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2

「まぜるな危険」の表記 酸性タイプとの混合が禁止されている

ラベルをよく確認してみると、酸性タイプとの混合を避けるように記載があります。今回は、酸素系タイプとの混合実験なので、このラベルの注意の限りではありません。但し、漂白能力は失うので、実際に掃除等に使用する際には種別を問わず混合は避け、表示されている用法と用量を遵守しましょう。

今回の配合

今回は、次亜塩素酸塩によって過酸化水素を酸化することで酸素を得るのですが、過炭酸ナトリウムに液体の漂白剤を直接混合すると反応が早すぎて取り扱いが難しいという問題があります。そこで、排水溝のヌメリ取りとして販売されているタブレットタイプの漂白剤に注目してみました。

ヌメリ取り製品の一例 内部にトリクロロイソシアヌル酸を主成分とするタブレットが入っている

この製品はトリクロロイソシアヌル酸をプレスして錠剤のように形成したもので、成分表示にトリクロロイソシアヌル酸以外の添加物が含まれていない純粋なものを選んでください。トリクロロイソシアヌル酸は、シアヌル酸という有機物の水素を塩素で置き換えた化合物です。この化合物は水に溶けると加水分解し、シアヌル酸と次亜塩素酸になります。この次亜塩素酸が過酸化水素と反応します。この反応のメリットは水を加えるまで反応が始まらないことや、トリクロロイソシアヌル酸が水にゆっくりと溶解することから反応速度が上昇しにくく扱いやすいという特徴があります。それでは早速酸素を捕集してみましょう。捕集のためには気体発生装置を用います。これは反応容器とそこから気体を誘導する管を備えた装置であり、今回はドレッシングボトルの出口に熱帯魚のエアレーションに使用するビニールチューブを接続して用いました。

ドレッシングボトル

ドレッシングボトルとチューブの接続

ボトルに過炭酸ナトリウムとトリクロロイソシアヌル酸を入れて最後に少量の水を注いでから蓋をするとチューブの先端から酸素が発生する仕組みです。

酸素を発生させてみる

それでは、ドレッシングボトルに砕いたヌメリ取りと過炭酸ナトリウムを入れましょう。分量は計算によって求めることもできますが、基本的には目分量でおよそ1:1で大丈夫です。但し装入する全量はボトルの1/4以下にしてください。これは泡が発生し、チューブに詰まる事故を防止するためです。次に全体が水没する程度の水を注ぎ、すぐに蓋をしてください。するとチューブの先端から酸素が出てきます。この気体をガラス瓶に水上置換によって捕集します。最初に出てくるガスは容器内の空気を含んでいるので、しばらく経過した後捕集を始めると純度が高い酸素を得ることができます。(今後の実験にはそれほどの純度は必要ないので、最初から捕集しても良い)

水上置換による酸素の捕集

酸素中での燃焼

次に、捕集した酸素の反応性を見てみようと思います。酸素ガスは非常に高い助燃性を持っているので、取り扱いには少し注意が必要です。普通は燃えないようなものでも酸素中では燃焼することがあります。例えば、ドレッシングボトルに繋げたチューブの出口に火が付けば、ドレッシングボトルまで一気に火が走り装置全体が燃えてしまう可能性があるのです。なので、燃焼実験を行う場合には、ガラスや金属など燃えない器具を使うこと、酸素発生装置など酸素を高濃度に含むものは物理的に十分に遠ざけて置くなどしてください。

酸素 酸素は無色無臭の気体で大気中に21%ほど含まれる。但し高濃度の酸素は空気とは違い色々なものの燃焼を促進する

実験は火災などに十分注意し、適切な保護具と消火設備を備えて安全に注意して行いましょう。また、この記事では酸素の反応性を示すためにこのような実験を紹介していますが、再現することは推奨しておりません。

トレーに砂などの不燃性のものを敷いてこの上で実験を行います。まずは蝋燭の燃焼を見てみましょう。空気中では穏やかに燃焼する蝋燭ですが、酸素を捕集した瓶を被せると、非常に明るく輝きながらすぐに燃え尽きます。実際には炎の温度が高くなりすぎてロウが溶けてしまうのです。

乾燥した砂を敷いて延焼を防止する

大気中における蝋燭の燃焼

酸素中における蝋燭の燃焼

蝋燭の状況 ロウが溶けてしまった

次に、木炭を入れてみましょう。バーベキューなどの炭火は、基本的に炎は出ずに炭が赤々と燃えている状態ですが、酸素中では炎を出しながら急速に燃えます。

加熱した木炭 写真では確認しにくいがわずかに赤く燃えている

酸素中での木炭の燃焼 空気中とは違い激しく炎を出して燃えた

さらに金属との反応も見てみましょう。スチールウール(鉄)は空気中でもある程度は燃えますが、反応はすぐに止まってしまいます。一方、酸素中では激しく反応し、溶融して一部が塊になってしまうほどです。このような激しい反応では瓶が割れることもあるので基本的には使い捨てになります。

空気中におけるスチールウールの燃焼 燃えるが空気を送らないとすぐに鎮火する

酸素中におけるスチールウールの燃焼 非常に激しく一瞬で燃え尽きた

急激な加熱により瓶が割れることも 砂を敷いておくと予防できる場合もある

また、空気中では全く燃焼しないステンレスウールも、砂を敷いた酸素瓶に入れ、細く延ばしたスチールウールを導火線として点火すると、なんと燃焼してしまうのです。スチールウールほどではなく途中で反応は停止してしまいますが、空気中では全く燃焼しないことを考えると酸素がいかに反応性の高い気体か分かるでしょう。

ステンレスウールの加熱 空気中ではまったく燃焼する気配はなし

点火の様子

酸素中におけるステンレスウールの燃焼 空気中では燃焼しなくても酸素中であれば燃焼する

燃焼後のステンレスウールと新品の比較

実験にかかった費用

・酸素系漂白剤 500円前後
・ヌメリ取り 500円前後
・ドレッシングボトル 200円前後
・チューブ 500円前後
・ガラス瓶 300円前後(数本用意)
・蝋燭 100円前後
・砂 500円前後
・スチールウール 100円前後
・ステンレスウール 200円前後

掲載写真は全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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