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生物から絵具を作ろう│ヘルドクターくられの1万円実験室

生物から絵具を作ろう│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第42回目のお題は「絵具」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!

皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は色を使った実験を紹介しましょう。誰もが一度は使ったことのある絵具を実際に作り、その仕組みを体験してみませんか。

色のある物質

私たちの身の回りには様々な色が溢れています。色といえば何を思い浮かべるでしょうか。現代は液晶画面などのデジタル処理によって直接色を表現することが増えましたが、色のある物質を活用している場合も多いです。具体的には、絵具やインクなどです。これらは特定の波長の光を吸収してしまうことで、吸収されなかった光が反射してきて私たちは色を認識できるのです。こうした色のある物質はどのように作られているのでしょうか。古くは岩絵具など、色のある鉱物をすり潰したり、色のある植物から煮出したりして色を得ていました。現在は、化学が進歩し、狙った色を石油などの成分から合成することも可能になっています。

染料と顔料

さて、色のある物質は大きく二つに分類することができます。よく印刷機や印刷用紙などで目にする顔料系や染料系といった表示です。これは、色のある物質がどのような性質かによる分類です。顔料とは水や油などの液体に溶けないものをいいます。それに対して染料はこれらに溶解するものです。例えば、絵具は薄めても濁って透明な溶液は得られません。これは絵具の色の素である顔料が水に溶けないためです。それに対し食紅や水性マーカーのインクは水に溶けて透き通った溶液となります。

左:染料溶液(食紅水)と右:顔料分散液(絵具水)

これは色のある物質が水に溶解してしまったためです。このように、基剤(色を溶解・分散させるための溶剤成分)に溶けるものを染料、溶けないものを顔料と呼んでいるのです。それぞれ、メリットとデメリットがあり用途に応じて使い分けされています。

染料の性質
・透明感のある着色ができる
・染み込みやすい
・均一な着色が行える
・色が豊富

顔料の性質
・安定性が高い
・下地が透けにくい
・濃色が表現できる
・表面の質感を表現できる

染料は顔料にすることができる

それぞれメリットとデメリットがありますが、実際に使用する上では顔料の方が都合が良いことが多いです。しかし、古典的な顔料は色数が少ないため染料ほど多くの色を表現することはできません。そこで、染料を顔料にする方法が研究されました。そうして生み出されたものの一つがレーキという技術です。レーキは染料を水や油に溶けない物質に吸収させて顔料としての性質を持たせるもので、具体的には水酸化アルミニウムなどの水や油に溶けない安定した化合物に吸収させることで、色を保持しつつ安定性を上げることができます。

今回は、コチニールという虫からカルミン酸という赤色の染料を抽出し、これをレーキにすることで顔料にして絵具を作りたいと思います。

コチニールの乾燥品

カルミン酸。コチニールから化学的な手段を用いて純粋に精製したもの

実際にレーキを作る

それではいよいよレーキを作りましょう。出発材料はコチニールというカイガラムシの一種です。これは乾燥したものが市販されているので、準備してください。コチニール色素は食品や化粧品の着色にも使用されている色素ですが、アレルギーを起こすこともありますので、念の為作業中には手袋やマスクを着用するようにしてください。

コチニール色素の抽出

1.コチニール5gをすり鉢で粉砕します。可能な限り細かく粉砕すると抽出効率が上がります。

すり潰したコチニール

2.粉砕したコチニールを水100mlに加えて10分間煮沸します。この際に独特の匂いが出るので換気をしつつ吹きこぼれに注意しながら加熱してください。

加熱中のコチニール

3.溶液がまだ熱いうちに濾紙やコーヒーフィルターで濾過します

4.溶液が常温に冷めるまで待ちます

得られたコチニール抽出液

ここまでの作業でコチニールから色素を抽出することができました。この赤色の色素はカルミン酸と呼ばれる化合物ですが、この溶液から純粋な形で取り出すのはかなり難しく、今回はこの溶液を色素液として使用します。

レーキにする

1.抽出液50mlにカリウムミョウバン2−3gを加えて溶解します。

ミョウバンの結晶を加える

ミョウバンを溶解すると溶液は紫色へ変化する

2.アンモニア水を換気に注意しつつ加えていきます。沈殿が出なくなるまで加えるのですが、溶液が濁って見えにくいため少し多めに加えても良いでしょう。

アンモニア水の滴下 アンモニア水を加えると沈殿が生じる

3.生じた沈殿を濾紙やコーヒーフィルターで濾過します。濾液がまだ濃く着色している場合にはアンモニア水が足りないので、前の工程に戻ってアンモニア水を足してください。濾液が淡色〜透明になっていれば成功です。

濾過 時間がかかるので一晩放置すると良い

濾過中の様子 レーキは濾紙上に残る

濾液 ほとんどの色素がレーキとなり濾液はかなり薄い色となる

4.沈殿を数日間放置して乾燥させます。この際、完全に乾燥しておくことが重要です。

乾燥した沈殿

5.沈殿をすり鉢で可能な限り細かく粉砕してレーキの完成です。

完成したレーキ

<補足:カリウムミョウバンについて>
カリウムミョウバンは、アンモニア水と反応すると水酸化アルミニウムが発生します。

ミョウバンの結晶

色素の溶液の中で析出した水酸化アルミニウムは色素を吸着して同時に沈殿します。これがアルミニウムレーキです。沈殿は濡れていると細かく粉砕できないため、完全乾燥してから根気強くすり潰してください。こうすることで非常に細かなパウダーとなり、絵具の仕上がりがよくなります。

絵具を作る

それでは、このレーキを使って紫色の絵具を作ってみましょう。墨汁を作った時のように5%ニカワ水(なければただの水でも良い)で溶くことで水彩絵の具となります。

(参考)一から墨汁作ってみた│ヘルドクターくられの1万円実験室
https://www.rikelab.jp/post/4800.html

ニカワ水で溶いた絵具

水は一滴づつ様子をみながら加えてすり鉢で根気強く練っていきます。すると、市販の絵具には及ばないまでもしっかりと画用紙に色をつけることができるようになりました。

完成した絵具で試し書き

より均一な仕上がりを目指す場合には、市販の白色の絵具にレーキを混ぜることで、パステルパープルの絵具を作ることができます。市販の絵の具は機械で何度も練り込んで粒子を均一にしているため、自作の絵の具よりもずっと滑らかな仕上がりですが、自分で作った絵の具は市販品にはない味があります。

白色絵具と混ぜた場合

描き比べ かなり絵具に近い質感で使用することができた

このように、染料を顔料にすることのできるレーキという技術は食品の着色料はもちろん、産業的にもペンキなどの製造に広く利用されている技術です。コチニール色素以外にも色々な色素でレーキを作ることができるので、ぜひ挑戦してみてください。

実験にかかった費用

・コチニール 2,000円程度
・乳鉢(すり鉢) 2,000円程度
・濾紙またはコーヒーフィルター 100−1,000円程度
・ミョウバン 500円程度
・アンモニア水 500円程度
・ニカワ(ゼラチン) 300円程度
・筆・画用紙・白絵具 各100円程度

掲載写真は全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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