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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第39回目のお題は「音」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は音に関する実験を行ってみましょう!
ヘリウムガスを吸うと声の高さが変化するという現象は比較的有名かと思います。では、楽器にヘリウムを流すとどうなるでしょうか…?音が高くなるのでしょうか。逆に音程を低くすることもできるのでしょうか?今回はこの辺りの疑問に答える実験です。
声が高くなるヘリウムガス
注意!ヘリウムガスの吸入は窒息の危険があるため、変声専用の安全なガス以外は吸入しないようにしてください。また、空気以外のガスをみだりに吸入することは命に関わる危険な行為です。
パーティーグッズなどとして、変声用ヘリウムガスというものが売られています。これは、ヘリウム80%、酸素20%程度の混合気体で、窒息することなく安全に声を変えられるという商品です。(風船用には酸素が入っていないため、吸入すると死亡することがある)
ヘリウムは、非常に小さい分子であり、少ない力で動くため空気よりも早く音を伝えることができます。空気中での音速は約330m/s程度ですが、ヘリウムガス中の音速は約1000m/sと非常に速いのです。音速が早くなることで、周波数が上がる仕組みについては、高校物理で習う気柱の振動として考えることができます。こちらは簡単に説明すると、両方が開いた筒状の構造(パイプ)の中に空気を流すなどして共鳴を起こさせると、以下の式に従って振動数が決まるのです。
F=V/2L
Fは振動数、Vは音速、Lはパイプの長さ(=気柱の長さ)です。人間の声帯の場合はLはそれぞれの人固有の大きさで固定されていますから、定数と考えることができます。つまり、音速Vを変化させることで、振動数Fが変化するというわけなのです。(人が空気中で様々な声の高さを実現できるのは声帯の厚みを機械的に変化させるためで、これについてはこの式では考慮されていませんが、ヘリウムで声の高さが変わる仕組みに影響はありません)
そのため、ヘリウムガスを吸入すると声が高くなるのです。ヘリウム中では大気中に比べて音速が約3倍ほど速いので、振動数も3倍となり、もしも純粋なヘリウムで声帯を振動させると通常の3倍の周波数の声が出ると考えることができるのです。
楽器にも適用できるのか?
ヘリウムガスで声を高くする仕組みについては理解していただけたと思います。それでは、楽器にヘリウムガスを流すとどうなるでしょうか。原理的に太鼓やギターなどの膜や弦が振動する楽器では変化は起こりませんが、笛などの気柱の共鳴を利用した楽器であれば音程が変化しそうです。今回は検証のために身近で入手しやすい楽器であるリコーダーを使用してみましょう。リコーダーは誰もが一度は演奏したことのある楽器かと思います。この楽器は抑える穴の位置で気柱の長さを変化させることで共鳴する音の高さを変えているのです。つまり、今回の実験にはうってつけなのです。
それでは、まずはヘリウムガスを流してみましょう。人がヘリウムを吸った状態で演奏しても良いのですが、純粋なヘリウムは窒息性のガスのため、今回はリコーダーにキャップを取り付けて風船からのガスで演奏できるように改造してみましょう。
注意:本実験では楽器を本来の目的外で使用いたします。実験を行う場合には、自己責任で使用していただくようお願いいたします。
まずは、リコーダーの吹き込み口にテープなどを巻いて太さを調節し、ここに塩ビ管のキャップを差し込んでビニールチューブ(ホース)を接続します。
今回は安定した実験のためこのような装置を制作しましたが、風船の口を直接リコーダーに当てても実験できます。
次に、リコーダーの穴をテープで塞ぎます。(写真では順序が変わっていますがどちらが先でも構いません)
これは運指表を参考に、好みの高さの音程に合わせます。今回はソプラノリコーダーを使用し、ド(C6)の音に設定しました。そして風船と繋ぎ、風船の中に入ったガスによって音が出ることを確かめます。まずは、自分の息(=空気)で風船を膨らませてみましょう。風船からリコーダーへ空気を流すと、ピーっと音が出ます。
これをスマートフォンの音程分析アプリ(音の高さを知ることのできるアプリ。楽器用チューナーなどでも良い)を使って調べます。すると、しっかりとド(C6)の音が出ているようです。
では、風船の中身をヘリウムガスに変更し、リコーダーに流すと…
分析するまでもなく高い音が鳴りました。音程を見てみると、5音も高いラ(A6)が出ていることがわかりました。このことから、ヘリウムによる音程の変化は楽器(リコーダー)でも起こることが分かりました。
音程を下げることは可能か?
リコーダーは気柱の長さで音が決まるので、より低い音を出すには、気柱を長くする必要があります。これはリコーダーそのものを大きくしないといけないことを意味しています。例えば、ソプラノリコーダーよりも大きいアルトリコーダーを使えばより低い音が出せるのです。しかし、今回はあくまでソプラノリコーダーでより低い音を出したいと思います。ヘリウム中の音速が速いのはヘリウムが小さい分子だからです。つまり、より大きくて重たい分子を使用することで音程を下げることができるかもしれません。
身近にある重たいガスというと、例えば二酸化炭素があります。しかし、風船を膨らませるだけの二酸化炭素を用意するのは大変なので、今回はエアダスターとHFCガスを使用してみたいと思います。エアダスターは主にDME(ジメチルエーテル)というガスが使われており、これは空気よりも重たいガスです。これを風船に入れてリコーダーに流してみると…
確かに低い音が出ます。しかし、ヘリウムほど大きな差は感じられません。音程を見てみると、ソ♯(G♯5)でした。音階で見てみると、2.5音の変化で空気とヘリウムとの差の半分程度です。
そこで、より重いガスとしてHFC-134aというガスを使用してみましょう。これはエアコンの冷媒などに使われているいわゆる代替フロンというものです。遊戯銃(ガスガン)を作動させるためのガスとして市販されています。これを風船に詰め込んで実験してみると…
空気に比べてかなり音程が下がりました。分析の結果はレ♯(D♯5)でした。空気に比べて5.5音も下がりました!
ヘリウムがラだったので、ヘリウムからの差はなんと10.5音です。1オクターブが7音なので、ガスの種類を変えるだけで1オクターブ以上の音程を変化させることができるのです。
ここまでの結果を整理すると以下のようになります。抑える穴を変えずともこれだけの音程を変化させることができました。
そして画像だけでは変化の様子が伝わらないと思うので、それぞれのガスの音色をまとめた動画を用意しました。
また、安全性の観点から実験はお勧めしませんが、燃料のブタンガス(カセットコンロのガス)を流すと、DMEより1音程度低いファ#(F♯5)が出るようです。
実験にかかった費用
- リコーダー 2,500円程度
- 風船 100円程度
- ヘリウムガス 2,000円程度
- エアダスター 1,000円程度
- 遊戯銃ガス 3,000円程度
- 塩ビ管キャップ 100円
- ビニールチューブ 1m程度 200円
掲載写真と動画は全てレイユール氏提供
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レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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