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色分離実験│ヘルドクターくられの1万円実験室

混ざった色の分離実験│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第38回目のお題は「色の分離」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。

今回は色を分ける実験について紹介したいと思います。色を分けると聞いてもピンとこない方も多いと思います。今回はそんな不思議な実験を紹介したいと思います。

色を分ける…?

色を分けると聞いてもあまりピンとこないかもしれません。それもそのはず、日常生活で色を分けるということはまずないからです。

色には、基本となる原色(色の三原色)があり、私たちが目にする色はこれらの混合、つまり混色によって作り出されているのです。例えば絵具を混ぜるように、色を混ぜることはあっても、それを再び分離するようなことは日常生活ではほとんどありません。色を持つものが豆粒くらいなら頑張って分別できるかもしれませんが、砂粒くらいの大きさになってしまえばまず困難です。

実際には、色を持つ化合物の分子は、砂粒よりもずっと小さく、これを分けるには化学的な処理が必要になってきます。

分離精製

化学の世界では、こうした分離作業がよく行われます。分離は、化学的や物理的な性質の違いを利用して、ある特定の物質をできるだけ純粋な形で取り出す作業です。例えば、ガラスとプラスチックが混ざり合った混合物があったとしたら、これを水に入れることで水よりも比重の大きいガラスは沈み、水よりも比重の小さいプラスチックは浮いてきます。このように、混ざっている物質の持つ違いを利用して物質を分離していくのです。

今回は、混ぜてしまった色を再び分離したいので、それぞれの色素が持つ化学的・物理的性質から適切な違いを見つけ出さなければいけません。

実際に分離する

理論より証拠ということで、実際に色を分ける実験を行ってみましょう。細かな原理解説は後回しにして、まずは実際に色が分離される様子をご覧ください。

注意:この実験ではアルコールや色素液・アルカリ性の薬品を使います。保護手袋や保護メガネなどの防護具を必要に応じて着用し、汚れが広がらないよう紙を敷くなどの対応を行ってください。使用後は手をよく洗ってください。

それでは、実際に実験を始めていきましょう。ここで使うアルコールとは、エタノール・イソプロパノールなど入手可能なものを使用することができますが、安全性から無水エタノールを使用するとよいでしょう。

1.色素液を作る

2つの適当な容器に青色食紅0.05gと赤血塩(※)0.20g(黄色食紅0.1gでも代用できる)をそれぞれ取ります。(分量は目安値なので、計量する必要はなく、写真を参考に目分量で取って構わない)

※本稿でいう赤血塩はフェリシアン化カリウム(K₃[Fe(CN)₆])を指します。赤橙色の結晶で、水に溶けやすく、鉄(II)イオンの検出実験に使われます。通常は安定していますが、高温で加熱すると有毒なシアン化物が発生することがあります。加熱や酸と混ぜることは避けましょう。

▲食紅 食紅は青色1号を含むものが良い。稀にレーキと書かれた商品もあるがそれは使えない(レーキは色素を水に溶けない顔料の形に加工したもので、今回の実験に使うと溶液が濁ってしまうため適さないためです)

▲色素の量の目安 あまり正確に計量する必要はない。

青色食紅にはアルコール5ml、赤血塩や黄色食紅には水5mlを加えて溶解する。

▲溶かした色素液 青色のほうは添加物のデキストリンが溶け残るが問題ない。

2.色を混ぜる

密閉ができる適当な容器にアルコール20mlと水20mlを入れて50%アルコール溶液を作ります。

▲水を入れる あまり正確な測定は必要ないが大きくはズレないように

▲アルコールを入れる アルコールは水とよく混ざるので、分離はしない

ここに色素液各0.5mlを加えてよく混ぜます。この段階で黄色と青が混ざり緑色の溶液になります。

▲黄色の添加 黄色はあまり濃くしすぎないように注意しよう

▲青色の添加 青色は濃くても問題ないが0.5ml程度がきれいに見える

▲混合後 若干青味が強いが緑色の溶液が作れる

3.色を分ける

緑色の溶液に炭酸カリウム10gを加えてよく混ぜて溶かします。

▲炭酸カリウムの添加 炭酸カリウムは7−10g程度加える。多すぎると溶け残るので注意

この溶液を静かに置いておくと、徐々に二層に分離し、下層は黄色、上層は青色になります。

▲溶解 強く振って溶解させる

▲溶解直後 まだ青色に見える

▲静置5秒後の様子 徐々に分離が始まった

▲静置1分後の様子 完全に分離した

この溶液は再び振っても分離しますが、しばらく放置しておくと徐々に青色が薄くなり、溶液は徐々に褪色してしまいます。実験後の溶液は有害な物質は含まないため、多量の水で薄めて下水に流すことができます。

原理解説

実際に行ってみると、一度混ぜたはずの青色と黄色が再びくっきりと分離され、非常に面白いと思います。このように簡単に分離できた仕組みが気になるところです。
以前、三層に分離する液体を作る方法について紹介しましたが、原理はこれと全く同じものです。
2層の壁を超えろ! 振っても混ざらない「3層に分離した液体」を作ってみた│ヘルドクターくられの1万円実験室│リケラボ|くられWith薬理凶室 (rikelab.jp)

まず、水とアルコールの混合物に炭酸カリウムなどの無機塩を多量に加えると、塩析という現象が発生し、アルコールを多く含む上層と水を多く含む下層に分離するのです。

▲色素を加えないで分離を行った様子

この現象は色を付けなくても発生しますが、ここに色素を加えておくと、水よりアルコールに溶けやすい青色はほとんど上層に吸収され、水に溶けやすい赤血塩や黄色色素は水層に残るのです。今回の色の分離は水とアルコールという異なる溶媒に対する色素の溶解度の差を利用した分離であるということなのです。

今回は、黄色の色素として赤血塩を使用しました。赤血塩は無機化合物なので、有機溶媒であるアルコールには非常に溶けにくく、水によく溶けることできれいに分離します。しかし、黄色の食紅などで代用すると、下層は鮮やかな黄色になるものの上層は依然として緑色のままになってしまいます。

▲赤血塩を用いた場合と黄色食紅を用いた場合の比較 右が食紅、左が赤血塩

これは、黄色色素は有機化合物であるため、アルコールにも溶けやすく完全に分離しないためです。混ざり合わない2種類の溶媒を使った抽出分離では、両方に溶ける物質の場合には10:0の分離はできず、9:1のように、少し残ってしまうこともあります。青色の溶液に薄くでも黄色が残ってしまうと緑色に見えるため、完全な分離はできないようです。通常より温度の低い方が、はっきりと分離されるので、溶液を冷やすことでより青色に近づきますが、完全な分離はできないようです。

実験にかかった費用

アルコール 2,000円程度
赤血塩 2,500円程度
炭酸カリウム 1,000円程度
食紅各種 各300円程度

掲載写真全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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