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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。
使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。
第37回目のお題は「メッキ」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!
皆さんこんにちは。レイユールです。
今回はメッキを使った実験を紹介したいと思います。メッキといえば、以前にこのシリーズでヨウ素液を使った金メッキの実験を紹介したと思います(記事はこちら)。
さて、今回は金メッキではないのですが、金色にもなる3色メッキというものを紹介したいと思います。まず初めに、メッキとはどのようなものなのかについて少し解説したいと思います。
メッキとは?
メッキというのは、金属やプラスチック、ガラスなどの母材の上に薄い金属の膜を張ることです。例えば、普段使用している姿見などの鏡は、ガラスに銀メッキを施したものですし、金メッキのアクセサリーや街灯を支えている銀色のポールなどもメッキ製品です。
最も古いメッキ法としてはアマルガム法というものがあり、これは水銀に金などの金属を混ぜ込んで合金を作ります。この合金はアマルガムと呼ばれ水銀の割合が高いものでは液体状態です。これをメッキしたい金属などに塗ってから加熱することで、水銀は蒸発し、ついには最初に水銀に混ぜ込んだ金だけが残ることでメッキがされます。奈良の大仏などはこの方法で金メッキが施されました。しかし、水銀の蒸気は毒性が高く環境にも悪いため、現在はもっと安全なメッキが開発されています。
メッキの種類
メッキには、アマルガム法の他にも、融けた金属に直接母材をつけ込む溶融メッキというものもあります。例えば、鉄の板を融けた亜鉛に漬け込んで溶融亜鉛メッキ処理をしたものをトタン、溶融したスズに漬け込む溶融スズメッキをした場合にはブリキと呼ばれます。
その他にも、無電解メッキや電解メッキなどがあります。これらは化学メッキとも呼ばれ、金属をイオンとして溶かし込んだ液体(主に水溶液)に母材を漬け込んでその表面に金属膜(メッキ)を形成させるという方法です。今回紹介するメッキもこの化学メッキの一つです。
亜鉛メッキ
さて、今回行う実験は銅の板の上に薄い亜鉛のメッキを施します。銅は知っての通り10円玉と同じ銅色をしていますが亜鉛は銀白色の金属です。
つまり、銅に亜鉛メッキをすると表面が亜鉛で覆われて銀色に見えるのです。さらに面白いことにこれを亜鉛の融点付近まで加熱すると母材である銅と混ざり真鍮(ブラス・黄銅とも呼ばれる)を形成します。真鍮は美しい金色の合金なので、先ほどまで銀色だった金属板が金色になるのです!
亜鉛メッキの方法
亜鉛メッキには様々な種類がありますが、今回は電解メッキと無電解メッキを組み合わせたような方法でメッキします。まず、亜鉛を強いアルカリ性の液体(水酸化ナトリウム)に加えて加熱することで、テトラヒドロキシド亜鉛(II)酸ナトリウムという物質の水溶液を作ります。ここに銅を入れて電気を流すと亜鉛が還元されて亜鉛メッキが施されるのですが、これが電解亜鉛メッキです。しかし、今回は電源を使わず、溶液中で電子をやりとりさせます。つまり、溶液中に金属亜鉛を残しておき、この亜鉛と銅が触れることで簡易的な電池が形成され、外部から電気を供給することなく亜鉛メッキを行うことができるのです。
しかし、この実験で問題になるのは水酸化ナトリウムの入手です。今回の実験では、これを以前紹介した葉脈標本の実験と同じように石灰とソーダ灰から作ってしまいましょう。
実験
それでは、実際に実験を行うわけですが、その前に注意事項があります。この実験は、強いアルカリ性の液体を使います。必ずゴム手袋と安全メガネを着用し、安全には十分に注意して実験してください。また、使用する器具は専用品を用意して使い捨てにするようにしてください。
そして、反応容器には必ず耐熱ガラス器具を使用し、金属の容器(特にアルミ)を使用しないでください。(廃液処理は後述します)
それでは注意事項を守って安全に実験を進めていきましょう。
1.アルカリ液を作る
まず初めに、耐熱性ガラス容器に水20mlをとり、ここに水酸化カルシウム(消石灰)3.7gと炭酸ナトリウム(ソーダ灰)5.3gを加えて一度沸騰させてから火から下ろす。(液が跳ねるので顔を近づけないように注意!)
2.メッキ液を作る
1で作った溶液に亜鉛粉末(粒状でもよいが時間がかかる)を1−2g加えて十分に混ぜる。
ここまでの作業で、少し灰色の濁った溶液が得られたはずです。これが今回のメッキ液です。
この沈殿物は主に炭酸カルシウムによるもので、本来は濾過しますが、今回はこのまま使って大丈夫です。
3.メッキを行う
2で作ったメッキ液の中に銅の板などメッキしたいものを入れる(日本の貨幣は加工すると貨幣損傷等取締法違反となる可能性があります。10円玉は使わないようにしてください!)。粉末亜鉛を使った場合には1分、粒状亜鉛を使った場合には3分ほど穏やかに沸騰させる。
4.取り出し
メッキされた銅板をピンセットなどで取り出し、水で十分に洗う。
これで亜鉛メッキが完成しました。銅色だった母材が銀色に変化しました。では、次にこれを熱していきます。
5.加熱
メッキされた銅をピンセットで掴みガスバーナーやアルコールランプで熱します。(ガスコンロを用いても良い)
加熱されると、銅色に戻る瞬間があるので、そのまま火から離し(加熱しすぎると失敗する)冷却します。
常温に戻るまでしばらく放置すればなんと金色に変化しました!
この方法を応用すると、銅の粒を銀色の粒や金色の粒にすることなどもできます。
廃液処理
見事実験が大成功したわけですが、ここで終わるわけにはいきません。亜鉛は必須ミネラルでもありますが、メッキ液には生き物に必要な亜鉛をはるかに超えるいわば特濃の亜鉛が含まれており、これを流しに捨てるわけにはいきません。そこで、このメッキ液に50gほどの重曹を加えます。すると、アルカリは弱まり、亜鉛化合物も塩基性炭酸亜鉛に変化します。この炭酸亜鉛はそもそも安定した物質ですが、燃やすことで酸化亜鉛(日焼け止めや絵具の成分)となり無害化されるのです。今回の実験で用いた程度の量であれば、重曹処理をした後に、新聞紙などに丸めて密閉した後に可燃込みとして処分することができます。くれぐれもそのまま流すようなことはしないように注意してください。
実験にかかった費用
・亜鉛粉末 4,000円程度
・銅板 500円程度
・炭酸ナトリウム 1,500円程度
・水酸化カルシウム 1,000円程度
掲載写真全てレイユール氏提供
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レイユール 薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。 |
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