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熱湯で融ける!低融点合金を作ってみよう│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第10回目のお題は「低融点合金」です。前回に引き続き今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、熱湯並みの温度で融け出してしまう不思議な合金を作ってみましょう。

 

低融点合金とは

低融点合金とは、読んで字のごとく低い融点を持った合金のことです。単体の金属で低融点のものといえば、常温で液体の水銀と、融点約30℃のガリウムがありますが、それ以外には融点が100℃以下の金属はありません。低温で溶ける金属には様々な用途があるので(詳細は後述)、合金にすることで融点を下げるべく開発されたものが低融点合金なのです。一般に、単体スズ(錫)の融点である約232℃よりも低い融点を持つ合金が低融点合金と呼ばれます。

低融点合金の種類と用途

最も身近な低融点合金は、電子製品に使われている「ハンダ」だと思います。ハンダは、鉛と錫の合金で、様々な組み合わせがありますが、約183℃まで融点を下げることに成功しています(現在は鉛を含まない鉛フリーハンダに置き換わりつつあります)。

▲電子工作などに使われるハンダ

▲近年は鉛の環境への影響を考えて鉛フリーハンダが主流になっている。

その他にも、アナログ式の体温計に水銀の代わりに封入されるガリスタン合金や、高圧ガスボンベの安全弁(可溶栓)や、火災用スプリンクラーのヘッドにもウッド合金などの低融点合金が使われており、炎の熱で融けて圧力を逃がしたり、消火用の水を出すなどの役割を果たしています。

▲水銀の代わりにガリスタン合金を使ったアナログ体温計(現在は国際条約によって水銀製品の製造・販売および輸出入は原則禁止となっている)

 

低融点合金を作ってみよう

低融点合金には様々な種類があり、材料やその配合比も様々です。一般的に流通している金属材料を使用して作れる組み合わせでは、セロセーフメタル、ローズメタル、ニュートンメタル、ウッドメタルなどがあります。これらは、錫、ビスマス、鉛、カドミウムなどを含んだ合金です。今回はそれらのなかでも最も有名なウッドメタルを作ってみましょう。材料はいずれも通販サイト等で購入可能です(カドミウムはオークションサイトなどでよく出品されています)。

 

 1.計量

まずは、合金材料の計量を行います。この際に使用する秤は、最低でも0.1g単位で測れるものを用意してください。ウッド合金の配合は以下の通りです。

  • ビスマス 50%
  • 鉛 26.7%
  • 錫 13.3%
  • カドミウム 10%

今回は、合計で40gの合金を作るので、配合は以下の通りです。

  • ビスマス 20g
  • 鉛 10.68g
  • 錫 5.32g
  • カドミウム 4g

それぞれの金属を必要量計量しておきます。

▲ビスマス

▲鉛

▲錫

▲カドミウム

 

2.合金化

いよいよ金属を融かして合金にしていきます。合金を作る際には、最も融点の高い金属から融かしていきます。これは、高い融点の金属が融け残るのを防止するためです。今回の場合、鉛、カドミウム、ビスマス、錫の順で融点が低くなるのでまずは鉛から融かしていきます。

▲鉛を融かす。容器は100円均一のステンレス製の”おたま”なども使えます。

後は、融けきったところを見計らって次の材料を加える…を繰り返します。

▲カドミウムを加える

▲ビスマスを加える

▲錫を加える

 

3.凝固

全ての金属を加え終えると液状の金属が出来上がります。これを小さな穴を開けた濾紙を通してすぐに水で急冷すると粒状に固まります。濾紙は酸化被膜を取り除くために使います。

▲濾紙を通して急冷。 
※200℃以上の熔融金属では水蒸気爆発することがあるので水中急冷は行わないこと。

▲得られたウッド合金。ショット(粒)の状態で得られる。乾燥させて瓶に入れておけば保存できる。

 

4.応用

完成した金属を適当な型に流してコイン状に固めます。ウッド合金は約70℃で融けるので、お湯に入れると液状になっていく様子を見ることができます。

▲お湯の中で液体になるウッド合金

 

なぜ合金化すると融点が下がるのか

今回は、4種類の金属を合金にすることで、いずれの金属の融点よりも低い融点を持つ合金を得ることができました。合金化によって融点が降下する仕組みは、非常に複雑で専門的になってしまいますが、有機化学などの学問でも利用される「融点降下」に近い現象と捉えることができます。これは、物質は不純物を含んでいると融点が下がるという法則に基づいたもので、合金化することにより、様々な不純物が加えられたと考えることができます。様々な組み合わせを試して、特異的に融点が下がったものが現在、低融点合金と呼ばれる合金になったのです。

 

最後に、ご注意点

今回作った合金には毒性金属のカドミウムが含まれています。ウッド合金の開発者である、マサチューセッツ工科大学のウッド博士は、この合金を初めて発表した際にウッド合金製のスプーンでコーヒーをかき混ぜて、先端が融け落ちるデモンストレーションを行ったそうです。しかし、カドミウムは微量ながらも溶液に移動するので合金と合金材料、それらに触れ合ったものは一切口にしないようにしてください。実験中も、換気に留意した上で、手袋や保護メガネ、防塵マスクなどを着用することが望ましいです。

 

有害な成分を含まない合金で実験を行いたい場合は?

カドミウムの毒性が気になる場合には、カドミウムを含まない合金もあります。なかでも有名なローズ合金を紹介しましょう。ビスマス50%、鉛25%、錫25%と単純な組成の金属で、今回紹介したウッド合金と同様の手順で作ることができます。但し融点は、98℃と沸騰したお湯でないとなかなか融けません。また、こちらの合金も鉛を含んでいるので、誤飲や直接肌に触れないように、注意が必要です。

 

今回の実験にかかった費用

  • ビスマス:1000円(100g)
  • 鉛:数百円
  • 錫:1000円(100g)
  • カドミウム:3000円(1kg)
  • 蒸発皿:数百円
  • ガスバーナー:3000円
  • 三脚:1000円~
  • 金網:数百円

金属は出来ればインゴットではなく、粒状(ショット)を入手したほうが計量しやすいです。カドミウムに関しては、オークションサイトでは、10g程度からばら売りされていることもあるので、一応確認してみると良いと思います。金属材料を全て1kgで揃えてしまうと予算をオーバーしてしまうので、できるだけ少量で販売しているサイトを探してみましょう。

掲載写真,図全てレイユール氏提供


レイユール

薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

薬理凶室YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC_sxCGl2slqyAj9i26KLKuA

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著者プロフィール:

くられ

自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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