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金融業界から化粧品メーカーの基礎研究者へ!研究者になる方法はひとつじゃない。 理系のキャリア図鑑vol.22株式会社ミルボン 渡邉 紘介さん

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渡邉 紘介(わたなべ こうすけ)さんは、美容室などプロユースのヘアケア商品のトップメーカーとして知られる株式会社ミルボンで基礎研究を担当する研究者。理学部を卒業して一度金融業界に就職したのち、大学院に入りなおして現職に就かれた異色の経歴の持ち主です。

研究者を目指しながら、なぜ最初の就職先に金融業界を選んだのか?その経験は現在の仕事にどう活かされているのか?

就職・転職のターニングポイントで何を想いどんな行動をするかで未来は変わる!

「研究者の理想のキャリアの作り方」のヒントがたくさん詰まった渡邉さんのキャリアストーリーです!

株式会社ミルボン
1960年に「顧客第一主義」をモットーに掲げ、業務用ヘア化粧品の専売メーカーとして創業。「美しさを拓く。」というコンセプトの元で、ヘアカラー剤、ヘアスタイリング剤、パーマ剤、シャンプー、ヘアトリートメント、 薬用発毛促進剤、スキンケア・メイクアップ化粧品の製造および販売行いながら、女性が輝く社会に向けた新たな美容のグローバルフィールドの創造を目指す。
https://www.milbon.co.jp

 

生物学科を卒業後、「お金の動き」への興味から金融機関に就職

 
──まずは渡邉さんの現在のお仕事内容を教えてください!

株式会社ミルボンで基礎研究を担当しています。私の担当は毛髪や頭皮、お肌でシミやシワができてしまうメカニズムの解明と、それに対処する方法の研究です。

たとえば皮膚の細胞に化粧品の原料を適用して頭皮や肌を改善する成分がちゃんと生成されるか検証したり、3次元皮膚モデルで頭皮の炎症を再現し、どうしたら抑制できるのかを探るなど、多岐にわたって実験と研究を行っています。

 
──渡邉さんは東北大学理学部生物学科に入学。メラニンでマウスの毛の色を決定する研究をされていたそうですが、2009年の学部卒業と同時に金融業界に就職されたのはなぜだったのでしょうか?

私は研究者・科学者になるのが小さい頃からの夢のひとつでした。でも大学に残って研究していくタイプではないなと、自己分析していたのです。私が好きな科学というのは、身近にあって、自分の役に立って、自分がその科学に触れられるもの。そういう意味では、大学での研究より産業界での科学のほうが自分の方向性に近いと感じていました。

産業界で活躍する研究者となるなら、お金のこと、つまりビジネスのことをわかっているほうがいい。特に興味を惹かれたのが「金融」というジャンルでした。世の中を動かす大きな要素であり産業とは切っても切れない「お金」。それをダイレクトに扱っている金融業界に一度飛び込んでみれば、世の中がどう動いているのか、その中でビジネスがどう成り立っているのか見えてくるのではないか。そう思って金融業界に就職しました。「お金ってなんだろう?」ということをとにかく知りたかったのです。

 
──産業界で研究職を目指す人の多くが、修士課程に進み新卒入社として就活をするなかで、とても勇気のいる選択だったと思いますが・・・。

別の分野に行ってしまったら研究に戻れないと考えている人は多いと思うのですが、自分はそう考えなかったんです。もちろん必ず研究職に就ける保証なんてありません。いばらの道であることは覚悟の上です。正直言って、不安はとても大きかったです。でも、日本でダメでも海外なら可能性があるだろうと考えました。

写真提供:株式会社MILBON

 
──金融業界では、お金や世の中の動きについてどのような学びがありましたか?

金融にいたのは2年間なので、深く理解できたと言ってしまってはおこがましいでしょうが、もし金融業界に進まずそのまま暮らしていたら、お金とは「使うもの」「貯めるもの」という感覚しかなかったかもしれません。金融業界に勤めたことで、お金には「活かす」「還元させる」という大切な考え方があることを知り、身につけることができました。この考え方は研究においても必要なことです。なぜなら研究は、投資と同じ。どんな研究をすればそのお金が活きるのか、研究を通じてどう還元できるかを常に意識できるというのは、研究者、とくに産業界の研究者にはとても強みになるのです。

 
──2年間の勤務を経て金融業界を離れ、2011年に東京大学大学院理学系研究科の修士課程に入学し直しました。大学院に入り直したときの心境は?

そのときは不安よりも、また研究ができるという楽しみのほうが強かったです。

 
──修士課程ではどんな研究を?

がん細胞の研究です。縁あってとても有名な先生のもとで研究することができました。

がん細胞って、恐ろしいものである反面、研究対象としては非常におもしろくて。なぜかというと、ものすごいスピードで細胞の一生を観察できるわけです。細胞が生まれて死んでいくまでのスパンというのは、通常数ヶ月とか、ものによっては数年とかですが、がん細胞の場合はそれが1日とか数日の単位であっという間に始まって終わっていきます。なので、細胞の一生が如実にわかり、ありとあらゆる生物的研究に役立てることができるのです。

 

研究をしたい!という強い思いが、いばらの道を切り開く原動力に

 
──2013年に修士課程を終えてミルボンに就職されましたが、なぜ化粧品会社だったのでしょうか?

がんの研究自体はとても大事な研究だと今でも感じています。ただ、医薬の役割は病気になった状態を健康な状態に戻すアプローチ。マイナスをゼロに戻す科学です。一方で私がより心動かされるのは、1を100にしたり、10000にするといった、無限大の可能性を秘めた科学でした。

そういう観点でいうと、限りなく美を追求していくための製品として、化粧品に無限の可能性を感じました。

 
──化粧品会社の中でもミルボンに入社したのは?

金融業界時代はいわゆる「大手」に勤めていたので、大手の良さもデメリットも経験していたというのが大きかったです。大手では人がたくさんいてそれがパワーになる半面、初めのうちは特に「誰かがつくった仕事を引き継いでやっている」感覚が常にあり、自分のやりたい仕事ができるのは果たして何年先になるのかということを疑問視していました。その点ミルボンは、トップメーカーでありながら、当時500名程度のコンパクトな企業でした。そのため、研究者ひとりひとりに権限があり、美容業界をー利用してくださるお客様を含めてーどうやってよくしていくのか、それぞれの研究者が本気で考えています。「自分で仕事を創りたい」と考えていた私にとって、とても合う環境だと思いました。

 
──就職活動は、すんなりいきましたか?

私のように一度就職した後に大学院に入り直した場合、企業にもよりますが、新卒扱いにならないことが多くありました。そこで私は人事の方に個別にメールを送り、電話もかけて直接アプローチをしました。「とにかく受けさせてください!」と。それでもダメなことも多かったですが、何度かやりとりをするうちについに人事の人も「受けてください」と言ってくれたのです。

 
──一般的な新卒採用のルートから外れてしまっていても、熱意が道を拓いたのですね!

実績や経験がすべてということではなく、思いが強ければ人の心を動かすことができます。夢や意志を人に伝えることって、否定されるのが怖いですし、面倒くさいですし、ついついそこから逃げて終わってしまう人が多いですよね。でもそのハードルを突破した先には、必ず何かしらの新しい扉は開かれると思います。

 

基礎研究のやりがいと「エウレカ!」体験

 
──基礎研究の仕事は、結果が出るのに時間がかかるので、達成感が得られる機会が少ないとか、成果がお給料などの評価に反映されにくそうなイメージもありますが、実際にはいかがでしょう?

確かに基礎研究は、かなり根気のいる仕事です。3年や5年、もっと長いスパンが必要なことも。ですから、評価するシステムとしては、たとえばある目標を3年後に達成と決めたとき、半年ごとにマイルストーンを設定してそれが達成できているかを見極めます。

また、基礎研究の研究者というのは一般にエンドユーザーから遠いところにいる存在と思われがちですが、ミルボンの場合は基礎研究の研究者も直接お客様や実際に商品を使用する美容師の方々と話をする機会を設けています。私たちの営業所には美容室を再現したスタジオがあり、そこに集まっていただいて、勉強会や交流会を開催しているのです。当社側からは製品の開発背景や誕生秘話をお客様にお伝えし、お客様からの質問に研究者が答えます。普通こうした機会では広報やマーケティングの担当者だけが参加することが多いものですが、ミルボンの場合は基礎研究も含めて、製品に関わる者が総出で、直接使用者の声を伺っています。それは研究員のやりがいやモチベーションにも繋がっていると思います。

 
──渡邉さんご自身としては、どんなところにやりがいを感じていらっしゃいますか?

基礎研究の良さは、「世界で、いや、宇宙で初めてこの現象を自分が発見した!」と明確に言えることです。これまで人類が誰も見たことのない現象を見られるのが、なんといっても基礎研究の醍醐味だと思います。長いこと努力してもなかなか芽が出ないことが多いですが、それだけに新しいことを発見した瞬間は何にも代えがたい達成感があります。まさに「エウレカ!」(古代ギリシアの数学者アルキメデスが叫んだとされることで有名な、何かを発見したことを喜ぶときに使われる感嘆詞)です。

 
──渡邉さんはこれまでにどんな「エウレカ!」体験を経験しましたが?

頭皮の細菌群、フローラに着目した研究があります。お腹の中にいる腸内フローラというのは有名ですが、頭皮にもフローラがいて、それが頭髪の健康に密接に関わっているのではと考えられていましたが、これまで明確に示されたことはありませんでした。

写真提供:株式会社MILBON

私たちはそれを研究し、ある菌が増えすぎると私たちの白髪や抜け毛や細毛を促進してしまうことを発見しました。発毛・育毛に関わる現象は毛根部で起こるものばかりだと思われてきました。でも実は、頭皮の上にいる菌の環境を整えてあげることでも白髪や抜け毛の悩みを解決できるのではないかという新しい知見を、ミルボンは世界で初めて明らかにしたのです。これは私の中でとても印象に残るエウレカ体験でした。

 

グローバル戦略を見据え、博士号の取得を決意

 
──渡邉さんは現在、東大の博士課程にも在籍されていらっしゃいますね。なぜ学位を取ろうと考えたのでしょうか?

ミルボンは国内ではトップメーカーですが、世界では7~8番手ぐらい。今後ミルボンをさらに大きくしていくには、海外戦略は欠かせません。私は海外のお客さんにも役立ちたいのです。

グローバルでは博士号を持っていないと研究者として一人前に認められにくいという風潮があります。そのため博士号を取得する必要があると考えました。

 
──といっても、学位目的だけでは博士課程には入れませんよね。

ずっと研究テーマを探してきた中で、ようやくミルボンの研究の役に立ち、博士号を取れそうな研究テーマが固まってきたので、それを持って研究をはじめました。

 
──それはどんな研究なのでしょうか?

分野としては、細胞の解析です。私たちの体は約60兆の細胞からできています。そして細胞は一様ではなく、それぞれに特徴を持っています。たとえば髪の毛を抜いたときの白い部分、毛包とか毛根部と呼ばれる部分だけでも、数千の細胞でできています。従来の研究では、毛根部は毛根部としてしか見ていませんでした。今は技術の革新により、その中の一個一個の細胞が何をしているかが具体的にわかってきたのです。一つ一つの細胞の違いに着目し、もっとその細胞にピンポイントなケア方法や、有効な成分を見つけたりすることができると考えています。そういった1細胞の解析という研究をしています。

 
──今後のビジョン、目標を教えて下さい。

ミルボンが大好きなので、ミルボンを世界ナンバーワンにしていく原動力になりたいですね。世界中の美容師さんに喜んで頂くために、どういうアプローチをしていけばいいか。博士課程の研究をもとにしながら考えを拡げていくつもりです。

 
<編集部より>
いちど金融業界に就職しながら、大学院に入り、研究職へと戻ってきた渡邉さん。一見紆余曲折の道ですが、話を聞いてみると、産業の研究者としてぶれない信念を窺うことができました。なかなか成果の出ない基礎研究という取り組みの中で、新たな事象を解明できたときの歓喜。それは何にも代えがたいことだと語る渡邉さんの目はキラキラと輝いており、研究職を目指す方に希望を与えてくれるようでした。

就活に関して言うと、最近では、新卒一括採用のほかに、通年で応募を受け付ける企業が増えてきています。王道のルートでなくても、信念をもって身に着けた経験が評価されるようになってきています。「今更自分は無理…」と思わずに扉をたたいてみてください。あかない扉も多いですが熱意で開く扉もあります。渡邉さんのお話から、固定観念に取らわれず、勇気をもって行動することが道を拓くということを教えていただきました。貴重なお話をありがとうございました。

写真提供:株式会社MILBON

 
渡邊紘介(わたなべ こうすけ)
東北大学理学部生物学科を卒業後、大手金融機関に就職。2年後に退職し、東京大学大学院理学系研究科にて修士課程を経て、ミルボンに入社。ミルボンでは、中央研究所で基礎研究を行う傍ら、ミルボンの更なる発展のために、東京大学大学院にて博士号の取得に挑戦中。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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