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理系の職種紹介vol.14 食品メーカーでのデータサイエンティストの仕事

理系の職種紹介vol.14 食品メーカーでのデータサイエンティストの仕事

日清食品ホールディングス株式会社

知っているようで意外と知らない“理系の仕事”にフォーカスし、その仕事で活躍している方に詳しい内容を教えてもらう「理系の職種紹介」シリーズ。今回も知っているようで意外と知らない理系の“仕事内容”にグッと迫ります。

第14回目のテーマは、食品メーカーの『データサイエンティスト』。

現在産業界で強力に推進されているDX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して仕事を効率化したり、よりよい製品やサービスの開発につなげていく大きな潮流です。DXに欠かせないのが、ビッグデータと呼ばれる大量のデータを、目的に沿った形に整理し活用できる状態にすること。それを行うのがデータサイエンティストで、今最も注目を集める職種のひとつです。データサイエンスを専門に学べる学部も次々と新設されていますね。

そこで今回は、データサイエンティストの仕事に迫るべく、日清食品ホールディングス様を訪ねました。データサイエンス学部を2023年に卒業し入社3年目の粟野さんに、食品メーカーでのデータサイエンティストの仕事内容をじっくりと伺いました!

日清食品グループ

1958年に世界初の即席麺「チキンラーメン」、1971年に世界初のカップ麺「カップヌードル」を世に送り出すなど、新たな食の創造を通じて世界の食文化を革新する即席麺のパイオニア企業。即席麺を中心に、チルド食品、冷凍食品、菓子、飲料など、幅広いカテゴリーでトップブランドを育成している。各国の食文化や味の好みに合わせた製品を世界21の国と地域、34工場で生産しており、グローバルブランドとしての強化と各地域でのプレゼンス向上を目指す。近年は、最適化栄養食をはじめとする新規事業にも注力し、マーケティングとイノベーションを駆使して多様な食のソリューションを提供している。

取材に伺った日清食品ホールディングス 東京本社(東京都新宿区)。
リケラボ編集部撮影

データサイエンティストの仕事内容

社内に蓄積される膨大なデータの「利活用」を推進する

──粟野さんが所属しておられるデータサイエンス室の役割について教えてください。

企業活動では日々さまざまなデータが生まれ続けていますが、活用しきれていないデータもたくさんあります。そのためデータの「利活用」を広く促進するために設けられたのがデータサイエンス室です。仕事は大きく分けると3つ。「データの統合」「データ利活用促進」「教育」になります。

──それぞれについて教えてください。

これまでは社内の各部門・個人でそれぞれデータを取得し、分析していました。それらバラバラに存在しているデータを集約しより幅広く活用できる状態にするのが「データの統合」です。そのために全社統合のデータベースの整備を急ピッチで進めています。そして、蓄積されたデータを分析し販売促進や生産性向上に役立てるのが「利活用の促進」です。データ分析を請け負うことも業務の一環ですが、同じくらい大切なのが、社内の方がデータにアクセスしやすい環境を作ったり、ツールを開発し、各部署で使っていただけるように働きかけたりといった活動です。統合したデータをどのようにして現場の隅々にまで届けるかということに、今最も力を入れています。

また、日清食品グループでは、「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」をスローガンに、全社員がデジタル技術を身につけて活用できるようになることが推奨されています。IT部門が主となり社員向けにデジタルリテラシー向上をサポートする教育プログラム「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を運営していますが、私はプログラミング言語の「Python(パイソン)」をIT部門以外の社員でも理解し、活用してもらうための講座の講師を担当しています。

日清食品ホールディングス ITプラットフォーム データサイエンス室所属のデータサイエンティスト、粟野志穂さん。担当はセールス・マーケティング部門で、販売データやマーケティングデータの利活用に取り組んでいる。
リケラボ編集部撮影

データサイエンティストの仕事のやりがい

データを通して身近な商品を深く知る

──日清食品でデータサイエンティストとしてはたらくなかで、特におもしろいと感じるのはどんな点ですか?

社内のさまざまなデータを見られるところです。一消費者だったときは「『カップヌードル』ってこんな味があるんだ」など、新商品や面白いプロモーションに関心を持っていましたが、データサイエンティストになってデータから商品を見てみると、例えば、『チキンラーメン』がどんな売れ方をしているのか、『チキンラーメン』と『カップヌードル』を比較してどう売れ方が違うのか、地域でどんな売れ方の差があるかなど、新たにデータという観点で商品を見るようになりました。自分も食べる身近な商品、目に見えるものなので、より一層おもしろく感じますし、自分が見えていなかったこと、知らなかったことがデータを通して見えてくるので、新しいことを発見する楽しさがあります。

上司はデータサイエンスを「宝探し」に例えたりもしますね。自分が考えていた通りのことがデータにも反映されていると「やはり」という確信につながりますし、一方で自分が見えていなかった視点が浮かび上がってくると「そうなのか」とワクワクし、両面が見られるおもしろさがあります。データは、観点が違うと見えるものも違うんです。以前社内データのサンプルを後輩に可視化してもらったとき、自分にはない着眼点の分析が出てきて驚きました。新しい視点はいくらでもあるんだなと、データの奥深さを感じる毎日です。

自社商品を購入していないお客様へ、機械学習モデルを元にアプローチ

──印象に残っている仕事をひとつ教えてください。

入社1年目で初めて参加したプロジェクトで、ある企業における機械学習モデルの開発に携わり、その分析結果をマーケティングに活用することができました。

このプロジェクトでは、「対象の自社商品を購入したお客様の購買データ」をもとに、「対象の自社商品を購入していないお客様」の中から、「今後購入いただける可能性が高いお客様」の予測をたてました。その結果と顧客属性を元にターゲットを定め、販売促進施策を立案し、実際に複数の店舗でプロモーションが展開されました。

──それは興味深いですね。結果はどうだったのでしょう?

プロモーションがあった店舗では、売上が上がり、データサイエンスが役立ったという実感があります。1年目から貴重な経験をさせていただいて自分の仕事の自信になりましたし、やりがいを感じた瞬間です。

──購入していない人の特徴を弾き出して販促に活用するなんて、とてもおもしろいですね!

データサイエンティストとして仕事をする上で大切なこと

常に技術をアップデート

──普段仕事で使っている言語やツールは何ですか?

プログラミング言語ではSQLとPython、ツールはPower BIです。SQLはデータの加工に使い、もう少し複雑で高度な分析をしたいときはPythonを使います。加工したデータは、Power BIでダッシュボードを作って可視化する、といった流れです。

──ダッシュボードはどのように役立つのでしょうか?

ダッシュボードとは、さまざまなレポートやデータから必要な情報を集約したもので、データや分析結果から作成したグラフなどを一つの画面で見ることができます。例えばセールスやマーケティング部門では、販促施策がどのように売上等に表れたか、結果や効果を知りたいですよね。これまでは担当者がエクセル関数などを駆使し膨大な手間と時間をかけて必要な数字を算出していました。ところがダッシュボード化できると、自分が欲しい観点のデータやグラフを、画面のボタン選択だけで即座に可視化することができるんです。

──それは便利です! それが先ほどおっしゃっていた仕事内容の二つ目「データの利活用」なのですね。

事業部門の方々の「今こういうことに困っている」「こんなことをやりたい」という話を聞き、データサイエンティストとして知っている手法や技術を組み合わせて「こんな方法はどうでしょう」と提案するなど、相談をしながら一緒に作っていきます。

──大学で学んだことが生かされていますか?

大学(データサイエンス学部)では、いろんな分析手法を広く知ることができました。私が通っていた大学では、統計・機械学習についての知識・概念を授業で学んで、ゼミで実際の企業のデータを使って実践もするなど、現在の仕事に近いこともしていました。ですが、会社に入ってビジネスの現場に出てみると、データの種類も量も膨大で想像以上でした。システムもたくさんありますし、それらを統合して活用できるようにするプロセスはかなり複雑です。業務をしながら学んで身につけたことも多いです。

── 実践で鍛えられていくんですね。

データサイエンス室内で最新技術の検証をしたり、今使っているツールの中で試したいことをやってみたりしながら、常に新しいことに挑んでいます。技術も日々進歩しているので最新のアップデートについて把握し、知識を応用することは基本動作として常にやっています。


業務理解やコミュニケーションも重要

──データサイエンティストというと、データに向き合って一人でデスクワークをしているイメージが強かったのですが、お話を聞いていると共同作業が多いのでしょうか。

むしろ一人では成り立たない仕事といえます。ダッシュボード一つ作るにしても、使ってもらって初めて効果を発揮するものなので、依頼者が普段どういう作業をしていて、何が大変で、どういうことをしていきたいのかを理解しないといいものが作れません。それにはヒアリング能力が欠かせません。

──どんなコミュニケーションを心がけていますか?

現場の部署との信頼関係を作ることを大切にしています。一緒に考えて方向性を決め、プロトタイプを触ってもらいながら、共に作り上げていくという感覚を持てるようなやりとりを心がけています。企画段階、製作段階、納品して使ってもらった後どうだったのか、結果まで一緒に見届けることは私自身のやりがいにもつながっています。

チームメンバーや他部署との連携なしに、最適なアウトプットは生まれない。
リケラボ編集部撮影

どんな勉強をしておくべきか

データサイエンスに出会ったきっかけと大学時代

──粟野さんはなぜデータサイエンティストを目指したのでしょうか?

実は大学進学前は看護師になろうと思っていました。周りからも「向いていそう」だと言われて、そうなのかなと思って(笑)。でも高校時代に看護師以外の職業についても知りたいと思い、大学を調べる中で、データサイエンス部というものがある大学を知りました。「どんな世界なんだろう」と興味を持ち、調べるにつれてデータの世界にのめり込んでいきました。大学の研究室は産学連携ゼミで、企業と連携して実際の購買データを使った分析や、工場のデータを使った機械学習モデルで異常検知をするといったことに取り組みました。データサイエンティストに近いことをゼミでやっていたことが、そのまま今の仕事につながっています。

──就職先に日清食品ホールディングスを選ばれたのはなぜですか?

同級生がIT業界やコンサルへ行く中、私は消費者に近いモノづくりをしている企業に興味を持ち、メーカーや食品会社を希望していました。日清食品グループがDXを推進していることを企業研究をする中で知り、惹かれました。IT部門では15年ぶりの新卒だったことを後から知りましたが、新人でも責任のある業務をいろいろ担当させていただけたのはありがたかったです。私のあとは、データサイエンス室にも毎年新人が入ってくるようになり、とても活気あふれるチームになっています。

──データサイエンス室のメンバーは、みなさん、粟野さんのように専門的に学んだ方なのでしょうか?

理系が多いという傾向はありますが、新卒もキャリア入社の方もいますし、公募で異動されてきた方、プログラミングはほぼ未経験からスタートという方もいるなど、バックグラウンドはとても多彩です。IT知識やプログラミングスキルは仕事に必須ではありますが、興味さえあれば仕事の中で身につけられると思います。大学で学んでいた分析手法やプログラミングは役には立っていますが、ビジネススキルも仕事を進めるうえで非常に大事だと感じます。人とのコミュニケーションや、資料作成スキル、相手に伝わるように話す語彙力の習得などは、学生時代にもっと経験しておけばよかったと思いました。

──データサイエンティストに最も必要な素養とは何でしょうか。

向上心と、わからないことは聞いて自分の知識にしようと思う能動的な姿勢でしょうか。好奇心や探究心はとても重要で、コミュニケーションのきっかけにもなります。もちろんITの技術も必要ですが、最終的には人間性の部分こそが仕事を続けていく上で欠かせない要素だと感じます。

──今後の粟野さんの目標について教えてください。

最新の技術を確実に自分のものにしていきたいと思っています。と同時に、現場の業務の理解をさらに深めていくことで、よりよい提案、複数提案ができるようになっていきたいと思っています。データは使ってもらわないと価値がありません。でも使ってもらえれば人を動かし、会社の意思決定に影響を与えるなど、ビジネスを動かすパワーがあります。データでより良い貢献ができるといいなと思います。

──最後に、これから就職活動を行う人に向け、メッセージをお願いします。

学生時代はやりたいことが見えない、わからない人は多いと思います。私もその中の一人でしたが、知らない世界だけど「おもしろそう」と飛び込んで今に至ります。人の話やちょっとした興味から広がることは多いものです。そうした「縁」を大切にし、積極的にチャレンジすることで道が開けると思います。

リケラボ編集部より

社会全体でデータドリブン経営 ―これからの企業の生き残りのカギはいかにデータを活用できるかにかかっているといわれる昨今、データサイエンティストの重要性はますます高まりを見せています。データ処理の手法とビジネスの両方に精通する必要がありますが、データとリアル世界をつなぎダイナミックな成果を目指せるやりがいのある仕事です。その過程では、粟野さんがされているような地道な努力やきめ細かなコミュニケーションの積み重ねが大切だということがお話を聞いてよくわかりました。

粟野さんはとにかく前向きなパワーに溢れる方で、技術やビジネスをどんどん吸収して業務に反映しておられる様子がうかがえ輝いていました。血の通ったデータ活用がなされることで、よりよい製品やサービスが生み出されていくと思うと楽しみです。

ご協力いただいた日清食品ホールディングス様、貴重なお話をいただいた粟野さん、誠にありがとうございました!


※所属や肩書などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

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