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理系の職種紹介vol.9 家電の生産技術の仕事について 日立グローバルライフソリューションズ様に聞きました。

理系の職種紹介vol.9 家電の生産技術の仕事

日立グローバルライフソリューションズ株式会社

理系の仕事といっても職種は? 仕事内容はどんなことをするの? 求人募集を見ても、いまひとつ仕事内容のイメージがわかないことってありませんか? 理系の“仕事内容”にフォーカスを当て、実際にその仕事で活躍している先輩に詳しい内容を教えていただく「リケラボ 理系の職種紹介」シリーズ。

第9回目のテーマは『家電の生産技術』の仕事です。

取材にご協力いただいたのは、日立グローバルライフソリューションズ株式会社。

日立グループの中で、冷蔵庫や洗濯機、掃除機などの家電製品、空調機器の販売および製造、エンジニアリングや保守サービスを手がけているのが同社です。今回は、その中でも冷蔵庫やヒートポンプ給湯機を製造している栃木事業所を訪問しました。

インタビューに応じてくださったのは、ホームソリューション事業部 冷熱家電本部 生産技術部 生産技術グループ員の坂田幸司さん(2019年入社)。坂田さんは入社以来、栃木事業所で生産技術グループの一員として、製造設備の開発・設計を担当しています。

家電を製造するには当然設備が必要ですが、新製品に対応した生産設備の設計はもちろん、生産効率の向上のための、たゆまぬ生産技術の開発も重要なミッションです。

ものづくり企業にとって肝ともいえる生産技術の仕事内容ややりがい、最新動向や適性(向いている人)、学生時代にどんな勉強が必要かなど、気になるポイントを伺いました!

日立グローバルライフソリューションズ株式会社
日立グループにおいて、家電製品と空調機器の販売および製造、エンジニアリングや保守サービスの提供を担う。主要製造拠点は栃木県栃木市の栃木事業所と茨城県日立市の多賀事業所で、栃木事業所では冷蔵庫とヒートポンプ給湯機を生産する。デジタル技術を活用したプロダクト・ソリューションの開発にも力を入れている。

リケラボ編集部撮影

生産技術の仕事とは?

◆スマートファクトリーに欠かせない設備の自動化を担当

── 坂田さんが担当されている生産技術とは、どのような仕事なのでしょうか?

製造設備の開発・設計・管理を担います。高品質な製品をできるだけ低コストでお客様に提供するために、生産ラインの品質や生産効率の向上を図ります。

── 特に坂田さんが担当されているのは?

栃木事業所では、冷蔵庫とヒートポンプ給湯機を製造しており、私は主に冷蔵庫の製造設備の設計と開発を担当しています。

お話を伺った日立グローバルライフソリューションズの生産技術職、坂田幸司さん(2019年入社)。冷蔵庫や給湯機の自動化設備の設計開発を担当。
リケラボ編集部撮影

── 冷蔵庫の製造設備の開発とは具体的にはどういうことを開発するのですか?

冷蔵庫製造設備の自動化に取り組んでいます。人が行ってきた作業をできるだけ自動化し、より効率的に製造するための開発です。例えば、冷蔵庫の扉のねじ締めを機械やロボットで行えるようにしたり、機械で梱包作業ができるようにしたりといったことです。

── 今後更なる人手不足が予想されているなか、非常に大切なお仕事ですね。

現在、製造業全体でスマートファクトリーやDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが加速しています。スマートファクトリーとは、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどの活用によって、製造プロセスの自動化(無人化)、生産性や品質の向上などを実現する先進的な工場のことです(参考:スマートファクトリーとは? メリット・デメリットや今後の展望など)。

── 日立さんならではの技術にはどんなものがありますか?

ひとつご紹介するとしたら、栃木事業所では、複数の冷蔵庫機種を一つの生産ラインで製造する「混流生産方式」を採用しています。

── いろんな機種を同時にひとつのラインで作る…そんなことが可能なのですね!

この方式は、小ロットで多品種を効率よく製造できるというメリットがあるのですが、高度なオートメーション技術が求められます。機種によって異なる部品を正確にピックアップして組み付けできるように、ロボットが正確に判断して製品ごとに動作するように設計しています。

混流生産方式の仕組み。一つのラインで複数の機種の冷蔵庫を生産する。単流生産に比べ、多品種小ロット生産に柔軟に対応できることで、在庫削減や多機種適量補充を実現。
(画像提供:日立グローバルライフソリューションズ株式会社)
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── 生活様式の多様化によって、いろんな冷蔵庫への要望がある中、製造方法を進化させることによって、効率的に市場ニーズに対応しているのですね、すごいです!

生産技術の仕事の大まかな流れ

◆工場や品質保証部と連携しながらよりよい生産設備を検討

── 自動化設備を開発する際の大まかな流れを教えてください。

工場内のどの設備を自動化するかは、まず会社が大きな方針を決定します。その方針を踏まえて、実現可能性の検討や、実現方法、使用する機械の選定、設計、組み立て据付、立ち上げを行い、設備稼動後も継続的にサポートするのが生産技術職の役割です。

検討段階では工場の担当者に「この部分を自動化して問題はないか」「ここにこういう設備を置くことは可能か」といった確認やヒアリングを行いながら進めます。また、人が行っていた作業を機械に置き換えた際に、製品の品質に影響が出ないか、品質保証部と確認・協議することも重要です。

検討結果を上層部に報告し、提案内容が承認されると具体的な設計作業に移ります。


◆設計から試運転までを一貫して担当

── 設計から設備の完成まではどのような流れなのでしょうか?

当社では、設備開発は、設計担当と制御担当のペアで行います。私は設計担当なので、求められる設備に対して必要な性能を満たす構造や形状を決め、3DCADを使って設計していきます。また、最適な部品を選定して見積もりを取り、納期に間に合うように手配します。

設計が完成すると、取り寄せた部品を工場で組み立て、試運転に立ち会います。

当社の生産技術職は、設計から設備の立ち上げまで一貫して担当する体制が特徴です。このため、プロジェクト全体を通じて幅広い経験を積むことができ、多くのノウハウを得ることができます。

冷蔵庫の製造工程を示した図。坂田さんが設計した自動化設備は、複雑な混流生産ラインでのさまざまな効率向上に貢献している。
(画像提供:日立グローバルライフソリューションズ株式会社)
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生産技術者として一人前になるまで

◆1年目は勉強、2年目に壁を超え、3年目からは独り立ち

── 入社から現在に至るまで、特に大変だったことや、そこから得たやりがいについて教えてください。

入社後半年程度は補佐として先輩の案件を手伝いながら学び、1年目の終わりくらいから主担当を任されます。私は大学で機械工学を専攻していたので図面作成は経験があり、入社後も大きなハードルはありませんでした。ただ、2DCADや手書きで学んできたため、3DCADは初めて。大学で習っていたことと実際の仕事とは、やはり全然レベルが異なります。業務時間中にひたすら集中して習得していきました。

2年目になると担当案件を持つようになりますが、多くの若手にとってここが一番の壁かもしれません。上司の助言を存分にもらいながらとはいえ、まだ知識が少なく、自分のやっていることが正しいかどうか判断がつかない状態で、検討から立ち上げまでをリードしていくのはなかなか大変です。3年目以降は、担当する案件の難易度が、年次やレベルに関係なくランダムに割り当てられるようになるので、とにかく2年目に必死で努力し、壁を乗り越えておくことが重要です。自信がついたなと思えてきたのは4年目くらい。社内のそれぞれの部署の役割や仕事の進め方を理解したうえで段取りできるようになり、ようやく一人前になれたかなと実感できるようになりました。これまで積み上げたノウハウをもとに、狙った速度を出す工夫や、耐久性を考慮した強度計算など、細かい部分にも配慮できるようになりました。

当社には本当に頼れる上司や先輩が多く、気軽に相談できる環境であることに大いに助けられました。うまくいかずに何度も設計をやり直したこともありましたが、粘り強く取り組むことで大きく成長することができたと思います。

設備設計の具体例

── 実際にどのような設備設計を手掛けられましたか?

たとえば、冷蔵庫の扉を開閉させる機構部品の組み付け自動化です。従来は手作業でネジを締めていた工程を、ロボットアームを活用して効率化しました。この仕組みによって自動化による生産効率向上、品質信頼性の向上及び混流生産で散見されていた部品の取付け間違いが大幅に削減され、同じ生産ラインで複数の冷蔵庫機種を効率的に製造できるようになりました。

冷蔵庫の扉を取り付ける工程。この工程にも坂田さんが設計した自動化設備が導入されている。
(画像提供:日立グローバルライフソリューションズ株式会社)

冷蔵庫外箱の発泡工程。断熱性を高めるための重要な役割を果たす。
(画像提供:日立グローバルライフソリューションズ株式会社)

仕事のやりがいと達成感

── 生産技術職の面白さややりがいについて教えてください。

プロジェクト毎に違う部品や構造を扱えるので、毎回新鮮な気持ちで業務に当たれます。私は設計が根っから好きなので、「こういう部品を使おうかな」「こういう形にしようかな」などと考えているときが一番楽しいですね。

また、自分の想像を形にできるということも、この仕事を気に入っている点です。設備作りは担当者によって考え方や構造が異なり、唯一の正解というものはありません。自分で考えた設備や構造を実際に形にして、それが動くのを見るとき、この仕事の醍醐味を感じます。

検討から立ち上げまで一貫して担い、工場の生産性向上に貢献する。このダイナミックなプロセスが、生産技術の仕事の魅力だと感じています。

── 達成感はどのような時に感じられますか?

自ら設計した設備が要求性能を満たし生産ラインで稼働しているのを確認できた時ですね。検討から設計、組み立てといった長い期間をかけた設備が実際に生産ラインで稼働した時に初めて達成感を味わいます。しかし、要求性能を満たすのはなかなか大変で、他部品との干渉や強度が問題で構想通りに動作せず設計変更したり、要求速度を満たすべくコンマ何秒早めるために改善したりと設備立ち上げ後も苦労は多々あります。だからこそ、それらの要求を満たした設備が稼働しているのを見ると、達成感がより一層大きく味わえます。

リケラボ編集部撮影

求められるスキルや心がまえ、どんな勉強をしておくべきか

◆完成形をイメージする発想力が大事

── 生産技術の仕事に就くには、どのようなスキルや準備が必要ですか?

設計については、大学で機械系の勉強をしていればCADや図面の書き方は学んでいると思います。それらはそのまま仕事で活かせます。3DCADのスキルも必要ですが、研修が用意されているので、仕事を進めるなかで覚えられます。学生時代の専攻が機械系以外の方も活躍していますし、そこまで心配する必要はないと思います。

強いて言えば「機構学」が好きな方は、よい設備を作れているように思います。単に部品を組み合わせるだけではなく、複雑な機構を使った設備を作ることができますし、機構学を駆使した設備は動きもスマートで、カッコいいです。

素養面で特に大切だと思うのは、発想力です。設備は、要求動作を満たし、要求される時間内に作業が完了すれば、担当者が自由に形を作ることができます。そのため、自由度の高い設計には柔軟な発想力が欠かせません。たとえばネジを掴む動作を考える場合でも、どんな部品を使い、どのような動きで掴めるようにするかは担当者次第です。動きや完成形を想像できる人ほど、より良い設備を作れると思います。これは、実際の設計力とはまた別の次元の能力です。日頃から空想や想像を楽しむような人は、この仕事に向いているかもしれません。



◆後工程を考えスタートダッシュに100%の力を注ぐ

── 生産技術職として心がけていることを教えてください。

最初から全力を出すことです。設計期間が2ヶ月あるとしたら、その半分でほぼ完成させる勢いで取り組みます。そうすれば、できた時点であと半分の時間的余裕があるので、上長などの助言をもとに120点の完成度を目指せます。

また早め早めに動くことで、後の工程に余裕を持たせることができます。設計に時間がかかりすぎると、制御担当者は待っている状態になりますし、一番時間がかかる工場での設備の立ち上げに十分な時間がとれなくなります。検討から立ち上げまで、さまざまな部署や担当者が関わる仕事なので、後工程を担当する仲間のことを考えながら仕事を進めることはとても大切です。

冷蔵庫の内装品を取り付ける工程。人手が必要な工程も多いが、自動化設備がその作業効率を支える一部となっている。
(画像提供:日立グローバルライフソリューションズ株式会社)

機械設計と制御設計の両方がわかる生産技術職が理想

── 今後の目標について教えてください。

現在は機械設計担当なので、機械設計のレベルアップのための努力は続けていきますが、一方で制御の勉強もしていきたいと考えています。上司には両方のスキルを持った方もいらっしゃいますし、会社としても両方のスキルを身につけることを推奨しています。自由に設計しすぎていざ動かしたら制御が難しい、なんてことのないように、両方を理解して思い切り自由に設計をしたものをきちんと動かせるようになるのが当面の目標です。

── 坂田さんにとって生産技術の仕事とはなんでしょうか?

「自分の想像を形にできる仕事」です。実際にやってみると大変なこともありますが、自分で考え、設計したものを作って動くのを見ることができるのは、この仕事の大きな魅力です。発想力を活かして活躍したいという人には、ぜひ挑戦してほしいです!

リケラボ編集部撮影

リケラボ編集部より

坂田さんの仕事への真摯な姿勢と、ものづくりを心から楽しむ姿が印象的でした。設備をどう実現するかを追求し、その過程を楽しむ姿勢が伝わってきました。坂田さんが手がけた設備は、工場のスマート化に大きく貢献し、グループ内で表彰を受けた実績もあるそうです。

想像力を駆使して設計したものが実際に工場で動く喜びを感じながら、ものづくりをさらに進化させる、生産技術職の仕事。興味の湧いた方はぜひチャレンジしてみてください。

ご協力いただいた日立グローバルライフソリューションズ株式会社様、そして坂田さん、貴重なお話をありがとうございました!

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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