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生分解性プラ『BioPBS』開発・マーケティング担当者に聞く!化学メーカーの仕事のやりがい 理系のキャリア図鑑vol.20 三菱ケミカル株式会社 渡辺佳那子さん

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海洋プラスチック問題への注目の高まりや、レジ袋の有料化など、社会では脱プラスチックの動きが進んでいます。しかし、プラスチックの存在が私たちの生活の質を向上させてきたのも確かな事実。「なるべく使わないように」と意識するようになったことで改めてプラスチックの便利さを実感したという人も多いのでは?

環境や生物にやさしいプラスチックであれば問題ないわけで、そういう素材開発に携わりたいと思われている読者の方もいらっしゃるかもしれませんね。

そこで今回は、BioPBS™という生分解性プラスチックを開発した三菱ケミカルにお邪魔させていただき、BioPBS™の特徴やこれからの展望、そして仕事のやりがいについてインタビューしました。お話を聞かせてくださったのは、もともと製造・研究の現場で活躍され、現在はサステナブルポリマー事業部にて企画担当に携わる渡辺さんです。

三菱ケミカル株式会社
素材から機能商品まで幅広い分野で多彩なソリューションを提供する総合化学メーカー。人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくことをめざし、Sustainability、Health、Comfortを価値基準としてグローバルにイノベーション力を結集。地球の持続可能な発展に貢献する「KAITEKIの実現」をめざす。

 

1980年代から未来の環境問題を予見し開発をスタート

 
──まず、生分解性プラスチックとは何でしょうか。

生分解性プラスチックとは、ひとことでいうと土中の微生物の働きによって二酸化炭素と水に分解されるプラスチックのことです。

生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの違いについて
 
・生分解性プラスチック…使用後は自然界に存在する微生物の働きで最終的にCO2と水にまで完全に分解されるプラスチックと定義されたもの。
 
・バイオマスプラスチック…再生可能なバイオマス資源を原料として、化学的または生物学的に合成することにより得られるプラスチックと定義されたもの。

この2つのプラスチックの異なる点は、

①分解性に係る機能に着目した点と、原料に着目した点(着目点の違い)
②従来のプラスチックと混錬した際の機能に関しての機能性の保持に関する点

が挙げられます。つまり、バイオマスプラスチックには必ずしも生分解性という機能が備わっている訳ではなく、再生可能資源だということです。同様に、生分解性プラスチックは生分解性機能を持ちますが、分類の中には石油由来のプラスチックを含むため、大別すると再生可能資源とは言えず、その点で必ず一致するプラスチックではないと言えます。また、混錬する際、特に生分解性プラスチックにおいては、従来のプラスチックと混錬する際に生分解性の機能が失われてしまいますので、注意が必要です。

参考:生分解性プラスチックの課題と将来展望(株式会社三菱総合研究所)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html

 
──BioPBS™の特徴を教えてください。

BioPBS™の大きな特徴は、土壌で(低温で)分解できる生分解性プラスチックであることです。生分解性のあるプラスチックは、PLA(ポリ乳酸)やPBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)などがありますが、熱を加えるなどの外部的要因の力を借りて分解するものが多く、扱う工程が増えてしまうことが課題のひとつとして考えられていました。ですが、BioPBS™は常温で土に埋めるだけで水と二酸化炭素に完全に分解することができるようになっています。

 
──植物由来の原料を使った「バイオマスプラスチック」でもあるそうですね。

昨今では植物由来の原料を使ったプラスチックが少しずつ増えてきていますが、我々としては長い時間をかけて、原料自体の研究開発も行ってきました。トウモロコシなどを原料としたコハク酸を原料としたことや、植物由来不純物による製造時のプロセス影響について開発研究を行うことで、生分解性との両立を実現することができました。

 
──長い時間をかけたとのことですが、いつごろから開発に着手されていたのですか?

当社が生分解性プラスチックや植物由来原料を使用するプラスチックの開発を始めたのは、1980年代にまでさかのぼります。その背景としては、バブルで様々なものが作られては消費され……というなかで、原料の枯渇や、ごみ処理の問題が、将来的に大きな問題になっていくことは容易に想像がつきました。その解決となる技術を開発することは化学メーカーの責務だと考えたのです。

 
──40年も前から環境に配慮したプラスチックの開発に着手されていたのですね!

石油由来のプラスチック製品の誕生は、人々の暮らしに多くの利益をもたらしました。一方で、材料である資源が有限だということは、原料メーカーだからこそ早くから認識していたとも言えます。石油以外の原料を使ったもの、なおかつ処分がしやすいプラスチックを開発しよう、と研究を開始したのは必然だったと言えます。

 
──そこから、BioPBS™が形になるまでの道のりはどんなものでしたか?

長い時間はかかりましたが、総合化学メーカーとして培ってきた石化由来の多様な知識や技術を応用することで、「ポリブチレンサクシネート(PBS)」の研究開発を行い、原料の配合や樹脂製造プロセスを工夫することで、生分解性と植物由来原料の使用を両立することができました。この技術は特許を取得しており、バイオプラスチックや生分解性樹脂を開発している同業他社さんや、最終製品をつくるメーカーさんにも注目してもらい協業をするなど、一緒にマーケットを広げていく活動ができるようにもなっていきました。特に2018年以降、海洋プラスチックの問題が世界的にも大きな関心を集め、生分解性プラスチックへの期待やニーズが飛躍的に高まっていることを実感しています。

 
──現時点では、どんなところでBioPBS™が活用されているのでしょうか?

現時点でのBioPBSの活用先は、主に2つに分けられます。

ひとつは農業用の資材です。畑では、水分の上昇を防ぐためにマルチフィルムというビニルシートのようなものを貼るのですが、これをBioPBS™にすることで、使い終えたあとの処分の必要がなくなり、そのまま土に分解されるようになります。廃棄物が出ず、作業負担の軽減にもなるということで、高い評価を得ています。

https://www.m-chemical.co.jp/csr/activities/case1.html

もうひとつは、食品用です。BioPBS™を使った容器であれば、食物残渣が残っていても一緒に土に埋めることで二酸化炭素と水に分解できます。ストローや紙コップ、コーヒーカプセルなどに採用されています。ただ、日本では食品ゴミは焼却処分が基本になるので、コンポスト処理が普及している欧米のメーカーさんからの引き合いのほうが現時点では多いですね。

そのほかにも現在、土壌中での生分解性に加え、海洋生分解性を高めた製品の開発をすすめていて、その素材を用いたショッピングバッグが製品として採用されています。

https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP531981_Q0A330C2000000/

 

いい素材を作るまでが仕事ではない。知ってもらうことの大切さ。

 
──開発中、どんな苦労がありましたか?

新しいものや技術を、一般の方に知ってもらうためにはどうすればいいのかという、マーケティングの面で難しさを感じました。どんなに先進的で素晴らしい素材が開発できても、その素材をどう活かすか、どう製品として成り立たせるかを考え、実現しなければその素材は人々の役に立てないのです。我々は原料メーカーなので、最終製品をつくれるわけではありません。そのため、どのような最終製品であれば環境にマッチし、なおかつ使い勝手がよく、多くの方に実際に使っていただけるのかというニーズを、最終製品をつくるメーカーさんとも細かくすり合わせをしながら熟考してきました。

 
──渡辺さんは、開発から携わり、今はマーケティングの活動がメインでいらっしゃいますよね。

はい。マーケティング、つまり「知ってもらう」ことがこんなに難しいものなのだとは、入社前にはあまり認識していませんでした。入社して数年は石油由来のプラスチックの研究開発に配属され、その後BioPBS™に携わって7年になります。BioPBS™では、開発とマーケの両方を経験しました。研究開発から新たな原料素材を生むことと同時に世の中のニーズに合わせ戦略的に新たな市場を作り上げること、この製品を通じ技術とビジネスの面白さと難しさを痛感しました。素材ができてから、用途の開発を行って普及の道筋を作るまでにも、思いのほか長い時間が必要でした。ようやく、開発側と使用者(世の中)のニーズが合ってきたと実感できるところまでたどり着きました。

 
──画期的でいい素材を創っても、それだけですぐに普及するわけではないんですね…。

そうですね、やはり知っていただく、取り入れていただく活動が大切になります。例えば、日本ではごみは焼却処分が基本です。でもBioPBS™のコンセプトは、土に戻す、つまり循環させることです。プラスチックの原料を、石油からバイオマス原料に代替し、土に戻すことで資源を循環させ、環境負荷も減らす。日本でもBioPBS™を使用したコンポスト処理(微生物の働きによってゴミを堆肥化する処理方法)が一般化すれば、より循環型社会へ近づくはずです。ですが、そのためには、ごみ処理の仕組みも変えていかなければなりません。我々は化学メーカーとして、処理の方法なども含めて循環型社会の実現を目指し、新しい技術の開発や関係各所への働きかけなど、様々な角度からアプローチを行っていくことが大切だと考えています。新しいごみ処理の方法を定めたり、法規制を変える必要なども出てくるため、省庁に向けて積極的に提言したり、すこしずつでも事例を積み重ねてアピールしたりと、行政を巻き込みながら社会をより良い方向へ変えていくための努力をしています。

▽画像タップして拡大

 
──素材を創るまでが役割ではなく、その素材でよりよい社会をつくるために、積極的に行政や一般社会の人々と連携していくところまでが化学メーカーの仕事ということなんですね。それはお話を聞くまでは意識できていなかったです。

 

原料から世の中を変えていく

 
──BioPBS™に携わられてきて、やりがいを感じるのはどんなところですか?

BioPBS™は本当に新しいプラスチック素材で、今後さらに改良を重ねることで、資源問題ごみ問題の解決、SDGsへの達成に大きく貢献できるものです。化学の力で人々の生活をより良いものにしたいと思ったのが、私が化学を専攻した理由であり、化学メーカーで働きたいと思った理由でもありますが、「原料から社会を変えて、大きなイノベーションを起こせる可能性」に、面白さとやりがいを感じています。みなさんの手に届くのは、最終製品としてメーカーさんに形にしてもらったものですが、根本的に何か大きな機能を与えるとなると、やはり原料や素材から変える必要があります。社会へ大きなインパクト、それもポジティブなインパクトを与えられるのが原料であり素材なのです。

正直に言うと私は学生時代には「本当に生分解性樹脂なんて作れるの?不可能なのでは」と思っていました。でも今は現実になっています。これから10年後、20年後にも、現時点では想像もしていなかった技術が確立し、よりよい地球や社会のために活かされていると実感できるようになりました。そういった夢や期待を持ち、なおかつ自分がそこに携わることができるのが、化学メーカーで働く醍醐味だと思います。

 
──生分解性バイオマスプラスチック開発の先駆者として、現在の脱プラスチックの流れにはどのような印象を抱かれていますか?

リユース、リデュース、リサイクルという基本的な「3R」の大切さは、化学業界として非常に重く受け止めています。当社でも生分解性プラスチックの開発と並行して、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルといった、使ったものを元の原料やモノマーまで戻す技術を確立させるための開発にも力を入れているところです。

食べ物をおいしく味わえたり、使い勝手がよく、保存も長くきくなど、プラスチックにしかできない機能がたくさんあります。医療現場でもプラスチックは必要不可欠です。プラスチックは本当に私たちの生活になくてはならない素材です。

限りある資源を有効利用することや、環境負荷の低いプラスチックを開発し、循環型社会に変えていくことで、生活の質を落とすことなく持続可能な社会の実現に貢献する。それが私たち化学メーカーの使命ですし、私がこの仕事を選んでよかったと思っている一番の理由です。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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