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DNAを一本鎖にしてスマートナノマシンに封入成功!世界初の技術が遺伝子治療の新たな可能性を開く。 理系のキャリア図鑑vol.18 ナノ医療イノベーションセンター セオフィルス・アグリオス・トッカリーさん

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多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、やりがいと誇りを持てる働き方を探る「理系のキャリア図鑑」シリーズ。

今回は、2019年10月に論文発表された世界初の技術「二重らせん構造のDNAを一本鎖にし、コンパクトに丸めてスマートナノマシンに封入する技術」に迫るべく、ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)にお伺いしました!取材に応じてくれたのは、研究所内でセオさんの愛称で親しまれている、インドネシア出身の研究員、セオフィルス・アグリオス・トッカリーさんです。

遺伝子治療の幅を広げる画期的な技術の紹介とともに、セオさんのチャレンジシップを感じていただけたらと思います!

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(Innovation Center of NanoMedicine:iCONM)
世界最高水準のライフサイエンス研究クラスターを目指して設立された、川崎市殿町地区「キングスカイフロント」の中心的役割を担う研究拠点。ナノ医療技術によるアルツハイマー病やがんなど、難治性疾患の治療・診断の早期実現のため、産官学でのオープンイノベーションを推進。外国人研究者は3割を占める。
http://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

 

膵臓がんの遺伝子治療の課題を克服する新たな遺伝子キャリアの開発

私は2016年よりiCONMで研究活動に携わり、我々のチームは2019年10月に「1本鎖DNAの作成と、ナノマシンへの封入技術」について発表を行いました。これはiCONMと量子科学技術研究開発機構の共同研究による成果です。

遺伝子を主成分とする遺伝子治療薬は、ある特定の遺伝子を体内に入れ、その遺伝子が作り出すタンパク質の作用によって疾患を治療する先端医療です。遺伝子はタンパク質の設計図。細胞の核の中にある二本鎖のDNAがRNAに転写され、核の外に出てタンパク質へと翻訳されます。この遺伝子発現の仕組みを応用するのが遺伝子治療薬で、薬を作り出すためのDNAを核に入れると、細胞内で薬がどんどん作り出される仕組みです。

しかし膵臓がんなど、難治性のがんにおける遺伝子治療においては、遺伝子を狙った細胞に届けるデリバリーが課題になっていました。我々はこの課題に対して、ナノ技術を用いた世界初の遺伝子治療法の開発に成功しました。

遺伝子治療薬は通常、無害化したウイルスをベクター(遺伝子の運び屋)として利用します。ベクターはサイズが重要となります。例えば膵臓がんの場合、腫瘍巣の周囲に間質組織があり、それが100 nmほどのサイズのウイルスベクターの通過を阻んでいます。つまり、腫瘍巣深部へいかに遺伝子を送達するかがこれまで課題となっていました。

哺乳類に感染するウイルスは約数十万種類があり、その半分はDNAウイルスです。このDNAウイルスのうち、ウイルスベクターとして二本鎖(dsDNA)のアデノウイルスとヘルペスウイルス、一本鎖(ssDNA)のAAV(アデノ随伴ウイルス)が遺伝子治療に最もよく使われているものになります。しかしアデノウイルスは約7000塩基のDNAが搭載できますがサイズが約80 nm、ヘルペスウイルスは約40000塩基搭載で約200 nmと大きすぎます。一方のAAVは約25 nmと小さいのですが、搭載できるDNAが約4400塩基と、アデノウイルスの半分ほどしかありません。そのため、膵臓がんのような難治性がんの組織深部に対して遺伝子治療の効率を最大化するためには、新たな遺伝子キャリアを開発する必要があり、私のボスである片岡先生らが当センター開設時より目指してこられていました。目指す遺伝子キャリアのポイントはまずサイズが50nmより小さいこと、その中に理想として8000塩基ほどのDNAの封入が可能なこと、さらに免疫原性が低く、遺伝子の発現が効果的にできることです。

 

ナノマシンを応用することで、遺伝子を50 nm以下の粒子にパッケージ化することに成功

この新しいキャリアの開発については、非ウイルスベクターについても検討しました。非ウイルスベクターのほとんどは、二本鎖のdsDNAを薬剤として使用します。しかしdsDNAは硬いので、50 nm以下のサイズにするのは難しいことがわかりました。やはり目指すのは一本鎖のAAVのような柔軟性があり、かつ25nm程度のサイズのウイルスベクターでした。

これを解決するために、私たちの研究ではブロックコポリマーを使用しています。二本鎖のDNAを95℃で熱して一本鎖に分離し、静電相互作用によって丸めてナノマシンにパッケージ化したのです。これによってできた高分子ミセル構造がMARU-PM(マル-ポリプレックスミセル)です。サイズはAAVに近い30 nmと小さい上に、これまで不可能とされていた1万1663塩基ものDNAを搭載することが可能になりました。しかもパッケージングに特定の制限がないこともわかっているので、それ以上の搭載でも良好な結果が出ています。さらに、マウスによる実験では、小さく丸めた一本鎖DNAでもがん細胞内で遺伝子発現することが確認され、腫瘍体積の増加を抑えることにも成功しました。他の臓器に対する機能障害も起こさない、免疫原性の低さも確認され、理想としていた新しいウイルスベクターが形になったのです。この成果はインパクトファクターとしても名高い「ASC Nano」にも掲載されています。

難しかったのはポリマーの選択で、これには1年ほどかかりました。ほかにもMARU-PMには一本鎖と二本鎖の2種類のDNAが混在していたため、どちらの有効性が高いのか、発現性の確認などにも手間取りました。しかしこうして発表できたMARU-PMは、これからの遺伝子治療に大きく役立つものと期待しています。

膵臓がんに限らず、身体の他の場所でも組織への浸透についてはサイズ制限があるはずなので、この技術は膵臓がん以外(たとえば脳)にも活用できると期待しています。なおこの技術は、発現機構の解明のために引き続き研究を行っていきます。

 

ポリマーに魅せられて留学し、ナノ医療イノベーションセンターへ入所

私は父親も化学の研究者で、幼い頃からラボに遊びに行ったりして、化学に親しんで育ちました。インドネシア大学の理学部化学科を卒業し、ポリマーについて研究を深めようと、2008年、当時教授であった片岡一則先生に学ぶため、東京大学大学院工学系研究科のマテリアル工学専攻に入ります。ここでは片岡先生のラボでポリマーを使ったバイオ実験などを手がけました。2015年に片岡先生がこのiCONMのセンター長になられたのをきっかけに、私もこの研究グループに参加することになりました。医療や医薬品の世界に関わることは当時想像していませんでしたが、ポリマーが生体適合性を有しており、生物医学において多くの用途を見いだせる点を興味深いと感じたのが、参加の理由の一つです。

私にとってポリマーはずっと興味の対象でした。物理構造によって化学的特性を微調整できるポリマーそのものや、その用途についてずっと情熱を傾けて研究してきました。院生時代はポリプレックスミセル中にパッケージングされるDNAの構造について研究していました。ポリマーの種類によってポリプレックスミセル構造がどのように形成されるかの解明を行い、それらの物理的性質の違いと、その性質がどのように遺伝子キャリアとしてのパフォーマンスに影響するか、特にポリプレックスミセルを保護するシェル構造に焦点を当て、血管内に投与したときの血中循環時間とシェル構造の相関を明らかにしたのが研究の成果で、この研究が今回発表した技術にも活きています。

 

ナノ医療イノベーションセンターでは、さまざまな専門家と一緒に研究できる

現在は引き続きこのMARU-PMについて追究するとともに、mRNAワクチンの研究も行っています。もともとの専門は化学でしたが、生物や医薬品など、さまざまな方向に自分の研究分野が活かせるようになるとは想像もしていませんでした。化学・工学・医学の融合により、人体に有用な医薬品ができます。そのためには化学以外の勉強の必要があり、とても苦労しました。しかし自分たちの研究が難病を治療することができると思うとやりがいに感じるし、それこそがこのセンターの存在意義だと思います。

このセンターのプロジェクトには、医学や工学、生命科学など、いろんな分野に長けた専門家が集っており、そうした人たちと共同研究できるのがいいところだと思います。研究の設備も整っていて、一つの建物の中に事務作業のできる居室、生物系実験、材料評価、合成系実験、クリーンルームといったものが一通り揃っているので、いろんなことがスムーズにできます。また、ワンコインパーティやクリスマスパーティなども企画され、他分野の人と交流の機会は刺激にもなります。そんな環境の中でこれからも研究を発展させていきたいと思います。

 

<就活生へのメッセージ>

就職でより多くの機会を見つけるためには、まず自分の行っている研究の全体像を見ることが重要だと思います。具体的なアドバイスをすると、現在の労働市場で求められているスキルにどのようなものがあるのかリストアップするなど、情報感度を高く持ってください。そして就職活動の際、自分がそのスキルを持って応募できるようになっていることが大切です。私は大学の研究室のつながりで就職しましたが、院生時代には企業の求人情報にも目を通していました。日本語で面接をすればどんなことを聞かれるのかを知りたくて、応募して面接を受けたこともあります。実際に面接を受けてみると、自分に何が足りないのかもわかりました。今、そして近い将来の世の中で求められていること、研究分野、スキルは何か?を意識しながら学生時代を過ごすことは、生きていくうえでとても重要なことだと思います。

 

<編集部より>

自分のやりたい研究ができるところであれば、どこにでも行きます!と目を輝かせるセオさん。自分で自分のキャリアを切り拓いていくという意欲に満ちあふれていました。

海外から優秀な研究者が多数集まり、お互いに刺激しあいながら良い研究ができたら、研究の現場はもっともっと活性化していきますね。そのためには、日本でしかできない魅力的な研究テーマや魅力的な研究環境を増やすことが必要ですが、それを世界にわかりやすくアピールしていくことも忘れてはならないと思わされました。

セオさんの今後ますますのご活躍を応援しております!

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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