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たった1mlの尿でがんを早期発見できる画期的な検査で、人の役に立ちたい!理系のキャリア図鑑vol.15 Icaria(イカリア)株式会社 髙山和也さん(がん検査のための研究開発)

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多種多様な理系社会人のインタビューを通じて、理系の理想の働き方を探るシリーズ。

今回話を伺ったのは、Icaria株式会社の髙山和也さん(中途入社・入社1年目)。名古屋大学発のベンチャーであるこの企業は、尿によって「無痛・高精度・早期」ながん診断技術の実用化を目指して設立されました。髙山さんは大学院を出たあと一度教師になりますが、自分の研究してきたことを実用化して広く社会に還元したいと、転職を決意。Icariaに入社しました。

研究拠点は名古屋にあり、研究グループでは、独自デバイスを用いて尿から生体分子のエクソソームを捕捉するための研究開発を行っていますが、髙山さんはエクソソームから抽出されるmiRNA(マイクロRNA)に関する研究を担当しています。Icariaではがんの早期発見サービスを2020年中に展開することを目指しています。この技術は「大学発ベンチャー2019」においても表彰を受けました。その内容を伺いつつ、髙山さんの研究者の道を選んだ理由もお聞きしました。

 

Icaria株式会社
「人々が天寿を全うする社会の実現」をミッションに掲げ、2018年に創業した名古屋大学発のベンチャー。尿検査による高精度ながん早期発見の実現化に向け、たった1mlの尿からその中にある生体分子(miRNA)を捕捉し、10種類以上のがんを高精度で早期発見する検査手法の開発と、サービスの実用化を目指している。この研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構および、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が主催する「大学発ベンチャー2019」において、「新エネルギー・産業技術総合開発理事長賞」を受賞した。
https://icariacorp.com/

 

理科の教師から大学発ベンチャー研究職へ

私は大学時代、遺伝子の働きについて基礎研究に取り組んでいました。発生生物学に興味を持ち、卵と精子が受精して身体がどうできていくのかというメカニズムが面白く、博士課程までの合計6年間を遺伝子の研究に費やしました。細かいところを突き詰めていくのが基礎研究。私には面白かったのですが、一方で世の中にはなかなか還元しにくい分野でもあります。就職を考えるようになったとき、自分がやってきたことを少しでも役に立てて活躍できる場所はないかと思いました。ちょうどその頃教師にならないかという声がかかります。生徒に生物への興味を抱かせることができれば、世の中のためになるかもしれないと思い、教育の場へと進むことを決断しました。

2018年から高校の生物教師として働き始めますが、実際に教師になってみるといろんな限界も感じました。生物の授業以外にも多岐にわたる仕事があり、次第にここでは自分の理想としていることを実現するのは難しいと、転職を考えるようになりました。いろいろな情報を集めていたところ目に入ったのが、尿を使った非侵襲的で高精度ながん検査についての研究を行っているIcariaのHPです。大学院では研究に集中していましたが、結果を社会に還元したい想いは強く持っていました。そこで、具体的に研究成果をサービスにして提供していくというベンチャーや事業会社はいいのではないかと感じ、入社することになりました。

 

尿中のエクソソームを捕捉する画期的な技術をがん検査に活かす

Icariaでは非侵襲な尿による、高精度ながんの早期発見を目指した検査の開発を行っています。日本における死因の第一位ががんとなってから30年以上たちますが※1、今でも罹患数は増加し続けており、2019年には、日本国内の2人に1人が生涯のうちにがんに罹患するというがん研究センターの統計予測も出ています※2。しかし現在のがん検査は精度が低く、見落としや偽陽性と判定されることが多いという課題がありました。しかもがん検診を受ける人は内閣府の調査で約50%と半数程度※3。理由としては痛みを伴うなど、侵襲的な検査が忌避理由とされている面もあります。

我々が尿を検査に使うのは、単に非侵襲的だということだけが理由ではありません。尿や血液などの体液中には細胞外小胞体(エクソソーム)が存在し、それを捕捉する必要がありますが、尿の方が不純物も少なく、より効率的に捕捉できます。エクソソームの中には疾患の発症や悪性化に深く関与する、miRNAが含まれています。このmiRNAは、重要なバイオマーカーであるとして近年注目されていますが、これまでは効率的にエクソソームを捕捉する技術が確立されていませんでした。そんな折、2017年に名古屋大学大学院らの共同研究グループが、ナノワイヤデバイスを用いて尿の中のエクソソームを高効率で捕捉する新しい技術を開発しました。我々はその技術を元に、1mlの尿からエクソソームを大量に捕捉する技術を確立しました。この技術を生み出した名古屋大学の安井隆雄准教授(共同創業者)に、Icaria立ち上げ時からアドバイスをいただきながら、エクソソーム捕捉やmiRNA抽出方法の精度向上などを進めています。

 

独自技術によるナノワイヤによって高い確率でエクソソームを捕捉し、多数のmiRNA検出が可能に

Icariaのテクノロジーとして他を圧倒するのは、剣山のように多くの酸化亜鉛ナノワイヤを生やした、デバイスの作製技術です。デバイス内に尿を導入し、静電相互作用によってエクソソームを捕捉します。人間のmiRNAは2000種類以上あるとされており、そのうち従来の技術では200〜300しか検出できませんでした。私たちの研究グループでは、このデバイス作製と、捕捉したエクソソームからmiRNAを抽出する手法について改善を重ねてきました。現在は初期段階より安定して結果を得られるところまで精度が高まっており、1300種類ほどのmiRNAが検出可能となっています。他の研究グループもさまざまなやり方でエクソソームの捕捉に挑んでいますが、捕捉率については現在、我々のグループが世界でも類を見ないレベルとなっています。こうして得られたmiRNAは機械学習で発現パターンを解析し、疾患と関係の深いmiRNAを特定するといったことを行い、10種類以上のがんを高精度で早期発見する検査として提供しようとしています。また、miRNAはがん以外の疾患においても機能していることがわかっているので、さらなる応用も視野に入れています。

名古屋には6名のスタッフが在籍し、私はmiRNAに関するバイオロジー分野、もう一人の研究者がデバイス分野の研究を担当し、残りの4名がこれをサポートする形で研究開発を進めています。サービスとして展開するには、高精度なmiRNAの検出が可能で、かつ性能が安定したデバイスを大量生産する必要があります。調べたことと実際の実験では違うこともあり、知見がないところからの研究は予想通りにいかないことも多々ありました。しかし安井准教授にアドバイスをいただきながら研究を進め、なんとか先が見えてきました。予想しないデータが出て落ち込むこともありましたが、人の役に立てるものになってきたという安堵も日に日に増してきています。

 

自分の研究が進んで良いサービスになれば、多くの人のためになる

大学では遺伝子の研究をやってきましたが、今はそれを活かしているだけではなく、デバイス研究に携わることでこれまで以上の広い知識や技術を得ることができました。それに、サービスを展開するための開発期間やコストを意識し、マーケティング戦略などについても関わることになり、これも新鮮な体験となっています。

大学にいるころは自分の興味をとことん追求していて、論文さえ書ければという気持ちが強かったと思います。しかし学位を取ってそれで終わってしまうような研究はしたくないという気持ちもありました。今は興味のある分野で世の中に還元できる研究内容に取り組めています。自分で実験計画をたて、必要試薬や機器類を選定しながら研究を進めていますが、自身で考え、実行していく力はベンチャーゆえに必要だと思います。しかしその分、いろいろな場面で意見が反映され、研究を進めていくことができる、醍醐味もあります。研究が進んでサービスをよりいいものにできればがん患者のためになり、命を救うということにつながっていきます。こうした使命感を得られるIcariaを選んで、私は良かったと思っています。

 

<就活生へのメッセージ>

まずは自分の興味を大事に、就職先を見つけて欲しいと思います。やりたいことを実現しやすい環境や待遇はやりがいにつながるので、とても大事です。

私がいる業界は変化がものすごく早いです。そういう意味では地道に研究をするだけではなく、前に進んでいこうとするプラスアルファがなければいけません。向き不向きはあるかもしれませんが、世の中に何か還元したい、役に立ちたいと思う気持ちが強ければ、きっと活躍できると思います。規模が小さな分、自分が必要だと思う環境を整えやすく、やりたい実験や解析もやりやすいと思います。ベンチャーに抵抗を持つ人もいると思いますが、技術の開発者と密接につながりながら研究を進められ、また制約の少ない環境で仕事ができるので自由度が高く、充実感があります。ぜひ一緒にこの研究に取り組んでいける人をお待ちしています。

 

<編集部より>

博士号取得後にアカデミアに残るか就職するかは、多くの博士にとって重要な人生の分岐点。民間への就職希望者が増えてきたとはいえ、ベンチャーを第一選択肢にあげる人はあまり多くありません。しかし大学発ベンチャーは実用化研究のために設立されることがほとんどで、研究に集中できる環境となっています。大手企業は経営の安定、潤沢な研究資金がありますが、一方で複雑な意思決定プロセスや、経営判断による研究テーマの変更など適応すべき構造もあります。どちらがいい悪いということではなく、どちらの舞台の方が自分の目的が果たせるか、輝けるかを判断基準にされるとよいと思います。

今回ご紹介した髙山さんのように、研究成果を社会に還元したいと考えているドクターにとって、大学発ベンチャーは魅力的な選択肢であることは間違いありません。リケラボではベンチャーで活躍する博士の事例を他にもご紹介しております。ご自身の将来を考える上でご参考にしていただければ幸いです。

 

※1‥平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/index.html

※2‥2019年のがん統計予測
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html

※3‥がん対策に関する世論調査(がんの予防・早期発見について)
https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-gantaisaku/2-2.html

 

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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