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理系のキャリア図鑑vol.4 株式会社サンギ 兼子謙一さん(製剤開発)「基礎研究への“こだわり”を一旦しまうことで見えてきた、自分が本当にやりたい仕事」

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世の中には、理系の道に進み、働き、活躍しているさまざまな人がいます。そして、今の仕事に就くまでの道のりやキャリアに対する考え方は人それぞれです。実際に現場で活躍する方たちのお話から、やりがいと誇りを持てる“働き方”について、ヒントを見つけていきましょう。

今回は、株式会社サンギの製剤開発部で働く、兼子謙一さん(中途採用・入社2年目)にお話を伺いました。オーラルケア分野の新商品開発や、DDS(ドラッグデリバリーシステム=薬物伝達システム)の研究に携わる兼子さん。医学博士でもあります。サンギに入社するまでに、化粧品会社や広告代理店など、業種・職種にとらわれずさまざまな仕事を経験してきました。初めは基礎研究志向だったと語る兼子さん。今は企業での研究開発職の仕事を心から楽しんでいるそうです。どのようにして心から納得できる今の仕事に巡り合えたのでしょうか?

株式会社サンギ
リン酸カルシウムの一種である「ハイドロキシアパタイト」を基軸に商品を開発・販売。美白高機能歯みがき剤の「アパガード」シリーズをはじめとするオーラルケア製品のほか、歯科材料、DDS(ドラッグデリバリーシステム/薬効成分の患部への運搬手段)、触媒、抗菌剤、食品、化粧品等、様々な分野に応用可能なアパタイトの性能を最大限生かすための研究・開発を行っている。
http://www.sangi-co.com/

 

商品開発と応用研究の両方を担当 業務の掛け持ちも良い気分転換に!

現在は、製剤開発部に所属し、新製品の開発と、DDSに関する応用研究の2つをメインにやらせてもらっています。

製品開発では、主力製品である歯みがき剤「アパガード」などに用いられるハイドロキシアパタイト(人の骨の60%、歯のエナメル質の97%、象牙質の70%を占める物質)を配合したオーラルケア製品の開発をメインに行っています。私は、そのなかでも、特に新しい形のオーラルケアを提案できるような製品を開発することをミッションとしています。

製剤開発は、原料の機能や相性に基づいて配合を考え、工場での大量生産に対応できる処方を設計するまでが仕事です。よい原料が見つかっても、混ぜてみると期待した効果やフレーバーが思うように出なかったり、工場のスケールで作ると条件が変わってきたりするため、何度も修正や微調整を行います。また、その原料が市場でどのように評価されているのかに着目する視点も欠かせません。お客様に安心して使っていただけるものを作るには、土台固めがとても大切です。当社では、さまざまな文献や市場調査に加え、自社の試験データから得られたエビデンスを重視した、説得力のある製品づくりを大切にしています。

今手掛けている製品は、まだ開発初期で、そのぶん自由に考えられることも多い段階です。将来的に当社の柱となるような製品にしようと、いろいろな可能性をワクワクしながら検討しているところです。

DDSプロジェクトでは、ハイドロキシアパタイトが薬を送達する機序について解析しています。ハイドロキシアパタイトで薬をコーティングすることにより腸での薬の吸収効率が上がったり、副作用が少なくなったりするという研究結果はすでに当社の先輩によって発表されているのですが、「どうしてハイドロキシアパタイトにそんな作用があるのだろう?」という点ではまだわかっていないことも多いんです。ハイドロキシアパタイトは、歯や骨の構成成分のため、生体になじみが良いことが知られています。でも、たとえばハイドロキシアパタイトに多く含まれるカルシウムを薬に混ぜても、吸収率が上がるかというと上がりません。では、「どうしてハイドロキシアパタイトには、薬の吸収をアップさせる働きがあるのだろう?」その機構解明のための研究を進めています。

新製品の開発とDDSプロジェクトの応用研究は、考え方や進め方が全く違う性質の仕事なので、うまく切り替えながら並行して進めています。

普段の業務は、会社や部署の大きな目標や期間設定に基づき進めますが、個人の裁量で進めさせてもらえる部分も大きいと思います。自分でスケジュール管理をしながら仕事を掛け持ちするのはもちろん大変なこともありますが、私としては複数の業務を行ったり来たりすることで、良い息抜きになると感じています。片方が行き詰まってしまったときに、もう一方の仕事をすればリフレッシュになり、アイディアが浮かぶこともあるのです。フレキシブルにいろいろな仕事を担当させてもらえるのは、研究開発型のコンパクトな組織ならでは。私はもともといろいろなことに興味を持つタイプなので、今の業務スタイルは自分に合っていると感じています。

 

生物に興味を持ち、発見することが喜び。
基礎研究志向でした

こどものころから「ファミコンの中身はどうなっているんだろう?」と気になったり、いろいろなもののしくみや構造に興味を持つことがよくありました。はっきりと「理科」に興味を持つようになったのは、中学校の先生の授業がわかりやすく楽しかったことから。なかでも生物系の分野に面白さを感じて、進路を決めるときに理系を選択。大学は理工学部のバイオサイエンスの学科へ進みました。大学の研究室では、天然物から薬のもとになるいわゆる「シード化合物」を見つける研究をしていて、私は、昆虫に寄生して「冬虫夏草」というきのこの一種を生み出す菌から有用な物質を抽出することに取り組みました。生物系の分野のなかでも医学や薬、とくに感染症の分野に興味があったことから、夢中になって研究していたのを覚えています。誰も気づいていないことを発見する喜びは「宝探し」に似ていて、非常に楽しかったですね。

その流れで、さらに勉強を続けたいと思い当時の恩師に相談をしたところ、北里大学で抗生物質の研究をしている先生を紹介してもらい、大学院へ進みました。それまでは「新しい薬を探す」研究をしてきましたが、大学院では「なぜ薬が効かなくなるのか」という視点で、薬剤耐性菌の研究をすることになります。大学での研究内容からはやや離れた領域にジャンプして細菌学や免疫学について学んだことで、感染症についての知見をより深められたと思っています。

大学院では、細菌学的、分子生物学的な手法を用いて臨床から分離された細菌の耐性機構を明らかにしました。また、細菌の薬剤耐性化と生体の炎症反応がリンクしていることを発見しました。それから細菌に対する生体反応のしくみをもっと深く解明していきたいと考えて、つくばの産業技術総合研究所(産総研)に移り、細菌と腸管免疫の相互作用を研究しました。

 

研究機関から化粧品会社へ
企業経験を通じて得た気づき

産総研では多くの技術や知識を学ばせてもらい、「このまま基礎研究でやっていくぞ」と軌道に乗り始めていた矢先に、突然の転機が訪れます。産総研に入って8ヶ月ほどで、化粧品会社へ転職することになったのです。これは両親が病気になったことがきっかけでした。私は一人っ子で、当時は契約職員としての雇用だったこともあり、安定して収入を得られるよう、急いで企業への就職活動をしました。初めは、医学の知識が活かせるメディカル業界での仕事を考えていましたが、化粧品会社で働いていた友人から「研究員の枠が空いているけれどどう?」と、声をかけてもらいました。自分の手を動かして研究に携わりたいという気持ちがあったので、これもご縁と思いそのまま入社させてもらうことにしました。

化粧品会社では、基礎研究の経験を活かして、有効性評価や原料開発を担当しました。また、皮膚科医の先生との共同研究として、ニキビ治療に関する研究にも携わらせてもらいました。正直なところ、はじめはアカデミアと企業の違いを感じ、基礎研究のキャリアを断念したことに落ち込むこともあったのですが、与えられた環境で精一杯働いているうちに、「基礎研究も企業での研究も本質的にはつながっている」ということがはっきりとわかってきたのです。手技や専門知識そのものよりも、学位を取る過程で得たもの……たとえば、論理構築の際の「ものの考え方」や「データの見方」といった思考力が何よりの財産なのだと気づきました。目が覚めるような思いでした。

それからは、「これまで自分がやってきたことを1回忘れてみてもいいんじゃないか」とまで思うほど、いい意味でこだわりがなくなりました。この気づきは私の視野をぐんと広げ、その後のキャリアにも大きな影響を与えてくれたと感じています。

 

キャリアチェンジを経て視野が広がり、軸が定まった

5年半ほど化粧品会社で働いたころ、やっぱり両親の状態が思わしくなく、実家から通勤しやすい仕事を探すことになりました。化粧品会社で視野が広がった経験もあって、今度は職種にこだわらず、転職サイト上で自分の経歴をオープンにして、オファーを待ってみることにしました。そこで声をかけてくれたのが、医療現場で使われる薬を専門に扱う広告代理店。医学の知識を活かしたメディカルコピーライターとして働くことになりました。主な業務内容は、医師や患者さんに対して薬の効果やエビデンスをわかりやすく伝えるための販促資材を制作したり、新薬のキャッチコピーを提案させてもらうこと。医療従事者やクライアントの製薬会社と学術面でわたりあえるようさまざまな薬についてとことん勉強する必要があるため、好奇心や知識欲を満たしてくれる仕事でした。クライアントの期待に応えるためにどん欲に働きましたね。自分が提供しているのは「薬の情報を正しく伝えるための問題解決」であり、ソリューションを提供することは研究と通じている、とここでも地下水脈のつながりをつかむことができました。

3年ほどがむしゃらに働いたところで、改めて自分の中に“ものづくり”への想いがあることに気が付きました。広い意味でとらえれば広告代理店での仕事もものづくりでしたが、私の場合は自分の手を動かしてなにかをつくり出し、それによって社会貢献したいという思いが軸にあったのです。正直なところ、年齢やキャリアから考えて、これから研究開発職に戻るのは難しいのではとも思いました。でも、チャレンジしてみないと始まらないと、転職サイトで経歴を公開。サンギからオファーをもらうことができました。ご縁を感じてそのまま面接を受け、入社させてもらえることになったんです。社長との面接では、気さくに研究開発について意見を交わしてもらえ、社内の風通しのよさが伝わってきたことも、ここで働きたいと思えたひとつのポイントでした。

今、ものづくりに再び携われるようになって、手を動かして研究する大変さを久しぶりに味わうことも多いです。でも、自分のやりたいことなので苦には感じていません。

△製品評価に使う“牛の歯”を加工しているところ

このように、私の場合、これまでのキャリアチェンジは決して前向きなきっかけによるものばかりではありませんでした。それでも、何回かの転職を経験したことで仕事に対する見方が広がって、「ものづくりをしたい」という軸も定まりました。あのまま基礎研究一本の道を進んでいても幸せな道は歩めたと思いますが、私の場合はいくつかの仕事を経験したことで、より満足感のある幸せな道を歩めるようになったと感じています。

 

こだわりを「捨てる」のではなく「置いて」みることで、本当に自分が満足できる仕事に出会える

私が、理系の学生さんや若手社会人のみなさんに提案をさせてもらうとしたら、「視野を広く持ってみて」ということです。もちろん、「就職しなければいけない」「内定をもらわなきゃいけない」という切羽詰まる気持ちもわかります。そんなときに、あえて一度気持ちを楽にして、自分自身を解放してみてください。「本当に大事なこと、自分が満足できることは何?」と見つめ直して自分のやりたいことの本質を見極めることができれば、ヒントが見つかるかもしれません。私のように「基礎研究じゃなきゃだめなんだ」と最初は思っていても、よく考えてみたらほかにも自己実現できて幸せになれる道があった、ということは十分ありえます。たとえば、研究を通して「問題を解決すること」が好きなのであれば、コンサルタントや提案営業なども向いていると思います。本来、何かにこだわるという強い意志は立派な才能だと思います。ですから、こだわりを「捨てる」のではなく、一回「置いて」みて、自分自身や周りのことを広く見てみるのが大切かなと思います。幸せに生きられるかどうかは、自分の気の持ち方次第。それまで積み上げてきたものを活かせるかどうかも考え方次第です。私自身も一時期悩んだ経験があるからこそ、このことをみなさんに伝えたいと思います。

そして、ぜひ“ご縁”は大事にしてください。これは私自身が大学院の恩師によく言われていたことでもあります。私も、友人からチャンスをもらったり、オファーをいただいた企業とご縁を感じながら歩んできた結果、今があります。ひとつひとつのつながりを大切に持ち続けていけば、チャンスを得られる機会も増えるはずですよ!

 

編集部より

人生は思い通りにいかないことが多いもの。どんなに能力があっても、家庭環境や病気・災害……など予期せぬ出来事に遭遇して、思い描いていたキャリアを歩めなかった人の方が、実は多いかもしれません。兼子さんもその一人として、ご自身の経験を飾ることなくお話ししてくださいました。「一見直結していないものも、よく見てみると実は機構でつながっている」。常に物事の本質を見つめていると、そこに大きな地下水脈を発見でき、視界が開け、気持ちもぐんと明るくなるのですね!

今まさにご自身の専門の追究にまい進している方、ちょっと行き詰ってしまっている方。時々でいいので、パソコン画面から顔を上げるようなイメージでちょっと周りを見渡してみてください。専門以外のことも前よりずっと味わい深く理解できるようになっているご自身にきっと気がつくはずです。

みなさんが本当に満足できる仕事に巡り合えることを心から応援しています!
※「理系のキャリア図鑑」シリーズは、「まだまだ見つかる!理系シゴトに進む道」を改題しました。

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