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前項で概説したように、RNA干渉は哺乳動物の細胞内にもともと備わった遺伝子発現調節機構です。細胞内に特定のmRNAとアニールするsiRNAが存在すると、これをきっかけとしてドミノ倒しのように標的遺伝子の発現阻害が誘導されます。このシステムを拝借する、つまり、ある特定のmRNAとアニールするように設計されたsiRNAを合成して、これを細胞内に導入することで、特定の遺伝子の発現を人為的にオフにすることが可能になります。
ここでは、哺乳動物細胞内でRNA干渉を人為的に誘導する技術について概説し、これを実践するうえでの一般的な手順と注意事項を説明します。
1. siRNAを設計する:
siRNAは自身の塩基配列と相補的な配列をもつmRNAにアニールして、その遺伝子発現を阻害します。有効なsiRNAを効率よく設計するためには、下記の注意点を踏またうえで、siRNA設計ツール(siDirect)や外注によるsiRNA設計サービスを使用することが推奨されます。
- 発現の阻害を目的とする標的遺伝子の塩基配列を特定し、標的遺伝子と相補的な配列をもつ21-23ヌクレオチドのsiRNAを設計する。一方で、目的外のmRNAに意図せずにアニールすること(オフターゲット)を避けるため、siRNAの配列が細胞内の目的外遺伝子と相同性がないことを確認する。
- 設計したsiRNAの配列と相補的な配列をもつ1本鎖RNAを同時に設計する。この両RNA鎖をアニールさせた2本鎖のdsRNAを人工合成する。このdsRNAは、それぞれの鎖の3'末端にオーバーハング(2-3ヌクレオチドの余分な塩基)を含むように設計する。
- siRNAが分子内アニールによって自己環状化し、ヘアピン型構造を形成することを防ぐために、21-23ヌクレオチド内に相補配列箇所を含まないように設計する。
2. siRNAとして機能するdsRNAを人工合成する:
設計したsiRNAおよびその相補鎖を人工合成します。これらのRNA鎖をアニールし、dsRNAを形成させることで、1本鎖RNAの状態に比べて安定化することができます。HPLCなどの高純度精製法で合成されたRNA鎖からなるdsRNAは、外部委託などによって入手することができます。
3. dsRNAを細胞内にトランスフェクションする:
プラスミドDNAのトランスフェクションと同様の方法で、dsRNAを細胞内に導入します[参照:プラスミドDNAのトランスフェクションの頁]。リポフェクションやエレクトロポレーションなどの導入法を用いる際も、RNAはプラスミドDNAと比べて極めて不安定な分子であることを念頭に置く必要があります[参照:RNA実験の頁]。細胞内に導入されたdsRNAが1本鎖に解離することで、細胞内へのsiRNAの送達が達成されます。
4. 標的遺伝子の発現阻害を検証する:
- siRNAの導入によって、標的遺伝子の発現が特異的に抑制されていることをリアルタイムPCR、ウェスタンブロット、免疫染色などの方法によって確認します。この際に、siRNAを導入していない細胞に比べて、目的のsiRNAを導入した細胞では標的遺伝子の発現が阻害されることを確認し、これと同時に、標的mRNAとアニールしないsiRNAの導入(対照実験)では標的遺伝子の発現が阻害されないことを確認します。
- siRNAによる発現阻害を介して標的遺伝子の機能解析を行う際には、1つの標的遺伝子に対して、異なる塩基配列をもつ複数種類のsiRNAを設計し、これらを独立に導入した細胞間で同等の実験結果が得られるか検証します。これにより、オフターゲット効果が意図せずに結論に影響することを避けることができます。
分子生物学、遺伝学、医学さらには農業や環境保全といった、あらゆる分野で革命的な進歩をもたらしてきたRNA干渉。本稿を参考にその仕組みを理解し、自分の手で実践することで、生命科学を基盤として社会にさらなる革新を起こす「芽」が養われることでしょう。
*監修
パーソルテンプスタッフ株式会社
研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)
研修講師(理学博士)
この記事は、理系研究職の方のキャリア支援を行うパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)がお届けする、実験ノウハウシリーズです。
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