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葉緑体の仕組みを半導体で再現、世界初、の快挙を達成し、人工光合成の実用化へと突き進む。阿部竜教授を突き動かす「世の中を救いたい」想い

葉緑体の仕組みを半導体で再現、世界初、の快挙を達成し、人工光合成の実用化へと突き進む。阿部竜教授を突き動かす「世の中を救いたい」想い

光合成とは、植物が光のエネルギーを使い、水と二酸化炭素を原料として酸素と糖などの有機物をつくりだす反応です。光合成のおかげで、生物のエネルギー源となる有機物がつくられ、また生物に欠かせない酸素も供給されています。この植物の葉緑体の中で行われているプロセスを応用して、新たなエネルギー創出につなげる――。これが京都大学大学院工学研究科の阿部竜教授の研究テーマです。

創り出すエネルギーは、水を分解して得られる水素です。燃料としての水素は貯蔵や輸送ができるうえに、水素と二酸化炭素を使って化成品の材料となる炭化水素をつくることもできるのでカーボンニュートラルにも大きく貢献できます。日本が世界をリードする光触媒の基礎研究の中でも、阿部教授は、植物の光合成の仕組みを模倣し、可視光だけを用いて水を水素と酸素に分解することに世界で初めて成功、その成果を論文として発表しました(※)。それから四半世紀を経て、いよいよ本格的な人工光合成への道が見えてきています。

※「A new type of water splitting system composed of two different TiO2 photocatalysts (anatase, rutile) and a IO3/I shuttle redox mediator」(Chemical Physics Letters、2001)

水を太陽光エネルギーで分解し、水素をつくる

── はじめに人工光合成が、どのようなものなのか教えてください。

阿部:ひとことで説明するなら、太陽光エネルギーを使って燃料となる水素や資源となる炭化水素類をつくり出す技術です。植物の光合成では太陽光エネルギーを使って、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から酸素と糖などがつくられています。この光合成は実は、水から酸素と高い還元力を持つ電子をつくりだす明反応と、この高い還元力を利用してCO2から糖などの有機物をつくりだす暗反応に分けられます。人工光合成の研究は主に2種類の反応が検討されていて、ひとつめは太陽光エネルギーを使い、水を分解して水素と酸素をつくり出すものです。もうひとつは、水とCO2から炭化水素などを直接(暗反応を使わずに)合成するものです。できた水素を燃やせばエネルギー源として使える一方で、炭化水素などは新たな資源となります。太陽光のエネルギーを活用する手段としては、もちろん太陽光発電があります。太陽光発電は、太陽光のエネルギーを電気エネルギーへ変換する仕組みです。これに対して人工光合成では、太陽光のエネルギーを水素などの化学エネルギーに変換して貯蔵します。さらに、必要なときに燃料電池の燃料として利用できるほか、CO2や窒素(N2)と反応させることで、さまざまな有用化合物へと変換できる点が大きなメリットです。

燃料として使えるほか、肥料や化成品の材料としても使える水素
https://www.ehcc.kyoto-u.ac.jp/eh41/home/abe/research2/より
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── 使い勝手のよいエネルギー源をつくり出しながら、CO2削減にも人工光合成は貢献するのですか。

阿部:水素というとクリーンなエネルギーというイメージがあるかと思いますが、現在世の中で使われている水素の大部分は、化石資源(天然ガスなど)からCO2を排出しながら製造されています。これに対して、人工光合成では水から直接、CO2を出さずに水素を製造できますし、これを燃料電池の燃料として使って発電あるいはクルマを走らせた時に出てくるのは水だけです。つまり水から水素を介してまた水に戻るのです。つまり理想的には、CO2を増やすことなく、日常生活をおくることができます。さらに、先ほどお話ししたように、CO2を原料に使った人工光合成によって炭化水素などを創り出せば、すでに大気中に放出されているCO2の削減も可能となります。

葉緑体の代わりとなる半導体光触媒

── 植物の光合成では葉緑体で行われています。人工光合成でも、何かが葉緑体の代わりをするわけですね。

阿部:葉緑体の代わりをするのが、光触媒となる半導体です。植物の光合成で起きているのは、次の反応です。

6CO2+6H2O+光エネルギー→C6H12O6+6O2

これに対して、人工光合成の反応のうち最初に紹介した「水の分解」で水素をつくり出す反応は次のようになります。

2H2O→2H2+O2

光触媒は、光を当てると活性化(=電子が励起)されて、その電子が高い還元力を持つことで水を還元して水素を生成します。一方で電子が励起されると電子が抜けた部分(これを正孔と呼びます)が出来ます。そこでは電子を受け取る酸化反応、つまり水の酸化による酸素の生成が起こります。このような反応を起こすためには、従来は紫外線のように高いエネルギーを持つ光が必要でした。しかし太陽光の中には紫外線は、わずか数%しか含まれていません。そのため、紫外線だけを利用していては、大量の水素をつくることができず、太陽光の大部分を占める可視光の利用が必須となります。そこで、可視光でも、水分解反応を起こせる光触媒の開発が長年にわたって課題となっていたのです。

光触媒の一例
リケラボ編集部撮影

── 植物の光合成で使われているのも、エネルギーの高い紫外線ではなく可視光ではないでしょうか。

阿部:そのとおりです。まさに植物の光合成で起きているプロセスに着目した結果、可視光だけを使って水を水素と酸素へ分解することに世界で初めて成功しました。実は植物の光合成では、主に波長680 nm(ナノメートル、1メートルの10億分の1)と700 nmと2種類の可視光が使われていて、反応も2種類行われています。なぜなら可視光のエネルギーは紫外光のそれに比べて小さいために、一度可視光を吸収しただけでは、光合成に必要な反応を起こせないからです。そのためまず680nmの可視光のエネルギーを使って電子を一度励起したうえで、さらに700nmのエネルギーを使って再度電子を励起しています。これは「二段階励起(Zスキーム)」と呼ばれるシステムであり、このシステムを半導体の光触媒でも応用したのです。

水素生成用の光触媒と酸素生成用の光触媒を使う

── そのZスキームを応用したシステムが、可視光での人工光合成につながったのですね。

阿部:植物は2種類の葉緑素(クロロフィル)により、2つの波長の異なる可視光を使って光合成を行っています。このZスキームを参考にして、2種類の光触媒を使いました。1つめの光触媒で水を酸化して酸素と水素イオンを発生させ、2つめの光触媒で水素イオンを水素に還元します。その際には2つの反応をつないで電子を仲介するレドックス(酸化還元反応を繰り返すイオン対)も必要です。この可視光だけを使った「2段階光励起型水分解システム」の開発により、水から水素と酸素を取り出せるようになりました。システムのカギとなるのが、2種類の光触媒の組み合わせです。それ以前からも酸化チタンや各種の金属酸化物を光触媒に使った、人工光合成の研究が進められていました。ところが、光触媒1つだけではどうしてもうまくいきませんでした。そこで植物と同じように2種類の光触媒を使って、Zスキームを行えばうまくいくのではないかと考えたのです。

植物の光合成で行われている2段階の反応を、半導体を活用して行う
https://www.ehcc.kyoto-u.ac.jp/eh41/home/abe/research2/より
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── 2種類の光触媒の組み合わせといえば簡単そうに思えますが、光触媒の候補はかなりの数になるのでは。

阿部:合計で約200種類の光触媒とレドックスの組み合わせを、一つひとつ試していきました。ただし、実際には、実験を始めた早い段階でとりあえず一つ成功していたのです。おかげで少し気持ちが楽になり、それからは他により良い組み合わせがないかと試していきました。ポイントの一つとなったのが酸化還元を繰り返しながら、2つの光触媒反応をつなぐ物質です。この物質の動き次第で酸化と還元の反応をうまくつなげられるようになるため、光触媒の表面にナノメートルサイズの白金(Pt)を付けるなど、いろいろ工夫を重ねてきました。最終的には酸素生成用に酸化タングステン、水素生成用に微量のクロムを加えたチタン酸ストロンチウムの光触媒を使い、レドックスとしてヨウ素イオンを組み合わせています。

1%を突破した変換効率を5倍高めて実用化へ

── 人工光合成の実用化に向けた今後の課題を教えてください。

阿部:課題は明らかで、太陽エネルギーの変換効率の向上です。太陽電池の場合、太陽光エネルギーの変換効率は20%程度です。これに対して人工光合成の変換効率は、現状で1%程度です。変換効率だけをみれば、太陽電池のメリットが大きいように思えますが、もう一点考えるべき要素がコストです。人工光合成のシステムは、導電性の基板や配線などが不要なため、太陽電池と比べて低コストで作成できます。したがって変換効率を5%程度まで高められれば、費用対効果を考えて十分に「実用的」と判断できるレベルになると試算されています。

── エネルギーの変換効率を高めるためには、どうすればよいのでしょう。

阿部:ポイントは、2つあると考えています。まず第1は材料の改良です。現状の光触媒では、まだ吸収した光をすべて活用できていません。量子収率、つまり入ってきた光を目的の反応に変える際の効率が、現時点では決して高いとはいえないため、これを高める必要があります。もう1点は、できる限り多くの光を吸収する仕組みの開発です。具体的には使える光の波長を伸ばして、太陽光に含まれる光をできるだけ多く吸収できるような光触媒の開発を進めています。このあたりの技術革新はかなり進んできているので、なんとかして5年後ぐらいをめどに実用化レベルを達成したいと考えています。

── 材料開発の分野ではマテリアルインフォマティクスも含めて、AIの活用が進められているようですが。

阿部:実は今、京都大学でもAIを活用する材料開発プロジェクトが進められていて、私も参加しています。AIを活用するためには、まず良質なデータをできるだけ多く集める必要があります。データを十分に揃えられれば、AIにはこれまで人が見逃していた要素を教えてくれる可能性があるのではないかと期待しています。また、既存の材料のデータだけではなく、これまで世の中に存在しなかった新しい材料を合成して、その物性データを学習させることで、さらに新たな材料を予測してくれる可能性が広がると考えています。人工光合成、光触媒を使った水の分解は、次世代のエネルギー源として世界各国が注目していて、その開発競争が過熱しています。私たちも産業応用も見据えて、多くの特許出願も行ってきました。今後はできるだけ早い段階で実験室レベルから、大量生産を見据えた方法を開発するフェーズへと研究を進めていきたいと考えています。

世の中の役に立ちたい想いが研究の原点

── そもそも研究者をめざしたキッカケは、何だったのでしょうか。

阿部:今から振り返れば漠然とした理由ですが、高校生の時に環境問題に関心を持ったのがキッカケだったと思います。今のように地球温暖化がいわれる前の話で、「砂漠化」といった言葉が使われ始めた頃です。砂漠化を防ぐためには緑化、具体的には植林などが必要だなどと考えていました。その後大学に入っても、何か世の中の役に立ちたい想いはずっと持っていました。学部4年生の研究室選択の時に、水を分解して水素をつくる研究に出会い「これだ!」とひらめいたのです。当時はまだ「人工光合成」という言葉もほとんど知られていない時代でした。

── 水素をつくる研究に学部生の時以来ずっと取り組み続ける、難しい課題に挑戦するためのモチベーションを維持するのは簡単ではなさそうです。

阿部:やはり研究を楽しめるかどうかが、最大のポイントだと思います。楽しいから続けられるのです。ただ楽しむためには、大きな目標を一つ持っておくのが大切です。私にしても、水を分解してエネルギー源としての水素をつくり、世の中を良い方向に変えていきたいと、この想いだけは学部4年生の頃から変わっていません。このような目標を持っておけば、研究は楽しいものだし、ずっと続けられるのだと思います。

リケラボ編集部撮影

求められるのは、新しいコンセプトを生み出せる人材

── 研究職を続けるうえで、博士号の取得についてはどのように考えますか。

阿部:博士号については日本と海外で、特に研究の世界での受け止められ方が明らかに違うと感じます。日本では修士を取っていれば、企業などでは研究者として扱われますが、海外ではあくまでも技術者として扱われてしまうと多くの経験者から聞いています。また、国内であっても、研究室やチームを率いる研究者には博士号が求められることが一般的かと思います。私の研究室からもこれまでに何人もの博士を出していますが、やはり修士課程とは接し方を意識して変えています。要するに自分でテーマ設定をして、課題解決のための戦略を考えて、最終的にはなにか新しいコンセプトを創出する。これが博士に求められる条件です。資源の乏しい日本にこれまで以上に求められているのは新しいコンセプトの創出、そしてそれによる価値の創造でしょう。だからこそ今後ますます博士人材が求められるようになると思います。

── 研究者として海外を経験しておくべきでしょうか。

阿部:私自身は留学経験がないのですが、自分の後悔も含めてぜひ行くべきだと思います。たしかに言葉の壁はありますが、これは一度乗り越えれば、それほどプレッシャーにならないと思います。逆にいえば、私は未だに乗り越えられていないために、海外の学会に行ってもつい日本人同士で集まってしまいがちです。そうではなく、海外にもコネクションをつくっておけば、研究の世界に限らず後の人生で大きな役に立つと思います。

リケラボ編集部撮影

阿部 竜(あべ りゅう)
京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 教授

1996年、東京工業大学工学部化学工学科卒業、2001年、同大学院 総合理工学研究科物質電子化学専攻 博士課程修了、博士(理学)。2001年、独立行政法人産業技術総合研究所・博士研究員、2005年、北海道大学触媒化学研究センター助教授、科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)、最先端・次世代研究開発支援プログラム研究者を経て、2012年より現職。

※所属や肩書などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

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