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理系は「英語が苦手」という声をよく聞きます。確かに英語で苦労した(あるいは現在進行形で苦労している)という話はリケラボ編集部でも日常的に耳にします。でも、英語が得意になれば、研究にも仕事にもとても有利であることは間違いありません。
そこで今回は、日常的に英語を使って仕事をしている広島大学大学院の池上教授に、英語の勉強法についてご自身の経験を踏まえてお話を伺いました。池上教授もはじめから英語が得意だったわけではないようです。研究生活で英語力が求められるシーンなど、池上教授のエピソードを伺いながら、どのように英語力を高めたのか、どのように「使える英語」を身につけたのかを教えていただきました。英語が苦手だった時代のエピソードには、先生にもそんな時代があったんだ!と勇気づけられること間違いなし。研究生活の英語のあれこれ、是非読んでみてください!
(お話を聞いた方) 池上浩司(いけがみこうじ)教授 |
理系を目指したのは衝撃的な出会い!?
私は今、教授として細胞の「骨」や細胞に生えている「毛」が見せる不思議な生命現象の発見とその意味の解明を目指す研究と、医学生に対する解剖学の教育に携わっています。研究では特に顕微鏡を使って1ミクロンよりも小さな数十nm(ナノメートル;1 mmの100万分の1の単位)から数百nmという非常に小さなものを観察することが多いです。
今の仕事に繋がる幼少期のことを思い返すと、子どもの頃から生き物や理科がとにかく大好きで、加古里子さんの「地球」「海」「宇宙」という絵本をよく見ていました。それ以外にも図鑑を眺めたり、漫画「ひみつシリーズ」を何度も読んだりしていました。小学校5〜6年生の頃にお年玉で顕微鏡を買って、池の水に住んでいる小さな生き物、花粉や胞子、自分の血などを観察したりもしていました。
3〜4歳ぐらいの時に、家族で小さな山に登る途中で見つけた大きなカタツムリにものすごく感動したのを覚えていて、その出来事が生き物を好きになった大きなきっかけだったのかもしれません。幼児の手のひらサイズのカタツムリは、その時のイメージのまま「自分の手のひらサイズ」として記憶に残っているため、頭の中のイメージでは今の自分の手のひらと比較して、殻の大きさが直径10~15cmもあるような超巨大カタツムリになっています。そんな大きなカタツムリは日本にはいないはずなのですが。
明確に研究者(博士)を目指そうと思ったのは小学校高学年の頃だったと思います。小学校の卒業文集に「将来は博士になる」と書いてあります。「理系を目指す」というよりも、物心ついた時には(あるいは物心つく前から?)理系人間だったのかもしれません。
世界と繋がっていることを実感できる仕事
仕事のやりがいは、何よりも世界で自分しか知らない現象を発見する喜びがあることです。
顕微鏡を覗いて教科書にも他の人が発表した論文にも書かれていない現象に遭遇すると、顕微鏡の前で一人「うお~、やった~!」などと叫んでしまうこともあります。また、学生や研究室のスタッフが行っている研究でも、一緒に顕微鏡を覗いて新しいことに遭遇すると「すごいね~!」と興奮してしまいます。
また、発見した現象を論文にまとめて科学雑誌などに発表したあと、その内容について海外の研究者から連絡が来たりすると、日本の中だけでなく、世界と繋がっている仕事をしていることを実感でき、この点でも大きな喜びを感じます。さらに、海外の研究者のSNSで取り上げられたり、他の研究者の論文で引用されたりすると喜びもひとしおです。これらの研究者としての喜びややりがいに加えて、大学教員として学生や研究室の若手スタッフが研究者として成長していく過程に関われることにも大きなやりがいを感じています。
英語が苦手で、会話ができないことがコンプレックスだった
理系研究者なので理系科目(理科や数学)は意識せずに勉強(というよりも、もはや「おたくの趣味」かもしれません)しましたが、ある時期ものすごく頑張った科目は間違いなく英語です。研究者は研究対象とする分野に関する専門知識だけでなく、海外の学会で発表や議論をしたり、海外の科学雑誌に英語で論文を掲載したり、先ほどの話にも出てきたように、海外の研究者との関わりもありますし、それなりの英語力が求められます(でも、英語で商談などのビジネスをする場合よりはかなり下手でも大丈夫です)。
学生時代から30代前半まで自分の英語力の低さが、大きなコンプレックスでした。大学受験では英語の成績が最も悪かったですし、大学1年生の時の教養英語では試験に落ちて不合格になり、2年生に再度履修する有り様でした。4年生の時にはじめて参加した海外の学会発表では、質問をまったく理解できず心が折れそうになったこともありました。大学院生の頃には、学会参加で海外に行った時、ホテルの部屋から電話でピザを注文しようとして、相手の英語が全然理解できず、電話の向こうで大きなため息をつかれてしまったほどです。
英文読解と英作文については博士の学位論文を英語で書いたり、年に1報のペースで海外の雑誌に英語で論文を発表したりしていたため、30歳になる頃にはコンプレックスも苦手意識もすっかりなくなりましたが、英会話についてはリスニングもスピーキングも相変わらず惨憺たる状況が続いていました。海外の学会で初めて口頭発表(大勢の観客の前でスライドを投影しながら発表するもの)では発表後の質問が聞き取れず、目の前に座っていた上司に日本語に翻訳してもらって答えるという恥ずかしい経験もしました。
毎日英語のシャドーイングからスタート
この英語、特に英会話の壊滅的状態から脱し、英語に対する苦手意識やコンプレックスが無くなったのは30代前半から半ばになる頃でした。きっかけは、外国人留学生の研究指導を担当することになったことです。大学院生の研究指導は大学教員の「最重要業務」のひとつです。「仕事」ゆえに泣き言をいうことも逃げることももう許されない状況になったわけです。
腹をくくった私は、インターネット上で利用できるいくつかの英語番組やプログラムを毎日聞いてシャドーイング(聞いた英語を同じように声に出して読み上げること)することにしました。当時「英語を山のように聞き流すと英語が聞き取れるようになる」という学習法もありましたが、いろいろと調べると「聞き取れない英語を聞き続けると脳が英語を雑音として排除するようになり、益々英語が聞き取れなくなる」ということもあることを知り、自分が聞き取れるゆっくりとしたスピードの英語を、その原稿を目で追いながら聴くようにしました。私には、この学習法が極めて有効だったようで、それまでの苦手意識が嘘のように薄れていきました。「英語が聞き取れて、内容が理解できている!」という感覚が大事だったようです。最初は初学者向けのゆっくりと記事を読んでくれるBBCやCNN、VOAなどの英国や米国のニュースからはじめていき、慣れてきたら普通のスピードで、長めのニュースや対談が聞けるサイト(私の場合は環境問題について毎週1時間弱の番組が更新されるサイト)に移りました。これらに加えて、当時は無料だったEnglish as second language(第二言語としての英語)というpodcastをいっぱい聞き、シャドーイングしました。そうして学んだ英語を使って実験の手順を紙に描きながら説明したり、得られたデータを見ながら議論したり、時に研究や実験のやり方に関して注意したり、英会話のON THE JOB TRAININGを日々繰り返している内に、英語へのコンプレックスも苦手意識もすっかり消え去りました。
再生速度を調整。英語上達に動画をうまく活用しよう
今はYouTubeなどでも字幕が出せるものが多くありますから、自分が興味のある話題を英語で検索し、その番組を「英語字幕」を見ながら聴くというのも良いかもしれません。その時に気を付けることは、英語の字幕を目で追って内容が頭に入ってくる速さまで再生速度を遅くすることです。目で追って英語を処理できないものを聞いても聞き取れるわけもありませんから、まずは自分が処理できる速度で英語の音と字幕に触れ、「自分は英語をちゃんと聞いて内容が分かるんだ」という自信を自分につけさせてあげることが大事だと思います。
慣れたら再生速度を少し早め、それでも字幕を追えるようになったら通常速度にまた早める…、それができるようなら早口の英語に対応するために、あえて再生速度は1.2倍などに上げて聞く…、などすると英語のリスニング力が上がると思います。もちろんYouTubeの字幕を使えばシャドーイングもできますので、いろんなチャンネルを視聴して口に出してみると良いと思います。
人とのコミュニケーションが問題解決の糸口になることも
アカデミアで研究者になるにしても、民間企業に就職して研究に関する業務に携わるにしても、実は研究分野に関する専門知識や英語力よりももっと大事なスキルがあります。それは「人との対話力」です。大学での研究にしろ、企業での業務にしろ、一人でできることは非常に限られており、何人もの人と協力して遂行しないと目標を達成するのは難しいです。
これはチームとして目標に向かってプロジェクトを推し進めるためのチームワークという面もありますが、それ以上に、自分の役割を全うするという時にも、自分一人で抱え込むのでなく、困ったことやトラブルがあればすぐに周りに相談して問題を解決するという点でも特に重要になります。
そういう意味ではもっと極論してしまえば「人に頼る力」とも言えるかもしれません。いろんな人とコミュニケーションをとり、時と場合により気兼ねなく頼れる人間関係をつくるというのが、研究を含めた仕事をうまく進める上での一番大事なことかもしれません。自分の世界や殻に閉じこもらず、ぜひ周りの人とたくさんインタラクションするようにしてください。
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リケラボ編集部より
コンプレックスがあったとは思えない池上教授から、英会話が苦手だったという意外なお話と克服法について伺えました。今、英語力に課題がある人、いまひとつ自信がもてない人も、先生の英語力を高める方法を取り入れてみると、「英語がわかる!」を体感でき、上達の糸口がつかめるのではと思います。研究を通じて世界中の研究者とつながれることは、研究者という仕事の大きな醍醐味です。より充実した研究ライフのためにも、諦めずコツコツと続けていけば、必ず日々の積み重ねが実を結ぶはずです!一緒に頑張りましょう!