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【理系おすすめ本】入社1年目からコミュ力UP!読めば驚くほど仕事がスムーズに!入社1年目から役立つ!『理系のための伝わるビジネスコミュニケーション力』(オーム社)堀越 智、廣川 克也、宮澤 貴士 共著│リケラボ

【理系おすすめ本】入社1年目からコミュ力UP!読めば驚くほど仕事がスムーズに!

入社1年目から役立つ!『理系のための伝わるビジネスコミュニケーション力』(オーム社) 堀越 智、廣川 克也、宮澤 貴士 共著

社会人1年目を迎える皆さん、ご入社おめでとうございます。新しい環境にワクワクする一方で、変化に戸惑うこともあるのではないでしょうか?私自身、理系大学院を修了後、ベンチャー企業に入社しましたが、付き合う人の多様さ、ビジネスの価値観や時間の流れの違いに驚いたことを覚えています。

特に理系出身者は、高い専門性を持つからこそ、異なる分野の人とのコミュニケーションに苦労することが多いかもしれません。そんな皆さんにぜひ読んでほしいのが、『理系のための伝わるビジネスコミュニケーション力ー入社1年目の文章・プレゼン・会話術ー』(オーム社)です。本書には、私が新人時代に知りたかったことが詰まっています。今回はChapterごとに、私の経験や気付きを交えながら、本書の内容を紹介していきます。

Chapter1 社会人基礎力とコミュニケーション
「ビジネス=お金儲け」は後ろめたい?

「ビジネス」と聞くと、お金儲けのイメージがあり、どこか後ろめたさを感じることはありませんか?私も学生時代はそう思っていました。しかし、社会人になり、電気・水道、食べ物、パソコンなど、身の回りのもの全てが「誰かの仕事」で成り立っていることを再認識しました。ビジネスとは「世の中に必要とされるサービスを持続可能な形で提供すること」だと視点が変わったのです。

そのために必要なのが、従業員の給料や事業の運営費を支える「お金」です。企業は限られた時間と予算を効率的に活用しながら、持続可能なビジネスを目指しています。その中で、非効率な働き方や伝わらないコミュニケーションは大きなコストになり、事業の成否にも影響を与えます。だからこそ、社内外のメンバーが同じゴールに向かい、効率的に協力するための技術が「ビジネスコミュニケーション」なのです。

とはいえ、学生時代にビジネスコミュニケーションを学ぶ機会はほとんどありません。実践しながら学ぶことも大切ですが、先人の学びに目を通すことで、より効率的に成長できるはずです。

本書「Chapter1 社会人基礎力とコミュニケーション」では、こうしたビジネスコミュニケーションの意義が詳しく紹介されています。特に「1-1コミュニケーションは必要?」には、私自身が入社当時に感じた課題感が明文化されており、ぜひ読んでいただきたい項目です。

経産省で提唱された「社会人基礎力」
▲このChapterでは経産省で提唱された「社会人基礎力」についても体系的に掲載されています。こういった枠組みの中で評価基準が作られる会社もあるので、知っておくことは重要です。 画像提供:オーム社

Chapter2 読み手を納得させる文章術
自分が「伝えたいこと」と相手が「聞きたいこと」は一致している?

新人時代、時間をかけて作った書類が、「長くてわからない」と先輩に一蹴されたり、説明の途中で「結論は何?」と言われてしまうことがありました。皆さんも経験がありませんか?そんなとき落ち込む前に「伝えたいこと」と、相手が「聞きたいこと」が一致しているのか考えてみましょう。問題は「文書の書き方・話し方」だけではなく、「情報の整理方法」かもしれません。

先輩方も、多くの業務をこなし、忙しい日々を送っています。そのため、皆さんからの報告などで「聞きたいこと」は、まずは「要点」であることが多いのです。例えば、科学論文をイメージするとわかりやすいかもしれません。論文の冒頭は必ず「Abstract(要旨)」ですよね。皆さんもAbstractを読んで、「この論文もっと深く読んでみよう」、「この内容だったら読まなくていいや」と判断してきたと思います。実はこれと同じことなのです。

一方、論文執筆経験者の方は想像できると思いますが、要旨は最後にまとめることが多いと思います。つまり、先輩に報告する文書等に関しても、情報を調査・整理してから、要旨としてまとめることがおすすめです。

本書の「Chapter2 読み手を納得させる文章術」には「2-9重点先行型」、「2-10、必要な内容がない」、「2-14、見通しが良い文章」といった、実践に役立つ情報整理・文書作成のポイントがまとめられています。

私自身、メールや資料が長くなりそうなときには、読み手の負担を減らすためにパラグラフごとに小見出しをつけるようにしています「2-14、見通しが良い文章」に書かれていた「トピックセンテンス」がまさにそのことを説明しており、あらためてハッとさせられました。

文書作成に悩む方にはもちろん、文章力を磨き続けたい人にとっても、多くのヒントが詰まった章だと感じました。

あなたが良いと思って作成した文章でも、上司にとっては必要がなく読みづらい文章である可能性も
▲このようなトラブルを防ぐためには、文章を作成する前や最中に、相手の気持ちになってみたり、提出前に読み返すことも大事です。画像提供:オーム社

Chapter3 聴き手を納得させるプレゼン
実験教室を400回行う中で骨身に染みたプレゼンの本質とは?

学生時代のプレゼンは研究の進捗報告や論文輪読会など「同じ専門性を持つ集団内での発表」が中心だったのではないでしょうか?しかし、ビジネスの場では「聞く相手の専門性や課題意識が異なる」ため伝え方がより重要になります。そのためには「誰が何を求めて聞くのか」という視点で準備をすることが不可欠です。

私は前職で、小学生〜高校生向けの実験教室を400回以上行いました。この経験を通じて学んだのはプレゼンは「相手を知り、情報を伝えて、行動を起こしてもらうこと」だということです。

特に大事なのは「相手を知る」ことです。例えば、小学生が何に興味を持ち、どんな学習段階にあるかを知るために、学習指導要領や検索ワードランキングなどを調べ、関心の高いキーワードを理解しました。次に「教室の後どんな行動を起こしてほしいか」を明確にし、それに沿って構成や情報(説明や実験)を整理します。スライドを作成し、発表練習を重ね、本番ではどもたちの反応を見ながら、表情や声のトーンに変化をつけ、臨機応変に伝え方を調整しました。

これはビジネスプレゼンでも同じです。相手の状況(立場、知識、メリット)を理解し、起こしたい行動(技術採用、提携など)を具体化し、必要な情報を整理して伝える。さらに、相手の反応を見ながら柔軟に対応し、聴き手をゴールまで導くことが重要です

プレゼンに不安を抱える方は、本書の「Chapter3 聴き手を納得させるプレゼン」をぜひご覧ください。特に、「3-7、伝わりやすい理系のプレゼン」、「3-9、何を盛り込むのか」、「3-18、物語の流れを考える」などの項目は、実践に役立つポイントが体系的に整理されています。

私自身、実験教室で講師としてプレゼンを行っていた際、話し手の不安がそのまま子どもたちに伝わってしまうことがあると実感しました。逆に、声に緩急をつけ、テンポよく進めることで、子どもたちが自然と話に引き込まれていく場面も多くありました。内容がどれほど素晴らしくても、話し手に迷いがあると、聴き手の信頼を損なうことがあります。だからこそ、プレゼンでは話し手がしっかりとゴールまでガイドすることが大切です。

特に、本書の「3-18、物語の流れを考える」では、まさに「話し手が聴き手を導く」というプレゼンの本質が明快に示されており、あらためてその重要性に気付かされました。

未知の旅(プレゼン)をガイドするツアーコンダクターのような気持ちを持つことが重要
▲未知の旅(プレゼン)をガイドするツアーコンダクターのような気持ちを持つことが重要です。画像提供:オーム社

Chapter4 相手を納得させる会話術
「わからない」と言えることの大切さ

私が新人時代に直面した悩みの1つが「打ち合わせ中に話の内容がわからなくなる」ことでした。事前に準備をして臨んでも、議論が白熱すると置いてけぼりになり、先輩の顔色を伺いながら、ただ相づちを打つだけ…。皆さんにも、そんな経験があるかもしれませんが、「不勉強な自分が悪い」と思い込む必要はありません。

大切なのは、素直に「今のお話は◯◯という意味で合っていますか?」と確認することです。何も発言しないと「理解している」と誤解されてしまいますが、「ここまでは理解できたが、ここからがわからない」と示せば、議論の流れを整理し、会話をより建設的にすることができます。また、こうした質問を挟むことで、双方向的なコミュニケーションになり、お互いの価値観や考え方を理解しながら、より効率的な議論を行うことができます。

本書の「Chapter4 相手を納得させる会話術」では、誤解を避け、相手と共通認識を持つことの重要性が紹介されています。特に「4-4、しっくりこない」、「4-5、相互理解の完了」、「4-7、多次元な会話の大きな隔たり」、「4-10、さまざまな分野からの情報収集」には、信頼関係がコミュニケーションに果たす役割について深く掘り下げられています

なかでも私が印象に残ったのは「4-5 相互理解の完了」です。ここでは、聴き手だけでなく話し手の側が情報を整理しきれていない場合にも誤解が生じることがあると指摘されています。打ち合わせ中の話がよくわからなくなるのは、誰にとってもよく起こることなのです。さらに、私自身も後輩を抱える立場になってみて、何度も確認をしてくる後輩に対して「この人は本当に理解しようとしているんだな」と感じ、むしろ信頼感が増したことを覚えています。質問や確認を重ねることは決して悪いことではなく、丁寧なコミュニケーションを築く一歩なのだと、本書を通じてあらためて認識しました。

しっくりきていないことをそのままにするのではなく、確認してみよう
▲しっくりくるまで確認することも仕事の1部です。画像提供:オーム社

最後に〜「伝わる」技術は一生モノ

私が社会人としての経験を通じて身に付けた考え方は、仕事やプライベートにおいても生きています。異なる立場の相手とゴールを共有し、わかりやすく伝え、協力して1つのことに取り組む力は、理系に限らず、すべての人にとって必要なスキルです。私自身、多くの失敗を重ねながら、ようやく気付きを言語化し、体系化できるようになりましたが、本書を通して事前に知識として得ることができれば、読者の皆様にとって、大きな価値があるのではないでしょうか。

もちろん、知識を得ることと、実践できることの間には大きな隔たりがあります。経験を積み、失敗を重ねなければ本当に身に付かないこともあります。しかし、無駄な試行錯誤を減らし、より効率的に成長するためには、先人の知識を活用することが重要です。

理系新卒向けおすすめ読書として、本書を紹介させていただきました。社会人1年目の皆さんが、新たな環境での不安を軽減し、安心して一歩を踏み出せることを願っています。

吉田(百目木)幸枝

吉田(百目木)幸枝

青森県八戸市出身。秋田県立大学生物資源科学部を卒業後、北海道大学大学院生命科学院で生命科学(修士)を取得。在学中はシロイヌナズナを用いた遺伝子研究に従事し、科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)にも参加。大学院修了後、株式会社リバネスに入社し、教育開発事業部や地域開発事業部に所属。日本全国で科学教育や地域活性化プロジェクトを推進する。2019年、北海道網走郡美幌町に移住し、農業「さいこうファーム」とライター業「再考編集室」を立ち上げ活動中。

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