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会社初の研究者として研究所をゼロから立ち上げた決断の背景は「ここでしかできない事業内容と経験」

会社初の研究者として研究所をゼロから立ち上げた決断の背景は「ここでしかできない事業内容と経験」

理系の決断vol.4 環境大善株式会社 加藤 勇太さん

人生に選択はつきもの。特に将来を左右する選択においては、自信をもってこれだと決断できる人は多くはありません。連載「理系の決断」シリーズは、研究開発職として活躍中の方々に、これまでの人生の岐路においてどのような判断軸で決断・選択をして現在の仕事に至ったのかに迫ります。

リケラボ運営元のパーソルテンプスタッフ研究開発職向けブランドChall-edge(チャレッジ)は、一人でも多くの理系の方々が、自ら選択した仕事やはたらき方で、喜びや楽しみ、さらには人や社会の役に立っていることを実感できる、多様で豊かな社会を創造することで、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実現していきます。

舞台は北海道。新卒入社後、会社初の研究職として「牛の尿」を科学し、事業全体を推進する大役を任される

北海道北見市に拠点を置き、牛の尿を発酵させた液体から消臭液や土壌改良材などを製造・販売する環境大善株式会社。確かな効果で20年以上売れ続けているロングセラーにもかかわらず、そのメカニズムは明らかになっていませんでした。「効果はあるけど、理由がわからない」という状態を解決したいという強い意向で研究開発型の企業への転換を図っていた同社に修士課程修了後に新卒入社し研究部門である「土、水、空気研究所」をゼロから立ち上げたのが加藤勇太さんです。

会社初の研究職として、前例のない中で研究開発基盤を構築し、製品価値の科学的証明のためにひとつひとつエビデンスを積み上げてきた過程は、「苦労もあったがそれ以上に充実している」と言います。また、ECサイトの立ち上げや生産現場の改善まで、研究の枠を超えて幅広く活躍。働きながら博士号取得にも挑戦するなど、独自性の高い商品を扱い、多様な領域に挑戦できる同社の環境を最大限に生かした、満足度の高い毎日を送られています。

「何を経験できるか」を重んじ、独自の判断軸で迷いなく選択を続ける加藤さんに、キャリアの岐路での決断の背景と、その根底にある仕事への哲学を伺いました。

Q. 理系に進むきっかけと、ここまでのキャリアでの大きな決断は?

理系に進んだ原体験は、アイディアを自分の手で形にすること

子どもの頃から、何かアイディアを練っては自分の手を動かし、ものをつくることが大好きでした。小学校の自由研究にも気合を入れて取り組み、電池で動くボクシングロボットを作ったり、卵の殻を使ったアート作品を作ったりしていました。周りの評価を気にするというよりも、「自分が面白いと思うもの」を作ることが純粋に楽しかったのだと思います。

中高生時代、数学が得意であることを自覚するようになり、ごく自然な流れで理系の道に進みました。明確に決断したというよりは、自然と「自分は理系だな」と思っていたという感覚です。

微生物や発酵という目に見えない世界に面白さを感じるようになったのは、大学で研究室に入ってからです。私が扱っていたのは環境中から分離してきた酵母だったのですが、その酵母は、ある物質に対して世界最高レベルの強い耐性を持っていました。「知られていないだけで、高い能力を持った未知の微生物がまだまだたくさんいるんだ」と驚き、微生物が持つ計り知れない可能性に魅了されていきました。

1つ目の決断:
テーマより「誰のもとで学ぶか」を重視し、研究室を選択。ただし、偶然の出会いを活かすのは自分次第

大学進学に際しては、当初は機械工学系の分野を志望していましたが、希望通りにはいかず、北見工業大学工学部のバイオ系の学科に進むことになりました。しかし、そこで人生を左右する面白い出会いがありました。

3年次に研究室を選ぶ際、私は分野やテーマ以上に「誰のもとで学ぶか」を重視しました。授業を受けて非常に感銘を受けていたある先生のラボを強く希望し、念願かなったのですが、なんと、配属が決まった直後、その先生が翌年3月で別の大学へ移ってしまうという、予想もしない出来事が起きたのです。

正直驚きましたが、学生の立場ではどうすることもできません。その後、当時助教だった先生が准教授に昇進してラボを引き継ぎ、その先生のもとで研究生活をスタートすることになりました。

しかし、この思いがけない環境の変化が、結果として私に素晴らしい研究の原点をもたらしてくれました。大学院での研究の核となる「ストレス耐性酵母のメカニズム」という研究テーマは、まさにこのとき、新たにラボを主宰することになった先生が与えてくださったものだったからです。

3人チームを組み、それぞれ異なるアプローチから同じ微生物の可能性を解明していったのですが、いざ取り組んでみると本当に刺激的で、夢中になって研究しました。

主体性を持って取り組めば、与えられたテーマにも面白さを見出すことができ、自分の研究とすることができる、そう実感したことは私にとって大きな学びとなりました。この経験があったからこそ、何が起きてもその場所で全力を尽くすという、私のキャリアの基本姿勢が形づくられたように思います。

2つ目の決断:
本州の食品メーカーではなく北海道で就職。初の研究人材として入社

修士課程修了後の進路については、大学に残って基礎研究を続けるよりも、研究成果を製品という形にして社会に届ける開発職の方が自分には向いていると考え、民間企業を志望しました。当初は、学生時代の研究内容に近い、発酵食品メーカーを中心に就職活動を進めていました。

就職活動も終盤に差し掛かった頃、指導教員から当社(環境大善)で研究職を募集していると紹介されました。廃棄される牛の尿を分解、発酵させて消臭や環境浄化に使うという「逆転の発想」を聞いて、直感的に「面白そうだな」と惹かれました。

当時の従業員数は十数名ほど、初めて名前を聞く会社、しかも初めての研究人材としての採用です。周囲からは「不安はなかったのか」と聞かれることもありますが、私自身は全く不安を感じていませんでした。むしろ、「会社の中で、研究開発の部署をゼロから作り上げる経験なんて、なかなかできるものじゃない」という好奇心が勝っていたのです。それに、もし仮に将来、会社がなくなったりするようなことがあったとしても、「ゼロから仕組みを作った」という経験自体は、自分の中に価値あるものとして確実に残る。そう考えました。

面接でお会いした経営陣や社員の方々の人柄が穏やかで魅力的だったことも後押しとなり、私はすぐに入社を決断しました。あまりに即決だったので、指導教員からは「もうちょっとゆっくり検討してもよいのでは」と驚かれたほどです。しかし勤務地や会社の規模よりも、「どんな経験ができるか」が、私にとっての明確な判断軸であり、迷いはありませんでした。

3つ目の決断:
華々しい新規研究ではなく、まずは「品質管理の数値化」による研究基盤の構築を選択

入社初日、当時の社長から「研究所の立ち上げ、好きなようにやっていいぞ!」と言われたことを覚えています。驚きはしましたが、自由にやらせてもらえるありがたさを感じるとともに、自分が最初に取り組むべきことはすでに見えていました。

それは、華々しい新規研究に飛びつくことではなく、「品質管理を数値化し、安定させること」でした。

当社はそれまで、製品や原料の品質管理を職人的な感覚に頼っている部分が多くありました。発酵という自然のプロセスを経る以上、気候や原料の状態によって品質にばらつきが出るのは当然です。しかし、ベースとなる製品の品質が安定していなければ、そこから得られた研究データに差が出た際、それが「製品のばらつき」によるものなのか「実験条件の差」によるものなのか判別できません。商品の信頼性を担保するために、まず客観的な評価基準と品質安定の基盤を整備することが最優先だと考えたのです。

とはいえ、設備も予算も潤沢ではありませんでした。そこで、共同研究先であり、私の出身研究室でもある北見工業大学の研究室に、私自身が派遣研究員として出入りする体制をとることで、大学の高度な分析機器を活用させてもらうことができました。こうして初期投資を抑えながら研究をスタートさせ、その後も、補助金や自治体の支援なども活用しながら、少しずつ自社の研究基盤を構築していきました。

また、会社の規模が小さいことも、私自身にはとてもフィットしています。自分個人の頑張りが会社の成長にダイレクトに影響することが実感でき、たいへんやりがいを感じられるのです。私は研究にとどまらず、ECサイトの立ち上げを主担当として完遂したり、繁忙期には工場に入って生産ラインのボトルネックを見つけ、効率化の提案をしたりもしました。複雑な課題を構造化してシンプルに解きほぐすことが自分の強みだと認識しているので、会社全体を見渡して自分が貢献できる役割は進んで担い、逆に自分の不得意な領域は他の得意なメンバーに協力をしてもらいながら会社がどんどん成長していくのが楽しいです。現在は執行役員という立場ですが、そうした肩書も、役割を限定せず自分にやれることはどんどん実行するという日々の延長線上で自然にあとからついてきたものだと捉えています。

4つ目の決断:
博士号は将来のための「免許」。働きながら博士課程へ進学

入社翌年の話に遡りますが、北見工業大学の博士後期課程に社会人学生として進学することを決めました。これも私にとっては、ごく自然な流れでの決断でした。もともと、これから先、社外の機関と連携し、研究の信頼性を社会に対して示していくためには、一定の保証となる免許やパスポートのようなものとして、博士号が必要になるだろうと考えていました。それなら、共同研究を通じて、先生方ともコミュニケーションをとれる環境が整っている今こそ、またとないチャンスだと捉えたのです。

社会人で進んだ博士後期課程は、単純に楽しさもありました。企業での就業経験を経て、大学に戻ったことで、より目的意識を持って研究を深めることができたと感じています。

Q. もし、あの時違う道を選んでいたら?

就職活動の際、もし指導教員からの紹介が少しでも遅れていれば、そのまま本州の発酵食品メーカーなどに就職し、全く別の専門性を深めていた可能性は十分にあります。その道に進んでいたら今頃どうなっていたかは、想像もつきません。

考えてみれば私の場合、あまり「もしあの時こうしていれば」と過去を振り返って引きずること自体がほとんどないように思います。大学受験の時もそうでしたが、一度選んだからには、過去には戻れないし変えることもできません。そうであれば「ここで頑張るしかない」と割り切って、目の前のできることに集中するタイプなのでしょう。

大きな決断の場面で、五分五分で長く思い悩むことも、実はこれまでほとんどありませんでした。特別な決断術があるわけではありませんが、普段からさまざまなことを考えるうちに、自分なりの判断軸が自然と形づくられていくものなのだと思います。いざ選択の岐路に立たされた時も、シンプルに合理的だと感じる方を選ぶだけというか、自ずと答えが決まっていることが多い気がしています。

Q. 未来に向けての展望や、今後の目標はなんですか?

アップサイクル型循環システムを軸に、持続可能な社会に貢献

現在の一番の目標は、私たち環境大善が取り組んでいる「牛の尿を微生物処理して製品化する」というアップサイクル型循環システム(※)を、社会にもっと大きく広げていくことです。

日本全体で見れば、私たちが処理できている牛の尿は、まだまだほんのわずかです。最近は北海道内の各地へ足を運び、帯広など畜産が盛んな地域にも出向いて、現地の気候や一次産業の循環を肌で感じています。将来的には、そうした畜産集積地にもシステムを展開し、より大きな規模で環境課題の解決に貢献していきたいと考えています。

そのために、処理効率やスループットを向上させる技術のアップデートと、製品の価値を科学的なエビデンスで証明し、市場の需要を創出する取り組みをこれまで以上に加速させていきます。また、新規事業領域として、水質浄化や持続可能な航空燃料(SAF)などの研究にも着手しています。

私が未知のテーマに踏み出す際の判断軸としているのは、「自社の技術やリソースが活かせるか」「会社のミッションと合致しているか」「社会的な意義があるか」「研究として純粋に面白いか」、そして最後に「それを求める人がいるか(実需)」という点です。この基準を満たすテーマを、これからも仲間と共に追究していきたいです。

※アップサイクル型循環システム:
本来は廃棄されるものに新たな価値を加え、より価値の高い製品や資源として再生する(アップサイクル)ことで社会に還元してゆく取り組みを、持続的に循環させる仕組み。

これからキャリアを歩む理系の皆さんへのメッセージ

「そこに入ったら自分は何を経験できるか」

キャリアの選択において、「誰と働くか」は非常に重要な要素です。面白いテーマがあり、一緒に働きたいと思える人がいる環境を選ぶことが理想だと思います。

しかし現実問題として、入社前に組織の中の実態や人の本質まで完全に把握するのは難しいものです。だからこそ、企業を選ぶ際には、知名度や規模、環境が整っているかを重視することになるのですが、私が強くおすすめしたいのは 「そこに入ったら、自分は何を経験できるのか」という視点を強く持つことです。

すでにできあがった整った環境で働くことも、もちろんひとつの道です。一方で、「ゼロから仕組みをつくる」環境に飛び込むことで、ほかでは得られない希少な経験が、自分の中に蓄積されることも知ってほしいです。

普段から、「自分は何が得意か」「どこまでの不確実さなら引き受けられるのか」を考え、自分なりの判断軸を持っておくことで、納得できる道を選びやすくなります。そのうえで、道を選んだら、正解だったかどうかを振り返り続けるのではなく、新たに得られた経験や出会いを糧に、一歩ずつ自分の選択を「正解にして」いってほしいと思います。

▼あわせてご覧ください。加藤さんへの過去のリケラボ取材記事はこちら

入社後の初仕事は研究所の立ち上げ!牛の尿の発酵液で環境課題を解決する 環境大善株式会社 加藤勇太さん
https://www.rikelab.jp/post/6670.html



プロフィール

加藤 勇太(かとう ゆうた)
北見工業大学大学院バイオ環境化学科修士課程修了後、2018年に環境大善株式会社へ入社。同社初の研究人材として「土、水、空気研究所」の立ち上げに奮闘し、牛尿発酵液の品質管理体制の構築、効果・効能の科学的証明を牽引する。2019年には北見工業大学大学院博士後期課程に入学。働きながら研究を深め、2025年3月に博士(工学)の学位を取得。現在は同研究所の所長を務めるほか、執行役員CTOとして経営的視点から事業全体の課題解決にも取り組む。

※所属などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

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