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理系の職種紹介vol.19 医療機器メーカーの開発技術者の仕事と必要な資質をテルモ社員が解説

理系の職種紹介vol.19 医療機器メーカーの開発技術者とは? カテーテル・ステント開発の仕事内容と必要な資質をテルモ社員が解説

テルモ株式会社

知っているようで意外と知らない“理系の仕事”にフォーカスし、その仕事で活躍している方に詳しい内容を教えてもらう「理系の職種紹介」シリーズ。 今回は「医療機器メーカーでの開発技術者の仕事」を深掘りしていきます。

テルモ株式会社の愛鷹工場(静岡県)インターベンショナルシステムズ R&D部で、カテーテルやステントの開発に携わる開発技術者、清水開斗さんにお話を伺いました。

【この記事のポイント】

Q. 医療機器(カテーテル/ステント)の開発技術者とは、どんな仕事?

A. 狭くなった血管を広げる「バルーンカテーテル」や、再狭窄を防ぐ「ステント」など、心血管治療に用いられる医療機器の開発を行います。金属の構造設計(工学)だけでなく、細胞増殖を抑える薬剤のコーティング(化学・薬学)など、複数分野の知見が高度に交差する領域です。患者さんの安全性を最優先に、1ミクロン単位の精度を追い求めながら、世界中の医療現場で使われる製品を生み出し、多くの患者さんの命に関わる治療を支える仕事です。

テルモ株式会社
1921年設立。「医療を通じて社会に貢献する」という理念を掲げ、100年の歴史を持つ医療機器メーカー。良質な体温計の国産化から始まり、現在ではカテーテル治療、心臓外科手術、薬剤投与、輸血や細胞治療などに関する幅広い製品・ソリューションを展開。日本発の企業として、世界160以上の国と地域で医療現場を支えている。

お話を伺った清水開斗さん。大学院で生体工学を専攻後、2024年に入社。以来ステントやバルーンカテーテルの開発・設計に携わる。
リケラボ編集部撮影

細い管が命を救う。カテーテル・ステント開発の仕事

── 清水さんが開発に携わっている「カテーテル」や「ステント」とはどのような製品なのでしょうか。

カテーテルは、日本語で言うと細い管のことで、主に心臓・血管疾患の治療で使用されます。目的や役割に応じてさまざまな種類があり、病変部まで器具を導くための「ガイドワイヤー」、狭くなった血管を内側から広げる「バルーンカテーテル」、そして、広げた血管が再び狭くなるのを防ぐために留置する「ステント」などがあります。

イメージ図
画像提供:テルモ
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この製品の最大の特徴は、患者さんの命に直結する治療で使われることです。例えば急性心筋梗塞のように、カテーテルやステントがなければ命が助からない一刻を争う状況下で使用されています。何万本もの製品を世に送り出せているということは、それだけ多くの命を救う機会に携わっていることであり、そのことを思うと身が引き締まります。

── 開発の流れについて教えてください。

まず、ドクターヒアリングや学会活動を通じて、医療現場で求められている課題やニーズを把握します。そのうえで、開発の初期段階では、どのような製品でその課題を解決するのかというコンセプトを考え、実現可能性を検討します。次にそれを実現するための設計を検討します。設計には製品の仕様を考えるための製品設計と、製品の量産を考えるための工程設計があります。これらの設計活動では、実際のモノの設計はもちろんのこと、有効性や安全性が担保できる評価方法を設計することも大切な仕事です。こうした検討を進めながら、試作品を作り、製品として形にしていくのが我々商品開発部門の仕事ですが、その過程では将来の量産化や販売を見据えて、生産課、品質保証課、マーケティングなど、社内の各分野のエキスパートに相談し、意見を聞きながら具現化していきます。

── テルモのカテーテル・ステントの特徴を教えてください。

テルモの強みは、治療の開始から終了までを支える幅広い製品群を持っていることです。例えば、病変部まで治療器具を導くガイディングカテーテルやガイドワイヤー、狭くなった血管を広げるバルーンカテーテル、広げた血管を支えるステントなどを一貫して開発しています。そのため、製品同士の適合性を高めることで、医師をはじめとする医療従事者が使いやすい治療環境の実現を目指しています。

── 医療従事者が使いやすいということが、医療機器の性能を発揮させるうえで非常に大切なのですね。

はい、医療機器開発では、「患者さん目線」と同じくらい、「医療現場で実際に使う方の目線」をもつことが重要です。経験の浅い若手の医療従事者から熟練したベテランの医療従事者まで、誰が使っても安定して治療を進められる機器を提供することが、多くの患者さんの命を助けることにダイレクトにつながっています。

── 医療従事者の技量の差に左右されない医療機器を目指して開発されているのですね。

はい、実は入社前には持ちえなかった視点でしたが、医療機器を進化させることの意義や医療への貢献の大きさを実感できたことで、さらにモチベーションがあがったことを覚えています。

困難な壁にぶつかった時も、その先の患者さんのことを考えると、「頑張ろう」と強く思えます。
リケラボ編集部撮影

ものづくりを通じて医療に貢献~志望理由~

── 清水さんがこの仕事を選んだ理由を教えてください。

高校生の時に運動系の部活動の最中に大怪我をして入院したことがあります。初めてのことでとても緊張していたのですが、担当医師がとても優しく、身体に負担の少ない「低侵襲(ていしんしゅう)」(※)での治療をしてくださったんです。

その体験に感動したことと、もともとものづくりに興味があったこともあり、医療関係のものづくりができるようになりたいと、大学では化学生命工学部、大学院で生体工学を専攻しました。

※低侵襲[ていしんしゅう]:手術や検査の際に、患者の身体への負担(痛み、出血、切開の範囲など)をできるだけ少なくすること。内視鏡やカテーテルを使った治療が代表的。

── テルモを選んだ決め手は何でしたか?

大学院の先輩が入社していたことが最初の大きなきっかけでした。さらに調べていくうちに、テルモが一つの分野だけでなく、カテーテル治療や心臓外科、薬剤投与、血液・細胞テクノロジーなど幅広い領域で医療に貢献している点に惹かれました。高校生の時に感銘を受けた低侵襲治療用デバイスの開発に積極的に取り組んでいることも大きな決め手となりました。

工学と化学が交わるステント開発の現場

── ここからは実際に清水さんが開発された製品のエピソードを通じて、さらに仕事内容について理解を深めていきたいと思います。最初に携わった「薬剤溶出型ステント(DES:Drug Eluting Stent)」とはどのような製品なのでしょうか?

バルーンカテーテルで一度血管を広げても、血管が元に戻ろうとしたり、血管の内側が傷ついたりして、再び血管が狭くなってしまうことが課題でした。そこで、広げた血管を内側から支えるために金属ステントが使われるようになりました。さらに、金属ステント留置後に細胞が増殖して再び血管が狭くなる「再狭窄(さいきょうさく)」を抑えるため、表面に薬剤をコーティングしたものが薬剤溶出型ステント(DES:Drug-Eluting Stent)です。

── 医療機器というと工学のイメージでしたが、薬剤を塗布したりするとなると、化学的なアプローチも必要とされるのですね。

おっしゃる通りです。私は学生時代、化学生命工学を専攻していたので、薬剤やポリマー、コーティングといった化学的な知識が活きる場面が多々ありました。一方で、ステントそのものは非常に細かな金属構造を持つ医療機器なので、工学的な視点も欠かせません。まさに、工学と化学の両方の知見を組み合わせながら開発していくデバイスだと思います。

── 開発中、難しかった課題は何でしたか?

ステントの線幅、いわゆるストラットは、ミクロン単位で非常に細く、そこに薬剤を安定して塗布するためには、設備の条件を細かく調整する必要があります。塗布条件を決めるパラメーター(結果に影響する設定条件)は、単にきれいに塗るだけではなく、体内で薬剤ができるだけ安定的に放出し続けるには、どのような塗り方が良いのかを探っていく必要がありました。塗り方によって薬剤の挙動がかなり変わるのです。

── 課題をクリアできた要因は何でしたか?

社内の有識者に納得いくまで何度も相談しました。自分自身で試行錯誤することはもちろん大切ですが、自分だけで達成できない課題はエキスパートの方を頼ることも大切です。そうすることで自分の知識も増え、開発者としても大きく成長できました。

── 入社1-2年目での苦労を乗り越えたことで清水さんが得た「学び」は何でしたか?

「触れる」ことの大切さです。

研究開発というと、ラボにこもって考える毎日をイメージしている人も多いかもしれません。でも実際には、ラボを離れたところで大きなヒントを得ることが多々ありました。

工場に足を運んで設備を見て、まずは観察、そして実際のモノに触れる、ということがものすごく大切です。書類やデータで確認できることも、実際に現場に行ってどのように薬剤がステントに塗布されているのか目で見て確認することで、理解度が格段に上がり、解決策がひらめくんです。そうした現場での気づきが、試験方法や設計をより良くするきっかけになると感じています。

文字に触れる、人に触れる、モノに触れる。そうした機会をどれだけ創り、活かせるかが、課題解決につながるのだと学びました。

常に「自分の家族に使えるか」を問う。安全性を最優先にするテルモの開発スピリット

── 現在はバルーンカテーテルの開発担当で、特に「試験方法の妥当性検証」に携わられているそうですね。どのような仕事なのでしょうか?

医療機器のガイドラインに基づいて、製品の有効性や安全性を客観的に示すための「試験のやり方」を設計・改善する仕事です。

製品の合格基準として、試験データのばらつきが一定以下でなければならない、といった規定があります。製品自体に問題がなくても、試験結果にばらつきが出ると品質基準を担保できません。試験手順を細かく見直したり、治具を追加したりして、誰が行っても同じように測定できる試験方法を検討・確立します。簡単ではありませんが、医療従事者や患者さんが安心して使えるために絶対に外せない仕事です。こういった仕事があることは、入社前には想像できていませんでしたが、今ではものづくりの根幹の部分だと考えるようになりました。

── 大変さや難しさを感じる点はありますか?

試験方法は整合性が重要ですが、想定していた試験法では評価できない場合もあります。

── そういう時はどうするのですか?

試験方法のどこがダメだったのか?を調査します。方法ではなくモノと合っていないのか?などいくつかの可能性が考えられるので、ひとつひとつつぶしていきます。試験担当者にヒアリングして、やりにくいポイントを特定し改善していくこともします。

血管の形状を再現したモデルに通されたカテーテル。細い血管の中を病変部まで進み、治療を行うデバイスの仕組みを確認できます。
リケラボ編集部撮影

血管モデルを使い、カテーテルが血管内を進む様子を実演する清水さん。
リケラボ編集部撮影

── 印象的な出来事があれば教えてください。

とある試験法の検討で、基準はすべてクリアできたと自信をもって報告にいったところ、上司から、自分では気づけていなかった課題を多数指摘されたことです。その中でも「患者さんにとっていちばんのリスクになるものはどれか?」と問われました。「そこがクリアできてなかったら、ガイドラインの要求基準を満たしていても製品として世に出してはいけない」とも。テルモとして譲れないラインが国の定めたガイドラインよりもはるかに厳しいことに衝撃を受けました。

── 見えないリスクを潰していく姿勢が求められるのですね。

はい。テルモに入社して強く感じたのは、「患者さんへの影響を最優先に考える」ということです。

ある日、先輩から「自分の家族に使えるか?」という言葉を聞いたことがあります。自分の父や母、祖父母に使われると想定したモノづくりをしようということです。

その言葉を聞いたとき、医療機器を開発する上で、自分たちが向き合っているのは単なる製品ではなく、人の命や生活に関わるものなのだと強く実感しました。実際に開発の現場では、「この条件で本当に十分か」「実際の使用場面を想定したときに見落としているリスクはないか」といった視点で、先輩方が真剣に議論する場面を何度も見てきました。そのような先輩方の姿勢に触れる中で、私自身も人の命を預かる医療機器を開発する責任の重さを実感してきました。先輩方の情熱を、心から尊敬しています。

必要なのはスキルよりも「好奇心」。医療機器開発に必要な資質

── 多岐にわたる専門知識が必要に思える医療機器開発ですが、この仕事に就くために必要なスキルを挙げるとすればそれはなんですか?

正直に言うと、入社前の特別なスキルは必要ないと思っています。重要なのは、「患者さんや医療現場の役に立つものをつくりたい」という想いと、未知のことにも関心を持って学び続ける好奇心だと思います。

テルモの開発現場には、電気電子、機械、化学、生物など驚くほど多様なバックグラウンドを持つ人が集まっています。いろんな専門分野の知見がないと作れない製品が多いからだと思います。同期には、獣医学部出身者がいたり、物理専攻でひたすら計算をしてきた者もいたりします。自分の専門性を武器にしつつ、医療機器の知識については、入社後に学んでいけば全く問題ありません。

── では、学生時代にはどのような勉強や経験をしておくと良いでしょうか?

まずは、自分の学部学科で与えられているカリキュラムに真剣に向き合いその分野での上を目指し、基礎知識をどん欲に学ぶことです。物理や数学など、社会人になったらゆっくり時間が取れない基礎的な理学の勉強を幅広くしておくことが大切だと思います。そのうえで、自分が特に興味を持った分野を深掘りしていくことが、将来の強みにつながると思います。

── 就活生へのアドバイスはありますか?

「自分はこの分野の人間だ」と決めつけず、色々なものに触れて探していく。その中で「あ、自分は解析をしている時が楽しいな」といった感覚を見逃さないこと。そうやって好奇心を磨いていくことが、将来のキャリアにつながる専門性を見つける近道になるはずです。インターンにも参加して、実際に触れる機会や経験を大切にしてください。自己分析は大切ですが、机上であれこれ考えるよりも、経験してみて、そこで得た好奇心や直感に従うのもよいと思います。

── 清水さんご自身の、今後の目標を教えてください。

2〜3年後の目標としては、自分にしかできない技術や強みを構築し、先輩に「質問する側」から「質問される側」の人材になりたいです。そして、自社技術を活かした新製品の案を自分から提案できるようになりたいですね。長期的には、開発だけでなく、評価や基礎研究、マーケティングなど様々な分野を経験し、より早く、より良いデバイスを患者さんに届けられるよう貢献していきたいです。

理系学生へのメッセージ

── 最後に、医療機器開発に興味を持っている理系学生へ向けたメッセージをお願いします。

「自身が開発に携わった一本一本のカテーテルが、日々の治療を支え、時には一刻を争う治療の現場で患者さんの命を救うことにもつながる」。私はそこに魅力を感じてテルモに入社し、その直感は間違っていなかったと心から思っています。学生の皆さんも、インターンなどで実際に現場の「モノ」に触れる経験を大切にし、ご自身の好奇心を大事にしてください。そして、医療機器を通じて「人の命を救う」ことに、魅力とやりがいを感じていただけたら、とても嬉しいです。

リケラボ編集部撮影

リケラボ編集部より

工学、化学、薬学、生物学など多様な理系の専門知識が高度に交差する医療機器開発の世界。そこで求められているのは、完璧なスキルではなく「人の命を救いたいという気持ち」と「未知への好奇心」であるという言葉は、多くの理系学生にとって背中を押されるメッセージになったのではないでしょうか。

清水さんのお話は、患者さんのために良い製品を創りたいという情熱と、品質に寸分の妥協を許さない気迫に満ちていて、テルモ全体がそういう文化・雰囲気なのだろうと、深く感銘を受けました。

取材にご協力いただいたテルモ株式会社様、清水さん、貴重なお話をありがとうございました!

※所属や肩書などはすべて掲載当時の情報です。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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