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電気を通す次世代ゴムで人間の肌を実現!開発現場で活躍するものづくりエンジニア 理系のキャリア図鑑vol.19 豊田合成 e-Rubber

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みなさん、この装置のなめらかな動き、いったい何が実現していると思いますか?

なんとこちら、電気で動くゴムを用いることで、波打つような動きを再現しているんです。まるで生き物のような動きですね!

これは「e-Rubber(イーラバー)」と呼ばれる次世代ゴムです。トヨタグループで主に自動車関連のゴム・樹脂部品などを開発・生産している、豊田合成株式会社が開発しました。

電気を通す特殊なゴムで、アクチュエーターにもセンサーにもなるすごいゴム。想定されている活用法もこれからの社会のニーズの高いものばかり。

今回は、そんなe-Rubberの開発秘話をお届けします!お話を聞かせてくれたのは、こちらのお三方。

左から、松野さん、馬場さん、薬師さん

松野さん
植物遺伝子工学を専攻し、植物の力を環境問題へ活かすための研究をしていた。豊田合成のあるプロジェクトに携わり、そのまま入社。2017年からe-Rubberのプロジェクトに参加。基礎開発を担当している。

馬場さん
工学部で機械工学を専攻。子どものころからものづくりが好きで、F1レース車などにも興味があった。2011年に自ら希望しe-Rubberのプロジェクトに参加。e-Rubberの名付け親!

薬師さん
工学部で高分子の研究室に所属。耐久性の高いプラスチックを作り環境問題に貢献するための研究を行っていた。2017年からe-Rubberのプロジェクトに参加。主に製品の量産方法を確立するための仕事を担当している。

 

電圧で収縮するゴムが、驚くほどなめらかな動きを実現

 
──さっそくですが、ゴムでこんなにもなめらかな動きを再現できるなんて驚きました。これはいったい何の装置なのですか?

馬場さん(以下敬称略):こちらは、2019年の10月に発売した心臓手術トレーニングシミュレータの「SupeR BEAT」です。簡単にいうと、心臓の血管同士を縫い合わせる練習をするためのキットで、医療ベンチャーのEBM社さんと共同開発を行いました。

馬場:表面の黄色いシートと,一体となっているe-Rubberは取り替えることが可能で、繰り返し練習することができます。実際の心臓が黄色い脂肪でおおわれていることからこの色になっています。心拍の速さやリズムも変更可能で、実際の手術のように心拍の変化や突然起きてしまう心室細動なども再現でき、実践的なトレーニングができるようになっているんです。

 
──複雑な動きで本物の心臓のようですね!本番前にたくさん練習できればドクターも自信をもって手術に臨めそうです!いったいどんな仕組みでこんなにもなめらかな動きを再現しているのですか?

馬場:e-Rubberは、薄いゴムを2枚の電極で挟んだ構造になっていて、電圧をかけることによって伸び縮みします。電圧の大きさによって伸縮を繊細にコントロールできるので、このようになめらかな動きを実現することができるんですよ。

 
──電気を通さないゴムに電圧をかけるというのは、どういったことでしょうか?

馬場:電圧をかけることでなめらかに動かせるのは、e-Rubberに使われている「スライドリングマテリアル」という材料がカギになっています。

 
──スライドリングマテリアル・・・どんな材料なのですか?

馬場:スライドリングマテリアルは、ネックレス構造(超分子構造)を持つ「ポリロタキサン」と呼ばれる高分子を架橋した材料です。架橋点が自由に動くことが特徴です。従来のゴムは架橋点が固定されていたため、一定以上の力で引っ張られると切れてしまいましたが、ドーナツのようなリング状の分子を架橋点に用いることで、そこが滑車のようにスルスルと自由にスライドする(リングがスライドする→スライドリングマテリアル)ことができるため、なめらかに動き、引っ張っても切れにくいといった特徴があります。

 
──自らの伸縮するエネルギーで滑らかに動くということですか?

馬場:はい、材料そのものが駆動源(アクチュエーター)としてふるまいます.モーターなどの従来のアクチュエーターと区別してソフトアクチュエーターと呼んでいます。柔らかく、小型軽量化が可能で無音で駆動しますね。

馬場:もうひとつ、e-Rubberには、加わった力を電気信号に変換できるというセンサーとしての機能もあります。

 
──薄くて柔らかくてその上、センサーにもなる!まるで人間の皮膚のようですね。

馬場:まさにそのとおりです。人間の手に近い感覚を持つロボット「触覚ハンド」も少しずつ実用化されてきています。

薬師さん(以下敬称略):ものに触れたことを検知でき、それ以上力を加えるのをやめることができるため、潰れやすい果物なども適切な力加減で持つことができます。小さなスペースで繊細な圧力も感知できるので、様々な場面で人の代わりを務めるロボットの普及を目指しています。先日開催された展示会では、ロボティクス・サービスを提供するQBIT Robotics社のロボットシステムに搭載して、「バリスタロボ」として会場でコーヒーの提供も行いました。

e-Rubberセンサ。これがロボットのハンドに搭載される

 
──確かに、これだけ滑らかで繊細な動きが出来て、センサーとしての機能も持っていれば、ロボットの皮膚として最高の素材ですね。特に介護ロボットのように優しい動きが必要な場面には最適だと思います。

馬場:はい、これからの少子高齢化社会において、人の作業を代替するロボットや、医療・介護、エンターテインメントなど、様々な分野で活用されることを楽しみに開発を続けています!

 

70年間培ったゴムの知見を活かし、次世代ゴムが誕生

 
──e-Rubber開発の経緯についても教えてください!

馬場:当社では自動車事業にとらわれず、ゴムや樹脂の技術を活かした新しい事業の可能性を追求しています。e-Rubberに関して言えば、2005年に、開発部の一人の研究者が「人工筋肉」に関心を持ったのが、開発の起点になりました。それまでも、人工筋肉の開発は国内外で数々行われてきましたが、耐久性などゴムの特性に課題があり、足踏み状態にありました。そこで我々がゴムの開発技術を活かせれば、これからの社会に役立つものを作れるのでは、という思いのもと開発に着手したと聞いています。

 
──世界のトヨタが自動車で使うゴムの研究で培った知見には、ものすごいものがありそうですね。その後どうやって開発が進んだのでしょうか?

馬場:様々な材料を調査するなかで、東京大学の伊藤耕三教授が発明した「スライドリングマテリアル」に着目しました。伊藤先生は本当に著名な方で、業界の人からすると「よくそんなところに声を掛けられたね」という感じだったのですが、こちらの熱意が伝わり、快く共同開発のお話を受けてくださいました。

スライドリングマテリアルはもともとゲル状の材料です。我々がこの材料の力を活用するには、固体のゴムにする必要がありました。当社が70年間培ってきた知見を活かした様々な試行錯誤が重ねられ、2008年ごろにようやく形にすることができました。e-Rubberは、伊藤先生の発明と、当社のゴムに関する知見を組み合わせたことで誕生したものだといえます。

 
──スライドリングマテリアルをゴム状にできたことが、ひとつのターニングポイントになったのですね。

馬場:そうですね。2012年にはようやく社外にお披露目できることになり、その際に「e-Rubber」と名前を付けました。“e”にはelectric、eco、elastomerと、日本語の「良い」という意味を込めています。

e-Rubberの研究開発が行われているラボ

 
──社外に向けてe-Rubberを発表してみて、いかがでしたか?

馬場:当初は、シート状のe-Rubberをぐるぐると巻いて、乾電池のような形状で使うことを想定していたのですが、2013年の展示会でお話をさせてもらった家電メーカーさんから、シート状のまま使ったらどうかと案をいただいたんです。それをきっかけに、さらに省スペース、軽量化を実現できる糸口が見えました。

2017年6月には、さらに社内的に力を入れていこうということで開発体制が拡充され、そのタイミングで、薬師と松野を含めた新たなメンバーも加わってくれました。e-Rubberにどんなニーズがあるのか、いろいろなメーカーさんの元で地道にヒアリングを重ねたり、展示会でいろいろな方とお話をする中で、「すごく面白いね」「こんなものができたらすごく魅力的だね」というe-Rubber活用の新たなヒントやアイディアをいろいろといただきました。様々な出会いのもと可能性が広がってきていると感じています。

 
──薬師さんは、「SupeR BEAT」の生産方法の確立に携わられたそうですね。

薬師:はい。設計としてはできても、それを安定して何十個と作ることになると、様々な条件を検討しなければならなくて。たとえば正しい配合量の範囲を決めるなど、すべて一から検討していきました。一つだけなら作れても、それを安定していくつも作れるようにするには、やはりすごくギャップがあり大変でした。

 
──たとえば、どんなギャップがありましたか?

薬師:e-Rubberの性能は温湿度に左右されるところが若干あるので、安定した製造にはまずは環境づくりから、ということになり、クリーンルームを作るところからはじめました。さらにそのなかに設備を入れて、製造条件も決めて……というところまで持っていく必要があったので、本当に考えることがたくさんありました。それと、e-Rubberは0.1mm以下の薄い膜なので、その中の平坦性を保つなどの繊細さも重要になってきます。当社では、このようなミクロンレベルの薄膜ゴムのものづくり経験があまりなかったので、まさに0から積み上げなければならない苦しさもありましたが、自分の関わった製品が世に出た初めての経験だったので、感慨深いものがありました。ほんの少しかもしれませんが、これまで学んできたこと・経験が製品という形で社会に貢献できたことがうれしかったです。

 
──松野さんは、e-Rubberの基礎開発を担当されているそうですね。今後のさらなる改良に向けた研究を行っているのですか?

松野さん(以下敬称略):そうですね。現在も、より大きな動きが出せるように、そしてより高い電圧をかけても耐えられ、より長く使えるように改良を重ねるための研究をしています。
それと、評価系の仕事も私の担当です。世の中にはe-Rubberのように電圧をかけて動かすゴムというものがあまりないので、測定の仕方や基準など、評価方法そのものから確立する必要があり、大変ですが、まったく新しい素材を世に送り出すための仕事だと考えるとやりがいがありますね。

 
──最近の手応えはいかがでしょうか。

馬場:やっぱり新しいものなので、そういう意味ではすごく反応いただけているかなと感じています。ですが、新しいものだからこそ私たち自身もまだ見出しきれていない可能性を秘めていると思いますし、世の中にどんな提案をしていけばいいのかが難しいなとも感じています。「面白いね」で終わらずに実用化を進めていくには、こちらから適切に価値を提案して、お客さんのニーズも捉える必要があります。さらに、お話が進んだとしても、当社としても未知の世界が多いので、我々自身も様々な分野のニーズに対応できるように力をつけていきたいと意気込んでいるところです。

 
──e-Rubberについて、一番気に入っている点はどこですか?

馬場:少子高齢化が進む今の社会では、今後いかに機械に任せられるところは任せていけるか、ということを考えていく必要があります。「機械化」というとどこか無機質な感じがしますが、e-Rubberは柔らかくて、なめらかな動きを出すことができるので、この特徴を活かしていけたら面白いのではないでしょうか。

 

就活生に向けたメッセージ

松野:私は学生時代は分子生物学の分野で植物遺伝子工学の勉強をしていて、現在の仕事とは分野が全然違っています。ゴムや電気、機械など今の仕事に関わるほとんどのことは入社してから学んだともいえます。でも、高分子としての基本的な構造には共通している部分もあり、学生時代の学びが活きている場面もあると感じています。あとから振り返ってみると「点と点がつながっている」ことがあるので、その時その時をきちんと全力でやっていくということが大切なのではと思っています。

薬師:今の松野の話にも通じますが、私もものづくりというのは分野が異なっていてもつながっていると感じています。何を作るにしても、実験の進め方、特に仮説を立てて検証するというプロセスは同じですし、量産方法の検討においても基本の考え方は同じです。私は学生時代にプラスチックの研究をしており、入社時も同じ分野の研究開発を希望していました。ですが最初の配属は全くの別分野である半導体の開発部署でした。始めは希望の配属ではなく戸惑いもありましたが、分野は違ってもものづくりには変わりなく、毎日が新鮮で面白くて。結果的に世界が広がり、今の自分に繋がっています。就活中にこだわりのあった分野よりも、「ものづくり」に携わることの方が自分には大事だったのだと気づきました。これから就活に臨む人には、あまり自分の可能性を狭めてしまうともったいないので、ぜひ視野を広く持って志望分野を広げてみてほしいです。

馬場:私は、興味を持ったことがあればとことん「こういうことをやってみたい」とアピールすることが大切だと思っています。「好き」という気持ちが日ごろのモチベーションになりますし、「やってみたい」という話を積極的にしていくことで、任せてもらえるチャンスが増えます。e-Rubberのチームに加わったきっかけも、自分からやりたいと手をあげたことでした。面白いと感じたことを素直に伝えていくことによって、社内外の方に助けていただけることも多く、感謝して毎日を送ることができています。「好き」に出会うには、日ごろからアンテナを張って、選択肢を広く持つことも大切です。そのなかから自分のやりたいことを選択していければ、それはすごく強みになっていくと思います。

 

まとめ

これからの社会に求められる画期的な素材e-Rubber。その開発は、前例がなく基準もなく、本当に毎日が手探りということが、3人のお話からヒシヒシと伝わってきました。企業に就職したら、教わることのほうが多いというイメージがありましたが、開発の仕事は、未知のことに取り組む創造力や、これまでの経験を総動員して解決方法を探す力、うまくいかなくてもめげない力を持っている人が向いているということも、よくわかりました。それから、馬場さんのコメントで、今後の世の中はさらなる「機械化」が避けられないとしたうえで、人の手の柔らかさや温かさを大切にしている点も、とても印象に残りました。ものづくりエンジニアのあこがれの先輩たちとしてこれからも頑張ってください!

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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