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「最先端の再生医療製品を自らの手でつくり、患者さんのQ.O.L向上に貢献する」理系のキャリア図鑑vol.13 株式会社ツーセル | リケラボ

「最先端の再生医療製品を自らの手でつくり、患者さんのQ.O.L向上に貢献する」

理系のキャリア図鑑vol.13 株式会社ツーセル

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理系のキャリア図鑑は、理系の道で活躍する先輩たちに今の仕事に就くまでや、現在の仕事内容、今後のキャリアについてのお話を伺いながら、理系の仕事の幅広さを伝え、就職のヒントを探っていくシリーズです。

vol.13でお邪魔したのは、独自開発の再生医療製品の開発をしているメーカー、株式会社ツーセル。ツーセル社は現在、間葉系幹細胞を使った製品「gMSC®1」を自社培養し、膝軟骨の再生医療に提供を目指して治験を行っています。今回は「gMSC®1」の製造を担当する、ともに1年目の黒川仁結さん、井場康平さんのお二人にお話を伺いました(写真左から 井場さん、黒川さん)。

株式会社ツーセル
2003年、広島大学発のベンチャー企業として広島市にて創業。間葉系幹細胞(MSC)を活用した再生医療事業を手がけ、世界に先駆けてMSC用無血清培地を発売した。その後、初代細胞用無血清培地、骨分化誘導用無血清培地を順次発売し、独自の技術を活かして同種(他家)由来MSCを活用した、膝軟骨再生細胞治療製品「gMSC®1」の開発に取り組んでいる。「gMSC®1」は2016年に中外製薬とライセンス契約を締結し、続いて開発中の中枢神経疾患領域のMSCを有効成分とする製品は2017年に大塚製薬と優先交渉権契約を締結している。
http://www.twocells.com/

※ツーセル社の再生医療製品事業のビジネスモデルイメージ

間葉系幹細胞に特化した再生医療のパイオニア

これまでに、傷ついた軟骨は再生しないと言われてきました。また、脳梗塞などで一端失われた神経機能は、容易には回復できないことが知られています。これらの病気は、要介護や寝たきりになる要因となっています。これらの病気を改善する新たな治療法として注目されているのが再生医療です。

こうした背景のもと、ツーセル社は、間葉系幹細胞(MSC)を使った再生医療製品の開発に取り組んでいます。細胞を使った再生医療といえば一般にはiPS細胞が有名で、MSCはあまり知られていません。けれども骨髄や関節内にある滑膜等から作製されるMSCには、iPS細胞にはない特長があります。

まず、MSCはがん化のおそれが非常に少ないことが知られています。また、免疫拒絶が起こりにくいことも知られており、いわゆる他家移植(他人の細胞を移植すること)をする際に有用と考えられています。これに加えて、ツーセル社はMSCを培養するため無血清培地STK®培地を独自で開発しており、この培地には動物由来の血清が含まれておらず、他の成分も含めて安全性も十分に担保されています。このSTK®培地で培養することで、均質・均一なMSC(gMSC®)を大量に製造できるため、少量の組織片から非常に多くの製品を作製できます。さらに、他家移植であるため、医療機関や外部加工施設で自己組織などから移植用の細胞調製をする必要がなく、すぐに使えるので治療をスムーズに行えます。

これらの特徴を活かし、ツーセル社ではMSC関連の複数のパイプライン開発を進めており、現在、第3相の治験を実施している膝の軟骨損傷の製品gMSC®1を中心に、中枢神経疾患領域など様々な領域を対象に精力的な研究開発を行っています。

再生医療を広く普及させるため、ツーセル社が開発を行っている製品の材料には他家由来のMSCを使っており、そのメリットは大量生産が可能となることです。既存の低分子薬などと同等に量産化が可能となれば、一人でも多くの患者さんを救えるだけでなく、コストを抑えて一人ひとりの患者さんの経済的負担を和らげることにもつながります。また、患者さんから採取した細胞を培養し、再び手術して移植する自家移植型の製品とは違い、他家移植型の製品なら手術が移植時の1回で済むので、患者さんの身体的負担も軽減できます。

このように様々な独自開発を行っているツーセル社ではありますが、治験や治験終了後の承認申請、そして上市を見据えて、今後の課題となるのが量産化のための体制整備です。

膝の痛みに悩む人を救うために

gMSC®1は画期的な再生医療用の製品だと伺いました。

井場:gMSC®1と類似の製品はほかにもありますが、これは自家つまり患者さん本人の細胞を使うものが多く、そのため治療に際しては、まず手術をして細胞を採取・培養してから、再度手術をしなければなりません。患者さんへの負担だけでなく、治療の早さの点でもgMSC®1にはメリットがあります。

黒川:実は私の母親も軟骨の摩耗に苦しめられていました。ちょうど私の高校時代にiPS細胞が登場し、私も再生医療に注目するようになったのです。軟骨がすり減り関節の痛みを訴える母親の姿を目の当たりにしていただけに、再生医療に関わることができることは大きなモチベーションとなっています。

再生医療用細胞の培養とは

細胞の培養作業は具体的にどのように行われるのでしょうか。

井場:私たちが担当しているのは、組織からの細胞の樹立培養工程および細胞の増殖培養と製剤化の部分です。

黒川:何度か継代培養を繰り返して増殖培養した細胞から三次元構造を有したgMSC®1を作製します。こう話すと何でもない作業に聞こえるかもしれませんが、ここが結構難しくって。

井場:作業する場所『gMSC®センター』は無菌環境の特別なスペースです。室内のチリ・ホコリや菌などの微生物も管理しております。

黒川:作業衣もチリなどが出ないよう特殊な無塵衣を着用します。患者さんの体の中に入る細胞を培養しているのだから、万が一にもチリや菌などの微生物が混入することも許されません。腕を動かすときもディッシュ上の通過が禁止されているなど、きめ細かくルールが決められています。

井場:とはいえ培養作業そのものは決して難しくなく、マニュアル通りにきちんとやれば製品はできます。ただ、人がやることなので、どうしても自分では気づかないうちに違った動きをすることなどもあるので要注意です。

※無塵衣を着用する『gMSC®センター』での作業風景。作業中の動作一つまで、細かなルールが定められている。

安全性確保のためのチームワーク

では、どのようにしてミスを防ぐのでしょうか。

黒川:作業はチーム制で行い必ず複数人で行います。製品の品質を担保するため、作業者に加えて作業の経過をチェックする人が必ずつくのです。

井場:だからチームワークが欠かせません。1人でも勝手な動きをすると、製品の安全性を確保できなくなります。何かあればすぐにチェック者に相談し、安全を確認しながら作業を進めてはじめて、患者さんに安心して使ってもらえる製品が完成するのです。

一人前になるまで訓練に時間がかかりそうですね。

黒川:意外にそれほどでもないと思います。実は私も井場さんも今年の入社で、培養のトレーニングを始めたのは同じ時期から。私は前職などで細胞培養の経験があったのですが、その意味では井場さんはとても早く習熟された印象があります。

井場:もし早かったとしたら、大学時代に所属していた研究室で、細胞を扱っていたからかもしれません。ただ訓練とはいえ本番と同じ培養作業を行うため、かなり緊張しました。今考えればそうやって集中していた分、早くマスターできたのかもしれません。

意識は常に患者さんに向かう

この製品が医療現場で使われるようになれば、膝の痛みで苦しんでいる多くの方が救われますね。

黒川:患者さんのことは、いつも頭にあります。体の中に入るものをつくっているのだから、万が一にも失敗は許されません。作業室に入る寸前まで患者さんの姿を頭の中に思い描いて、意識を高めるよう心がけています。

井場:ただし、いったん『gMSC®センター』に入ったら、何もかも忘れて作業に集中します。そうして作業することが結局は患者さんのためになるわけですから。「ミスをしたら」と考えると怖さがないとはいえませんが、だからこそチームメンバーがいつも見てくれていることが安心感につながっています。

仕事のやりがいはどのように考えていますか。

井場:製品が世に出た暁には、新しい治療法そのものを医師や患者さんに届けていける。そういう意味で、自分たちがやっている仕事は他の何ものにも代え難い。自分にしかできないことをやっているという意味では、やりがいは強く感じています。

黒川:専門学校に通っていた頃、心筋細胞を見せてもらったことがあります。最初はほんとに小さくて薄い細胞が、成長するにつれて脈打つようになるのです。その情景は今でもしっかりまぶたに焼き付いていて、その細胞を自分がつくっているのだと思うと誇らしく思いますね。

最先端技術を学び、未知の世界へ

ところでお二人は、広島のご出身ですか。

井場:私は大阪生まれで大学卒業まで大阪で過ごし、大学院は京都でした。広島には小学校時代に修学旅行で来ただけです。だから正直に告白すると、最初は少し不安なところもありました。けれども、やりがいのある仕事に就けるのだと思えば、そんな不安は解消されます。そして「住めば都」とはよく言ったものですね。何かにつけて水を眺めていると心が癒やされる性分なので、街なかに川が多く流れている広島は私の性に合っている。こちらに来て良かったです。

黒川:私は岡山生まれの岡山育ちですから、広島はお隣といった感覚ですね。広島に来て思うのは、広島県人の地元愛の強さ。カープファンがこんなに多いとはちょっと驚きました。野球は好きじゃないくせに、カープだけは大好きなんて女子もいたりして、それってどういうこと、みたいな(笑)。私自身は、携わっている仕事に意義を感じられれば、働く場所は気にならないタイプです。

今後の抱負を聞かせてください。

井場:決して派手ではないけれど、人を助ける大切な仕事は、自分に合っています。熟練の先輩から「井場くんになら安心して任せられるね」と早く言ってもらえるようになるのが当面の目標です。

黒川:最先端の技術を体感できる職場とようやく巡り会えました。技術は日進月歩で、新しい手技が次々と開発されてもいます。日々の学びを大切に、ほんの少しずつでもいいから、ずっと成長し続けていきたいですね。

<就活生へのメッセージ>

井場
就活に関して一つだけアドバイスするなら、ESはとにかく一度、できるだけ早い時期に書いてしまうこと。就活が始まる前に用意できていると心の余裕が違ってきます。私は修士課程まで進みましたが、研究室では就活を優先してよかったので、研究と就活をマイペースで進められました。一人で活動していると、どうしても自分だけの世界に入ってしまいがちなので、研究室の仲間や先生に意識的に相談するのが良いでしょう。ESの文章なども自分ではわかっているつもりでも、第三者からみれば意味不明なこともあります。そんなアドバイスをしてくれる人を見つけておきましょう。

黒川
私は専門学校を卒業して就職するとき、学校に寄せられた求人票には頼りませんでした。やっぱり自分にとって魅力的な企業、そこで仕事をしてみたいと思える企業を自分で見つける努力をしたほうが良いと思います。結果的に当社が3社目ですが、今の仕事にはこれまでの経験をすべて活かせています。就活のときも仕事を始めてからも、私はいつも自分の意見をしっかり持つよう意識し、言うべきことをはっきりと言葉に出すよう心がけてきました。安易に人の意見に同調するのはよくないと思います。面接などでもハキハキと話せる人は好印象を与えるはずです。

編集部より

再生医療への関心は高まっているものの、現時点で治験中のgMSC®1の存在はあまり知られていません。けれども、治験を終えて製品が市場に出るようになれば、その知名度は一気に全国に広がる可能性があります。これから gMSC®1の恩恵を受ける人も増えていくでしょう。

そのニーズに応えるためツーセル社では今、量産体制の整備を急いでいます。iPS細胞の培養に関しては自動化装置なども出始めていますが、生きた細胞を扱うとなると、必ずどこかで人が関わらなければなりません。その際にいかに安全性を確保するのか。井場さん、黒川さんのお話にあった訓練から実際の製造にいたるプロセスには、ツーセル社のノウハウの蓄積ぶりがうかがえました。人が、人のために心を込めてつくる再生医療製品で、人の痛みを和らげて人生の質を高める支援をしたい。黒川さん、井場さんが語ってくれた仕事のやりがいが強く印象に残りました。

井場 康平(いば こうへい)さん
京大大学院農学研究科応用生命科学卒。2019年4月パーソルテンプスタッフ研究開発事業本部入社、広島オフィス配属後、株式会社ツーセル株式会社に出向。再生医療用細胞の培養(治験製品)を手がける。

黒川 仁結(くろかわ みゆ)さん
大阪ハイテクノロジー専門学校バイオサイエンス学科卒。複数の製薬会社を経て、2019年6月に株式会社ツーセルに入社。井場さんと同じく再生医療用細胞の培養(治験製品)を手がける。

(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)

リケラボ編集部

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