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破壊発光を観察してみた!│ヘルドクターくられの1万円実験室

破壊発光を観察してみた!│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第18回目のお題は「破壊発光」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!



皆さんこんにちは。レイユールです。
今回は、「破壊発光」という現象をご紹介いたします。

破壊発光とは

破壊発光とは、物質が破壊(=砕いたり引っ掻いたりすること)される際に光が出る現象のことを指します。同様の意味で「摩擦発光」という語が使われることがありますが、砕くような場合と引っ掻いたり擦り合わせるような場合で使い分けがされることもあります。

あまり身近にこの現象を感じることはありませんが、実は日常の多くの場面で発光が起こっています。しかしながら、発光が微弱であるために普段は人の目には留まりません。

テープが光る?

まず初めに、摩擦発光として最も身近なものを一つ紹介しましょう。こちらは比較的有名な実験なので、既にご存知の方もいるかもしれませんが、布製のガムテープを貼り合わせてから剥がすとその境界で発光が発生します。まずは実際に観察してみましょう。

1.布製ガムテープを30cmほど取り出す

▲ガムテープ。布製のガムテープを使用する。長さは目分量でも構わない。

2.両端を1cmほど折り返す

▲端を折り返す。持ち手となる部分を作る。

3.半分に折って貼り合わせる

▲半分に折り返す。気泡などが入らないように折り返すと観察が容易。

4.暗所で引き剥がす

▲引き剥がしの様子。室内はできるだけ暗くする。

▲発光の様子。暗所撮影のため画質が悪いが、十分に発光が観察できた。

室内が十分に暗ければ剥がすと同時に青白い発光が観察できます。テープの種類や剥がすスピードによっては発光が観察できないこともあるので、うまくいかない時にはテープの種類を変えてみると良いかもしれません。

実は、セロハンテープを剥がす際なども発光が発生しており、実に身近な現象であると言えます。

氷砂糖が光る?

それでは、本日の本題である「破壊発光」を観察してみましょう。破壊発光は主に結晶を砕く際に発光する現象を言います。どんな種類の結晶でも発光が起こるわけではなく、一定の種類の結晶のみが発光を示します。例えば、銅やユウロピウムを含む一部の有機錯体では非常に明るい発光を観察することができます。しかし、これらの化合物は市販されていませんし、合成を行うのも大変です。そこで、今回は身近な結晶である氷砂糖を使って観察を行ってみましょう。

▲氷砂糖。クリスタルと呼ばれる結晶面が出ているものが観察しやすい。


1.氷砂糖をプライヤーなどで掴む

▲掴んだところ。ペンチやハンマーでも構わない

2.透明なビニールなどで覆う

▲透明な袋を被せる。破片が散らばらないように袋を被せると安全。後片付けも容易となる。

3.暗所で勢いよく握って砕く

▲発光する氷砂糖。手ブレ防止のため、専用のプレス装置を使用して撮影。肉眼ではプライヤーやハンマーでも同様に観察ができる。

氷砂糖の結晶が砕ける際に一瞬青白い発光を見ることができます。発光は一瞬かつ微弱なので、目が暗闇になれてから行うことや、一瞬で砕くことなどに注意すると比較的簡単に観察が行えます。今回はプライヤーで潰しましたが、ハンマーなどで砕いても同様に観察を行うことができます。

ちなみに、飴を使った実験では発光は観察されませんでした。一部の情報によると、発光する飴も存在するようですが、氷砂糖を使った方が観察できる確率は格段に上がると思います。 この理由としては、飴は「結晶」ではなく熱で溶かした砂糖などを冷やし固めたもので、ガラスに近い「アモルファス」という状態であることが挙げられます。破壊発光の多くは結晶で観察されることから、飴が結晶を形成していないのが原因と予想しています。

▲砕く前の飴。氷砂糖と同様の装置にセットした。

▲砕いた瞬間。飴は4種類試したが、いずれも発光は観察できなかった。

水晶が光る?

氷砂糖の発光は微弱なので、さらに鮮明な発光を観察したい場合には、水晶を使う方法があります。水晶も破壊発光を示す鉱物で、氷砂糖よりも強い発光を示す場合が多いです。

水晶を地面などに置いて、勢いよくハンマーで砕くと一瞬発光が観察できます。場合によってはコンクリートなどの地面にカケやヒビが入ることがあるので、金床や大きめの石など傷になっても困らない場所で観察すると良いでしょう。また、飛び散った破片はガラスのように鋭利なので、目に入らないように安全メガネを着用し、破片で怪我をしないよう十分に注意して行ってください。

▲今回使用する水晶。ガラスでは観察できないので、水晶であることをしっかり確認しよう。

▲粉砕前の水晶。撮影のために専用プレス装置を使用しているが、ハンマーで砕いても同様の結果を得られる。

▲水晶の発光。氷砂糖に比べて幾分強く発光するので観察しやすい。ハンマーを使うと火花が出ることもあるが、これは鉄粉の燃焼によるもの。

破壊発光の原理

破壊発光を十分に観察できたところで、その原理を解説しましょう。破壊発光は、未だに解明されていない部分もある現象ですが、現在有力とされる仮説では、破壊を受けることで化学結合が切断され、その余剰エネルギーが光として放出されていると考えられています。

特に、多くの破壊発光では電荷分離と呼ばれる現象が発生していることが明らかになっています。結晶が砕かれる際に化学結合が切断され、これによって小さな電場が発生します。これが、電荷分離と呼ばれる現象で、ちょうど静電気が溜まったような状態になります。それがスパークを起こして安定する際に発光が発生すると考えられています。

実験にかかった費用

・ガムテープ 100円程度
・氷砂糖 1,000円程度
・プライヤー 3,000円程度
・ビニール袋 100円程度
・水晶 2,000円程度
・ハンマー 1,500円程度

氷砂糖は「ロック」よりも「クリスタル」の方が観察しやすい。また、水晶は砕いてしまうので品位の低いもので十分です。

掲載写真,図全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

薬理凶室YouTubeチャンネル

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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