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注目の「再生医療」に関わる仕事をしたい! 再生医療の将来予測と発展する関連産業 -理系のための業界研究 再生医療編Vol.3- | リケラボ

注目の「再生医療」に関わる仕事をしたい! 再生医療の将来予測と発展する関連産業 -理系のための業界研究 再生医療編Vol.3-

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前回の記事では、再生医療に関して、実用化が近い研究テーマや製品候補、主要な企業についてご紹介いたしました。続編の本記事では、再生医療の市場予測や、再生医療の普及に必要不可欠な関連企業をご紹介いたします。再生医療分野でのキャリアについて興味をお持ちの方は是非参考になさってくださいね!

再生医療業界の将来性は?

questioner

Q:再生医療の研究が加速しているとはいえ、実際のところ、将来の市場として、どのような試算がなされているのでしょうか?

rikelab

A:2020年に716億円、2025年に6000億円超、2030年には1兆8200億円と予測されています

■市場規模について

再生医療の2015年の市場規模は約144億円であったと推計されています。

2020年には、現在進められている臨床試験や医師主導治験から、条件付き承認を含めて複数の再生医療等製品が上市されると予想されています。体細胞や間葉系幹細胞由来の眼領域、心臓領域神経領域が主となるでしょう。(治験中の再生医療等製品は前回の記事をご参照ください)

2025年には、他家iPS細胞を用いた加齢黄斑変性、網膜色素変性症およびパーキンソン病に対する製品が承認され、市場は一気に拡大、2020年予想の8.5倍の約6094億円にまで成長するとの予測もあります。

さらに2030年までには、膵臓、腎臓、肝臓などの臓器移植の代替としての再生医療が実現することが期待されています。その時には国内市場規模が1兆8198億円を超え、世界市場規模は12兆8000億円にものぼると予測されています。

ちなみに、日本の医療用医薬品の市場規模は、2014年時点で11兆3,098億円です。(売上高ベース:日本製薬工業協会 DATA BOOK 2018より)

出典:一般社団法人 再生医療イノベーションフォーラム『平成28年度年次報告書』(2017年3月27日シードプランニング調べ)

求人増加中!再生医療の実用化を加速させる周辺産業(サポーティングインダストリー)って?

questioner

Q:「実用化に向けて今必要とされていることは何でしょうか?」

rikelab

A:「再生医療の研究や普及を加速させるためには、再生医療を支援する周辺産業がカギを握ります。例えば、より高性能な試薬や培地の開発、大量の細胞を安定的に培養する方法の開発、細胞培養受託サービスなどです

■再生医療を普及させるためには、周辺企業の技術開発と発展が不可欠

再生医療には細胞から組織・臓器を加工して患者に移植する「組織再生」と、細胞を培養・分化させ患者に投与する「細胞治療」の二つの方法があることはVol.2でも述べた通りですが、一般的な医療として普及させるには、とにかく、

①品質の良い細胞を
②安定的

③低コスト

④大量に培養する

ことが絶対条件です。

実際の医療に必要とされる量の細胞をまかなうことが出来なければ、いくらラボでの研究が成功しても産業化はできません。そのため、高品質かつ大量培養の開発競争が世界的に行われています。また、細胞を採取するデバイスや分離装置、培地、凍結試薬・機器・保管、輸送など、バックヤードの技術や体制の充実も急務となっています。

日本は、基礎研究のレベルでは世界トップクラスであるものの、実用面では世界に遅れをとっていると言われています。それは、上記のような周辺産業を包括した産業育成システムの構築が進んでいないことが原因と言われてきました。この課題を克服するべく、国やFIRM(※)を中心に取り組みがなされており、大企業から中小のモノづくり企業まで、再生医療をキーワードに幅広い分野で開発が盛んに行われています。(※FIRM:一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム)

例えば、澁谷工業。清涼飲料をはじめ、酒、調味料、化粧品、薬品などのボトリング大手ですが、従来持っていた無菌充填の技術を活かして培養に用いるアイソレータを開発しています。この分野に参入するまで、生物系出身の社員はいなかったそうですが、開発を機に採用を強化したそうです。半導体関連装置の企業、ローツェも、本業で培ったオートメーション技術を活かしてiPS細胞の超小型自動培養装置を開発して注目されています。

試算では、再生医療の周辺産業の市場規模は、2012年で172億円だったものが2030年には5514億円にまで拡大するとされており(※)、それに伴い、求人も増えています。

※株式会社シード・プランニング『平成24年度中小企業支援調査(再生医療の周辺産業に関する調査』より

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出典:『平成24年度中小企業支援調査(再生医療の周辺産業に関する調査委事務報告書)』(平成25年2月/株式会社シード・プランニング)

上のグラフはそれぞれ、具体的には下記を表しています。

装置類⇒細胞加工施設、セルプロセッシングアイソレータ、インキュベーター、自動培養装置、フローサイトメーター(セルソーター、セルアナライザー)、細胞画像解析装置など。

消耗品類⇒培地、試薬、足場材料、培養容器など再生医療に特化した製品から、ピペット・チップ、ELISA・マイクロアレイなどの評価キット等、他のライフサイエンス研究で使われるものも含まれる。

▼主な国内企業を表にまとめました。

培地・試薬・培養容器などは現状では海外メーカーのほうがよく使われていますが(ライフテクノロジーズ、シグマ・アルドリッチ、ステムセルテクノロジーズ等)、日本企業も積極的に開発していることが分かります。

細胞加工施設 パナソニックヘルスケア、日立プラントテクノロジー、日揮、千代田化工、ダイダン、清水建設、IHI
セルプロセッシング・アイソレータ― パナソニックヘルスケア
自動培養装置 カネカ、ツーセル、川崎重工業、日立製作所、丸菱バイオエンジ、日本光電、エイブル、セルシード、澁谷工業、島津製作所、ニプロ、東京エレクトロン、パーパス、ジェイテック、東洋製缶、メディネット、アステック、ローツェライフサイエンス、アークレイ、東ソー等
検査機器 ニコン(細胞自動観察装置)、ソニー、古川電工、オンチップ・バイオテクノロジーズ(フローサイトメーター)
培地・試薬 タカラバイオ、リプロセル、DSファーマ、味の素
住友ベークライト、オリンパス、ニッピ、和光純薬工業、関東化学日産化学、ブルボン、ニプロ、Meiji Seikaファルマ
足場材料 セルシード、オリンパステルモバイオマテリアル、科研製薬、クラレ、メドジェル、ジーシー研究所、コバレントマテリアル、メニコンライフサイエンス、3D MATRIX、ソフセラ、新田ゼラチン、ニッピ、高研、富士フイルム、アルプラスト、グンゼ、エム・エム・ティー、富士ソフト、東洋紡
培養容器等 旭硝子(IWAKI)、住友ベークライト、日油、サンプラテック、エイブル 他多数

■急速に増える細胞の量産化施設

周辺産業のうち一番規模の拡大が期待されるのは、細胞の加工・製造受託、細胞の保管、輸送、設備メンテナンス、品質管理受託コンサルといったサービス業です。ここ数年で求人が顕著に増えています。

再生医療の研究では、熟練技術者が手作業で細胞を培養していますが、いよいよ医療として普及する段階になると、医療用として耐えうる安全性と品質を満たす細胞を大量かつ安定的に供給する工程、つまり細胞の「製造」を担う機能の拡充が現在求められています。

工業的手法で大量生産できる医薬品や医療機器とは異なり、製造工程が複雑でプロセスが多いのが細胞製品の特徴です。特に患者本人の細胞を使う自家移植の場合、細胞の採取⇒培養⇒体内に移植というオーダーメイド製造になるため、時間がかかるだけでなくコストも高額になります。一定の温度条件で細胞を運ぶための容器や輸送技術にも特別なものが求められますし、必要なコストの大部分が培養技術者の人件費で占められているのも特筆すべきポイントです。

コストを大幅に削減するために、患者本人の細胞ではなく、比較的拒絶反応が少ない他人の細胞を活用した細胞製品(他家細胞)の開発や保存方法の確立が急がれています。他家細胞由来製品の開発が進めば、ひとつのロットから大量に製造できるので、品質試験の回数も大幅に削減することが出来ます。

いずれにしても、細胞製造の施設を持ち、培養人材を確保して、適切に品質を管理するためには、扱う細胞の種類や培養の目的ごとに独自のノウハウが必要とされます。

このような背景から、2015年「再生医療などの安全性の確保に関する法律」が施行されました。

この法律では細胞の製造・加工施設が満たすべき基準を制定しています。基準を満たした設備を持っていれば、医療機関ではない第三者が病院に代わり細胞を培養することが法的に可能となりました。その一方で細胞の製造・加工施設であるCPC(Cell Processing Center)と呼ばれる設備を建設するための多額な投資や、熟練した人員の充足など、国が求める要件を全て満たす施設を整備することは容易ではありません。そのため、細胞の製造を外部に委託したいと考える医療機関や研究機関は多く、新法制定後、細胞培養受託企業が増加傾向にあります。一例として、大日本住友製薬が、大阪府吹田市に世界初の他家iPS細胞由来の再生・細胞医薬製造施設を竣工したことも話題となりました。こちらは主に、自社細胞医薬品の承認後を見越したものですが、自社製品に限らない受託製造企業としては、J-TECメディネットなど大手企業のほか、大規模な設備投資を実施した日立化成や、都内で柔軟にニーズに対応するセルソースなど注目すべき企業が多数出てきています。

<細胞培養・加工受託を行っている企業の例>

J-TEC(自家軟骨・表皮細胞)、テラ(がん免疫細胞)、メディネット(がん免疫細胞)、ロンザ・ジャパン(非臨床用細胞培養)、セルシード(自家角膜上皮)、テルモ(自家骨格筋芽細胞心筋シート)、セルバンク(自家繊維芽細胞)、セルソース、タカラバイオ、日立化成、フナコシ、日本バイオセラピー研究所、バイオ・メディカソリューション株式会社(パナソニックヘルスケアと旧三洋電機G・テラの合同会社)、富士ソフト・ティッシュエンジニアリング、バイオミメティクスシンパシーズ、ファーマバイオ、ニコン・セル・イノベーション、澁谷工業、アイロムホールディングス、日水製薬(2021年事業化予定)

細胞を扱うことのできる技術者が不足しています。

細胞培養はとても繊細な作業のため、同じ手順でも人によって培養細胞の品質も生産効率も変わってきます。細胞は生き物ですので、一つひとつに個体差があり、その個々の特性を見極めて育てなくてはいけないからです。このため、状態の良い細胞とそうでない細胞を見極める目利きの能力も必要です。

特に培養が難しいとされるiPS細胞で言うと、培養技術を習得するまでに平均半年から1年のトレーニングが必要と言われています。ほぼ毎日培地交換をし、3日ごとに継代作業=細胞の仕分け作業が必要など、技術のほかに手間も非常にかかります。

これらの理由から、人に頼らず安定的に一定品質の大量培養を実現しようと自動細胞培養装置の開発が盛んに行われています。基礎研究用に開発されたもので実際に活用されているものも発表されていますが、医療用ではさらに厳しい品質基準が課せられますので、それを満たすために、日々さまざまな改良が重ねられています。

いま、再生医療研究の現場では、この細胞培養技術者や品質試験を担当する技術者が圧倒的に不足しています。今後実用化が現実となり、医療現場に普及するようになると、更なる人員不足が見込まれています。特に出来上がった細胞製品の品質検査は重要で、基準をクリアしないと安心して患者さんに使用できません。GMP(※)の知識を持ち、多くの分析装置や解析装置を使えるスキルを持った、細胞の目利きができる人材が大幅に必要となるでしょう。(※GMP:Good Manufacturing Practice,医薬品の製造や品質に関して国が定めた基準)

細胞培養講座や技術に応じた資格制度を創設し、細胞培養技術者を育成する試みも各地で進められています。

企業や研究所の求人の応募要件は必ずしも医学専攻である必要はありません。未経験からチャレンジしている方も大勢いらっしゃいます。生物・バイオ・農学系専攻出身者で無菌操作の経験を求められることが多いですが、仮にほかの専門であっても、決められた手順に従って細かい作業を正確に行える方であれば、細胞を扱う技術者としての適性は十分にあると考えられています。事実、ネイリストやピアニストといった指先の正確な動きが必要とされる職業出身の方が活躍されているケースもあります。

医療に貢献できる専門職として、大きなやりがいと将来性のある再生医療分野。
少しでも興味を持たれた方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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リケラボ編集部

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