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なぜ企業は採用選考にAIを活用するのか?
近年、AIによる採用選考が注目を集めています。
厚生労働省によると、採用選考は「応募者の基本的人権を尊重すること」「応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと」この2点を基本的な考え方として実施することが大切とされています。
公正な採用選考とは、応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないということです。個性などの定量的に図りづらいものを評価する場合や、採用者による評価尺度が一定でない場合、公正な採用面接の機会均等を期待するために、AIを活用しようという考え方が出てきました。
AIは蓄積したデータを基に物事を判断するため、各企業によるリクエストや情報によって差別化されているものの、現状では多くのエントリーがある企業の書類選考や、1次面接など採用プロセスの補助的な目的として活用されています。
近年の採用選考の動向について
近年の新卒採用ではDX化が急速に進み、従来の採用方法からデジタル技術を活用した新しい採用方法へと大きく変貌を遂げています。
その背景として、コロナ渦の影響・採用コスト効率化などが考えられます。また、多くの地方や海外渡航中の学生への採用機会を得る一因にもなっています。企業によっては、社内メンバーの共通する性格傾向を抽出し、企業にマッチする人物像を具体化することで、採用精度の向上やミスマッチ防止を図ります。また、優秀なメンバーと類似傾向を持つ応募者の採用などを行います。学生のみなさんはこれらの変化に対応し、準備していく必要があります。
デジタル技術を活用した採用方法の具体例
選考プロセスにおいてあらゆる場面でデジタル技術は活用されています。デジタル採用を意識することで、よりスムーズに就職活動を進めることができます。
■採用活動におけるデジタル活用の例
- SNSを活用した採用活動
- VR・ARを活用した企業説明会
- チャットポット等を利用した質疑応答
- AIを活用した書類選考(WEBエントリーシート(ES)の選考)
- AIを活用した動画選考(自己PR動画の選考)
- オンライン面接
- AI面接
アナログからデジタルへと変わる一方で、変わらないものもあります。前回の記事(就活で活かせる自己認識力を高める方法)でも述べましたが、私は、皆さんが歩んでこられた人生はロッククライミングだと考えています。どの石を選んでここまでの人生を歩んだのか、意味深い自己認識のもとに構築したエピソードとしてこれまでの経験を企業へアピールすることが、よりよい就職の秘訣であることに変わりはありません。そしてそのエピソードや背景にある人柄・信念に感銘を受けて採用を決めるのも人間である面接官です。ですが、就活のはじめの段階で活用されているデジタル選考をクリアしないと、人間が行う技術面接やグループディスカッションにまで辿り着きません。それは非常にもったいない上、非効率です。上記でご紹介した中でも特に、準備が大切と思われる「動画選考」と「AI面接」について、理系学生の皆さんが身に付けるべきこと、そしてそのための具体的なアクションを心理学の観点から、ご説明したいと思います。
動画選考(WEB選考)とは
企業の新卒採用選考にAIを導入している企業は、2019 年の段階では2.3%にとどまっていました。しかし、2026年採用に関して従業員規模が5,000人以上の企業については、AIの導入を「検討している」が 10.1%となっていることから、今後、大手企業を中心に採用選考における AI 導入が増えることが予測されます。また、日本の人事担当者の多くが読んでいると言われている国内最大級の採用・人事関連情報サイト「日本の人事」ではAIが採用トレンドに挙がってきています。
採用活動の選考過程において動画選考とは、エントリー段階でのファーストステップです。文章や写真ではなく、応募者が作成した画像と音声の内容による選考となります。特にエントリーシート(ES)を動画で提出させるケース(動画ES)が増えています。自己PR動画のパターンもあり、総じて動画選考・WEB選考と呼ばれます。
【動画選考(WEB選考)の特徴】
- 録画型ES
あらかじめ設問が与えられ、その設問に対する回答を制限時間内に録画し、提出します。撮り直しが可能なものが多く、録画したものを後から確認することで改善点を見つけることができます(ケース面接やフェルミ推定を実施する企業もある)。
- 動画型ES
リアルタイムで出されたお題に対し、自己PRやガクチカなどを制限時間内に録画し、提出します。撮り直しができないものが多いです。場所や背景などを工夫する学生もいます(ケース面接やフェルミ推定を実施する企業もある)。
AI面接とは
エントリーシート(ES)の選考をクリアすると、次の選考・面接とコマを進めることになります。従来の人間による面接官ではなく、人工知能(AI)が面接官を務める形式の面接をAI面接と言います。AIが面接を行うことで、多くの応募者を評価することが可能です。
【AI面接の特徴】
- 録画型面接
質問はあらかじめプログラムされており、アナウンサーやバーチャル面接官が事前に用意された質問を行い、それに対して応募者が回答し、その録画動画をAIが解析(分析)します。
- 対話型面接
応募者とAIがリアルタイムで会話を行います。質問が投げかけられ、候補者がそれに回答します。時には、候補者の応答に基づいて次の質問が変わることもあります。そのやり取りを録画し、AIがその内容を分析します。
AI面接を導入している主な業界
AIを利用した採用を早くから導入している主な業界についてご紹介します。すべてではありませんが、少しでも興味がある業界があれば、参考にしてください。
- IT・テクノロジー業界
- 金融業界
- リテール・サービス業界
- コンサルティング・人材業界
- 医療・ヘルスケア業界
- インフラ業界
など
AI面接でよく聞かれる質問
これらは、人間が行う面接でも多く引用される質問でもあります。社会人になるための必要な項目となるため、必ず押さえておきましょう。また、想定外の質問があっても焦らず対応しましょう。「簡潔にわかりやすく」を心掛けてください。
- 自己PR
- 学生時代に力を入れたこと
- 志望動機
- 挫折経験
- チームワーク経験
- 強みと弱み
- キャリアビジョン
- ストレス耐性
- 周りの人からの印象
- 宝くじ当選後の行動
動画選考(WEB選考)・AI面接は、心理学的な視点を取り入れて攻略する!
AIは言葉だけでなく、候補者の声のトーンや発話の速さ、言葉の選び方、さらには表情やジェスチャーを解析します。これにより、候補者の感情やコミュニケーション能力、態度などを評価することもできます。AIプロセスをより深く理解・考慮し、心理学的な視点を取り入れることで、攻略できる可能性があります。AIは人間の面接官とは違い、感情や直感で判断することはなく、システム化された基準に基づいて評価します。そのため、従来の人間面接とは異なるアプローチが必要です。成功するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
❚非言語的コミュニケーションに注意
言葉だけでなく声のトーンや発話速度、表情やジェスチャーも評価されます。無意識のうちにストレスや不安を感じていると、そのサインが伝わりやすくなります。発言する時はもちろん、予想外の質問に対する答えを考える間も、目線をカメラに向けて自信を持った態度を心がけましょう。
❚安定した態度を保つ
微妙な心理的な変化(緊張など)が察知されてしまう可能性があります。「不安」や「自信がない」と評価されることもあるため、自分の強みを冷静に伝え、過去の自発的行動やチャレンジを具体的に話すことで、安定感と自信を感じさせることができます。
❚明確で簡潔な回答を心がける
AIは言葉や発音、話の流れを解析しますが、長く冗長な回答や無駄な情報が多いと、評価が低くなる可能性があります。明確で簡潔に自分の意図を述べるよう心がけましょう。
❚質問の意図を正確に理解して答える
AI面接では、質問内容に対して適切に答えることが求められます。状況や背景を冗長に説明するのではなく、質問の意図を正確に把握して、論理的に回答するようにしましょう。
❚ポジティブな言葉を選び、自信を見せる
AIは候補者の「感情のトーン」を分析するため、ポジティブな言葉や前向きな態度を取ることが評価に繋がります。自信を持って答えることが重要です。できるだけ肯定的で自信を持って話すことを意識しましょう。
❚技術的スキルをアピール
理系学生にとって専門知識や技術的なスキルは強みとなります。これらを単に「持っている」と伝えるのではなく、実際に問題や課題をどのように分析し、解決策を見つけ、どう実行したのかを説明できると良いでしょう。
具体的な話の組み立て方
皆さんは既に学会やポスター発表などで、文章の組み立て方法などご存じだと思います。よく自己PRにはPREP法などを用いましょうなど、参考本にも記載されています。
ここでは、フレームワークの紹介と、AIによる評価に対応できそうな話の組み立てについてご紹介します。
1.思考の整理
論理的に話すためには、自分の考えを整理することが大切です。まず、自分が伝えたいテーマやポイントをはっきりさせます。次にメインのポイントを絞ります。一度に多くの情報を話すと、情報が混在します。焦点を当てて話すようにしましょう。また、思考の順序を整え、話す順番を整理します。これを意識して話しましょう。
2. 論理的な構造(フレームワーク)を意識
- AIDCA法(Attention, Interest, Desire, Conviction, Action)
- CARS法(Context, Action, Result, Self-reflection)
- FAB法(Feature, Advantage, Benefit)
- STAR法(Situation, Task, Action, Result)
- PEEL法(Point, Evidence, Explain, Link)
- PREP法(Point、Reason、Example、Point)
- 5W1H法(Who, What, When, Where, Why, How)
上記の通り、様々なフレームワークが存在します。その中でも「STAR法」は、行動心理学に基づくものです。採用側が求めるのは、皆さんの実際の行動とその結果であり、行動分析に関わるものです。
S(背景・状況)→従来の研究、社会の課題、新規性
T(課題or目標)→研究室全体ではなく、自身の課題もしくは目標
A(行動)→自発的な実際の行動で、人との関わりや数的な表現があれば尚良いでしょう。
R(結果・成果)→成功だけではなく、失敗から学んだこと、次へ繋がることでもよいでしょう。
3. 結論を先に示す
結論を先に示すことで、採用側がその後の話の流れを予測しやすく、内容を追いやすくなります。
4. 反論を予測し、対策を立てる
論理的に話すためには、相手がどんな反論をするかを予測し、その反論に対する答えや根拠を用意しておくことが効果的です。
5. 簡潔で明確な言葉を使う
難しい言葉や複雑な構文を使わないよう心掛けましょう。論理的な話をするためには、冗長な部分を省くことが重要です。余計な情報を加えると、伝えたいことがぼやけてしまいます。
6. スムーズな繋がりを意識
言葉と言葉、ポイントとポイントがスムーズに繋がっていることも、論理的に話すために重要です。これを意識することで、話全体が一貫性を持ちます。
オンラインの環境を整える
PCの置き方やオンライン画面の設定、目線など、回答内容や表情以外のことにも気を配ります。合否が外的要因に左右されないよう、環境を整えておくことが重要です。
- PCは90度の角度にする。PCの下に辞典など台を置き、カメラレンズを目の位置と高さを合わせる。
→そうすることによって、陰影が薄くなり顔色も良く映る。
のぞき込む形から変わり、目線も上向きになり印象が良くなる。
- Zoom等の面接時は、全画面にせず、右1/3、左1/3狭くし、相手の画像が中央上になるようセッティングする。
→目線が左右上下に移らず、安定する。
- 推しの画像やグッズをカメラの上部や奥に置く。
→好きなキャラや物を視界においておくと、無意識に表情が柔らかくなります。
- 忘れたくない重要なことは、キーワードとしてカメラレンズの付近に付箋しておく。
→自身の言葉で伝えるため、文章ではなく思い出すきっかけのキーワードを貼ると棒読みにならないのでお勧め。
- 背景はできるだけスッキリが良いが、メッセージ性のある背景なども印象に残ります。
→学会の会場、部活のユニフォームなど。
動画選考(WEB選考)や AI面接のメリット・デメリット
AIは人間の目では捉えにくい応募者の特性を数値化し、客観的な評価を可能にします。企業はAIを活用することで自社とのマッチング精度の向上や応募者をより深く理解することに役立てたいと考えています。ここでは、採用シーンにおける学生の皆さんにとっての、AI活用のメリット・デメリットについて触れておきます。
【メリット】
- 客観的な評価
評価基準が一貫しており、採用側の感情やバイアスによる影響を受けにくい点は学生にとってもメリットです。人間の場合、面接官が異なれば評価が変わることもありますが、AIは定められたルールに基づいて判断を行われるため、相性などで判断されることがありません。
- 時間と場所に縛られない
オンラインで行われ、応募者は自宅などから参加できます。また、自分の都合の良い時間に面接を受けることができます。これにより、場所や時間に制約がないため、地方や海外に住んでいるなどで対面での参加が困難な学生も機会を得ることができます。
- 迅速な結果の提供
候補者の評価を迅速に行うことができるため、結果が比較的早くにわかります。
【デメリット】
- 人間らしい側面の欠如
AIは感情や直感などはプログラミングされていないため、人間特有の温かみや共感、直感的な判断を欠いています。応募者にとっては、人間の面接官のほうが、個性や内面性を適切に評価されている実感を高く感じ、良い応答をすることができるケースがあります。
- 技術的な制限
AI面接が完璧ではなく、言葉や表情の微妙なニュアンスを正確に解析できないことがあります。AIは結論を出すことはできますが、合格・不合格の理由を説明できないことがあります。
- 事前準備による差がつきやすい
AI面接は事前に質問内容が分かることが多いため、事前準備の完成度が結果に大きく影響する傾向にあります。表情や声のトーンなどを通じて、内容だけではなく話し方にも気を付けましょう。例えば、早口・不明瞭・抽象的表現などは、AI が正確に理解できないことがあるので、入念な準備を行うことで通常の面接と変わらず成功に繋げることができます。
まとめ
動画選考(WEB選考)やAI面接は、採用ミスマッチの低減、選考プロセスのスピードアップなどを企業から期待され、活用され始めています。学生のみなさんにとっても、機会の平等や客観的な合否判定などのメリットがあります。その一方、AIはまだ発展途上であり、特に候補者の感情や細かなニュアンスを理解する部分においては、完全に人間の面接官を置き換えるものではありません。動画選考(WEB選考)やAI面接の特性に応じた入念な準備をすることが大切です。
学会でのポスター発表や、論文作成で自然と身に付けたフレームワーク思考、論理的思考など理系学生の強みを活かして、効率的に準備を行い、採用デジタル化に対する心理的攻略に少しでもお役に立てられたらと願っています。
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