様々な研究(研究室)の紹介や就職・進学のヒントなど、理系大学生・大学院生に役立つ情報をお届け。
大学院に進むか、就活をして就職を目指すか、進路を考えはじめた大学生向けに、現役大学院生のリアルな体験談や大学院生活をリレー形式でヒアリングしていくコーナーです。どのような夢があり大学院進学を決めたのか、どんな研究生活を送っているのか、ちょっと覗いてみましょう。
第1回目は、横浜国立大学大学院に通う長島亜里沙さんです。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
ご自身のプロフィールを教えてください。
──精巣奇形腫瘍の発症メカニズムの解明を目指しています。
現在横浜国立大学大学院 理工学府 化学・生命系理工学専攻に所属しています。(2025年3月修了見込)
学部3年の10月から所属する研究室で、精巣奇形腫瘍という疾患の発症メカニズムを解明するというテーマで研究を行っております。マウスを用いた動物実験を主に行なっていますが、タンパク質精製実験やバイオインフォマティクスなど幅広い実験系に携わっています。
理系を目指した(大学時代の学部を選んだ)きっかけは?
──遺伝子に興味津々、もっと知りたい欲求で。
小学生の頃に月1ほどですが、地域主催の簡単な実験イベントが開催されていました。「人工いくらを作ろう」や「輪ゴム動力で飛行機を作る」など様々な分野の実験がありました。ここに参加してから理科の面白さを知り、その頃から理系に進むことは決めていました。また、高校に上がって専門性を深めた理科を学ぶうちに、生物の中でも特に遺伝子系の分野に興味を惹かれました。一つの遺伝子の変異が重大な性質や疾患となって現れることに衝撃を受けて、もっと学びたいと思い、現在の専攻を選びました。
将来の夢は?
──医療業界で貢献できる人間になりたい。
現在就職活動をしているのですが、自己分析をする中で漠然と持っていた憧れに気づき、医療業界に携わりたいと思うようになりました。医療業界に憧れたきっかけは、幼少期に人を亡くした経験です。自分の母方が癌家系で、幼少の頃から頻繁に近しい人を亡くしてきました。その時に自分や母が抱いた悲しさ・悔しさが心の中に残っており、それが今何かしらの形で医療業界に貢献したいという決意になりました。
現在のラボに入った経緯・理由を教えてください。
──ここなら貴重な体験ができる!と直感。
元々癌に興味があったので、ラボ全体のテーマである精巣奇形腫瘍に対して面白そうだと思ったことと、実験動物(マウス)を扱っている研究室が珍しく、ここでは貴重な経験が積めそうだと思い、自ら希望して入りました。また、利益の追求を目的としない基礎研究は、企業のラボに入ってからはなかなか携われないという話を聞いたことがあるので、せっかくなら学生のうちは基礎研究をやりたいと思ったのも一つ大きな理由です。
大学院生活について具体的に教えてください。ある日1日のタイムスケジュールなど。
──フルタイム勤務状態!
・研究室のコアタイム(いなきゃいけない時間帯):10:00~17:00
マウスを毎日様子見する必要があるため基本平日は毎日、土日はチームの先輩と交代で片方研究室に通っています。
・1日スケジュール
10:00 登校
10:10 マウスのチェック(自分に割り当てられたマウスの健康状態などを見ています)
10:30 実験
13:00 昼食(学食や近隣のコンビニは学部生の混雑が引いた遅めの時間に行っています)
14:00 実験
19:00 まとめ、先生とのディスカッション など
20:00 下校
基本、1~2時間待ちの実験が多いため、実験をやりながら就活やデスクワークをして過ごします。
放課後にアルバイトや友人と会う予定が入った日は、早めに実験を切り上げて17:00には帰るようにしています。
また、就職活動などで一日大学に行けない日はチームの他の学生にマウスの世話や簡単な実験を任せて休むこともあります。
学部と大学院で生活が大きく変わったと思うことは?
──就活をしながらの実験生活。ちょっとした時間も有効活用することを意識。
同じ大学の同じ研究室で進学したため、生活環境で特に変わったことはないです。ただ、2025年に大学院を卒業するので、院に入学してからすぐに情報収集、6月からは本格的に就活をはじめたので、時間の全てを実験に使うことができなくなりました。とはいえ、生物実験は待ち時間が長いものが多いので、実験をやりながらオンラインの企業説明会や座談会に参加したり、エントリーシートを書いたりして、両立を図っています。
楽しいこと、また苦労していることは?(想像していたこととのギャップ等)
過去の自分にアドバイスするとしたら?
──忙しくなる前に、TOEICの勉強をしておけばよかった。
環境が変わらないため、実験の方の大変さとか生活リズムは学部の時と変わらないのですが、今就職活動をする中で資格や英語の勉強をもっと早い時期にやっておけばよかったと感じております。企業にエントリーする際にはエントリーシートにほとんど必ずと言っていいほどTOEICのスコアやその他の語学系資格について記入する欄があります。大きな企業さんほど海外への事業展開を推進しているイメージがあり、その点で英語力が一つの大きなアピールポイントになると思います。
──学部時代のほうが実験時間を確保できていた。
大学院に進むと主体的に実験を行うことが多くなるので、実験が忙しくなると思っていたのですが、意外と学部生の頃の方が実験に割ける時間は多かったと感じています。院進したお陰で、就活の時期が遅れたことで大学3、4年生の時に実験にかける時間が確保できたのだと今は思っています。
大学院受験のためにやった取り組みとは?
──短い時間で、基本的なことだけに注力。
内部進学の院試だったので1か月前からこれまでに履修した講義の復習をしたり、大学の図書館に過去問が置いてあったので演習して対策しておりました。試験科目で必須とされていた物理化学や化学工学の講義を履修していなかったため、一から自分で勉強する必要があり苦労しました。
学業以外の活動(バイト・サークル・趣味など)をしていますか?
──時間を作って、旅で刺激をもらうのが大好き。
大学1年の時からずっと続けている大学受験予備校のチューターアルバイトを、研究室に入ってからは週に2〜3日やっています。1年間担当生徒と接していく中でアドバイスをしたりメンタルをケアしたりするのですが、最後に合格報告に来てくれた時に感じるやりがいはとても大きいです。また、たまに友達と夜ご飯を食べに行ったり、旅行したりもします。高校時代の同級生なのですが、その子も6年制大学で現在研究室に所属しているので話が合って楽しいです。普段は、動物の面倒を見るために毎日研究室に行っていますが、夏は他の学生と交代で1週間ほどの休みをとり、今年は国外にも旅行することができました。
尊敬する科学者はいますか?また、その理由は?
──山中教授の努力を惜しまない姿に感銘。
京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授です。研究分野が近いというのもありますが、彼は初め研究者ではなく医師を目指していて、手先の不器用さから「向いてない」と感じていたけれども、重症患者の姿を見て救う手立てを探そうと研究者を志すようになります。それからは、「どうやったら人の3倍研究できるか」と考え、時間を効率的に使いつつもほとんど寝ずに研究を行うことも多かったそうです。自分も努力を惜しまないような生き方をしていきたいし、その努力を効率的にしていきたいと思い、目指したい姿として心の中にあります。
おすすめの研究グッズや愛用品、本などを教えてください。
──高校時代のジャージを羽織って実験。
研究グッズというよりは愛用品になるのですが、いつも実験をするときは上から高校時代のジャージを羽織っています(周りの人からはダサいと言われています(笑) )。 やはり実験をすると試薬がついてしまったり、逆に服の繊維が試薬に入ることもあるのでそれを防ぐこともできるし、軽くて動きやすく暖かいので重宝しています。
これからの抱負を教えてください。
──まずは、卒業までに今の研究を完結させたい。
今はある遺伝子の研究を行うための抗体を作っているのですが、それがようやく完成するというところまで来ました。この研究を来年度卒業するまでに完結させて一つの成果として残したいです。
大学生へのメッセージがあればお願いします。
──院進すれば、本格的に実験できる環境に身を置くことができます。
正直、大学院に進むべきなのか悩むことが多いと思います。私も学費の面や卒業時の年齢を考えて非常に悩みました。しかし、学部で卒業してしまうと約1年半、実験手技や原理がようやく身についてきて主体的に動けるようになったところで終わってしまうので、それはとても勿体無いと私は思い、今は大学院生活を送っています。正直忙しいけれども毎日が充実していて、今は院進してよかったと思っています。皆さんも是非一つの進路の選択肢として候補に挙げていただけたら嬉しいです。
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リケラボ編集部より
以上長島さんの大学院ライフをお伺いしました。大学院での研究はもちろん、バイトや気分転換も上手にされていて、とても充実した毎日を送っていらっしゃいますね。 ぜひ、夢に向かって頑張ってください!