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分析と物性評価は、ものづくりにおいて欠くことのできないプロセスです。
材料を正確に把握し設計に生かしたり、試作品が製品として必要な性能や安全性を維持できるかを評価したり、一口に分析・評価といっても、世の中には多種多様な製品があり、材料も様々。サンプルに応じて的確な分析結果を出し、適切な考察を導くことは決して簡単なことではありません。分析のプロフェッショナル達の存在なくして、最新鋭の製品、安心して使える製品は世に出ません。また、学生時代の研究で使用した分析機器や実験の技術を生かし、更に技術を磨ける仕事としても、とても人気がある職種のひとつです。今回はそんな分析技術者の仕事についてより深く知るために、歴史ある分析会社で長年ご活躍されている株式会社東レリサーチセンター 取締役研究部門副部門長の山根常幸様に、仕事のおもしろさやプロとして求められる心がけ、どんな人が向いているのかなどを伺いました。
株式会社東レリサーチセンター
1978年、東レ株式会社の分析部門の独立により設立。半導体、電池、工業材料から医薬・バイオに至るまで、幅広い研究・開発や生産分野において分析・解析を専門とした技術支援を行う。東レグループ内だけでなく、数多くの企業や研究機関からの分析依頼を受託し、最先端の“ものづくり”を支える重要な役割を担っている。
<お話を聞いた方> |
高度な技術へのこだわりが最先端のものづくりを支える
── まず初めに「分析」とはどんな仕事なのか教えてください。
山根 お客様から提供頂いたサンプルをご要望に従い、サンプルの前処理→分析装置→データ出力というのが一連の仕事の流れになります。お客様のご要望内容によっては、いくつかの結果を解釈し、得られたデータに対して解釈・説明を付け加えたうえでご報告します。
当社の場合は、エレクトロニクス、材料・素材、環境・エネルギー、医薬・バイオ分野、IT機器、自動車、電池などさまざまな材料やデバイスを対象として、企業(研究・開発・生産)や大学・公立研究機関から依頼される受託分析を行っています。先端工業材料の特徴として、複数の材料を組み合わせたものが多く、どんな材料でできているか、組み合わせたことでどんな変化が起こっているか。そのようなことを明らかにしています。
── 幅広い分野を手掛けておられるのですね。
山根 市販されている分析装置はほぼ取り揃えており、幅広い分析ニーズに対応できるようにしています。東レR&D部門の分析・物性測定部署が独立して生まれたのが当社であり、本年がちょうど45周年のタイミングにあたりますが、設立以来「高度な技術で社会に貢献する」という企業理念を掲げ、業務に当たっています。できるだけ最先端の装置を取り入れて、前例のない分析も積極的にお受けしていくというのが当社の基本スタンスです。装置だけでなく、これまでにないような分析手法を開発する、サンプルの前処理・調整法を工夫する、複数の装置・手法を組み合わせてデータをとるといったことに積極的にチャレンジしてきました。新しい製品づくりに挑む“ものづくり”企業様と一緒に、新素材や最先端のデバイスで人々の生活を豊かにすることに挑戦するのが当社の存在意義だと考えています。IT機器(スマートフォン)、蓄電デバイス(LIB)、半導体素子、ディスプレイ(有機LED)等々…課題を解決して世の中にリリースされたものもありますし、なかには様々な事情からリリースされなかったものもありますが、最先端の“ものづくり”を行う方々と一緒に仕事ができ、自分もまたそこに貢献して世の中の役に立てていると実感できる仕事であることは間違いないと思います。
── 高度な技術へのこだわりが、幅広い分野での“ものづくり”を支えてこられたのですね。
分析技術者に求められる必須要件とは?
── 御社では約400人の分析技術者の方が専門分野の分析を日々、行っておられるそうで、山根様は多くの技術者を育成されてこられたと思うのですが、分析技術者にふさわしい資質とはどういうものでしょうか。
山根 分析という仕事は、端的に言ってしまえば「装置を使って結果を出す」というものではありますが、実際には口で言うほど単純なものではありません。装置が正しく稼働しているかどうか、出てきたデータが正しいかどうかを見極める力が必要不可欠です。「データを冷静かつ客観的に見る力」と言い換えることもできます。
── データを冷静に見る、とはどういうことでしょうか。
山根 分析というのは幾つかのとても細かい作業を積み重ねて数値を得る世界です。本当に些細と思えること、人間が気付き難い要因が最終結果に影響します。出てきたデータが本来の数値なのか、あるいは何らかの原因による誤差(ノイズ、真値からのズレ)を含むものなのか、データに違和感があったら、装置の不具合や、ほかに何らか結果に影響する要因はなかったかを考える必要があります。
── そのためにはまず、データを見る力が大切なのですね。
山根 出てきたデータを鵜呑みにしないことが大切です。データはソフトウェアにかけて解析することが多いですが、その結果にも少しでも違和感があればスルーせずに、そのソフトの正確性が担保できているのかどうかまで注意を払います。
先入観にも注意が必要です。お客様から事前に「こんな結果が出ると思う」と予想をいただく場合もありますが、それにとらわれず、出てきたデータを先入観なしに冷静に考察し、結論を導き出すことが、正確で信頼性の高い分析結果をお客様に提出することにつながります。
── 分析機器や解析ソフトに任せればよい、という単純な仕事ではないのですね。
山根 分析装置は日々進化を遂げており、サンプルを投入して測定すれば所望のデータが出るような状況に近づいてはいるのですが、それでも正しくデータが取得できているのか、装置のスペックに沿ったデータが取れているのかということを、人の目と思考で見極める作業は欠かせません。どうしてその装置を使うのか、その装置でそういうデータが出てくるのはなぜなのかといった原理の部分を知っていることが大切ですね。例えるなら、電子レンジに食べ物を入れてボタンを押して温まって出てきたことに満足するのではなく、なぜ電子レンジは食べ物を温められるのかということを理解したうえで装置を扱えなければならないということです。
── 分析がプロフェッショナルな仕事として、「技術者」と呼ばれるゆえんですね。
基礎知識から生まれる仕事の深み
── 「こうすればいち早く一人前の分析技術者になれる!」というプロ直伝・秘伝の修行法があれば、ぜひ教えてください。
山根 これだ!といえるような明快なお答えはなかなか難しいのですが…(笑)。まずは、装置をきちんと操作して正確なデータが出せるようになることですね。この段階では「手を抜かない」ということが非常に重要です。しっかりと順序立てて手順を一つひとつ確実に行うことできちんとした結果が出ます。予想外にいいデータが出た!ということはまずないですね。地道にコツコツと作業を積み上げることに喜びを感じられる人が向いていると思います。でもここまでは基本的な段階で、分析の仕事の本質は、先ほど申し上げたように、出てきたデータが正しいかどうかを判別できるようになり、課題を解決できること。そこまでできてようやく一人前といえるかもしれません。
── 手順通りにできることは大前提ということですね。装置の原理を理解することや、データの些細な違和感に気が付くようになるにはかなりの経験が必要のように思います。
山根 そうですね。ですが単純に経験というよりも、優れた感覚を培うためには、やはり基礎知識を蓄えること以外にはないのではないかと思います。分析装置から出たデータを理解するまでであれば、基礎知識が不足していてもある程度のところまではできるようになります。ですが、前処理の工程を含め、分析の手法を改善していこうとする際には、高校や大学で学ぶような基礎知識が非常に重要になってきます。基礎がしっかりしている人の分析には、深みがあるのです。
── 「深み」とはどういうことでしょうか。
山根 たとえば、分析する材料がどんな特性を持っているかについての知識があれば、前処理ひとつとっても、分析対象の物質としての特性を考慮して、こういう変化が起こるだろうと予測をしたうえで、サンプルの濃度を濃くすればいいのか薄くすればいいのか判断できる。あるいは、分析装置のセンサーの構造をこう変えると感度が上がるのではないかといったアイデアを創出することもできます。さらには、出てきたデータをどう生かせばいいかについての考察も的確です。これはつまり、そのままお客様への提案力ということになります。分析そのものの正確さはもちろんのことながら、このようなお客様への提案力こそ、まさに技術者が身に着けるべきスキルです。こうしたアイデアは、分析の手順だけを身につけたところで、なかなか生まれてくるものではありません。
── 創意工夫にあたって基礎知識がものをいうということでしょうか。
山根 そうです。目の前の色々な作業を手際よくこなせるようになることはもちろん大切なのですが、それにとどまらず改良を加えたり、いまだかつてない新しい材料を手掛けたりするときは、数学や物理、電気、化学といった学生時代の基礎知識が役に立つことが多い。ですので、新卒採用の際にも、分析技術よりも基礎学力を重視しています。基本を学生時代にしっかりと身につけてきた人の思考には、本質的な課題解決につながるアイデアがいつでも垣間見えます。それが深みとなって表れてくる。学生時代に「この勉強、何の役に立つのだろう?」と思うこともあるかもしれませんが、きっと役に立つときが来ますから、基礎知識は学生時代の間にしっかりと身につけておいていただくことをお勧めします。すなわち、「足元を固める」ということです。「いち早く一人前になる」という質問の主旨からは、一見逆行しますが、それこそが実は近道なのではないかと考えます。
── 入社後に基礎知識を勉強し直す機会を得ることはなかなか難しいものでしょうか。
山根 やはりどんな職場でもそうですが、入社後は仕事に追われて基礎をやり直す時間を取ることが難しくなることは現実としてあると思います。だから、時間のある学生時代にできるだけ集中して学んでおくことが得策だと思います。
ただし、もちろん機会が全くないわけではありません。たとえば当社でも、分析を始めて間もない方からプロフェッショナルの方まで幅広い方々を対象に、経験豊富な講師が分析の解説を行う教育講座を多数開設しており、講座によっては基礎的な内容も含まれますから、そうしたものも利用していただけたらと思います。
お客様の目的を知り、理解する
── 山根さんは、現在は知的財産の管理・活用を担当されていますが、分析技術者として実務を担当されていた頃、お仕事のやりがいは、どんなときに感じられていましたか。
山根 分析技術者は開発者と違って、縁の下の力持ち的な立場でお客様に貢献できたことに喜びを感じる職種だと思います。私自身もそうでした。裏方として問題解決に携わることに仕事としてのおもしろさを感じていました。また、当社は受託分析がメインですから、お客様と直接やりとりをさせていただく機会が多かったことも私にとってはやりがいがありました。分析結果のご説明に伺ったり、ご質問の連絡を直接いただいたりする機会を通じて、私たちの仕事にご満足いただいた際には、「ありがとう。いい分析でした」と感謝のお言葉をいただいくこともあり、それが大きな励みとなって次の仕事への活力につながりました。
お客様とのコミュニケーションが深まっていくと、お客様が分析結果を製品づくりにどう生かそうとされているのかが鮮明になってきます。お客様の目的を知り、理解することで、単に指示された通りの分析を最新の装置を使って行うのではない、本当にお客様のためになる分析手法を提案し、実施することができるのです。もちろん仕事上の役割として客観性は最重要視しますが、お客様とある種ひとつのチームとなって同じ目的を共有しゴールに向かって仕事をするというのは、私にとってはこの上なく楽しい経験だったなと思います。
── 分析技術者としてのキャリアのなかで、印象に残っている仕事は何ですか。
山根 私が入社した当時に携わった熱分析の分野で、最先端の半導体に使われる薄膜材料の熱物性値を測るというものがありました。材料のデータをもとに製品の設計が行われるので、そのための基礎データをとりたかったのです。当時、海外では一部できてはいたのですが、まだ日本にはその技術はなく、その分析法を開発した経験は今でもとても印象に残っています。学位も取らせてもらうことができました。なによりも、その後、分析装置が進化したこともあり、部下がその手法を発展させてくれて論文にしてくれたことが嬉しかったです。
── 御社の今後の展望をお聞かせいただけますか。
山根 in-situ/オペランド分析(ものが稼働している状態での分析)や、シミュレーション・インフォマティクスとの融合にからむところも積極的に取り組んでいきたいと思っています。また、社外機関と連携して新規の最先端分析技術を開発しようということで、昨年滋賀事業所に新設した新建屋にオープンラボ「先端分析プラットフォーム」を設置しました。その活動も加速させたいと考えています。たとえば、ハイエンド原子分解能電子顕微鏡をはじめまだ世の中にない最先端の測定装置、測定方法の開発ですね。高感度、空間分解能をも可能にする技術の開発で、分析の極限を追究していきたいと考えています。
分析技術者を目指す方へのメッセージ
── 最後に分析技術者を目指す方、すでに分析の仕事をされていてさらなるレベルアップをしたいと考えている人に向けてメッセージをお願いします。
山根 「なぜ?」「どうして?」という気持ち、探求心を大切にしていただければと思います。細かい点、些細なことと思われる小さな変化にこだわりながらやっていくと、いいデータが取れるようになります。
またできるだけ、共同研究など社外のやり取りの機会を求めていただくこともよいと思います。当社では社外の方とのやり取りが、分析技術者としての成長を加速するという考えのもと、共同研究を積極的に行っています。また本社研究・自主研究(※)の機会や、国内外の研究機関へのメンバーの派遣・留学、社会人ドクター取得も奨励しています。そうしたなかで、本質的な課題解決ができる能力が培われていくと考えています。
高分子・半導体・医薬品材料など、最先端の材料は今後も色々出てくるでしょう。常に最先端の技術を磨き、社会に貢献したいと思われる方はぜひ挑戦していただきたいと思います。
※【本社研究】将来の事業展開における重要な技術開発を目的とするテーマに取り組む社内制度(速効性を要する技術開発や、中・長期の事業展開を見据えた重要な大型技術・開発など)。【自主研究】大学・公的研究機関等の社外機関を利用した共同研究や技術習得を目的とするテーマに取り組む社内制度。
【無料ウェビナー開催!】ものづくりの現場で役立つ!分析機器の基礎知識・原理・特徴を伝授 「化学分析総合講座」
無機・有機、さまざまな化学分析機器について、基本から学べるセミナー
リケラボ運営元、Chall-edge(パーソルテンプスタッフ研究開発事業本部)は、今回お話を伺った、東レリサーチセンター様をお招きした化学分析講座を開講いたします。
6つの分析分野で扱う、使用頻度の高い分析機器の原理を概説し、分析手法の適応例を紹介します。
日々の業務に役立てるだけでなく、新たな分析分野へチャレンジするきっかけ作りにも役立てていただける内容です。
全2日のプログラムですが、どちらか1日のみのご参加も可能です。
<1月25日(木)13:00~16:00>
・形態観察(SEM/EPMA、TEM/AEM、STEMなど)
・表面分析(SIMS、RBS、XPS、ESCAなど)
・構造化学解析(IR、ラマン、NMRなど)
<1月26日(金)13:00~16:00>
・材料物性評価(熱分析、力学物性分析、粘度、粘弾性など)
・有機分析(構造解析系分析:IR、NMR、MSなど)
・無機分析(XRF、IC、ICP-MSなど)
◆講師
株式会社東レリサーチセンター
取締役研究部門副部門長
山根 常幸様
◆対象
・使用している分析機器の基礎を復習したい方
・化学分析の仕事を検討している方
(ブランクのある方、新卒・第二新卒、実務未経験の方にもご参加いただけます)
※受講にはパーソルテンプスタッフへの登録が必要です。
ご登録の有無に関わらず、以下の申し込みフォームからお申し込みください。未登録の方には、追って登録手続きについてご案内させていただきます。
お申込みはこちらから
申し込み期限: 2024年1月19日(金)18:00まで
※パーソルテンプスタッフにご登録いただくと、研究開発職・技術職の求人案内、キャリア相談など理系研究職・技術職の専任キャリアアドバイザーからのサービスが無料で受けられます。
<本ウェビナーに関するお問い合わせ先>
パーソルテンプスタッフ株式会社
研究開発事業本部 R&D戦略推進室 服部
MAIL: pts-persol_rdtech@tempstaff.co.jp
TEL: 0120-643-102(受付電話窓口は研究開発梅田オフィスとなります)
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