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これぞ飛行石!? ビスマスの反磁性を利用して磁石を浮かせてみた│ヘルドクターくられの1万円実験室│リケラボ

これぞ飛行石!? ビスマスの反磁性を利用して磁石を浮かせてみた│ヘルドクターくられの1万円実験室

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科学を愛する読者のみなさま、ごきげんよう。くられです。

使える予算は1万円以内。「高価な実験機器は使えない」という制約のなかで知恵と工夫を凝らして実行可能なおもしろ実験を紹介する本企画。

第25回目のお題は「反磁性」です。今回も、私が主宰する秘密結社「薬理凶室」のメンバーであり化学に造詣の深いレイユール氏の協力のもと、お届けします。それではお楽しみください!


皆さんこんにちは。レイユールです。

今回は、磁石を利用した面白い実験を紹介していきましょう。

磁石について

今回は、磁石を使った実験を紹介するのですが、本題の前に、磁石についておさらいをしておきましょう。

私たちが普段磁石と呼んでいるものは「永久磁石」と呼ばれるもので、磁性体に強力な磁力を与えてそれを保持させたものです。磁石に長いこと触れていた釘やクリップが磁性を帯びるのを経験したことがある人もいると思います。

磁性化したクリップ

それでは、そもそも磁石の引力や斥力はどこから来るのでしょうか。 これは磁力によるものです。その詳細を解説すると非常に長くなってしまいますのでここでは簡単に触れるに留めます。磁石が鉄などを吸着するのは、磁石から発せられる磁力が鉄の磁区を整列させるためです。そもそも鉄は磁石の性質を持っていますが、内部で非常に微小な磁石(これを磁区といいます)がランダムな方向を向いています。磁区同士が磁気を打ち消しあって全体的には磁気がないような状態になるわけです。これに磁石などから磁界を与えると、磁区が整列して磁石のような性質を発現します。

鉄は保磁力が低いため、通常は磁界を無くせば再びランダムな方向を向き、磁石としての性質を失います。(長時間磁界に触れていると一部が整列し、磁気を帯びます)磁石同士ではあらかじめ磁区が揃っているため、吸着が起こるのは容易に想像がつくかと思います。

鉄よりも磁気を保持しやすい材料に、電磁石を使って一瞬強力な磁力を与えると永久磁石が得られるのです。永久磁石は磁性体の種類によって分類することができ、大きく4つのタイプがあります。

1. フェライト磁石

安価で最もポピュラーな磁石です。黒い見た目をしており磁力は中程度です。

フェライト磁石

2. ネオジム磁石

近年よく見るようになった磁石で、ネオジム、鉄、ホウ素などを焼き固めたものです。非常に錆びやすいため、普通はニッケルメッキ(銀色)や金メッキ(金色)などを施して表面を保護します。永久磁石の中では最も強力です。

ネオジム磁石

3. サマコバ磁石

一般的にはあまり馴染みがない磁石ですが、正式にはサマリウムコバルト磁石といいます。その名の通り、サマリウムとコバルトを主成分としており、磁力はフェライト磁石とネオジム磁石の中間あたりになります。

サマコバ磁石

4. アルニコ磁石

こちらもあまり一般的には知られていませんが、アルミニウム、ニッケル、コバルトを主成分とする磁石で、磁力はこの4つの中でも最も弱く、強い磁力を持つ磁石を近づけると減磁(磁力が弱くなってしまうこと)してしまいます。

アルニコ磁石

このように磁石には様々な種類があり、それぞれ適した用途で現在も使われ続けています。

磁石は加熱していくとある温度に達したところで磁力を失ってしまう性質があり、この温度をキュリー温度といいます。磁石はコイルなどとあわせて使われることが多くあり、この際に、コイルの排熱によってキュリー温度まで加熱されてしまうという問題があります。こういった場合に多少磁力が弱かったり価格が高くてもキュリー温度の高い磁石を使うことがあるなど、単純な磁力の強さだけではその適不適を語れない奥深さがあるのです。

磁気浮上

さて、では本題の磁力を使って物体を浮かせる方法を考えていきましょう。実はこれは非常に難しいことです。皆さんが普段宙に浮いた物をなかなか見る機会がないのは、安定して物体を宙に浮かすのはとても難しいからです。

磁石は同じ極(S極同士など)では斥力(反発力)を生みますが、それだけで磁石を浮かせることはできません。これはアーンショーの定理として知られており、静止した物体を安定して浮かせることができないと解釈できます。

磁力を使った浮上には、電気的な制御を加えたものや、コマのように回転力を加えるなどして安定化したものがあります。これは静止した状態の浮上(静的浮上)ではないのでアーンショーの定理は適用されません。ですが、このような浮上は常に外部からのエネルギーの供給が必要であり、ずっと浮上を維持することはできません。

しかし、例外もあり、磁力に対して常に斥力を産む「反磁性物質」というものが存在します。身近なものでは水やグラファイトなどが反磁性を持ちます。この反磁性を利用することで、静的かつ完全な磁気浮上を起こすことができるのです。

反磁性体

反磁性体としては、水・グラファイト・ビスマスなどが知られています。中でもグラファイトやビスマスは強い反磁性を持つ物質であり、容易に磁気浮上を起こすことができます。特にグラファイトは自身の密度が低いため、磁石の上に置くことで簡単に磁気浮上します。

グラファイトの磁気浮上

しかし、グラファイトは入手が難しく、高性能な反磁性を持つシート状のグラファイト(熱分解黒鉛)はそうそう入手できる代物ではありません。

熱分解黒鉛のシート

そこで、今回はネットショップでも買える「ビスマス」を使って磁石を浮上させてみましょう。

ビスマスのチップ。四角いものが使いやすい

ビスマスによる磁気浮上

では、まずは実際に実験を行ってみましょう。

1. ビスマスチップを積み重ねて写真のように組み立てます

ビスマスのセットアップ。中央の空間は上下ともに平行で幅が8mm程度になるようにする

2. 5×5mmの正方形のネオジム磁石を中央に配置します

3. 直径40mmほどの強力な磁石を上から少しずつ近づけて浮上させます

大型磁石の配置。適当な方法で真上に配置し、徐々に高さを変化させる

浮上前の磁石。上からの磁力がなければ磁石は浮かない

浮上した磁石

見事、磁石を浮上させることができました!

この実験は調整が大変シビアなので、ラボジャッキなど高さを細かく変化させることのできる装置を使って慎重に行うことが必要です。

ラボジャッキ。ネジの作用で細かい高さ設定が可能

また、上下の隙間が均等になるほど完璧に浮上させるのは難しいです。ある程度調整できたらストローなどで空気を吹きかけ磁石が回転する様子を観察してみましょう。上手に調整ができていれば抵抗なく磁石が回転するはずです。

専門的な装置を使った浮上。ビスマスを旋盤などで加工し、精密に磁力を調整するとさらに浮上が分かりやすくなるが、一般家庭では限界がある。

磁気浮上の仕組み

基本的な仕組みは単純で、キューブ状の磁石を上の大型磁石で引っ張っています。しかし、このままでは、磁石が引き寄せられ、浮かぶようなことはありません。ここにビスマスを挟むと、キューブ磁石とビスマスの間に非常に弱いですが斥力が発生します。磁石自身の重量のほとんどが上からの磁力で中和されているので、その僅かな斥力によって浮上します。このように反磁性はその性質が弱くても(補助的であっても)磁石を安定して浮上させることができます。

試しにビスマスチップに磁石を置いてみても、斥力に対する磁石の重量が大きすぎて浮かぶようなことはありません。

ビスマスの上の磁石 斥力に対して磁石が重すぎるため、特に何の変化もない

実験にかかった費用

・ビスマス 5000円程度
・キューブ磁石 500円程度
・大型磁石 1000円程度
・ラボジャッキ 3500円程度

掲載写真,図全てレイユール氏提供

レイユール
薬理凶室怪人。専門は有機合成化学。薬理凶室では化学分野を担当している。

薬理凶室のYouTubeチャンネルでは、化学実験をコミカルな動画で紹介する「ガチ実験シリーズ」を不定期更新している。

くられ with 薬理凶室

くられ with 薬理凶室

くられ。自称、不良科学者。作家/科学監修、大学講師なども兼任する。近著では「アリエナクナイ科学ノ教科書」で2018年第49回 SF大会にて星雲賞ノンフィクション部門を受賞(続きの連載をDiscoveryチャンネル公式WEBにて掲載、好評を博し終了。現在単行本化作業中)。週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『Dr.STONE』の科学監修を務める。人気Youtuber動画チーム「〜の主役は我々だ!」とのコラボによる「科学はすべてを解決する」はコミック化されるなど好評を博している。
公式サイトはこちら

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