Powered by テンプR&D

Menu
  • 研究
  • お役立ち

実験レシピ 細胞培養の手ほどき(1/2)

271 Views

 

細胞培養をはじめるまえに

生きている動物や植物の体から細胞を取り出し、外界の人工的な環境で飼養することを細胞培養と呼びます。本来、細胞は、生体内で多くの異なる種類の細胞やさまざまな細胞外物質に囲まれた環境で生育しています。そのため、「培養細胞」として飼養できる細胞は、生体内に存在する全ての細胞のうち、人工培養環境に適応することができた細胞ということになります。また、生体内と異なる生育環境のもと、細胞が本来もっている機能や性質が、培養環境下でどのくらい保持されているのか?という疑問も生じます。一方で、細胞培養技術をもとに遺伝子導入やゲノム編集などの革新的技術が発展し、培養細胞の性質を任意に改変することができるようになりました。改変細胞は、その特異な性質の解析を通して、細胞がもつ生命機能を明らかにするきっかけを与えるばかりではなく、元の動植物に移植することで、生体そのものの改変をも達成できてしまうポテンシャル(潜在性)をもちます。生命の改変には議論するべき倫理的課題も少なからずありますが、生命機能を一つ一つ明らかにするために、細胞培養は今や不可欠な技術となっています。ここでは、その基礎となる知識を学んでいきましょう。

 

1.培養細胞の分類

 

・継代回数による培養細胞の分類

初代培養細胞

生体の組織から分離され、体外で培養を開始したばかりの細胞。植え継ぎ操作(継代・パッセージ)が行われていない「初代」の培養細胞を指す。

培養容器の底面を一層の細胞層で覆い満たした時点で分裂を中止する性質をもつ。その細胞が生体内で保有していた機能や性質・分化特性を比較的保持していると考えられている。

継代培養細胞

継代操作を経た培養細胞。初代培養細胞と比べて、人工培養環境により適応している培養細胞。30回程度の限られた分裂回数をもつ有限細胞系と、継代培養中に生じた遺伝子変異をもとに無限分裂能を獲得した無限細胞系の2種に大別される。

有限細胞系では、初代培養細胞に次いで、分化状態がある程度維持されている。30回程度の分裂を経ると、細胞老化が生じて細胞の形質が変化する。

無限細胞系は、継代培養を無限に継続することができる反面、もともと生体内で保有していた特性の一部に変化や喪失が生じていると考えられている。がん臨床検体由来の培養細胞や、遺伝子導入または化学発がん剤処理により無限細胞増殖能を獲得した培養細胞は特に細胞株(セルライン)と呼ぶ。

 

・培養形態による培養細胞の分類

浮遊系培養細胞

単一細胞あるいは細胞塊の形態で、液体培地中に浮遊した状態で存在し、増殖することができる培養細胞。血液由来のリンパ球や白血球から採取された培養細胞など。

接着系培養細胞

細胞培養容器(プレート・フラスコなど)の底面に接着した状態で増殖する培養細胞。採取された生体内の臓器・組織に由来して、上皮系細胞、内皮系細胞、神経系細胞、間葉系細胞などに分類される。

 

 

2.培養細胞の増殖

適切な環境下で培養された細胞は、時間の経過とともに細胞分裂と成長を繰り返します。培養細胞の増殖は、その特徴から主に4つの時期に分類できます。

 

(1) 遅滞期:細胞播種直後や細胞密度の低い時期に見られる、細胞分裂が抑制される時期。細胞播種で生じた損傷の回復や培養環境に適応する期間。

 

(2) 増殖期:細胞分裂が盛んに行われ、分裂を経るたびに細胞数が2倍、4倍、8倍と指数関数的に増加する時期。細胞が最も活発になる。細胞機能の解析、細胞増殖動態(細胞集団倍化時間・ダブリングタイム)の評価、細胞の継代、凍結細胞ストックの作製を行うのに適している。

 

(3) 定常期:細胞密度が上限を迎え、細胞増殖が対数増殖期の0-10%程度に停滞する時期。細胞のターンオーバーも停滞するため、傷ついた細胞の存在頻度が高くなる。

 

(4) 死滅期:細胞死が生じて、生細胞が減少する時期。培養系内の栄養成分の枯渇や、細胞周期制御に依存した細胞死が要因となる。

 

 

 

3.細胞培養を実現する培地の組成

細胞培養を安定的に継続するためには、増殖に適した生化学的環境(栄養・pHなど)を細胞に供給できる培地が不可欠になります。加えて、培養細胞の飼養の至適温度を維持しながら、培養系内への目的外の微生物の混入(コンタミネーション)を防がなければなりません。

以下に、多様な種類の培養細胞に使用できる「標準培地」の主な構成成分を示します。

 ・無機塩
ナトリウム・カリウム・カルシウムなどのイオンを細胞に供給する。浸透圧平衡や膜電位の調節、細胞接着の補因子としてはたらく。

・pH緩衝剤(バッファー)
多くの細胞は、pH 7.2~7.4の環境で増殖します。細胞培養系では、次の2種類のバッファーを用いたpH調節が一般的である。


(1)重炭酸/CO2緩衝系
培地に炭酸水素ナトリウムを添加し、培養環境内の空気中のCO2濃度を5~10%に維持したインキュベーター内で細胞を培養することで、至適pHを維持する。

(2)両性イオンによる化学的緩衝系(HEPESなど)
CO2インキュベーターを必須としない。比較的高価で、高濃度では一部の細胞系に毒性を示す。

※培地にpH指示薬を添加すると、培養の時間経過とともに変化するpHを容易に確認できる。細胞密度の上昇やコンタミネーションによって培地は中性から酸性に変化する(フェノールレッド添加時には、培地が赤色から黄色に変色する)。

 

・炭水化物
主なエネルギー源。ブドウ糖(グルコース)やその代謝物(ピルビン酸など)を細胞に供給するのが一般的。培養細胞の種類や培養の目的に応じて、添加濃度を適宜調節する。

 

・微量元素
亜鉛、銅、セレン、トリカルボン酸中間体など。

 

・血清
アルブミンなどのタンパク質や各種ペプチド、増殖促進/抑制因子、ビタミン(補因子の前駆体)、脂肪酸・脂質(コレステロール、ステロイド)などを含む複合混合物。胎児ウシ血清(FBS)、新生仔ウシ血清、ウマ血清などが使用される。採取動物の個体バッチ間で組成に差が生じ、品質・種類・濃度が細胞増殖に多大に影響するため、血清バッチのスクリーニング試験は不可欠である。

培養細胞ごとに増殖因子の要求性が異なるにもかかわらず、多様な細胞種に使用できる。細胞培養操作による物理的損傷から細胞を保護したり、培養液の緩衝能を向上させるはたらきもある。一方で、血清の添加によってウイルスなどがコンタミネーションするリスクが生じる。品質管理証明書が公開されている血清ロットを使用し、事前に熱非働化処理(55°Cで30分間の加熱)を行い、細胞傷害活性のある補体成分を不活性化してから培地に添加することが重要である。

 

・抗生物質
細胞培養系にコンタミネーションが発生すると、培養を中断せざるを得ない。インキュベーターや安全キャビネットを共用した他の培養細胞への汚染拡大のリスクも生じる。コンタミネーションのリスクを最小限にするために、抗菌薬、抗マイコプラズマ薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬などを培養細胞に影響を与えない濃度で培地に添加する。

 

溶媒(超純水)
培地を調製する際に溶媒には、無機物、有機物、微生物などの微量混入がない純水を使用する。一般的に、逆浸透および樹脂で精製され、最終抵抗値が16~18 MΩの超純水が用いられる。

次回は、実際の細胞培養のプロトコルを紹介します。

 

*監修
パーソルテンプスタッフ株式会社
研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)
研修講師(理学博士)

この記事は、理系研究職の方のキャリア支援を行うパーソルテンプスタッフ研究開発事業本部(Chall-edge/チャレッジ)がお届けする、実験ノウハウシリーズです。

過去の記事一覧:実験レシピシリーズ

 

 

関連キーワード:

著者プロフィール:

リケラボ編集部

理系の学生/社会人の方が、ハッピーなキャリアを描(えが)けるように、色々な情報を収集して発信していきます!
こんな情報が知りたい!この記事についてもっと深く知りたい!といったリクエストがありましたら、
お問い合わせボタンからどしどしご連絡ください!

関連記事