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「振動」で害虫が減る!?農薬が効かない害虫からトマトを救え! SDGsのための科学技術イノベーションvol.6

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環境・エネルギー問題や食糧問題、貧困、教育等、世界が抱えるさまざまな問題を解決し、全ての人にとってより良い持続可能な社会を実現するための世界共通の目標、SDGs。今や日常的に目にするキーワードになりました。(STI for SDGs)

リケラボでもSDGsにつながる研究成果を積極的に紹介していますが、今回は植物体に振動を与えることで、害虫を劇的に減らし「持続可能な農業生産」に貢献できそうな研究成果を紹介します!

化学農薬に抵抗性を示す害虫に、植物を介した振動を与えて減らす

「SDGs目標2 飢餓をゼロに」

農業の歴史は、害虫との戦いの歴史でもあります。様々な化学農薬が開発されてきましたが、虫たちも耐性を持つように進化してきました。対抗すべくさらに強い農薬が開発され・・・と永遠に続く薬剤耐性のイタチごっこですが、これに終止符を打つかもしれない技術が開発されています。

トマトに振動を与えると、世界的に被害を及ぼしている害虫、タバココナジラミの密度が大きく減少することを世界で初めて明らかにした琉球大学農学部(現 九州大学理学部)の立田晴記教授と博士課程の柳澤隆平さんにお話を伺いました。

振動は、ラブソングを歌う害虫のおじゃま虫

―植物に振動を与えることで害虫の数が減ることが分かったとのことですが、どのような実験をされたのか教えてください。

柳澤さん:タバココナジラミという害虫が定着しているトマトの苗に振動を与え、害虫の数に影響を与えるかどうか調査しました。100ヘルツの振動を1秒間与えて9秒間休止するというサイクルを1分間、それを10分間隔で日中の間繰り返し、定期的に数をカウントしていきました。

―どのような結果になりましたか?

柳澤さん:成虫は約26%、幼虫は約40%、密度が減少したことが明らかになりました。

―なぜ密度が減少したのでしょうか?

柳澤さん:世代を重ねるごとに減少したので、繁殖か成長のいずれかに影響を与えていると考えられます。

―確かに人間にあてはめて考えてみても、ずっと揺れていたら、色々影響が出そうです。

立田教授:虫の発する音(振動)は求愛する手段として利用される例が多く知られています。以前バッタが発する振動による音の解析をしていたことがありました。バッタは、オスが鳴いてメスを呼び寄せる求愛行動をします。ラブソングを歌うようなものですね。セミもそうですし、タバココナジラミも同じなんです。

―となると、別の振動を与えると求愛行動をかく乱してしまうということなのでしょうか?

柳澤さん:先行研究の一つとして、ヨコバイという害虫が定着するぶどうの木に振動を与えるというものがあります。ヨコバイは、オスとメスが植物に振動を与えながら交信、接近して交尾をするのですが、その交尾振動に近い振動をぶどうの木に与えて、交尾を混乱させるんです。邪魔をすることで交尾がうまくいかず数が減っていきます。

今回の私たちの研究では、タバココナジラミに対して振動を与えた結果、トマトへの定着を低減できるということを世界で初めて示すことができました。

立田先生は昆虫の研究者でもあります
画像提供:立田 晴記教授

巧みに振動を活用する虫たちの世界

―タバココナジラミとはどんな虫なんですか?

柳澤さん:温帯地域なら世界中のどこにでもいる農業害虫です。1ミリくらいの小さな昆虫で、葉っぱの裏側にいるので見つけにくいです。気温が25度くらいなら、卵から成虫になるまで1ヶ月もかからないため、繁殖・増殖も非常に早いです。

―今回なぜタバココナジラミを選んだのでしょう?

柳澤さん:世界的農業害虫であることが大きな理由です。タバココナジラミは農業が始まってから今に至るまでの間にあらゆる農薬にさらされた結果、耐性を獲得してしまい、農薬が効きづらい虫となってしまいました。

立田教授:化学合成した農薬を使い続けると、薬剤抵抗性と呼ばれる、農薬に対して耐性を持った昆虫が現れます。ワクチンを打ったとしてもすぐにワクチンが効かないタイプのウイルスが現れるのと同じ原理で、昆虫の遺伝的な特性も、薬が効かない方向に進化していきます。

柳澤さん:さらに厄介なことに、コナジラミはいろんな植物の病気を媒介して他の植物に移していくので、深刻な被害が世界中に広がっているのです。

―数ある作物の中でトマトを選んだのは、特に被害が大きいからなのですか?

柳澤さん:トマトの収量を著しく減らすトマト黄化葉巻病は、タバココナジラミが媒介する病気のなかでも非常にやっかいです。病気にかかってしまうと、トマトが成長しなくなり実もなりません。イネ科以外の植物にはだいたい寄生可能な虫ですが、中でも大きな被害を与えているトマトを選びました。

農業害虫のタバココナジラミ(左がオス、右がメス)
画像提供:柳澤隆平さん

―振動が害虫退治に活用できるなんて知りませんでした。

立田教授:先ほど繁殖における影響に少し触れましたが、それ以外にも振動は、虫にとってとても重要な役割を持っています。

多くの昆虫には環境中の振動や音を検知する感覚器官があり、植物や樹木などを介した振動を感知して様々な行動を起こすことが知られています。

たとえばアリの仲間には、振動を起こしてコミュケーションをとる種類がいます。女王アリと働きアリで異なる振動を発しているんです。そして、そのアリの巣に、チョウの幼虫が寄生することがありますが、驚くべき事にその幼虫も振動を発していることがわかりました。その振動が、実は女王アリが発信する振動に似せたシグナルを出していて、そのおかげで働きアリから守られながら生きていける、という研究成果が知られています。

柳澤さん:人間の車酔いのように、振動をストレスに感じる虫もいます。木の上や葉っぱの上の振動を感知して、外敵が来たという反応を示して隠れたり、動かなくなったり、逃げたりする虫もいます。振動を音として仲間とのコミュニケーションに使うなど、陸上昆虫は振動に対する何かしらの反応を持っていますね。

立田教授:昆虫が振動を使ってコミュニケーションをとることを逆手に取って、害虫防除に使えないか、というのが今回の研究の着想なのです。

画像提供:柳澤隆平さん

たくさんのトマトをどうやって揺らす?実験は苦労と工夫の結晶!

―今回の実験で苦労された点は何ですか?

柳澤さん:トマトの育て方を知らなかったので、普通にトマトを育てるところから大変でした。それから、トマトを育てるためのビニールハウスも、最適なものが学内になかったので、ホームセンターに足を運び、素材を購入して設計して、一から組み立てたのは本当に大変でした。
もっとも大変だったのは、トマトにどのように振動を与えるのかという点ですね。
試行錯誤を繰り返しました。

―どのあたりが難しかったですか?

柳澤さん:一株だけに振動を与えるのであれば振動装置を直接近づければいいですが、今回は複数株に振動を与えようとしました。振動を減衰させないで遠くの株まで均等かつ一斉に振動させるのがなかなか難しく、装置の設置方法に頭を悩ませました。

―どのように解決したのでしょう?

柳澤さん:森林総合研究所に共同研究者がいて、その方の振動装置の使い方からヒントを得て、自分なりにアレンジしました。最初は、横に伸ばした白いプラスチックの棒に振動装置につけ、その棒にトマトの支柱をつなげていました。ただ、これだと多くのトマトに振動を与えるのが難しいんですね。そのため、今はワイヤーを垂らした金属パイプに振動装置を取り付け、ワイヤーにトマトの苗を巻きつけることで、より効率的かつ均等に振動を与えられるようになっています。

実験の配置。左上:実験ビニールハウス全体図。右上:加振機(湘南メタルテック製)。下:加振機を横から見た図。
画像提供:柳澤隆平さん

―ちなみに振動させることによるトマト自体への影響はないのでしょうか?

柳澤さん:トマトの果実の味や成分が変わるのか調べていますが、今のところネガティブな影響もポジティブな影響もありません。ただ、振動受粉という、人の手で花を揺らして受粉させる手法があるので、振動を与えることで受粉率が向上するかもしれないという仮説を立て、調査を進めているところです。

化学農薬以外の選択肢を増やし、持続可能な農業へ

―実用化の見通しはいかがですか。

立田教授:特許申請はしていて、商品化に向けて企業と協議しているところです。

柳澤さん:最適な周波数、振動を与える最適なタイミング・強さ、パターンを探っている真っ最中です。振動を与えることで植物にどのような変化が起きるのか今後も注目したいですね。もしかしたら、自分が気づいていない良い影響を与えている可能性もありますので。

現在は、化学農薬と害虫を食べてくれる虫を同時に使うなど、いろんな防除法を組み合わせて害虫を防除しようという考え方が主流になっています。そのため、この流れに組み込めるような防除法も考えています。将来的には、公的研究機関に就職して、人のためになる研究を続けたいです。

立田教授:食料生産の維持・確保を考えると、化学農薬以外の効果的な害虫防除の方法を模索していく必要があります。化学農薬に頼りきるのは、耐性を持つ害虫の存在を考えると得策ではありません。そもそも農薬が使えない農産物もありますしね。(例えばキノコ。洗わずに食すものもあるが害虫が付きやすい)

昆虫の振動反応を活用した害虫防除技術が、持続可能な農業の一つの選択肢として実用化できたらうれしいですね。

―昆虫の研究と言うと、生態を観察したり、遺伝子を解析したりと基礎研究のイメージが強かったのですが、こんな風に農業などに役立つ応用がされているのですね。とても勉強になりました。

柳澤さん:高校生のときに「バイオミメティクス」、つまり昆虫などの生物がもつ優れた機構を解析して工学的に応用する技術に興味を持ちました。今回の研究テーマをもらったときに、まさしく物理的な振動と昆虫の生態の応用分野だったので、とても面白く研究に取り組むことができました。

研究は自由だからこそ、役に立つものが生まれる

―お二人が研究において大切にしていること。心がけていることを教えてください。

柳澤さん:フィールドや実験中の調査も、調査対象だけでなく、他の現象も注意深く見て、何か不思議なことや疑問に思うことに気づけるように意識しています。そうすることで新しい疑問を得られるので。

立田教授:自分の感性にひっかかるものを見過ごすのか、それとも注目できるのかが、すごく大切なような気がします。身近なところでも、まだ解明されていない現象は山のようにありますから。不思議だと思ったことを追求したいという欲求に素直でいてほしいですね。

あとは、探究心が芽生えた時にそれに向かって努力をすること。その一つの手段として勉強がありますが、何も机に向かうことだけが勉強じゃありません。野外で生物をよく観察することもその一つです。座学が全てと決めてかからず、目標達成のために必要な手段を自分で身につけていくことも大事ですね。

様々な手段を使い、様々な経験をしながら、自分の知的好奇心を満たしていくことが研究の醍醐味です。研究結果の先に人や社会の役に立つものが生まれることもありますが、あくまで研究は自由であってほしいし、自由な発想を失わないようにしたいです。

画像提供:立田 晴記教授

立田晴記 たつた はるき ※写真左
琉球大学 教授(当時)
1999年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(博士:農学)。2021年6月より九州大学理学部生態科学研究室に所属。節足動物を中心にした進化生態学を専門とし、昆虫の配偶行動や種分化、また希少種の保全や害虫管理など多岐にわたる研究に取り組んでいる。趣味は山歩き、釣り、秘湯めぐり、美味しいものを食べること。

柳澤隆平 やなぎさわ りゅうへい ※写真右
鹿児島大学大学院 連合農学研究科 博士課程2年
琉球大学農学部亜熱帯農林環境科学科卒、琉球大学大学院農学研究科修士課程修了。修士(農学)。三重県名張市出身。昆虫の生態や進化に興味を持ち、亜熱帯という特殊な環境に惹かれて琉球大学に入学した。大学4年生から振動を用いたタバココナジラミの防除の実用化を目指した研究を行っている。最近は振動を与えた時の植物の反応についても注目している。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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