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より安全なカーライフを!自動車の安全性能を評価する専門機関に評価試験について色々聞いてみた。

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自動車が壁にぶつかった衝撃でエアバッグが作動し、運転席にいるダミー人形の頭がぐわんぐわんとゆれる瞬間がスローモーションで映し出される……。テレビCMなどでたまに見かける自動車事故を想定した実験映像。とてもインパクト大ですよね。同時に、人が乗っていないのにも関わらず、どのように車を動かしているのか、気になりませんか?今回、その疑問にお答えしてくれたのは、自動車事故対策機構「NASVA」で働く鵜飼さん。日本で市販されている自動車の安全性能を評価する職務についているその道のプロに、自動車の衝突実験の全容を語っていただきました。

画像提供:自動車事故対策機構

 

安全な車社会を支援する独立行政法人「NASVA」

 
――自動車事故対策機構とはどのような組織なのですか?

国土交通省管轄の自動車事故対策の専門機関です。独立行政法人自動車事故対策機構の英訳名を略称してNASVA(ナスバ)と呼ばれています。人と車の共存を理念として、自動車事故の発生防止と被害者への援護のために、「自動車事故被害者を支える・自動車事故を防ぐ・自動車事故から守る」の3つの事業を担っています。

 
――3つの事業内容について、それぞれ教えてください。

「自動車事故被害者を支える」は、被害者援護業務です。自動車事故で脳や脊髄などを損傷して重度の後遺障害を受けた方への介護料の支給や相談窓口の設置、重度後遺障害者専門の療護施設の設置・運営、自動車事故により死亡または重度の後遺障害が残った方のお子様に対する生活資金の無利子貸付、他にも交通事故被害者ホットラインもあります。

「自動車事故を防ぐ」は、安全指導業務です。トラックやバス、タクシーなど事業用自動車の輸送の安全確保のために指導講習、適性診断、安全マネジメントサービスを実施しています。

そして今回のテーマに関わる「自動車事故から守る」では、安全な自動車の普及・促進をはかるために、衝突試験などを実施しています。自動車の安全性能やチャイルドシートの安全性能を中立公正な立場で評価して、自動車アセスメント情報として公表しています。

https://www.nasva.go.jp/gaiyou/documents/2020pamphleta.pdf
画像提供:自動車事故対策機構

 
――市販されている自動車は基本的に安全だと思っていましたが、違うのでしょうか?

もちろん市販されている自動車は例外なく国土交通省が定めた道路運送車両の保安基準に適合しています。しかし、例えば事故を回避するための被害軽減ブレーキの性能等は、車種によって差があります。そのため、安全性能を比較するために様々な試験を実施して結果を公表し、ユーザーの方により安全な車選びに活かしてもらえるようにしています。自動車メーカーにとっては、ユーザーの方に安全性能が高いことを謳って販売促進につながるため、評価結果を踏まえ自動車の安全性能をより向上させます。自動車のアセスメントを実施することで、より安全な自動車が普及していくという良いサイクルが形成されています。

 
――試験に使われる自動車はメーカーから提供されるのですか?

原則、ユーザーの方が実際に購入するように販売店から購入します。試験車を壁に衝突させるという試験も複数ありますので、3台は購入して、試験終了後はスクラップにして廃棄しています。

 
――スクラップは、ちょっともったいない気もしますが、自動車の安全性能向上のためには必要なことですね。

 

ペダルの踏み間違い事故に関する項目も試験対象のひとつ

 
――試験はどのような流れなのでしょうか?

購入した車両が納車されたら、まず試験準備を進めます。車両状態の確認、車両の質量や寸法計測、計測機器の取り付け、車両姿勢の調整などですね。その後は各試験を実施して評価結果を作成します。そして自動車アセスメント評価検討会で審議され、結果が公表されます。

https://www.nasva.go.jp/gaiyou/pdf/2021/20210525_1.pdf
画像提供:自動車事故対策機構

 
――具体的にはどのような試験を実施しているのですか?

事故を防ぐための新しい技術を評価する「予防安全性能アセスメント」と、事故時に人を守る技術を評価する「衝突安全性能アセスメント」、重大な事故が発生した場合に備える技術を評価する「事故時の自動緊急通報」の3つがあります。

 
――まずは予防安全性能アセスメントの試験項目について教えてください。

例えば前方自動車や前方歩行者に衝突しそうになったときに回避するのを支援する「衝突被害軽減ブレーキ」、車が車線からはみ出しそうになった場合に車線内に戻るよう制御する「車線逸脱抑制装置」、後退時のバックビューモニターの見え方を確認する「後方視界情報」、ヘッドライトの自動的な照射範囲の変更や切り替え機能を確認する「高機能前照灯」の試験などがあります。2018年には「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」も試験項目となりました。

画像提供:自動車事故対策機構

 
――ペダルの踏み間違いは近年大きな問題となっていますね。

はい、この試験では試験車両を模擬車両に接近させて、停止状態からアクセルペダルを思い切り踏み込んだ場合に急発進や急加速を抑制するかどうかを確認しています。自動車の機能は年々高度化していることもあり、交通事故の発生状況を鑑みて死傷者数の削減につながるような試験項目を国土交通省が随時検討・追加しています。

 
――衝突安全性能アセスメントの試験項目はいかがですか?

衝突安全性能アセスメントでは衝突時の自動車の乗員を守る技術や、歩行者との衝突時に歩行者を守る技術を評価する試験があり、8つの試験項目があります。

  1. 「フルラップ前面衝突試験」:運転席と助手席にダミー人形を乗せた試験車両をコンクリート製の障壁に正面衝突させ、ダミー人形が受けた衝撃や室内の変形具合をもとに乗員保護性能を評価する。
  2. 「オフセット前面衝突試験」:運転席と後部座席にダミー人形を乗せ、運転席側の一部を前面衝突させ、ダミー人形が受けた衝撃や室内の変形具合をもとに乗員保護性能を評価する。
  3. 「側面衝突試験」:停止した試験車両の側面に質量1300kgの台車を衝突させ、ダミー人形が受けた衝撃をもとに乗員保護性能を評価する。
  4. 「感電保護性能評価試験」:電気自動車や電気式ハイブリッド自動車において、各衝突試験後に乗員や救助者が高電圧部分に触れて感電しないことを評価する。
  5. 「後面衝突頚部保護性能試験」:追突された場合に頚部が受ける衝撃をもとに頚部保護性能を評価する。
  6. 「歩行者頭部保護性能試験」:車が歩行者に衝突した場合を想定して、人の頭部を模擬したダミーを、試験車両のボンネットなどに衝突させて、頭部の傷害の程度を評価する。
  7. 「歩行者脚部保護性能試験」:成人男性の脚部を模擬したダミーを、試験車両のバンパに衝突させ、車が歩行者に衝突した場合の脚部の傷害の程度を評価する。
  8. 「シートベルトの着用警報装置」:運転者以外の乗員のシートベルト着用を促す警報のタイミングや警報の種類などを評価する。

画像提供:自動車事故対策機構

 
――衝突させる車を人が運転することはできませんが、どうやって車両を走らせるのですか?

衝突安全性能アセスメントでは、試験車両に牽引フックを取り付け、ワイヤーで引っ張り障壁に衝突させています。衝突時に燃料に引火すると危険なため燃料は試験前に抜き取り、燃えにくい代替燃料か水を入れて試験を実施します。予防安全性能アセスメントの場合は、プロドライバーが乗車してロボットが操作しています。

 
――人型のロボットなんですか?

いいえ、ハンドル操作やアクセル・ブレーキ操作に特化したものです。衝突被害軽減ブレーキでいうと車速やブレーキのタイミング、踏む力など試験条件が非常に厳しく決められており人間の運転で行うのは難しいため、GPSを使ってロボットが操作して車を走らせているんです。なお、安全を確保するためプロドライバーが乗車しています。

 
――衝突時の自動車のスピードは決められているのですか?

フルラップ前面衝突試験と側面衝突試験は時速55km、オフセット前面衝突試験は時速64km、歩行者頭部保護性能試験と歩行者脚部保護性能試験は時速40kmと決められています。衝突試験では、国の保安基準の約1割増しの速度となっています。なお、実際の衝突事故の大部分はこの速度以下で起きています。

画像提供:自動車事故対策機構

 

どれほど頑丈かより、どれだけ人命を守れるか

 
――ところで、何を基準に高評価・低評価というのを判断しているのでしょうか?

試験の目的は死傷者数の削減ですから、ダミー人形が受ける衝撃値をもとに評価しています。ダミー人形には試験項目に合わせて頭部、頚部、胸部、腹部、下肢部などにセンサーが内蔵されています。各測定部位毎に衝撃値の基準を定めており、それらの数値をもとに最高評価ならレベル5、次にレベル4といったように評価しています。

 
――基準値が変わることもあるのですか?

最近でいうと高齢者の安全性を考慮した評価基準に変更されています。成人男性を模擬したダミー人形から小柄な女性を模擬したダミー人形に変更したりしています。実際の事故の実態等を考慮して決定されています。現在は以前よりも基準値が厳しくなっています。

 
――ダミー人形は、どのようなものなのでしょうか?

生身の人間と同様に人体に近い動きが再現できるようになっています。皮膚の代わりに塩化ビニール製のジャケットで覆われ、骨格は金属や樹脂で、内蔵はウレタンフォーム材でできています。また、先程も申し上げたとおり、人体に及ぼす傷害を計測できるように加速度計、荷重計、変位計といったセンサーが内蔵されています。車にはいろんな人が乗るため、成人男性、大柄な男性、小柄な女性、0〜10歳児の子どもなど、いろんな種類のダミーが存在します。

画像提供:自動車事故対策機構

 
――ダミー人形が受ける衝撃は、かなり大きそうですが毎回新しいものを使うのですか?

いえ、決められた範囲内の衝撃の大きさであれば耐えられるよう設計されているため、再度使えるかどうか確認したうえで問題なければ再利用します。精密機器が内蔵されているため決して安くはありません。おおよそですが2000万円、高いものであれば1億円近いものとなります。

 
――命を守るための投資ですね。こうした試験の積み重ねで車の安全性能が向上していくのですね。

過去に実施した車種と後継車種とを比較してみると、後継車種の総合評価の平均値が向上していることから、安全性は上がっているといえるでしょう。車両の衝突安全対策や乗員保護装置等によりダミーが受ける衝撃値等が小さくなっていますね。目に見えてわかるのが予防安全性能アセスメントです。予防安全性能アセスメントで被害軽減ブレーキの評価を始めた2014年以降において、被害軽減ブレーキの装着率が大幅に上がっています。

 
――最高評価を受けた車なら、万一事故にあってもなくなる可能性はかなり低そうですね。

実際に乗車される方の個人差や事故の事例も様々なので、100パーセントの安全を保証できるものではありませんが、試験の条件においては、致命傷となる確率が極めて低くなることを想定しているのが最高評価、最低評価でも致命傷となる確率はおよそ半分以下となることが想定されています。

 

自動車選びに、安全性という観点を

画像提供:自動車事故対策機構

 
――自動車アセスメントには、どんな方が携わっているのですか?

非常に多くの方が関わっています。試験車両の準備だけでも、試験車両の運搬、溶接作業や電気配線などの加工、ダミー人形の校正・検定、ダミーの設置や計測機器の校正・検定、各種システム設定等があり、それぞれに専門作業が必要です。さらには試験の管理監督、試験実施時のデータ記録や試験後のデータ解析作業などもあります。

 
――そのなかで鵜飼さんはどのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょう?

試験対象となる車種選定のために必要な資料の準備、実際の試験車両の購入、試験に必要なデータや資料を自動車メーカー等から請求、各試験の実施・管理監督、試験結果の評価案作成、その他、結果を公表しているホームページの更新など幅広く携わっています。

 
――鵜飼さんはどうしてNASVAにご就職されたのですか?

もともと自動車が好きで、大学では、自動車の無段変速機について研究していました。最初にNASVAを知ったきっかけは、ゼミの先生の紹介です。調べていくうちに、被害者支援や自動車事故のない社会を追い求める企業姿勢に感銘を受け、入社を志望しました。

 
――仕事のなかで記憶に残っていることはありますか?

輸入車のアセスメント試験を実施したときですね。メーカーの方とうまく意思疎通ができず、自分の語学力の低さに歯がゆさを感じました。でもそのことをきっかけに、英語を活かす環境があると気づき、語学の勉強を始めました。その過程で自動車の国際的な基準や自動車アセスメント情報のグローバル化に関する知識を得ることができました。今後もより安全な自動車やチャイルドシートの普及に向けて国内外の情報に積極的に触れ、世界に通用する専門的知識や技能を習得していきたいです。

 
――このお仕事のやりがいや喜びを教えてください。

自動車アセスメントの結果を参考にして購入したという声をユーザーの方から頂いたときは嬉しかったですね。自分のやっている業務が認められた気がしました。

自動車を購入する際、価格・デザイン・燃費・メーカーなどを気にされる方が多いと思います。一方で事故を回避する予防安全性能や衝突時の安全性能を重視する方はまだ少ないのが現状です。しかし、交通事故は誰にでも起こりうるものですし、自分が被害者にも加害者にもなりえます。

交通事故を起こした方、交通事故で重度の後遺障害を受けた方、交通遺児等の方の声等もお伝えすることで、その声を聞いた自動車の購入予定の方が「次の車は安全性も気にしてみるよ」とおっしゃっていました。車に乗る人やチャイルドシートを購入する人に、より安全なカーライフを楽しんでいただけるよう、今後もユーザーへの情報提供と安全な自動車開発の促進に貢献していきたいです。


 
<取材を終えて>
自動車がぶつかる衝撃でダミー人形が激しく揺れる映像を見るたびに、衝突のすさまじさがありありとわかり自動車事故の恐ろしさを痛感します。日々地道に試験を行っていただいている職員の皆様に感謝するとともに、より一層の安全運転を心がけたいと思いました。鵜飼様、取材をご快諾いただいたNASVA様、貴重なお話をありがとうございました。

自動車アセスメントのHPはこちら(評価結果や試験映像が見れます)
https://www.nasva.go.jp/mamoru/index.html

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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