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猛暑も極寒もAIが最適温度を保ってくれる「スマートジャケット」 大阪・関西万博での展示に向けて鋭意開発中!
東阪電子機器株式会社
気候変動によって快適に過ごせる日々は減少しています。熱中症による国内の救急搬送患者は9万7578人と過去最高を更新しました(2024年5月~9月、総務省調べ)。 そんな酷暑でも快適に過ごせるよう、快適な状態をAIが保ってくれる「スマートジャケット」の開発に挑むチームがあります。「世の中に喜び(HAPPY)と驚き(WOW)を届けたい」と語る東阪電子機器株式会社の永野仁士(ひとし)社長は、コラボレーションが開発のカギと語ります。イノベーションを起こす“老舗ベンチャー”の現場をご紹介します。
東阪電子機器株式会社
1984年創業、機械の動きを精密に制御するための技術である「モーションコントロール」をコア技術に持つものづくり集団。レーザー加工機の多軸加工制御など、産業用ロボットや情報通信機器等の分野で存在感を発揮している。開発力、カスタマイズ力、コラボレーション力で顧客のニーズへ柔軟に応える。
体温を自動制御するスマートジャケット
── 大阪・関西万博に向けて開発中のスマートジャケットとは?
永野:着ている人の体温などをモニタリングして、最適な温度にコントロールするジャケットです。心地良いと感じる温度には個人差があるため、生体データから最適な条件をAIが自動で判断できる製品を目指しています。冷却だけでなく加熱ができる点もポイントです。
── どのような技術を使って温度をコントロールするのですか?
永野:ペルチェ素子(※)という、異なる金属を接合した半導体の電子部品を検討しています 。ペルチェ素子に直流電流を流すと、片面からもう一方の面へと熱が移動します。つまり、片面では冷却し、もう片面では加熱する部品です。そして電流の向きを変えると冷却と加熱の面も入れ替わります。丈夫で長持ち、温度反応性の良い小型部品であることも利点です。
※フランスの物理学者 J.C. ペルチェが発見した熱電効果(ペルチェ効果)を利用した素子
意外と身近な技術で、パソコンやスマートフォンのクーラーにも使用されています。近年は薄くて柔軟性のあるペルチェ素子も出てきたので、衣服への応用が可能になりました。人が着用するので安全性は大切です。
── スマートジャケットはどのような使用シーンを想定されていますか?
永野:最初は、私たちと同じように製造業で働く人たちを快適にしたいと考えていました。しかし、調べてみると体温管理はより多くの人に求められていると知ったのです。
身近な例では部活動中の中高生、体温調節が難しくなった高齢者、地面の熱が伝わりやすいベビーカーに乗っている赤ちゃん。さらには気温の日較差が50度にもなるアフリカの砂漠地域に住む方、真冬の漁業や冷凍庫など過酷な職場環境の方。皆さんが少しでも快適に過ごせるよう、スマートジャケットがサポートできる可能性があります。
今の技術では開発しやすさという点でジャケット型が適しています。技術が進歩すれば、Tシャツや肌着のような薄くてより肌に近い衣類を目指せると考えています。
── 万博への出展を決められたのは永野さんご本人ですか?
永野:はい、私がとあるセミナーで「今回の万博は観る万博ではなく、『参加する万博』です」と聞いたのが始まりです。家から近いし万博見に行こうか、という程度に考えていたのに「もしかして出られるかも?」と万博に対する意識が180度ガラリと変わりました。
当社のコア技術は、40年の歴史を持つプリント基板等の電子機器カスタマイズの制御技術です。今後会社を更に成長させるためには、もう一つ新しい強みが必要と考えています。今回の出展をチャンスととらえて、既に持っているノウハウではなく、全く違う技術を投入した新製品で万博に挑もうと決心しました。
私は、世の中の人が驚いて、幸せになるような製品・サービスを手がけたいと常に考えています。ですので万博出展のアイデアを練っている時も、まだ実現していないドラえもんの「ひみつ道具」を作ってみたら面白いのではないかと考えました。それで何を作ろうかと、ひみつ道具をひとつひとつ見直してみたんです。そして周囲の空気をエアコンのように調節してくれる「エアコンスーツ」を見つけ、「これだ!」と。
気候変動で猛暑が増える中、働く人の熱中症は大きな社会課題となっている状況も含めて、「作れるか分からないけれど、トライする価値はある」と挑戦を決めたのです。
コラボレーションで新技術に挑戦
── 万博への出展を伝えたとき、社内はどんな雰囲気に?
永野:みんな「えっ」という感じでした。特に、エンジニア達は開発するものを聞いて途方に暮れたような顔をしていました。成功への道筋が全く見えない状態からのスタートでしたので、社員の困惑も当然です。
自社だけではあまりにも壮大な挑戦であることは私も理解していました。そこで他の企業とのコラボレーション(共同製作、以下コラボ)へ乗り出します。
── 息の合うコラボ相手を見つけるのは大変そうです。どのようにして探されましたか?
永野:フットワークは軽いので、積極的に交流会や勉強会の集まりに出向いて、直接お話しをしました。ネット情報だけで分かったつもりにはならず、先方と膝をつき合わせて、生の声を聞く事を大切にしています。なぜなら公式サイトやプレスリリースには基本的にいいことしか書きませんよね。また開発中で公にできない内容もたくさんあると思いますし。
今回一緒にプロジェクトを進める企業さんとは、社会課題を解決する交流会で出会いました。みなさん社会課題の解決に向けて熱い信念をお持ちです。そんな企業が各々持っている技術を聞くだけでも新しいアイデアや気づきが多く生まれますし、「困難なことも力を合わせればきっとできる」というポジティブな雰囲気にあふれています。その中で「一緒に仕事をさせていただきたい」と思った方々に声をかけ、コラボをする運びとなりました。
── コラボが上手くいくコツは何でしょう?
永野:みんながWin-WinでHAPPYになることです。末長くお付き合いするために、「この人と一緒にやってよかった」とお互いが思える関係構築をとても大事にしています。当社が取りまとめ役であったとしても「当社1社ではなく、チームで進めている」という意識を持つよう心がけています。
── 現在の開発状況について教えてください。
永野:ジャケット内の温度をどう調節するか、AIが判断するための生体情報が必要なのですが、何の情報をどのような方法で取得するかを検討している段階です。そもそも人が暑い寒いと感じる理由は体温だけではないのです。もともと平熱が高ければ、体温が37度であっても暑いと思わない。けれども平熱が低い人にとってはしんどい状況です。
そこでまずは平時の状況を理解するために、体温、心拍、脳波など取得可能なバイタル情報を一通り取得してみることにしました。とは言っても、脳波ではごく微妙な差を測定しなければなりませんし、その差がノイズなのか意味あるデータなのか判断も難しいです。
自社で難しいポイントを他の企業に任せられるのがコラボの利点です。さらに統計解析では大阪大学発ベンチャーである地球観測株式会社などの協力を得ながら役割分担して進めています。
人間の感覚って面白くて、冷たいものを触って、最初は「冷たい」と感じても、2〜3分触り続けていると、身体が慣れてしまい「冷たさ」を感じなくなってしまうのです。その為、単純に冷やすだけでなく、電源をオフとオンをして、皮膚の冷点を適度に刺激する必要がありそうだ、など試作しながら人体の不思議さを感じています。
「身近な人を大切にしたい」と決めた事業継承
── ところで、社長はいまの仕事に至るまでにどのようなキャリアを歩んでこられたのですか?
永野:学生の頃から父の事業を継ぐことは考えていましたが、大学では経済学を専攻した文系人間です。新卒でオムロン株式会社に営業職で入社、次第に海外出張の機会が増え、日本での常識が全く違うなど海外の面白さを感じました。自ら異動希望を申し出て、5年ほど経営企画部長として台湾に駐在しました。海外では常に自分の考えを問われます。日本という国や自分自身のことをあまり理解できていないと知り、理解を深めるきっかけにもなりました。
その後、日本本社で制御機器(光電センサー)のグローバル商品企画を担当し、経営と技術の知見を獲得しました。
── 着実にキャリアを積んでいかれたわけですね。
永野:帰国と同時にスタートしたMBA(経営学修士)での学びで、私のキャリアを決定づけるできごとがありました。自分の価値観や志を3カ月ひたすら考え抜く授業を通して、「身近な人を大切にしたい」という価値観が明確になったのです。仮に自分が億万長者になったとしても、仲間や友達や家族がハッピーじゃなかったら、私は全然ハッピーじゃないだろうなと。
ちょうどその頃、父の会社が不振でこのままでは経営が危ぶまれていました。「身近な人を幸せにしたい」という価値観に後押しされ、2017年に事業承継者として東阪電子機器に入社。財務体質を変え、生産性を上げる活動を地道に続け、経営が大きく改善したタイミングで代替わりし、今では新しい挑戦ができるまでになりました。自分の価値観を知っておくことは、人生のターニングポイントで重要だと感じた出来事です。
学生のものづくりをサポートする企業として
── 万博、そしてさらに未来へ向けてどのような挑戦を考えていますか?
永野:ウェルビーイング、つまり健康と幸せに貢献する新規事業に挑みたいです。既に新規事業を学生さんと一緒にスタートしています。学生さんが考えた企画やプロトを持ち込んでもらい、面白そうだと判断したら当社で一緒に開発し販売、その利益の一部を学生さんに還元するスキームです。
学生さんの方がよっぽど優秀なポイントがあって、自分たちの発想からは絶対に出ない製品アイデアが生まれます。学生さん達にとっても資金不足を補え、かつ企画・開発した製品を販売までこぎつけたという就職活動のPRにもなります。
京都大学の学生さんとのコラボでは、モーター制御技術を活用したアナログ羅針盤オブジェに取り組んでいます。自分の作った商品が売れた瞬間、研究やビジネスコンテストでは得られないリアルな学びと喜びが得られます。だからこそ、学生のうちにマーケティング・商品開発をして、学生時代に商品を世に出すことを当たり前に出来ればと思っております。
また京都先端科学大学工学部で行われている、企業の現場課題解決に取り組む「キャップストーンプログラム」にも来年度から参加したいと考えております。
このプログラムでは5人の学生がチームで企業から出される課題解決に取組みます。大学は1チームに50万円予算を用意し、モノづくりをする際は、大学にある3Dプリンターやレーザーカッター等設備を自由に使える環境を整えています。課題の例を挙げると「ベアリングを用いた玩具の開発と販売」など、非常に実践的な内容です。
── 最後に、ものづくりを目指す学生さんにメッセージをお願いします。
永野:人生って1回しかないです。少しでも興味があることがあれば、アクションを起こしてほしいなと思っています。人なら会いに行ってみる、ものづくりなら作ってみる、自分で作れないなら作れそうなところに相談してみる。行動することであなたが「興味があること、大事にしたいこと」が見えてくるかもしれません。そのチャンスを逃すのはすごくもったいないです。また行動してみて、「違うかな」と思ったら止めたらいいだけで、失敗ではないですから(笑)、ぜひ行動してみてください。
当社ではインターンを募集しています。面白いものを作りたい人は、ぜひお問い合わせの上見学に来てください。また、SDGs探究AWARDS 2024 にも協賛中です。 良いアイデアがあるのに、相談相手や披露する場がない学生さんに門戸を開きたいと当社は考えています。楽しいアイデア、お待ちしています!
永野 仁士 東阪電子機器株式会社 代表取締役社長
1978年生まれ。法政大学卒業後、オムロンに入社。営業、グローバルPM、台湾オムロンにて企画部部長を経て2017年に事業承継者として東阪電子機器に入社。取締役管理本部長、常務取締役を経て、23年より代表取締役に就任。2018年グロービス経営大学院卒業(MBA)、2024年日本パデル協会理事。
多様性を活かしながら、常に新たな挑戦をし続け、世の中に「HAPPY[幸せ]とWOW[驚き]の価値」を届け続けている企業を目指している。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
東阪電子機器株式会社
https://tohan-denshi.co.jp/
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