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お米の代わりに砂糖を作る!新規植物現象から開発した砂糖イネ 福建農林大学 笠原竜四郎教授

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毎日の食卓に欠かせないお米を作るイネが、砂糖も作れることが発見されました。砂糖とは、科学的に言うとショ糖(スクロース)が主成分の甘味料。その原料は、サトウキビと砂糖大根ともいわれる甜菜(テンサイ)の2つしかありません。

ところが、福建農林大学の笠原竜四郎教授と名古屋大学のチームが、イネが高純度のショ糖を作ることを発見しました。サトウキビ、テンサイに続く第三の砂糖原料になり得るとのことです。一体どういう現象なのでしょうか?

砂糖イネだけでなく、新たな植物現象を複数発見してこられた笠原先生。植物の未知なる現象を追い求めて、アメリカ、日本、中国と場所を移しながら様々な業績を上げてこられました。

研究者を目指す方へのアドバイスも必見です!

 

受精しないイネを育ててみたら、砂糖ができた!?

──イネから砂糖が取れるときいて驚きました。どこにできるんですか?

普通なら米粒になる籾の中に液体の糖(砂糖水)が溜まります。

写真提供:笠原竜四郎

──面白いです!お米にならず砂糖水になるのは、どういうときなのですか?よくあることなのでしょうか?

イネが受精に失敗した時です。受精できないように遺伝子改変したイネの変異体を用いて確認しました。ところで、普段私たちが使う砂糖は何からできているかご存じですか?

──サトウキビや甜菜(テンサイ=砂糖大根)ですよね?

そうです。私たちが食べている白砂糖の主成分はショ糖で、サトウキビと甜菜が2大原料作物になります。他にもメイプルツリーなど糖が採れるものはありますが、加工の手間や保存に課題があり、製糖には適しません。ところがこの「砂糖イネ」…受精しないように遺伝子を改変したイネをそう名付けたのですが…は、籾の中にたまる砂糖水は98%がショ糖と大変な高純度であることがわかりました。濃度は15から20%と、相当の濃さです。しかも収穫は絞るだけなので簡単です。

──サトウキビや甜菜のように汁を絞って煮出したりする手間が省けるのですね。

さらにいうと、幅広い気候に適応可能なのもイネの長所なんです。サトウキビは暑い地方、甜菜は寒冷地が栽培に適していますが、イネは亜寒帯から熱帯まで広い地域で栽培されています。また、高純度な糖なので、バイオエタノールを生成することも十分可能と考えています。

──砂糖イネ、期待大ですね!

 

コツコツと研究を続けて見つけた植物現象が「砂糖イネ」をもたらした

──イネが砂糖を作るのは、受精に失敗した時ということですが、先生はもともと植物の何について研究されていたのですか?

植物の生殖ですね。ユタ大の博士課程に在籍中に、植物の受精に欠かせない遺伝子MYB98を見つけました。受粉の際、精細胞が花粉管を通って胚珠に行き受精するのですが、その胚珠に花粉管を誘引するための重要な遺伝子です。それが縁で、学位取得後は、花粉管誘引の研究で有名な名古屋大学の東山哲也教授のところで研究を発展させていくことになりました。

──博士課程の時に新しい遺伝子を発見されたとは、すごいですね!

指示されてやっていた実験に飽きてしまって、もっと面白いことがしたいと教授に相談し、シロイヌナズナの遺伝子解析を行ったのです。もともとユタの博士課程に行ったのも、就職するよりも何か面白いことがしたかったというのがありました。昔から「人と同じことはやりたくない」という気持ちが強かったんです。ただ、遺伝子発現の実験は、リバースジェネティクスという手法で当時はあまりに手間がかかるやり方で周囲の人に呆れられましたね(笑) でもこの時に発見した遺伝子はいまでも研究を続けている大切な遺伝子です。

──名古屋大学ではどのような研究をされたのでしょうか。

新しい植物現象を見つける研究にいそしみました。2012年には、植物の助細胞に、花粉管が一度受精に失敗しても2本目の花粉管がバックアップして受精する、受精補完作用を発見しました。これまでは一度受精に失敗すると種子は形成できないと考えられていましたが、その常識を覆す発見でした。自身で見つけた最初の植物現象だったので、遺伝子同定とは別の意味で嬉しかったですね。

──翌年の2013年にはJSTさきがけの専任研究員になられていますね。

ここでは二酸化炭素の資源化という領域にいました。ここで、今回の砂糖イネにつながる重要な新現象を発見します。2016年のことですね。

写真提供:笠原竜四郎

 

受精しなくても胚珠が大きくなる!POEM現象の発見

──さきがけではどのような研究をされていたのですか。

花粉が伸ばす花粉管の内容物の機能を明らかにしようとしました。被子植物は雄しべで作られた花粉を雌しべの先端に付着させて受粉します。受粉した花粉は花粉管を伸ばし、雄しべの中にある卵細胞を含む胚珠に2つの精細胞を送り届け受精を完了します。この時、二つの精細胞とともに花粉管の中にある液体(花粉管内容物)も胚珠内に届けられますが、これには特段の機能は無いと考えられていました。でも、動物では、精子を取り巻く液体(精漿:せいしょう)にも重要な機能があり、精漿のたんぱく質に欠損があると受精ができません。それと同じように植物の花粉管の中の液体にも重要な機能があるのではないかと考えたのです。

資料提供:笠原竜四郎

──面白い着眼ですね。それで結果はどうだったのでしょうか。

狙い通りでした。花粉管内容物を放出しても受精しないように遺伝子改変した、シロイヌナズナの変異体を用いて交配実験を行いました。すると、花粉管内容物が放出された胚珠は、受精していなくても細胞分裂し、種子を肥大させることがわかりました。それだけでなく、種皮や胚乳も形成することがわかり、「胚珠は受精しなければ肥大することはない」という植物界の常識を覆す結果でした。それで、この現象を花粉管依存的胚珠肥大(POEM: Pollen tube dependent Ovule Enlargement Morphology)と名付けました。

──すごい!

胚珠が大きければ種が大きいということなので、単純に、作物の収量が増えるということを意味します。しかも、受精しなくても胚珠が大きくなるなら、気候など外部条件に左右されずに農業生産が可能になります。アポミクシス(無融合生殖)という植物のコピーも可能になるかもしれません。受精してできる種は親の1/2ずつでしかありませんが、未受精のアポミクシスで優秀な植物を100%コピーすれば、品質が安定した作物を作り続けられます。

──そしてこのPOEM現象が、砂糖イネのカギになっているのですね!

シロイヌナズナで結果が出たので、2016年からイネでもやってみようとなりました。シロイヌナズナ変異体遺伝子の相似遺伝子を、イネの全ゲノムから探索して改変し、そのイネを太陽を模したナトリウムランプのついた箱型の装置で培養しました。これは京都府立大の田中國介先生が作られたもので、雨を降らせたりもしながら中でイネを育てる訳です。するとイネでも同じようにPOEM現象が見られました。

──イネのPOEM現象で得られたのが砂糖水ということですね。

胚珠にたまっていた液体を、田中先生が「ねぶって(舐めて)みなはれ」というんですね。そこでドキドキしながら舐めたら「甘い!」と。分析してみてそれがショ糖であり、変異体の胚珠はデンプンを合成できず、その前駆体であるショ糖が蓄積されるということがわかり、「砂糖イネ」と名付けたというわけです。予期せぬ結果でしたが、これは本当に驚いたし、新しい発見でした。

 

研究に没頭しすぎて就職先がない!?大発見から一転ピンチに

──2016年に新現象が見えてきて、2017年には中国の福建農林大学へと移られていますが、どのような経緯だったのでしょうか。

イネで面白い現象が出てきて、研究から手が離せなくなりました。一方で任期切れも近く、就職活動をしなくてはならなかったのですが、かなり重要な発見をしている感覚があり、研究を優先していました。そうこうしているうちに任期が切れ、さあどうしようということになってしまいました(笑)。

──研究が面白いと就活とかが後回しになる感じ、すごくわかる気がします。

無職になってしまい、さすがに焦りました。すると、東山先生が福建農林大学の人材募集を見つけられ、そちらに知人がいたので問い合わせをしてくださったんです。そして教授として採用していただくことになりました。中国は15億人もの人口を支えるため、農業を非常に重要視していて、日本でいう農業大学、つまり農林大学が各省にいくつもあります。優秀な人材を集めて中国の農業を盛り上げていこうという機運が高かったことが幸いしたと思います。昔の人気ドラマ「西遊記」のような世界を想像していましたが、そんなことはなく(笑)、大学のある福州は大都市で、研究設備にも恵まれています。世界各国から優秀な人材が来ていて、とてもインターナショナルな環境です。

植物生殖研究領域の有名人、Ueli Grossniklaus 博士と開元寺(福州市)にて。写真提供:笠原竜四郎

──そのような経緯だったんですね。砂糖イネの研究は大詰めに入られる時期だったかと思いますが、その後どのように続けていかれたのでしょう。

言葉の壁もあってすべてを中国でやるのはハードルが高かったことと、研究を通じて日本と中国がもっと仲良くなれるといいなと思ったので、日中共同研究としてやることにしました。中国と日本では得意なところが違うので担当する作業を分け、中国では植物を育てたり、遺伝子解析をしたりと、日本では名古屋大学のトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)で分析作業を行い、砂糖イネに含まれるショ糖の含量が高いことを証明しました。

こうして発表した砂糖イネですが、農業に与えるインパクトは大きいので、一緒にやりませんかというお声をいろんなところからいただいています。実用化につながるとしたら何らかのお手伝いをしていきたいです。

 

植物現象の発見をライフワークに。学生にも同じ喜びを味わってほしい

──今後はどのような研究をされていくご予定ですか。

砂糖イネについては一段落し、再びシロイヌナズナに立ち返って研究に挑んでいます。これまでやってきた研究はすべて延長線上にあるものですが、遺伝子とPOEM現象は2つの柱ですね。そして植物の重要な形質の一つであるアポミクシスにも挑んでいきたいです。

──笠原先生は、人がやっていないところ、さらにいうと注目されていない領域を選んで、新しい発見をされてきたように感じます。

それはあるかもしれません。学生の頃から人と同じことはやりたくないタイプだったので(笑)。でも植物の世界って、まだまだ知られていないことがとても多いんです。

植物が受精するとわかってきたのは最近のことで、胚珠の中にある助細胞の働きがわかってきたのも2000年になってからです。数十年前には植物にはDNAがないとか、生物じゃないなんていう人もいたぐらい、未知の分野なんですよ。多分一生研究を続けても植物の「し」の字もわからないぐらいなんじゃないでしょうか。

こうやって成果を発表するごとに、多くの人に植物に興味を持っていただけるのは嬉しいですし、今行っている研究にも興味深いものが多いので、今後の論文にもぜひ注目していただきたいです。

──研究者を目指す人に向けてもぜひアドバイスをお願いします!

世界的な傾向として、最近の若い方は、最新の機械、最新の顕微鏡をつかって最高の画像をとるとか、最新の機械で遺伝子を使って解析するなど、技術的なことへの関心は高いのですが、実験の目的とかそういう本質的なものをつかまえきれていない人が多い印象があります。「昨日PCRをして、バンドが出ました」「そうかよかったな、君は何のためにその実験をしたんだ」と聞くと、「わからない」と。「先輩にいわれたからやりました、でも遺伝子が増幅できてよかったです」って。一つの技術だし、できて嬉しいのはわかります。でも、実験はただの手段。何のために実験をするのか?を念頭に置くことが最も重要です。最新の顕微鏡で見えたことに満足するのではなく、画像の中に何か新しい現象が隠れているんじゃないか?と、もう一歩突っ込んで考えてみると、新しい現象の発見につながるかもしれないのに、もったいないです。

──新しい植物現象をいくつも発見してこられた先生の言葉、重みがあります。

それと、ぜひ海外に出て刺激を受けてほしいです。博士課程でアメリカに行ったとき、「日本の研究室と全然違う。変なことを考えているやつがいっぱいいる!」と衝撃を受けました。先生の言うことを聞かずに持論や独自の発想をもって研究している学生がたくさんいました。

人とは違ったことをしようという気持ちが新しいものを見つける原動力になります。

ぜひ若いうちに違う国に行って、たくさんの意見に触れて自分なりのテーマを見つけてください。自分も指導者として、面白いことを考えられる研究室、メンバーがひとつでも多くの植物現象を発見してもらえる研究室にしていきたいと思っています。

──先生の冒頭の言葉「人と同じことはやりたくない」は、研究者としてとても大切な心掛けだと思いました。今日は貴重なお話をありがとうございました!

写真提供:笠原竜四郎

福建農林大学 教授
笠原 竜四郎 かさはら りゅうしろう

修士課程修了後、研究員の傍ら英語を学び、1年後にユタ大大学院へ。2007年Ph.D学位を取得後、名古屋大学の博士研究員。これまでMYB98遺伝子同定、受精補完作用、POEM現象の発見と植物分野で画期的な研究成果を発表。2013年JSTさきがけ専任研究員となって砂糖イネの現象を発見後、中国の福建農林大学へ移り、中国と日本の共同研究で砂糖イネの研究を確立した。俳優の堺正章さんが主演した「西遊記」が大好きで、中国での生活も楽しんでいる。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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