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近視治療のカギは「光環境」!? 慶應大 鳥居先生・栗原先生に聞く、太陽光に含まれるバイオレットライトが近視進行を抑えるメカニズムとは

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リケラボ読者のみなさんの中に、「近視」に悩まされている人はいませんか?一度発症すると完治が難しく、発症そのもののメカニズムにもまだまだ謎が多いという近視ですが……。なんと、光の「環境」によって、近視の進行を抑えられる可能性があることがわかったそうです!

カギになるのが、太陽光に含まれる「バイオレットライト」という光。

リケラボ編集部は、バイオレットライトが近視進行を抑える可能性を発見した慶應義塾大学医学部 眼科学教室の鳥居秀成先生と栗原俊英先生にお話を伺い、バイオレットライトが近視進行を抑制するメカニズムや、治療への実用化に向けたお話を伺いました。

※取材は2020年4月にリモートで行われました。

鳥居秀成 先生(画像左)
2004年に慶應義塾大学医学部を卒業。以降現職に至るまで眼科専門医、医学博士として活躍。専門は屈折矯正・白内障。近視の進行を抑える治療・研究に力を入れ、2018年ASCRS(米国白内障屈折矯正手術学会)最優秀賞(Grand Prize)を受賞。ご自身が中学生の頃に近視になったのを機に近視のメカニズムに興味を持ち、バイオレットライトに近視進行抑制の働きがある可能性に目をつけたご本人。

栗原俊英 先生(画像右)
2001年に筑波大学医学専門学群を卒業。同年に、慶應義塾大学医学部眼科学教室入局し、医学博士となったのち、渡米。2013年に帰国後は現職にて活躍。眼科専門医、医学博士。もともとは網膜硝子体の研究がご専門であったが、鳥居先生がバイオレットライトによる近視進行抑制の可能性を発見したのを機に近視研究をサポート。

 

バイオレットライトが眼軸長の伸びを抑制

 
──まずは、近視のメカニズムについて教えてください。

鳥居先生:近視にもいくつかの種類がありますが、なかでも多いのが「眼軸長(角膜から網膜までの長さ)」が伸びてしまうことが原因で起こる「軸性近視」です。眼軸長が伸びると網膜よりも手前でピントが合ってしまうため、裸眼で遠くが見えにくくなります。

栗原先生:メガネやコンタクトレンズの使用や、レーシック手術など、症状を改善する方法はありましたが、近視の発症や進行のメカニズムはまだわかっていないことも多く、私たちを含め世界中の研究者が根本的なメカニズムの解明およびそれに基づく治療法の開発に取り組んでいます。

鳥居先生:その中で、バイオレットライトという光に、近視進行を抑える可能性があることがわかりました。

 
──バイオレットライトとは何か教えてください。

鳥居先生:バイオレットライトとは、簡単に言うと太陽光に含まれる紫色の光で、波長は360〜400nmの領域です。JIS (JIS Z 8120:2001)/CIEは可視光下限を360nmと定義しているためバイオレットライトは可視光に属し、実際に紫色に見えます。紫外線よりも波長が長く、ブルーライトよりも短い光ということになります。

鳥居秀成.バイオレットライトと近視進行抑制あたらしい眼科.2017 より引用

 
──どうして近視の進行が抑えられるのですか?

鳥居先生:バイオレットライトには、眼軸長の伸長を抑制する可能性があるのです。

栗原先生:バイオレットライトが目に入ると、近視進行を抑制するとされている「EGR1(Early Growth Response 1)」という遺伝子が活性化されるということがわかっています。

 
──バイオレットライトに近視進行抑制の効果があるということは、バイオレットライトを浴びる時間を長くすると良いのでしょうか?

鳥居先生:そう考えられます。しかし、バイオレットライトは蛍光灯やLEDなどの室内の光にはほとんど含まれておらず、UVカットの窓ガラスはバイオレットライトも同時にカットしてしまうことがほとんどなので、室内にいるとほぼ浴びることがない光だといえます。そこで推奨されているのが、屋外活動を2時間以上するということです。つまり子どもたちの場合は、外で遊ぶというのが大切になってきます。今は外出自粛のため、なかなか思うように外出できない状況になってしまっている(2020年4月時点)ので、近視の進行が心配ですね。

栗原先生:これまで市販されている眼鏡やコンタクトレンズはバイオレットライトを通さない製品が多いのですが、最近、バイオレットライトを取り込めるメガネやコンタクトレンズなども開発されてきているようです。

 

レンズが通す光の波長の差に着目

 
──バイオレットライトに着目した経緯を教えてください。

鳥居先生: 近視を矯正する手術に「有水晶体眼内レンズ挿入術」という、いわばコンタクトレンズを目の中に入れるような手術があります。これによって裸眼でも遠くが見えるようになり、患者さんにもとても喜ばれるのですが、どうしてもその後再び近視が進行してしまうことがあります。術後の患者さんの眼軸長の伸びを調べてみると、使用する有水晶体眼内レンズの種類によって、眼軸長の伸びに違いがあることに気が付きました。要因はいったい何なのだろう、とさらに研究を進めていたころ、当時はちょうど「屋外活動によって近視の進行が抑制される」ということが近視研究の世界でわかってきた頃でした。そこで、屋外と屋内の違いを考え、光環境に着目しました。

栗原先生:冒頭でもお伝えしたとおり、近視の発症・進行メカニズムは不明な点が多く、進行抑制などの治療についてもまだ確立していなかったので、鳥居先生から研究結果を聞いたとき、これはパラダイムシフトになるような発見ではと感じました。

 
──その後どのように研究が進められたのですか?

鳥居先生:先ほどお伝えした手術に使用していた有水晶体眼内レンズの分光透過率(どの波長の光を通すのか)を調べてみると、ちょうど360〜400nmの部分、つまりバイオレットライトの透過率にレンズの種類によって差があることがわかりました。その時点では、「こんなに小さな波長の違いが本当に差を及ぼすのだろうか」と半信半疑でしたが、近視研究で広く用いられるヒヨコにバイオレットライトを当てて実験を開始してみると、バイオレットライトを当てていない群と比べて近視の進行が抑制されたという結果が得られたのです(EBioMedicine. 2017 Feb;15:210-219.)。
また、一般的なコンタクトレンズもメーカーや種類によって分光透過率が異なります。そこで、眼軸長の測定をしている先生に協力をお願いしてコンタクトレンズを使用している子どもの眼軸長のデータを調べたところ、バイオレットライトを通すレンズを使用している群のほうが、眼軸長の伸びが抑制されていることがわかりました。

 
──研究中大変だったことはありますか?

鳥居先生:ヒヨコを用いた動物実験ですね。当時は鳥インフルエンザが流行していた時期でしたので、ヒヨコなどの鳥類を使用する動物実験のハードルがとても高く、慶應義塾大学信濃町キャンパス内では実施不可でした。そんな中、なんとか扱ってくださる業者さんを外部で見つけました。信濃町の研究室から1時間ほど離れた場所まで通い、実験を繰り返し行いました。その後は、動物実験や遺伝子操作を得意とされてきた栗原先生に御指導頂き、今はさらに応用へと向けた研究にも取り組めています。

 
──今後さらに、研究の成果がどのように応用されていくと考えられますか?

鳥居先生:まだ試験中の段階でお話できることがかなり限られてしまうのですが、バイオレットライトが照射されるメガネの臨床応用に向けて、治験を進めているところです。JINSとの共同プロジェクトで、フレーム内側に搭載される照射ライトから、屋外環境に数時間滞在するのと同等量のバイオレットライトが出るというものです。

栗原先生:海外では、ガラス張りで光を存分に浴びられるような教室を整備して、近視進行への影響が検討されています。日ごろ自分たちがどれくらい光を浴びているのか可視化できる計測方法も開発されれば、意識的に光を取り入れる生活が実現できるかもしれませんね。

 

バイオレットライト以外にも近視抑制要素を発見!

栗原先生:近視抑制の選択肢を増やす、という意味では、バイオレットライトを浴びる意外にも同じような効果を得ることができる方法があるといいですよね。

そこで我々は、近視進行を抑制するEGR1がバイオレットライト以外の要素についても活性化されるのかどうか検証しました(Torii H. et al. EBioMedicine. 2017)その結果、パエリアの色付けなどに含まれる「クロセチン」という成分が、EGR1を活性化させること(Mori K et al. Sci Rep. 2019)(Mori K et al. J Clin Med. 2019)(Mori K et al. Nutrients. 2020)がわかりました。さらに、クロセチンを投与することによって近視進行を抑制する可能性があることが動物実験および臨床試験によって明らかになりました。

― 食品成分が近視を抑制するかもしれないとは、すごい発見ですね。

鳥居先生:はい、バイオレットライトに限らず、今後も研究を進めて、近視で困っている方や子供たちのニーズに応えていけたらと考えています。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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