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バイオベンチャーの新しい研究開発のカタチ! 都心初のシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」 | リケラボ

バイオベンチャーの新しい研究開発のカタチ! 都心初のシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」

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2019年3月、東京都心では初のシェア型オープンウェットラボ、Beyond BioLAB TOKYOが日本橋本町に誕生しました。

本施設は、シェアハウスならぬ「シェアラボ」。研究室の共用というと、大学内に寄付講座があったり、大学のスペースを企業が借りて研究をしていたりということはよくありますが、見ず知らずの研究室同士が同じ空間や機器を共有する形は新しいですね!

しかも、今回設立された場所は、都心の一等地。大学や企業などのラボと言うと郊外に設けられていることが多いので、かなり新鮮です。

このラボの運営を行っているのは、ライフサイエンス関連の技術系スタートアップに投資を行うBeyond Next Ventures。気になるシェアラボの内部や、この施設の意義や目指すところは何なのか、代表の伊藤毅さんと、ラボの施設管理人を務める杉崎麻友さんにお話しをお聞きしつつ、中を案内してもらいました!

なぜ都心の一等地にシェア型のウェットラボを作ったの!?


まずラボを運営するBeyond Next Ventures代表・伊藤さんに、立ち上げのきっかけをお聞きしました。

Beyond BioLAB TOKYOがあるのは、東京・日本橋。三越などの百貨店をはじめ、商業施設が多く立ち並び、東京駅にも近い都心の一等地です。こんなところでウェットラボが借りられるの?と驚く人は多いのではないでしょうか。でもここは江戸時代から薬問屋が軒を連ね、今も多くの製薬会社の本社がある街。さらにラボの入る日本橋ライフサイエンスビルディング自体も、ライフサイエンス関連の企業やアカデミアなどが入居する、まるごとライフサイエンスに特化した場所でもあるのです。

伊藤さん(以降、敬称略):郊外にラボがあると打ち合わせを行うにしてもアクセスが悪かったりして、行って戻ると1日がかり。大きな時間のロスですよね。また事業化を目指そうとしても人の交流や出会いの場が少なく、資金調達や支援してくれる人が見つかりにくい課題がありました。これではいくら研究内容が優れていて成果を社会実装したくても、事業化に時間がかかってしまいます。

伊藤:日本ではシェアオフィスがオープンイノベーション拠点として増えていますが、ラボでもそういうものがあってもいい、むしろ都心にこそラボが必要ではないかと考えたのが、Beyond BioLAB TOKYOのはじまりです。アメリカのボストンでは街中にライフサイエンスのコミュニティや、オフィス、シェアラボが集積したビルがあり、そこからバイオ系のスタートアップが続々と生まれているんですが、そういう流れを作っていきたいですね。

伊藤:対象としているのは事業化を目指す段階に入ってきた研究です。高度な実験が可能なP2実験室まで備えた施設で機器を共有してイニシャルコストを抑えつつ、スタートアップに重要な人との交流やコミュニティの形成も人や物が集まる都心だから作りやすい。また我々としても事業計画作りをはじめとした幅広いサポートがしやすいんです。

短時間の打ち合わせに出やすく、また地方からもアクセスしやすい場所というのは確かに便利。コスト面やビジネス化のスピードアップにはメリットが多いです。でも機器や実験室をシェアするのは、人によって抵抗感があるかもしれませんね。

伊藤:共有できるものはして、コストを抑えられ、オープンラボだからこそ、異なる組織の研究者同士の交流が促進され、新たなイノベーション創出の可能性を高められる点がシェアラボのメリットです。そこをご理解していただける方が使うものと考え、利用のルールも定めて周知しています。一般的な実験に必要だと思われる一通りの機器は揃えていて、冷蔵庫は鍵付きでベンチごとにあり、また試薬などの保管庫も鍵付きのボックスで管理しています。ラボにないものは自前で持ち込みも可能です。色々な機器を共有して使うスペースは、割り当てられたベンチを使いますが、完全に独立した個室もあります。個室ならレイアウトも自由ですので、サンプルが多い場合や、クローズドな環境が必要な場合は、そちらがおすすめです。

シェアに関しては各自の理解とマナーを守ることが重要そうです。そのほか、この場所のメリットとして、イベントの豊富さがあります。例えばシェアラボで週1回行われる朝食会には研究者や関連企業ほかダイバーシティの人たちが集い、何か一つのトピックを立てて気軽に話し合うのだとか。ビルの中だけでもネットワーキングの可能性が広がっているのは魅力的かも!

伊藤:このラボを利用してくれている大学の研究者も、「学内のラボにいるよりもすぐにいろんな人と会えるし、相談しやすい」と言ってくれています。外部との接点が多い都心の立地は、事業化に入ってきたフェーズでは特に有効じゃないでしょうか。

契約期間は6カ月~1年が目安。短いと感じるかもしれませんが、都心にあって出会いの機会が多く、コミュニティを築きやすい環境だからこそ、短期間での利用が理想的だとのこと。限られたベンチでの実験に満足せず、どんどん成長し、ここから羽ばたいていって欲しい、そんな意図が込められているそうです。

P1・P2実験室は基本の実験機器を装備。個室では自由なレイアウトも可能


伊藤さんにお話をうかがったあと、いざラボへ。内部はラボの施設管理人である杉崎さんに案内してもらいました。まず落ち着いた内装のオフィスエリアがあり、事務作業はここで行います。ガラス張りになっているので、ラボ内の様子を伺うこともできます。一角に更衣室があり、そこがラボの出入り口。中は明るく、とてもクリーンです。

施設を案内してくれた杉崎さん。BioLABの運営管理の傍ら、自身でも今話題のDIYバイオの活動を行うなど、バイオ実験を愛するプロ。こういう方がラボ管理されていると安心ですよね! 

杉崎さん(以下、敬称略):このラボが一般的なインキュベーションオフィスと異なるのは、基本的な実験機器がプリセットされており、すべてすぐに使えるという点です。新たにラボを設けようとすると、機器1つを揃えるのに数百万円から、設備・機器一式を整えるとなると数千万円以上の費用がかかってしまいます。ここではそれらを共用で使うことで、初期投資を抑えることが可能です。個室は自由にご自身の機器などを配置して利用することができます。

ラボ内は中央に最大12チーム入れるラボベンチが並ぶP1共通実験室があり、各チームは個別に鍵付き冷蔵庫を利用できます。使用頻度の高い遠心機は数カ所に設置され、周囲にオートクレーブや簡易ドラフトをはじめ、さまざまな実験機器が配置されています。共通実験室を囲むように自由にレイアウトできる3つの個室、P2共通実験室、低温室、冷凍冷蔵エリアなどがあり、冷凍冷蔵エリアには鍵付きの保管庫も装備されていて、他と交じることが無いよう配慮されています。

拓けた共用部には、カラフルな椅子が置いてあり、待ち時間のリラックスができます。このレイアウトはまるで海外のラボのようで、突然アイデアが降ってきそうな場所でした。また、近い場所には、ゲル撮影装置、化学発光撮影装置、微量分光光度計、多機能サーマルサイクラーなどの機器が並びます。念のために取扱説明書が脇にセットされているのも共通機器を持つシェアラボならではの心配りを感じました。

2台並んだオートクレーブは処理によって使い分けるため「Clean」「Dirty」とラベリングされていました。使用済み廃棄物のオートクレーブは、においがこもらないように、時間を決めて定期的に処理しています。このように、共有ラボならではの細かな配慮があちこちになされています。

P2共通実験室内には安全キャビネットや、空気の流れでバリアを作成するエアバリアブースも備えられていました。レンタルラボでありながら、都心でP2実験までできるウェットラボというのは、かなり貴重で、画期的ではないでしょうか。さらに中央実験室を抜けると試薬保管庫と廃液保管庫があります。廃液は処理費用が利用料に含まれているのも助かる点です。

すでに多くのスタートアップやBeyond Next Venturesが運営するアクセラレーションプログラムなどの参加者が利用しているそうですが、隅々まで美しい環境が保たれ、全体的にとても気持ちのいい空間でした。

杉崎:このラボは最短1日という、短期間の利用もできます。例えば地方の研究者が都心で行われる展示会のデモ用に細胞を培養したい、などという場合はアクセスもよく、また機器が揃っているので到着してすぐに取りかかれます。あるいは社員のトレーニングや講習用、都心に拠点を設けたいので、試験的に使ってみたいというようなお話もあります。短期間で集中して何かをやりたいというときにも活用していただくことができるのが、シェア型ラボの良いところではないでしょうか。

ほかにもデータは外注で取ったけれど細かい部分を確認したい、自社ラボは閉めてしまったけれどもう少しだけ実験したいなど、ラボを開設するまではいかないけれど、実験の場が欲しいというようなときにも重宝しそうです。

先端バイオ技術を一日も早く世に


シェアラボ、いかがでしたか?

研究は研究室の中に閉じこもり、論文を書いて発表するのが重要な時代ではなくなった、新しいシーズに付加価値をつけて、いかに早く世に送り出すか、が重要な時代になってきたのだな、と改めて感じることができました。

また、これからは副業の時代。学生時代の同志でラボを借りて、やり残した研究を自分たちのペースで実験するようなことができるのかもしれない、とも思いました。リタイアした先生に「先生、一緒に研究してみませんか」なんてご相談するのもありかもしれません。

ベンチャー企業を多く輩出してきたボストンスタイルを模倣しながら、日本に合った形でベンチャー企業の支援を続けるBeyond BioLAB TOKYOが果たしていく役割は今後、ますます重要になりますね。

【共有スペース】
オフィスエリア
P1共通実験室
P2共通実験室
個室
低温室
廃液保管庫
冷凍冷蔵エリア
試薬保管庫
備品保管庫

【共有実験機器】
安全キャビネット
オートクレーブ
CO2インキュベーター
超純水製造機
サーマルサイクラー
化学発光検出装置
フロア型冷却遠心機
超低温フリーザー
コールドルーム
エアバリアブース

<DATA>
Beyond BioLAB TOKYO
東京都中央区日本橋本町2-3-11
日本橋ライフサイエンスビルディングB1F
http://biolab.beyondnextventures.com/
ラボベンチ・個室のマンスリー契約、または1日からラボベンチが借りられるデイリー契約が可能。利用料金は月額165,000円(税抜)。利用料金には機器の利用料、光熱水費、廃棄物処理費用の諸費用が含まれる。

リケラボ編集部

リケラボ編集部

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