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その研究、私も理解したい!! 文系女子が最先端の理系研究室に突撃取材(その1計量生物医学編)

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みなさんこんにちは、ライターの笹沼です。リケラボの記事を担当していますが、じつは私、バリバリの文系です……。理系科目は残念なことに、いつも人には言えないような点数をとっていました。そんな私ですが、いえ、そんな私だからこそ、理系の研究室には、以前から人並みならぬ憧れと興味がありました。そこで今回、リケラボの企画にかこつけてスゴい先生に会いに行き「何を研究してるんですか??」「それってどんなことに役立つのですか??」という、門外漢だから聞ける超ストレートな疑問をぶつけてみたいと思います。

記念すべき第1回目にお話を伺ったのは、東京大学先端科学技術研究センター(東大先端研)の、浜窪隆雄教授です! 人生初の研究室潜入、失礼なことを聞いて怒られたりしないか、ドキドキが止まりません……。

研究室に突撃!

研究室に足を踏み入れると、さっそく浜窪教授が迎えてくださいました。柔らかい笑みが印象的。優しそうな方で一安心です……! 先生、よろしくお願いします!

 

──さっそくですが、ズバリ伺います。浜窪先生は、一言でいうとどんな研究をされているのですか?

私の研究の軸は「生体分子の動きや変化を捉えること」です。

これまでの生物学では、ある現象を研究する際、どんな分子がその現象を起こしているのかに着目するのが一般的でした。だけど私は、“どんな分子が”ということよりも、“どのようにして”その現象が起こるのかが、より重要だと考えているんです。“What”から“How”にと、よく表現するのですが。

 

──“What”から“How”ですか。えっと、すみません、まだちょっとあまりイメージが…。

たとえば、私たちの直接の研究対象ではないですが、広く知られている性別の話を例にしてみましょう。性別を決める染色体にはX染色体とY染色体というのがあるというのは、聞いたことがありますよね?

 

──あ、それはなんとなく聞いたことがあります!

多くの人に認識されているのは、その染色体が「XXの組み合わせだと女」「XYの組み合わせだと男」ということだと思います。「何の染色体があると性別が決まるのか」という考え方ですね。

 

──それは“What”の部分に着目した考え方、ということなんでしょうか。

そうですね。でも実際に研究を進めていくと、じつはY染色体は性別の決定にはほとんど関与しておらず、性別というのはX染色体が1つなのか2つなのかという量的な要素によって決まるのだということだとわかってきました。その一方で、性別に影響を与える要素は染色体のほかにもたくさんあります。たとえば思春期を迎え、第二次性徴を経て、徐々に特徴が現れていく過程、そういった変化にも個人差がありますし、“どのように”変化していくのかを長い目で捉えないと、見えてこない部分があるんです。そこで私は、“What”から“How”に視点を変えて時間の経過に伴う分子の量的な変化に目を向けることを研究の一分野として「計量生物医学(Quantitative Biology)」と名付けました。

 

──なるほど。“What”から“How”。少しわかった気がします。点ではなく、線や面でものごとを捉える、みたいなイメージですか?

そうですね。「花が咲いている」という状態を切り取って“花とは何か”を考えるだけでなく「芽が出てつぼみになって、花が咲いて、実になって……」などといった、一連の変化を問題にしましょう、ということです。

分子単体がそれぞれに持つ役割は今や多くが解明されていますが、その動き方や変化の仕方や、互いにどう影響し合っているかについては、まだまだ謎が多いんですよ。

 

──たとえば、どんな謎があるのでしょうか?

人間の体内で、ばい菌などの外敵をやっつける抗体は、タンパク質でできています。さらにそのタンパク質は、アミノ酸の組み合わせから成っています。アミノ酸の並び方ひとつで抗体の形や働きは変わるので、抗体には億や兆のレベルではない、天文学的なパターンが存在することになります。スーパーコンピュータで計算してもとんでもない時間がかかってしまうものを、人間の体はどんな外敵が来ても、2週間かそこらの間にはそれぞれにぴったりの抗体を作り上げてしまうんですね。だいたい20の20乗以上という膨大な可能性がある組み合わせから、たった20回ほどのトライアルで正解を見つけてしまうんです。

 

──天文学的なルートのある迷路を、20回程度のトライでゴールまで着けてしまうと……!

どうしてそんなことができるのか、不思議ですよね。何かしら、効率的にパターンを絞り込む目印や仕組みがあるはずなのですが……まだまだ解明できていない。もとは同じ分子のはずなのに、数や組み合わせが変わるとぜんぜん違った働きをすることも、興味深いです。

白血球(免疫細胞)が細菌を捕捉するところ。白血球がどのように外敵とそれ以外を判断しているのか、どうやって外敵の位置を把握しているのか等の詳しい仕組みについては、まだまだ謎も多い。

 

──とっても興味が湧いてきました! その一方で、なのですが……失礼を承知でお聞きします。分子の動きや変化を研究することが、一体何の役に立つのでしょうか??

たとえば、がんや感染症の新たな治療法の発見につながります

 

――え、すごい! もう少し詳しく教えていただけますか?

細胞の分裂がどのように起こっているのか、その仕組みに関わる分子の働きを解明できれば、がん細胞の増殖を抑える方法を考えられます。また、免疫細胞がどうやって敵と味方を区別しているのかわかれば、重い感染症にかかったときの過剰反応(何も悪くない臓器なども傷つけてしまう反応)から体を守る方法を見つけることもできます。

私たちの体のなかで日ごろ当たり前のように起こっていることでも、まだまだ解明されていないメカニズムがたくさんある。アプローチの方法を柔軟に変えることで、見つかる答えも違ってくるんです。

 

図1)がん抗体治療薬のコンピュータシミュレーション

図1)がん抗体治療薬のコンピュータシミュレーション

 

図2)ペントラキシン3の敗血症における保護効果

図2)ペントラキシン3の敗血症における保護効果

 

図3)RNAプロセッシングにかかわるWTAP複合体

図3)RNAプロセッシングにかかわるWTAP複合体

 

――目を向ける角度によって新しい問いがどんどんあふれ出るほど、人間の体にはまだまだ謎が多いなんて驚きです。そんな謎多き現象が、自分の体のなかで毎日無意識のうちに起こっている……改めて考えると、なんだか不思議な気持ちになってきます。

 

研究の様子についても、少し踏み込んで教えてもらいました

──実際にどんな方法で研究をするのですか?

主要なやりかたのひとつとしては、コンピュータでシミュレーションを行う方法があります。タンパク質がどうやってくっつくのかとか、どんな動きをするのか計算して調べるんです。ただ、膨大な数の計算が必要で、スーパーコンピュータのように大規模なものを使わないとできない。だから、小さなコンピュータでもできるように計算の方法を工夫するなど、研究の方法自体の開発もしています

 

──研究って、試験管やフラスコを手に薬品を混ぜ合わせる毎日……みたいなイメージを持っていたので、コンピュータが主力とは意外でした。

もちろん、手を動かす実証実験も大切ですよ。コンピュータシュミレーションであたりをつけてから実際にウェットな実験を行うことで、効率的に研究を進めることができるということです。映画でも、実際に撮影しようとするとかなりの時間やお金がかかってしまうから、最近ではCGを活用して再現することが多いですよね。それと似たようなものだと思ってください。

 

──さすが「先端科学技術」だけあって、実験のシステムやテーマの設定も、つねに新しい方法にトライしているんですね。

そうでしょう。研究方法も、常に柔軟に進化しているんですよ。それと同時に、研究に携わる人もまた、多種多様な人材が求められるようになりました。

生物というと「記憶科目」という印象を持っている人も多いかと思いますが、今やプログラミングができる人、数的な分析に特化した人など、様々な分野のスキルをもつ人と共同で研究を進めていくことが欠かせません。ですから、仮に今「自分はバイオには向いていない」「バイオの研究には自分の活躍の場はない」と思っている人でも、自分の可能性を閉ざすことなく、まずは興味を持ってもらえたらうれしいですね。これはなにもバイオ研究に限ったことではありません。若い方にはぜひ、限られた枠組みや固定観念に囚われずに意思決定をしてほしいと、心から願っています。

 

……浜窪先生、とてもていねいに説明してくださってありがとうございました。もし高校時代に浜窪先生に出会っていたら、私も理系の道に進んでいたかもしれないと思わず考えてしまいました。これからは苦手意識にとらわれず、興味を持ったことにはいろいろな視点で向き合ってみようと思います!

 


浜窪 隆雄 先生

東京大学 先端科学技術研究センター教授。京都大学臨床検査医学教室にてタンパク質分解酵素の研究。バンダービルト大学にて実験高血圧症の研究。京都大学化学研究所を経て平成8年より東大先端研にてコレステロール調節機構の研究。バキュロウイルス上への膜タンパク質発現を見出し、がんや難治性疾患の治療用抗体の作製、特異抗体を用いたプロテオミクスで、遺伝子の調節機構や細胞の刺激応答機構の解析、新規バイオマーカーの探索などの研究を行っている。可視化の新技術や計算科学によるシミュレーションなど新しい解析法をとりいれて複雑な生命現象の解明にチャレンジする。

東京大学:先端科学技術研究センター 浜窪 隆雄 研究室

 

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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