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メダカ発生の様子を3日間まるごと撮影!生きている動物の中の細胞を見る技術~生体蛍光イメージング~ 愛媛大学医学研究科 齋藤卓特任講師

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顕微鏡で初めて細胞を観察したとき、どんな気持ちになったか覚えていますか?

肉眼で見える世界とは全く異なる世界を目にした驚きや感動が、理系に進むきっかけとなった人も多いのではないでしょうか?

生命現象を理解するうえで、生き物を生きたまま細胞レベルで観察することが必要不可欠なことは言うまでもなく、ミクロの世界を見ようという試みは長年行われてきました。

デジタル技術の発展により、大量の画像データが扱えるようになったことで、顕微鏡は劇的に進化し、組織、細胞、核酸・タンパク質などの生体分子が、複雑に相互作用しながら生命活動が行われている様を可視化できるようになりました。これにより、生物発生メカニズムの理解や、新たな生命現象の発見、さらには、生活習慣病などの疾患が起きる原因の解明や、治療薬の開発にも貢献できると期待されています。

とはいえ、複雑な生体内を奥深くまでクリアに、より広い視野で見えるようにすることは簡単ではありません。世界中で技術開発が盛んにおこなわれています。

今回は、そんなバイオイメージング技術の開発に取り組む研究者の1人、愛媛大学の齋藤卓特任講師にお話を伺いました。齋藤先生が開発した顕微鏡は、メダカの胚発生過程を3日間にわたり全身まるごと細胞レベルで生きたまま撮影することに成功しています。

画像提供:齋藤卓特任講師


メダカの全身の細胞を、生きたまま3日間観察できる顕微鏡


──生きたままの生物を長期間観察できる新しい顕微鏡技術を開発されたということで、メダカの胚の発生過程の画像、とても興味深かったです。

実際にイメージとして目で見えると、面白いですよね。変化の過程をずっと観察することができるのが、イメージングの面白さだと思います。組織や細胞をすりつぶしたりせず、生きたままリアルタイムの画像からわかることの大きさは計り知れません。


──メダカが緑色に光っているのはなぜですか?

観察対象の遺伝子に緑色の蛍光たんぱく質(GFP)遺伝子を入れて発現させ、蛍光顕微鏡を使って観察すると、目的の細胞が緑色の3次元画像としてみることができます。蛍光染色は、生体にダメージを与えないので、細胞内部を分子レベルで観察する方法として、ライフサイエンスの分野で広く活用されています。


──3次元画像というのは?

レーザー、微小電子機械、デジタルカメラ、電子制御ソフトウェアを組み合わせて生物の中の3次元情報を取得して、後でコンピュータ上に3次元的に復元しています。スマートフォンに搭載されているような通常のカメラで撮れる2次元画像を何枚も積み重ねて3次元構造を持つようにしたものとなります。

 

画像提供:齋藤卓特任講師

 

──画像に奥行きがあるのは、デジタル技術のおかげなのですね。 

1665年にRobert Hookeが細胞の観察記録を出版し、顕微鏡による細胞観察が始まりました。それ以降顕微鏡技術は発展し続け、現代では光学、電子機械工学や情報科学技術との融合でデジタルに4次元画像計測を行う装置となっています。


──4次元というのは?

 時間軸ですね。デジタルデータとして処理することで、時間の経過を追って観察が可能となります。


──メダカの発生を観察しようと思ったのはなぜですか?

 私が所属しているのは今村健志教授の研究室で、医学部にあります。がんの研究のために、メダカで疾患モデルを作り、がんの転移過程を全身でイメージングしようという試みです。メダカは、卵や稚魚段階では透明なので、観察しやすく、研究によく使われています。小型なので全身が見やすいですし、哺乳類に比べて組織発生の進行が速いので、生きたままの観察(ライブイメージング解析)に適しているんです。


──生きたままのメダカの体内で、がんの発生や増殖する過程を観察できれば、がんの治療法開発に役立つというわけですね。

遺伝子の異常によって起こる疾患が、発生過程のなかで、いつどのように異常が出て、結果としてどういう病気につながるのかといったプロセスやメカニズムを、細胞レベルで観察して解明できたら、根本的な病因解明に迫ることが可能になります。がん細胞の増殖や分化、遺伝子がどう影響を与えているのかを見る、また、薬の成分がどう細胞に作用していくのかを見ることができれば、治療薬の開発にもつながります。

 

画像提供:齋藤卓特任講師


──今回先生が開発された顕微鏡は、これまでの顕微鏡と何が違うのですか?

従来のものに比べて①光毒性が低い②視野が広い③高分解能、この3つの条件が向上しています。


──どういうことでしょうか?

蛍光顕微鏡にはいくつか種類があって、そのなかでもライトシート蛍光顕微鏡といわれるものは、高速で微細な画像データが取れ、生きた小型の動物を観察するのに適しているとして広く使われているのですが、いくつか課題がありました。

光が観察対象へ与えるダメージが大きかったことと、細胞レベルでクリアな画像を実現する分、視野が狭かったのです。それを克服して、「生きたまま」「全身」を「長時間」、「従来のライトシート蛍光顕微鏡と同等の解像度で」見ることができる、というのが、今回われわれが開発した顕微鏡ということになります。

 

課題克服の鍵は、ベッセルビームを長く伸ばす工夫


──先生が今回開発した顕微鏡は、「2光子励起ライトシート顕微鏡」と呼ぶそうですが、仕組みを簡単に教えてください。

ライトシート顕微鏡は、対物レンズ焦点面の側面から照明光を入射して、画像計測する装置で、高速で高分解能(高解像度)に3次元空間の情報を画像として取得できる一方、観察対象に与える光毒性(光によるダメージ)が大きいのがネックでした。

そこで2光子励起顕微鏡という、近赤外レーザーを使った蛍光顕微鏡の仕組みをうまく使って、その課題を解決したのが今回の顕微鏡です。近赤外光は長い期間観察しても、生体にダメージを与えにくいのがメリットです。


──2光子励起、というのは?

蛍光物質は通常、光子を一つ吸収して蛍光を放出するのですが(1光子励起)、強い光が入射すると、光子を2つ同時に吸収して蛍光を放出する現象が起きます。これを2光子励起現象というのですが、近赤外レーザーで起こすことができます。近赤外レーザーは生物への毒性が低いだけでなく、生体透過性も可視光より高いので、生体深部の観察にも適しています。

画像提供:齋藤卓特任講師


──2光子励起現象をライトシート顕微鏡に活用するうえで、大変だったのはどのあたりだったのでしょうか?

特に工夫したのはビームの伝え方です。この顕微鏡ではベッセルビームを使っていますが、これは円環状のビームを対物レンズに入射しています。円環を細くすればするほどビームが長く伸び、視野が広がります。逆に太くすると短くなり、見える範囲が狭まります。2光子励起顕微鏡は生体には優しいのですが、一方で2光子励起を起こすには、狭い範囲に光を集中させなければならないので、励起範囲(視野範囲)が狭いんです。範囲を広げるためにビームを長く伸ばすと、今度は空間分解能が低下し、ビームのエネルギーも不足します。なので、いかに長さと分解能のバランスを取るかが大事でした。


──どうクリアされたのでしょうか?

 シンプルにいうと、レンズをうまく組み合わせ、その組み合わせ次第でビーム形状をファインチューンしたことです。3枚のレンズ構成で、長いビームを作れることを示しました。実は、最初はビームの円環幅をきれいに調整できず、太い円環の状態でしたが、それでも目指していたスペックは満たしていたので、ある程度満足していたんです。でもそのあと、台湾からラボに招待講演でいらしてくださったライトシート顕微鏡の専門家の先生と、ディスカッションする機会に恵まれ、その結果、細いビーム円環を作る方法を見つけ出すことができたんです。改良前は500か600μmの視野範囲でしたが、それを1mmほど(視野範囲1mm、空間分解能3μm以下)まで広げられました。ビームができた時は、「これはいいじゃないか!」と、私と当時ポスドクの高根沢研究員と一緒にすごく興奮しましたね。この先生との出会いは本当に大きかったと思います。

 

画像提供:齋藤卓特任講師

 

様々な分野にまたがる異分野融合研究の面白さ


──齋藤先生は数理物理のご出身とのことですが、どのような経緯でバイオイメージング分野の研究をされることになったのでしょうか?

物理学素粒子論、数理物理、理論物理で学位を取った後、数理生物学の研究員になったのがきっかけですね。その時は数理解析を担当していました。そこで画像解析やイメージングに触れて、生物に数理を使うのが面白いなと感じ、画像解析や画像からの統計解析を深めようと、今の研究室に来ました。ボスである今村健志教授は、生体光イメージングの技術開発と医学への応用を目指して、様々な顕微鏡を開発し、がんや生活習慣病を中心とした疾患の病態解明や治療法に役立てようとしています。


──画像解析から入り、実際に顕微鏡を開発してしまったなんてすごいですね。

 今回の研究は、私とポスドクの高根沢さんと2人が中心となり進めたのですが、2人とも顕微鏡作りは初めて。知識がないながらも、あれこれ試行錯誤をしていろんなことを試しましたが、そういうチャレンジが楽しさでもありました。顕微鏡の基礎は物理学や工学、画像化するためのデジタル技術は情報科学、観察対象と目的は、生物学や医学。いろんな分野の知識・技術を集約して、新しいものを見つける研究なので、それぞれの分野の楽しいところが味わえています。


──いろんな分野を勉強するのは大変そうですが、こうして顕微鏡が出来上がるとものすごい達成感を得られそうです!

生物学の実験もそうだし、遺伝子工学や顕微鏡開発など、さまざまなチャレンジをさせてもらうことで、非常に幅広い知識がつきましたね。蓄積した技術や知識をベースにして、この先もどういう面白い研究ができるかな、とワクワクしています。


──開発した顕微鏡で、今後はどんな風に研究を進展させていかれたいですか?

形態解析といってメダカそのままを見ることにも取り組んでいます。スペックは十分なものができたと思っているので、あとはサンプルを計測する技術や、メダカを動かさないようにする方法について改良していくことで、より長期に安定した計測ができるようにしたいですね。ライトシート顕微鏡の改良にとどまらず、新しい原理を使った顕微鏡の開発にも取り組みたいと考えています。

 

新規性を考えながら試行錯誤し、トライするプロセス自体を楽しむ


──研究でやりがいを感じるのはどのような部分ですか?

どんな研究にも言えることだと思うのですが、自分でアイディアを出し、それを形にしていくことです。うまくいっても、そうでなくても、そのプロセス自体が楽しいですね。成果を出すことは重要ですが、成果が出なくても楽しいです。こういうことをやったら新しいな、という新規性を考えながら試行錯誤し、トライすることが好きなんです。もちろん失敗が続くと、やっていることが正しいのだろうか、と思うこともあります。でもあまり悩まず次どうするかを考えます。それで突破口を見つけると、どんどん楽しくなって、次の実験や解析に進んでいくことができます。


──最後に研究者を志す読者に向けてメッセージをお願いします。

僕自身は物理学出身で、医学部に来るなんて想像もしていませんでした。その経験を踏まえていうと、研究を志望されるなら、いろんな可能性について常に考えておくとよいのではと思います。これまでの研究をベースにしながらも、違う分野に飛び込み、交流すると可能性が広がっていきます。専門の違う人とは、用語の認識が違っていたりして最初はコミュニケーションひとつとっても大変ですが、結果として、考えられることが非常に広がったと実感しています。苦手なことでも取り組む時間が長ければ、愛着も湧いてきます。すごく面白い方向に世界が広がるので、いろんな分野に飛び込んでいくことを恐れずにやってみてもらえたら、と思います。

 

<編集部より>

日々進化を続けるバイオイメージングの最先端。

3日間の撮影で、データ量はテラレベル、普通のパソコンでは動かないほどになったそうで、データ処理技術のさらなる進化にも期待したいとのこと。見えなかったものが見えるようになることで、ライフサイエンスがますます発展していきますね。

齋藤先生、貴重なお話をありがとうございました!

画像提供:齋藤卓特任講師

 

愛媛大学大学院 医学系研究科 特任講師
齋藤 卓 (さいとう たかし)

筑波大学大学院数理物質科学研究科博士課程終了。博士(理学)。2013年より愛媛大学大学院医学系研究科の研究員となり、愛媛大学医学部附属病院先端医療創生センターの助教を経て、2019年より現職。バイオイメージングと数理科学、顕微鏡開発、遺伝子工学、細胞・動物実験に数理科学を取り入れた複合研究を進めている。

著者プロフィール:

リケラボ編集部

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