リケラボ理系の理想のはたらき方を
考える研究所

頭の体操クイズや豆知識、オモシロ実験など理系ゴコロをくすぐるエンタメ情報をお届け!

研究者・科学者の読書体験│テセレーションデザインに見出す芸術性と法則。数学とアートを結びつける荒木義明先生の「人生を変えた私の5冊」(博士の本棚第8回)| リケラボ

テセレーションデザインに見出す芸術性と法則。数学とアートを結びつける荒木義明先生の「人生を変えた私の5冊」

博士の本棚(第8回)│日本テセレーションデザイン協会代表 荒木義明

Twitterでシェアする Facebookでシェアする LINEでシェアする

第一線で活躍する理系博士たちは、いったいどのような本を読み、そこからどんな影響を受けてきたのでしょうか。ご自身の人生を語る上で外せない書籍・文献との出会いを「人生を変えた私の5冊」と題し紹介いただく本企画。

8回は、日本テセレーションデザイン協会の代表を務める荒木義明先生。敷き詰めたタイルなどに見られる模様に法則を見出し、アートと数学を同時に楽しむテセレーションデザインには、さまざまな学問の要素が内包されています。

研究者の家庭に育ち、高校生の頃からエッシャーを通じてテセレーションデザインに興味を持った荒木先生の選んだ5冊には、幅広い分野にアンテナを張り、感性を磨いてきた足跡が見受けられました。

荒木 義明(あらき よしあき)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。博士(政策・メディア)。敷きつめ模様(テセレーション)の数理を専門とし、1998年に日本テセレーションデザイン協会を設立。国内外の教育機関と連携し敷きつめ模様に関する展示、ワークショップを企画・運営している。2003年〜2006年には東京大学数理学研究科客員助教授を務めた他、敷きつめを応用したナノカーボンの設計研究などにも携わる。著書に『M.C.エッシャーと楽しむ算数・数学パズル』(明治図書)
https://www.tessellation.jp/home

インドラの真珠 クラインの夢みた世界

画像提供:日本評論社

私が数学者を志すきっかけとなった一冊です。普通、数学の本というと公式がたくさん書かれているものですが、この本は刺激的な図版がたくさん掲載されていて、中でもエッシャーのような2次元の絵を複雑に変形した2つの図版が強く印象に残っています。この2つの図版が私の研究活動において新しい着想を生む直接的なきっかけになったといっても過言ではありません。著者には3人の名前が記されていているのですが、研究の筆頭的な役割をデヴィッド・ライトという方が担い、図版も主にこの方が描かれています。

本書は私が研究しているテセレーションデザインを知るうえでも参考にしてもらえる内容となっています。敷き詰めの理論や、線対称の線が曲がって円になった世界など、さまざまな事例が図版で描かれ、ビジュアル面でも存分に楽しむことができます。文章の読み応えもすごいのですが、丁寧に翻訳されているので高校生くらいの年代であればすんなりと読めるかと思います。

『インドラの真珠 クラインの夢みた世界』
著者:D.マンフォード、C.シリーズ、 D.ライト(著) 小森洋平(訳)
出版:日本評論社

ゲーデル,エッシャー,バッハ あるいは不思議の環

画像提供:白揚社

高校生の時に学校の近くにあった図書館で見つけた一冊。当時は自分が将来、どのような道に進むのかを考えるため、興味のある分野を片っ端から掘り下げていました。そんな時にこの本に出会えたのは運命的な出来事だったと思います。ゲーデル(数学者)、エッシャー(画家)、バッハ(音楽家)3人の名前を冠した一風変わったタイトルの本です。

内容は分子生物学や人工知能など、さまざまなトピックが散りばめられ、発行当時は非常に難解な本と言われていました。しかし、敷き詰めや繰り返しの原理が絵や音楽にも使われ、この3人の共通点を念頭に置いて読むと、「世界はシンプルな構造のもとに成り立っている」という本書のテーマが見えてきます。著者のダグラス・ホフスタッターさんとは一度、エッシャーの生誕100周年の国際会議で偶然お会いする機会に恵まれました。

『ゲーデル,エッシャー,バッハ あるいは不思議の環』
著者:ダグラス・ホフスタッター(著) 野崎昭弘、はやしはじめ、柳瀬尚紀(訳)
出版:白揚社

にぎやかな未来

画像提供:KADOKAWA/角川文庫

小説家では大江健三郎さんや安部公房さんが好きなのですが、もともとの入口はSFで、その中でも最初にはまったのが筒井康隆さんでした。筒井さんといえば『時をかける少女』などを連想される方が多いと思いますが、この本は1ページぐらいで終わるようなショートショートをまとめたもので、とても読みやすい内容になっています。日常生活や私たちにとって身近な話題に筒井さんの知識に裏打ちされたユニークな概念が織り込まれ、それぞれの話にとても深みがあります。筒井さんは科学的な理論を話に取り入れるのが非常にうまくて、本書の一篇ではドロステ効果という、1枚の絵の中に同じ柄が少しずつ小さくなって無限に描かれる技法を文章で端的に表現されています。こういったエピソードをさらっと読ませるのが筒井さんのすごいところだと思います。筒井さんの作品は高校時代に書店で見つけては購入し、かなり読み漁っていました。

『にぎやかな未来』
著者:筒井康隆
出版:KADOKAWA/角川文庫

ケルト/装飾的思考

画像提供:筑摩書房

ケルト文化の特徴である渦巻き模様や組紐模様は非常に複雑な構造で、有機的なのに、ある規則に基づいて描かれています。渦巻きや組紐は、数学の題材として扱われることもあり、その構造を紐解くのは、私の研究における大きな課題となっています。この本では、表紙に見られるようなケルト文化の模様がさまざまな図版で紹介され、その歴史的背景についても記されています。この複雑な模様を、ある一定の時期に一定の人たちが残していたことや、キリスト教と融合して福音書の写本の装飾に用いられているなど宗教文化の中で重要な役割を果たしていた事実が読んでいて非常に興味深かったです。

紀元前からの歴史を持つケルトの模様ですが、さまざまな制約があった中で時代に当てはまって生き残ったたくましさは、現代社会の中でもっと活用される可能性も感じさせ、私にとって刺激の源にもなっています。

『ケルト/装飾的思考』
著者:鶴岡真弓
出版:筑摩書房

美の幾何学天のたくらみ、人のたくみ

リケラボ編集部撮影

高校時代、エッシャーについて調べていた時期に出会った本で、画家の安野光雅さん、数学者の中村義作さん、物理学者の伏見康治さんによる共同著作となっています。ジャンルの違う3人が、それぞれの観点でエッシャーの繰り返し模様や日本の寄せ木模様、イスラム美術の様式であるアラベスクなどについて語るのがおもしろいなと思いました。中でも安野さんの「創造性の原動力」についての話では、「作品の制作には努力と美意識が大切」という意見に感銘を受けました。

テセレーションデザインの研究では、同じ形の文様を何千枚と床に敷き詰め、そこにある規則性を見出すのですが、ただ並べるだけではなく、そこに美意識を伴わせることが重要とされています。そこまでの手作業を重ねた上で背後に隠された原理・原則を推測するのですが、こういった研究プロセスや、「数学の正解とは定義次第でいかようにも変わる」といった考え方を本書の中で見ることができます。

『〈数理を愉しむ〉シリーズ 美の幾何学 天のたくらみ、人のたくらみ』
著者:伏見康治、中村義作、安野光雅
出版:早川書房

▼荒木先生の過去記事はこちら
https://www.rikelab.jp/contributor/post/

リケラボ編集部より

荒木義明先生の新刊のご紹介です!

今回ご登場いただいた荒木義明先生のご著作『ペンローズの幾何学 対称性から黄金比、アインシュタイン・タイルまで』が、講談社ブルーバックスから2024年6月20日に谷岡一郎氏との共著で出版されます。 知識の探求心を刺激する一冊、ぜひお手に取ってみてください!

リケラボ編集部

リケラボ編集部

理系の学生/社会人の方が、ハッピーなキャリアを描(えが)けるように、色々な情報を収集して発信していきます!
こんな情報が知りたい!この記事についてもっと深く知りたい!といったリクエストがありましたら、お問い合わせボタンからどしどしご連絡ください!

関連記事Recommend