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研究者・科学者の読書体験│「ドラえもん®︎をつくりたい」人工知能開発の異端を進む個性のルーツとは?(博士の本棚第7回)| リケラボ

「ドラえもん®︎をつくりたい」人工知能開発の異端を育んだ個性のルーツとは?

博士の本棚(第7回)│日本大学 文理学部 大澤正彦准教授

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第一線で活躍する理系博士たちは、いったいどのような本を読み、そこからどんな影響を受けてきたのでしょうか。ご自身の人生を語る上で外せない書籍・文献との出会いを「人生を変えた私の5冊」と題し紹介いただく本企画。

第7回は、日本大学文理学部の准教授である大澤正彦博士。日本のAI研究者の中でも独自の路線をひた走り、現在、学生や芸術家、ビジネスパーソンなど、約100人のメンバーで、ドラえもん®︎のようなコミュニケーションが取れるロボットをつくるプロジェクトを推進しています。

世界的にも類を見ない研究で注目を集める大澤先生ですが、そのルーツには、強烈な個性を受け止めて力に変える、王道作品のエネルギーが宿っていました。

大澤 正彦(おおさわ まさひこ)
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻修了。博士(工学)。過去に日本認知科学会 認知科学若手の会代表、人工知能学会学生編集委員等を歴任、幅広く活躍。神経科学や認知科学との対応を重視した汎用人工知能に関する研究に従事。
2014年 IEEE Japan Chapter Young Researcher Award。 2015年 慶應義塾大学平成26年度表彰学生。同年 ISIS Best Presentation Award。 2016年 人工知能学会30周年記念奨励賞。 2017年 神経回路学会全国大会奨励賞。 2022年 Forbes Japan 30 Under 30 各受賞。人工知能学会、認知科学会、神経回路学会 各会員。著書に『ドラえもんを本気でつくる』(PHP新書)(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
https://osawa-lab.com/

『ごくせん』

中学校の頃、朝読書という必修課題があって、何か必ず本を読まなければいけなかったのですが、当時は読書が嫌いだったので、どうすれば良いものかと悩みました。そこで選んだのが、仲間由紀恵さん主演でずっと見ていたドラマ『ごくせん』のノベライズ版でした。本当に大好きな作品で、小学生の時は主人公・ヤンクミ(山口久美子)のマネをして、かけていた眼鏡を投げ捨てるなど、友人と『ごくせん』ごっこをして遊んでいたほど(笑)。

小学〜高校時代の僕は、よく突飛なことをしていたので、先生にはあまり好かれないタイプだったように思います。そんな僕にとってヤンクミは「こんな先生がいたらいいのに」という理想の先生像でした。僕が現在、学生たちと研究に取り組む上での姿勢もこの作品の影響が大きいです。実際、僕の研究室では、僕の子どもの頃を思わせるような、いい意味でクセのある子たちが集まって、自由に個性を発揮してくれています。

ヤンクミは数学教師ですが授業をしているイメージはほとんどありません。僕も同じように学生たちから見て教育者のイメージがないのか、人工知能に関する数式をホワイトボードに書いたりすると、僕が先生であることを思い出すのか分かりやすくハッと姿勢を正す子がいたりして、そんな時には「よし、自分たちは型にはまってない!」と納得するようにしています(笑)。

『ごくせん』
著者:森本梢子
出版:集英社

『野ブタ。をプロデュース

中学の朝読書で『ごくせん』を読み終えた後に読んでいました。

転校生の信太を修二が人気者に仕立て上げる、という筋の話ですが、人をプロデュースしていく感覚が僕もとても好きなんです。僕の研究室では、学生たちが均一的に「これをしなければいけない」と思うことがないように配慮していて、入学してから3ヶ月ほどは自分史を書いたり、OKR(チームで同じ重要課題に取り組むための目標管理手法)の枠組みで目標を立ててもらうなど、自己紹介研修というプログラムを行っています。自己紹介のプレゼンテーション方法を自分で確立してもらう中で、1人1人の個性を伸ばしていくというスタイルです。学生の生きてきた人生や強みもさまざまなので、それを発掘したい。

決められた一つの正解に向かっていくというのは、自分の目指すべき教育スタイルではないと思っています。僕の目指すべき役割は教育者というよりも、学生たちが内に秘めている魅力を感じ取って可視化するプロデューサー。この小説における修二のやったことのようにと言っては大袈裟ですが、そんな風に学生たちが成長していくことの支援ができたらと考えています。この方針を定めて、最初は正直、理想が先走りすぎて追いついていないところもありました。しかし、大澤研究室を4年続けていく中、だんだんとその道筋が確立されてきたと思います。

『野ブタ。をプロデュース』
著者:白岩玄
出版:河出書房新社

『NARUTO -ナルト-

大学4年生でAIの研究に打ち込んでいた時、研究室でディープラーニングのパラメーターをひと通り全部試して法則を見つけ出すという作業をしていました。研究室に泊まり込んでコンピューターを全部引っ張り出し、いろいろな計算を1ヶ月ぐらいひたすらやり続けるのですが、処理結果を待つ時間がかなりあって、その待ち時間を利用して観たのが『NARUTO -ナルト-』でした。アニメの最新話に追いついてしまったので、結局、コミックスを続きから買って最後まで読みました。

主人公・ナルトが落ちこぼれの忍者から這い上がっていく姿は、自分にも重なるところがあります。僕は推薦入試で高校に入学したので、一般入試で合格した人たちと比べると学力に大きな差がついていて授業についていけなくなってしまいました。結果としてはクラスの仲間や友人たちのおかげでなんとか頑張ることができたのですが、読みながらそんな日々のことを思い返していました。

キャラクターでは主人公のナルトも好きですが、シカマルというキャラクターに憧れますね。自分はたくさんの人に支えられて生きてきた自覚があるので、人を支えることができる人に憧れるし、自分もそうなれたらいいなとも思っています。シカマルはまさにそう言ったキャラクターで、その姿からは副代表や副リーダーといったポジションのカッコ良さを感じさせてくれます。

僕は、大人になった今でも“中二病”のような感覚を持っており、それを原動力として研究に取り組んでいます。その背景には大学4年生で『NARUTO -ナルト-』に出会い、「漫画に負けないような物語性のある人生を送りたい!」というワクワク感を持ち続けていることもあると思います。

『NARUTO -ナルト-
著者:岸本斉史
出版:集英社

『ONE PIECE』

現在取り組んでいることのひとつとして、研究室のメンバーと共に「100人で100人の夢を叶える」というキーワードに則った活動があります。僕の夢は「ドラえもん®︎をつくること」と公言していますが、学生たちはみんな、それぞれに違う夢を持っていて、その方が絶対にいいチームになると思っています。そんなメンバーが集まるからこそ、大きなことを成し遂げられると信念を持っていますが、振り返ってみるとこれって『ONE PIECE』からの影響が大きいのではないかという気がします。

「偉大なる航路(グランドライン)」と呼ばれる海路へ突入する際、海賊たちが自分の夢をそれぞれの言葉で語るシーンがあるのですが、お互いの夢を明かし腹を割って信頼し合ってこそ過酷な旅でも乗り越えられるのだなととてもカッコよく感じました。自分もそんな『ONE PIECE』に登場する海賊たちの一員になりたいのです。

登場人物のセリフで好きなのは、エニエス・ロビー編でサンジがウソップに対して言った「俺にできることは俺がやる。俺にできないことをお前がやれ」という言葉。大学教員はついつい「俺にできることを、お前も学べ」という感じで学生を導くことが多いのですが、研究室を教育の場ではなく、チームメンバーになるための場と捉えた場合、適材適所で長所を活かすことが求められるので、このサンジの言葉の方がしっくりくるなと思います。

『ONE PIECE』
著者:尾田栄一郎
出版:集英社

『ガンジス河でバタフライ』

これも長澤まさみさんが主演のスペシャルドラマを先に見て、その原作として出会いました。ドラマを見て、僕も「ガンジス河でバタフライしたい!」と思い、大学1年生の春休みに行きと帰りの飛行機だけ予約してインドに飛びました。

現地ではどれぐらいお金がかかるか分からなかったので5万円だけ持っていったのですが、詐欺にあって初日に4万円奪われてしまうという始末(笑)。滞在中の2週間は、ほとんどバナナだけ食べて生き延びました。お金も食べ物もない中、電車は10時間遅延するし、極限ギリギリの状態でしたが、なんとかガンジス河で泳ぐという目標は達成できました。

現地の人には「日本人が入ったら体壊すよ!」といってドン引きされましたが、幸い体調も崩さずに済んで良かったです。バタフライした時の映像も残っていて、今見ても当時の自分の行動力に驚きますし、本当によく生きて帰ってこられたなと思います。

インドに行くと人生観が変わるとよく言われますが、自分はどうだったのかと言われると正直、よく分かりません。ただ、現地での日々は今でも鮮明に憶えていますし、あまりに強烈だったので、思い返してもまるで映画をみているかのような不思議な感覚に陥ります。

影響を受けた本って、読んだことで行動に移すぐらいのことがあって初めてそう言えると思うのですが、そういう意味でこの本からは、かなり大きな影響を受けたと思います。

『ガンジス河でバタフライ
著者:たかのてるこ
出版:幻冬舎

ちなみに、僕がドラえもん®︎をつくる研究をしているのに、どうして『ドラえもん』がチョイスに入ってないのと思われる方もいるかもしれません。僕にとって『ドラえもん』は人生そのもの。自分を構成する要素としてあまりに大きいので、どうしても5冊中の1冊として含めることがピンとこず、入れませんでした。

でも、せっかくなので『ドラえもん』からも好きなエピソードを一つ紹介します。「ションボリ、ドラえもん」というエピソードは、ドラえもん®︎とのび太がケンカばかりするので、心配したのび太の孫・セワシが未来からドラミちゃんを派遣するという内容です。ドラミちゃんによってすべてがうまくいき、じゃあ、もうドラえもん®︎と交代させようぜ、となるのですが、のび太は「ドラえもんじゃないと嫌だ!」っていうんです。フィクションとはいえ、人間にそんなことを言わせる人工物がいる世界ってすごいですよね。こういった心のやり取りも僕がドラえもん®︎づくりにこだわる理由のひとつです。

▼大澤先生にご登場いただいた過去記事はこちら
「人間と友達になれるAI」はどうやってつくる? ドラえもん®︎を本気でつくる研究者、大澤正彦さんに聞きました。

リケラボ編集部

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